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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に、精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。



〈墓参り〉
 事件が終わって2週間後の春。獅堂・舞人とレノアはある墓地にいた。墓標の中には何もない。しかしそこにはある人物が眠っている。
「私、独りになったね。でも、私生きるから。」
 花を丁寧に置いて、レノアは言った。
「レノア……。」
「ううん、私独りじゃない。舞人さんがいるのですもの。」
 悲しそうな顔をする舞人に、レノアは微笑む。
 レノアの両親は捕まり殺された。其れを舞人の口から改めて聞かされたとき、とても泣いた。しかし、そうすることではまた一歩、彼女は強くなった。そして、泣き崩れる彼女を支えてくれる目の前の青年が好きになっていく。
「無事だって言うことを報告しないと、ね。」
 彼が言った。
 墓参りにいこうと。
「あなた達の代わりにはなれませんが、レノアと一緒に進んでいこうと思います。安らかに眠ってください。」
 舞人が墓に告げると、レノアは少し涙ぐんでいた。しかし、彼女は、微笑んで舞人の手を握る。
 舞人は、応えるために、握り返す。
 暫く沈黙し、春の風が2人の肌を撫でた。気持ちが良かった。
「いこうか。」
「はい。」
 お互い見つめ合って、微笑み合った。
 ――頑張って生きていきます。


〈新しい生活〉
 幸い一つ部屋が空いている。舞人はそこにレノアとずっと住むことに決めた。倉庫変わりになっていたのでこの際大掃除をすることにした。
 もちろん一人で。
「さて、掃除もできたし、あとは色々買い物かな?」
 背伸びして、舞人は日が昇りきった空を見上げる。
「ですね。」
「そうだ。レノアはこれから何がしたい?」
「と、言いますと?」
 リビングでお茶を飲んでいたレノアが聞き返した。
「そうだな。これからは普通に生活する。」
「えっと、ですね。漠然な質問ですねぇ。でも決めています。」
 レノアは、舞人に微笑みながら、
「舞人さんとずっと一緒にいられるなら、何でもしたいです。」
 と、言った。
 その微笑みが、何とも可愛く美しく、
「……いや、その……なんていうか。それはそうだけど、具体的に……。」
 舞人は、顔面を真っ赤にしてしまう。
「まずは、私の部屋の家具などがほしいので出かけたいですね。あと、其れをかねたデートをしたいですね。」
 と、臆面も恥じらいもなく、レノアは笑って言う。
「そうだな。そ、そうしよう。」
 レノアはこの先の日常が楽しみで仕方ないらしい。
「あとは、お料理頑張りたいですね。」
 レノアはうんうんと、自分に納得しているかのように喋っている。
 記憶が戻ったレノアは、まえの怯えた感じが無くなっていた。

 舞人は此処で女の子の買い物が、かなり時間がかかり、酷であると言うことを思い知らされるわけであるが……。特に下着とか色々。レノアに至ってはかなりオープンだったので、余計に緊張してしまったのである。下着選びまで付き合わされるとは、予想外である。
 縞パンとかが好みとか、舞人が思ったかどうかは、彼のみぞ知る。
「大きな物は配達で……。ふう、終わった。」
 心労でぐったり気味の舞人に比べ、レノアは元気に歩いていた。
「大丈夫ですか?」
 
「ああ、なかなか慣れないというか、なんというか。喫茶店寄ろう。」
「はい。」
 喫茶店によって、ケーキセットを頼むレノアは、至福の顔になっていた。
「本当にケーキが好きなんだね。」
「はい、あのクリームの甘さと、スポンジケーキのマッチが何とも。」
 紅茶を飲みながら、ケーキを食べるレノアは、子供の様に笑う。それがとても可愛かった。
「ほんと、可愛いね。」
 ふと、舞人が感想を口にすると、
「え?」
「いや、何でもない。」
「ふふ、聞こえました。」
「!!?」
「ありがとう。舞人さん。」
 なんかやりづらい。
 舞人は顔を真っ赤にして、コーヒーを飲んでいた。
 こうして新しい生活の基盤が整い始めている。
 平和に……。


