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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


トラブル・ハグ

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0.オープニング

「ちょっと、離しなさいっ!」
ドカッ―
「うぐ」
鳩尾に私の肘が入り、その場に倒れこむ男性。
私は襟を整え、スーツをパパンッと払って溜息。
「はぁ…まったくもう。迷惑な奇病ね」
「編集長ー!大丈夫ですかっ!!」
「遅いっっ!!」
バシッ―
「痛ぁっ!」
頬に私のビンタをくらい、その場にしゃがみ込む、三下…さんした君。
私は腰に手をあて、見下ろして言う。
「集合時間は、とっくに過ぎてるわ!あなた、やる気あるの!?」
「す、すみません…。捨て猫が…」
「言い訳は聞きたくないわ。さっさと取材!」
「は、はいっ」

近頃、評判の奇病。
その名は”トラブル・ハグ”
迷惑な抱擁。その名の通り。
感染した者は、見境なく異性に抱き付く。
タチの悪い感染者の場合、チカラ任せに押し倒し、それ以上を要求する。
まったくもって、迷惑な奇病だわ。
女性の感染者より、男性の感染者が多いというのも、また問題よね。
編集部にも被害を受けた若い女の子が何人か居て。
随分と落ち込んでしまっているのよ。
仕事が手につかないくらい。
立派な勤務妨害だわ。とても迷惑よ。腹が立つわ。
だから、取材をしつつ、何とか出来ないものかと。
思っているんだけれど。

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1.

「あなたの事が、好きです」
腕に絡み付いて、潤んだ瞳で。見ず知らずの女性は言う。
「…はぁ。またか」
溜息を落としつつ、俺は女性を引き剥がし肩を落とす。
「またか、ですって。嫌味な台詞ねぇ」
突如背後から飛んできた聞き慣れた声。
振り返って肩を竦めれば、麗香はフッと笑みを浮かべ、ツカツカと歩み寄ってくる。
気のせいか…とも思ったが、長い付き合いだ。見紛う訳がない。
間違いなく、麗香は不機嫌だ。
まぁ、原因は大方予想できるが。
「どうだ?良い記事になりそうか?」
少し嫌味に言うと、麗香は腕を組んで返す。
「彼次第ね」
麗香の言う”彼”とは、そう。
奴…三下の事だ。
「わぁぁぁ…ちょっと待っ…た、助けてぇ〜…」
麗香を追ってきてはいるものの、女性に抱きつかれて身動きが取れなくなっている。
…相変わらずだな。三下。




まぁ、三下は、いいか…。
あのままで。嬉しそうだしな。おめでとう。
「で…?どうすべきなんだ。これは」
問うと麗香は眼鏡をクイッと上げて返す。
「とりあえず、この事態を引き起こした”犯人”を探そうかと思うわ」
「犯人…ねぇ」
「お仕置きしなきゃ。迷惑なのよ。これ」
取材責め、という仕置きか。
…ご愁傷様。犯人。

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2.

「…きゃ」
バシッ―
はぁ…キリがないな。
払っても払っても。次から次へと感染者が湧いてくる。
「ありがとう。海浬」
スーツについた埃をパンパンと払いながら言う麗香。
「どういたしまして…つか、あんまり離れないでくれる」
グイッと麗香の腕を引っ張り、引き寄せる。
離れた所で、大勢の感染者に一気に抱きつかれちゃあ、手遅れになり兼ねないから。
…まぁ、殴り黙らせるだろうから心配には及ばないんだろうけど、
何となく、その光景見たくないから。嫌だから。それだけ。
「しかし厄介な症状だな…」
抱きついてくる女性を引き剥がしながら言うと、
麗香は俺の背中に隠れつつ苦笑する。
「喜んでる御馬鹿さんもいるけどね。海浬も実は嬉しいんじゃないの?」
「…そう見えてるなら、眼鏡買い替えた方が良いぞ」
「冗談よ」




…参ったな。
こう次々と湧いてこられちゃあ、犯人を見つけるのは困難だ。
…いや、待てよ。
これだけ感染者がいるんだ。
警察が動いていてもおかしくない。けれど…その気配はない。
「この事態、いつからなんだ?」
俺が問うと、麗香は腕時計を確認して返す。
「丁度、二時間前ね。編集部にも感染者が出て、バタバタしたのよ」
二時間前…。
さほど時間は経っていない。
もしかしたら…この付近だけで起こっている事件なのかもしれない。
「犯人の目星は?」
「ついてないわ。ただ、怪しいのは”饅頭”ね」
「饅頭?」
「編集部で感染した子達、皆同じ饅頭を食べてるのよ」
「どこで買ったかわかるか?」
「それがわからないのよ。これなんだけど」
言いつつ、懐から饅頭の包み紙を取り出す麗香。
水色のそれは、なるほど、確かに見た事のないもので。
妙な香りを放っている。
間違いない…感染源は、これだ。

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3.

おそらく、行商人の類だろう。
感染者の分布からして、まだ遠くには行っていないはず。
俺は目を伏せ、犯人を探る。
全てを見通す力を解放し、東京の記憶を覗き見て…。
「こっちだ」
犯人の居所を特定した俺は、麗香の腕を引き駆け出す。




「言い掛かりは止して下さいよ」
黒い装束に身を包み、薄ら笑いを浮かべながら言う男。
俺は溜息混じりに言う。
「隠しても無駄だ。観念しろ」
「いい加減、白状しないと即効、警察に突き出すわよ」
男を睨み付けて言う麗香。
男はフッフッと怪しく笑いつつ言う。
「残念ですね…せっかく上手く調合できたのに…」
男の言葉にイラ立つ心。
俺は男の胸倉を掴み、低い声で言う。
「迷惑なんだよ」
「…わかりましたよ。離して下さい」
眉を寄せて、俺の手を払う男。
男は不満そうに、何やら呪文のようなものを唱えだす。
「…呪術だったのね」
フゥと息を吐いて言う麗香。
「…もう治りましたよ。それじゃあ、私はこれで…」
立ち去ろうとする男。
「おい。待て」
俺は男の首根っこを掴み捕らえる。
「何ですか…もう解決したでしょう?」
「侘びろ」
男のふてぶてしい態度に、眉を寄せたまま言う俺。
侘び。俺は、謝れって言ってるんじゃない。
そんなもので済む問題じゃないだろう?
お前には、じっくりと。
時間をかけて省みてもらおう。
俺は苦笑しつつ、麗香に男を差し出す。
麗香は紙とペンを構えて、ニヤリと笑う。
さぁ、仕置きの始まりだ。
根掘り葉掘り。魂まで吸い尽くされるような、地獄の取材責め。
ご愁傷様。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

4345 / 蒼王・海浬 (そうおう・かいり) / ♂ / 25歳 / マネージャー 来訪者

NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / ♀ / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


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           ライター通信          
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こんにちは。はじめまして。発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
物凄く遅れてしまい、大変申し訳ございません。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/05/28 椎葉 あずま