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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


トラブル・ハグ

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0.オープニング

「ちょっと、離しなさいっ!」
ドカッ―
「うぐ」
鳩尾に私の肘が入り、その場に倒れこむ男性。
私は襟を整え、スーツをパパンッと払って溜息。
「はぁ…まったくもう。迷惑な奇病ね」
「編集長ー!大丈夫ですかっ!!」
「遅いっっ!!」
バシッ―
「痛ぁっ!」
頬に私のビンタをくらい、その場にしゃがみ込む、三下…さんした君。
私は腰に手をあて、見下ろして言う。
「集合時間は、とっくに過ぎてるわ!あなた、やる気あるの!?」
「す、すみません…。捨て猫が…」
「言い訳は聞きたくないわ。さっさと取材!」
「は、はいっ」

近頃、評判の奇病。
その名は”トラブル・ハグ”
迷惑な抱擁。その名の通り。
感染した者は、見境なく異性に抱き付く。
タチの悪い感染者の場合、チカラ任せに押し倒し、それ以上を要求する。
まったくもって、迷惑な奇病だわ。
女性の感染者より、男性の感染者が多いというのも、また問題よね。
編集部にも被害を受けた若い女の子が何人か居て。
随分と落ち込んでしまっているのよ。
仕事が手につかないくらい。
立派な勤務妨害だわ。とても迷惑よ。腹が立つわ。
だから、取材をしつつ、何とか出来ないものかと。
思っているんだけれど。

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1.

えぇと…あとは、レタスとトマトと…。
買出しメモを見ながら、テクテクと歩く私。
そんな私を呼ぶ、一人の男性。
「ミ、ミリーシャさんっ!?」
驚声で呼ばれ、私はキョトンと返す。
「…あれ…こんにちは…」
声を掛けてきたのは、同じ あやかし荘の住民で、
古くからの付き合いである三下さん。
こんな所で何を…と首を傾げるも、
三下さんの傍の、眼鏡をかけたスーツ姿の綺麗な女性を確認し、
私は、あぁ…と気付く。
「…お疲れ様です…頑張って下さい…」
ペコリと御辞儀をして、その場を去ろうとすると。
ガシッ―
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
三下さんは、私の腕を掴んで乞う。
「き、協力してくれませんか」
協力…。御仕事のでしょうか。
少しなら構いませんが、私で良いのですか?
あまり、お役に立てる自信ないのですけれど…。
次々と浮かぶ疑問に、依然首を傾げる私。
すると突然。
「うわーーー!!」
三下さんに、見知らぬ女性が抱きついた。
こう言っては少し失礼かもしれませんが、それはとても不思議な光景で。
私は目を丸くして三下さんに問い掛けを。
「…嬉しそう…ですね…?」
すると三下さんはブンブンと首を振って。
「ち、違うんです!これは!えーと…その…って、あぁぁぁぁ!ミリーシャさん、後ろぉっ!!」
そう叫びつつ、指差した。
後ろ…?振り返って見やろうとすると。
ガバッ―
「つーかまーえたぁっ!マイハニーっ!」
「………」
見知らぬ男性が、私を背後から抱き、ニコニコと微笑んでいて。
えぇと…どこかで会った事ありましたか?と思い記憶を辿るも、
全く覚えになく。その結果。
ギュッ―
「がっ…!?がふ…」
ギュゥゥゥッ―
「げっ…げふ…」
ドタッ―
私は抱きついてきた男性の喉をしめあげ、失神させて。
ふぅっと息を吐き、理解する。
なるほど。こういう”協力”でしたか。
「ミ、ミリーシャさん…」
泡を吹いてピクピクと動く男性を見て、
三下さんは額に汗を浮かべて笑う。

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2.