〈料理の修業〉
 数日後のことである。
 台所は張りつめた緊張感に包まれていた。
 ボールには、崩れた生卵がたくさんあった。
「むぅ、こ、これは……。」
 レノアは、顰めっ面をして、まだ割れていない玉子を睨み付けている。
 レノアは歌や剣など上手いといっても、料理をする器用さはなかったわけで、前から其れを克服したかったと、彼女は言っていた。
「肩に力入れすぎだよ。もうちょっと楽にして。」
 玉子を割る練習から、始まっている。
 たぶんだし巻き玉子がかなりの量を焼けるのではないかと思うほどボールには玉子があふれているのである。
 なんとか、一個綺麗に割れる。丸い黄身がボールに浮かんでいた。
「やりました! 舞人さん!」
「良くできた! って、わああ!」
 レノアはうれしさのあまり舞人に抱きついてきたのだ。
 何とかバランスは崩さなかったが、胸の感触が気になる青年であった。
「では……、何個かこっちのボールに移して、だし巻き玉子を作ろうか。」
「はい♪」
 実のところだし巻き玉子を作るのは結構難しい。しかし、多少型くずれしても、形を整える課程で何とかまともに見せることができる料理なのだが。何度か焦げてしまったり、スクランブルエッグになってしまったりと連敗するが、かろうじて数個は完成したのである。
「できました〜♪」
 レノアは結構覚えが早かったのである。
 こうした特訓で、卵料理でも、目玉焼きぐらいはできる様になったし、焼き魚もできるようになった。電子レンジも壊すこともないし、コンロも大丈夫だった。
「覚えが早いね。」
「ありがとう。舞人さんの教えが上手いからです。お父さんが上手かったけど『台所は私の城だから入ってくるな』といって手伝わせてくれませんでした。お母さんは、すごい下手だったんで……。」
 と、苦笑している。
「あは、あははは。」
 お父さんが主夫していたのね、舞人は苦笑した。
 レノアは心の傷が比較的早く癒えてきたのか、過去の話も良くするようになっていったのである。今はいなくなった家族のことを話す。しかし、其れには悲しみを感じさせなかった。
 窓から見える景色からは、桜の便りが来る。桜色に染まる公園がチラホラ見える。
「今度、弁当をつくって、ピクニック行こうか?」
「はい、喜んで。」


〈歌〉
 朝、舞人は何かを抱きしめている感覚で目が覚めた。
「ん? ……!?」
 一瞬青ざめる。
 抱いていたのは、レノアだったのだ。
「あうう。えっと、昨日は? 何で?」
 レノアは寝間着を着ているが下着はしていなかった。なので、女性的なラインが見える。まだ、異性に免疫がない舞人には、かなり酷であったり無かったりするわけである。
「ど、どうしよう……。ん? 起きた?」
「あ、おはよう。舞人……さん。」
 レノアが起きる。
「部屋で寝なかったのか?」
「んー? 舞人さんあたたかいから、“ぎゅう”して寝たかった。ふみゅう。」
 彼女は寝ぼけていた。そして、また微睡みに落ちる。
「やれやれ……。」
 こんなトラブル(?)がたまにあっても良いことである。

 弁当をつくって、近くの公園に向かう。
 花見客で一杯な公園、座れる場所の心配があったが、2人は歩いているだけでも幸せを感じていた。
「綺麗ですね。」
「ああ、とても綺麗だね。」
「疲れません?」
「正直言えば疲れたかな。」
「あ、ならこっちに。ベンチが空いているみたいです。」
 レノアは舞人を引っ張った。
 ちょうど、大きな桜の木がある。すぐに競争で場所取りされそうなところだったのに、ぽっかり空いていたのだ。近くにベンチもある。
「良い場所だ。」
「はい♪」
 落ち着いて、レノアと弁当を食べながら、桜を眺めていた。
 まるであの事件が嘘のような、錯覚にも陥る。しかし、この日常がある、そのことを感じさせるのは、あの事件があって、レノアと出会ったことから始まったのだ。
「そうだ。レノア。」
 舞人がお茶を飲んで言う。
「なんでしょうか?」
「歌聞かせてくれないかな? ちゃんと聞いたことがないから。」
「喜んで♪」
 レノアはにっこり笑うと、舞人を抱き寄せる。
「え?え?」
「未だ疲れが残っているでしょ? 私はもう大丈夫だし、こんな事をしてみたかった。」
 彼女は、舞人に膝枕してあげるのであった。
「ちょ、……。」
 彼女の良い香りと、太腿の気持ちよさが、何とも言えなかった。
 レノアの歌が、始まる。
 其れは、とても優しく静かに、公園を包む。
 まいとは、その心地よさで、抵抗するのをやめた。

 ずっと、一緒にいられたらいいな。
 その想いが込められていた。
「舞人さん、あなたが好きです。」
「俺も、レノアが好きだ。」
 そう、お互いの気持ちを確認して、2人は微笑み合った。


 天使の歌は、今此処に……。


END

■登場人物
【2387 獅堂・舞人 20 男 大学生・概念操者「破」】

■ライター通信
滝照です
「蒼天恋歌 7 終曲」にご参加して頂きありがとうございます。
 一寸砂糖な感じで行きました。これからもレノアとお幸せになのです。
 恥じらいもあまり無い、大胆なレノアはいかがでしたでしょうか?
 レノアは基本的に元気でまじめ(?)で、素直な妹にしたい系タイプかと思っています。はい。でもボクッ娘ではないのです。

 また、どこかの物語でお会いしましょう。


滝照直樹拝
20070412