抱擁病。
三下さんの上司である碇さん曰く、これは、そういう病気。
感染者多数。しかも、この付近ばかり。
土地的なものなのかな…とにかく、感染者に罪はない。
悪気もない。私は抱きついてくる男性達を払う。
ブンッ―
ドタッ―
「ぐぇっ」
ギュッ―
ゴキッ―
「ぎゃっ」
男性等は、私に触れた途端、投げ飛ばされたり関節を絞められて。
次々と捻じ伏せられていく。
感染者の女性に抱きつかれつつ、
三下さんはオドオドしながら問う。
「あ、あの…死んではいないんですよね?これ」
私は、パンパンと服に付いた埃を払いつつ返す。
「…死んではしないと思う…多分…」
「た、多分って!?ち、ちょっと…」
私は持っていた買物袋をスッと差し出し、三下さんに持たせる。
「え?な、何です?何を…」
オドオドキョロキョロする三下さん。
とりあえず…付近の感染者は全て捻じ伏せたと思うの。
でも、これじゃあ駄目。
わからないから。
彼等が、なぜ感染したのか、という重要な所が。
だから…。
ギュッ―
「きゃぁっ!?」
ただ一人、今、話の出来る感染者である貴女から聞き出そうと思います。
「ミ、ミリーシャさんっ!女性を痛めつけるのは、ちょっと…!」
慌てふためく三下さん。
私は淡く笑って、返す。
「…そんな事…しないですから…」

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3.

感染者である女性から聞きだした情報。
それは、真っ直ぐに。
この事態を引き起こした犯人へと繋がる。
「…あの人ですね…多分…」
テクテクと歩きながら、前方に見える不思議な格好をした男性を見やって言う私。
三下さんは、苦笑しつつ言う。
「痛めつけないって言ったのにぃ…」
「…ちょっと、眠らせただけですよ…」
付いて来られたりしたら、また何かと面倒だと思ったから。
「で…ど、どうするんですか?」
物陰に隠れ、不思議な格好をした男性の様子を伺いつつ言う三下さん。
男性は挙動不審で。あからさまに怪しい。
もう、どうするもこうするもないです…。
「あっ?ち、ちょっと、ミリーシャさんっ?」
私はスタスタと男性に歩み寄り、背後に立つ。
私に気付いた男性はハッとして。
ゆっくりと振り返りつつ言う。
「へへへ。あなたも魅惑の饅頭を御所望で…?」
チャキッ―
静かな路地裏に響く、銃爪に指のかかる音。
男性は片眉をピクッと上げ、ハハハ…と笑う。
「…何の…つもり…?」
男性の背中に銃口をあてたまま私が問うと、
男性は両手を上げて、全てを話した。


「編集長ー!!とっ捕まえました!!こいつが犯人です〜〜根掘り葉掘りいきましょう〜!」
両手をブンブン振りながら、嬉しそうに碇さんに報告する三下さん。
私は犯人である男性を捕らえていた銃口を背中から離し、フゥと一息。
「いやぁ!ありがとうございました、ミリーシャさん!」
嬉しそうに笑う三下さん。
私はペコリと御辞儀をして、三下さんから買物袋を返してもらうと、
テクテク歩き、その場を去って行く。
えぇと…あとは、レタスとトマトと…。

翌日、朝刊の一面には”超強力フェロモン入り饅頭と抱擁病”の見出しと、
御満悦でピースしている三下さんの写真の横に”犯人を捕らえた出版社員”の文字が躍った。
私は、トマトサラダを食べつつフゥと溜息。
傍迷惑な、タチの悪い行商人が、最近増えましたね。困ったものです…。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー (みりーしゃ・ぞるれぐすきー) / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・元特殊工作員

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

NPC / 碇・麗香 (いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
スローテンポに喋る可愛い女の子。とても好きです^^
職業を見て、もしやと思い調べたら、やはり”彼”に雇われている女の子で、
終始フフフと怪しく笑いつつ、紡がせて頂きました。
親友である”彼女”とのコンビプレイの御話も、いつか紡いでみたいですね^^

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/05/05 椎葉 あずま