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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ロスト・フェザー

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0.オープニング

飛べなくなった天使。
今、俺の目の前に居るのは。
間違いなく、それだ。
「…大丈夫か?」
言いつつ手を差し伸べれば、
天使は怯えた目で俺を見上げ。
躊躇いつつも、手を取る。
「あ、ありがと…ございます…」

大きな仕事を終えて疲労困憊の帰り道。
俺は、天使を拾った。

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1.

見覚えのある、あの後姿は…。
駆け寄り、微笑む俺。
「やっぱり、ディテクターだ」
俺の声に、クルリと振り返るディテクター。
と、その時。
それまで視界に入っていなかった小さな少女が目に映った。
その子は白い羽にブロンドヘアー。
絵本で何度も見た…そう、天使そのものだった。
「知り合い…?」
問うとディテクターはフルフルと首を左右に振って、それを否定した。
違うのか。
…という事は、事件、かな。
少女の白い羽には、数ヶ所キズがある。
ディテクターが傷付けたって事は…ないだろうから、
どこかで負ったものだろう。
俺は少女に歩み寄り、微笑みかけながら、両手を空にかざす。
「…?」
キョトンとしている少女。
動かないで、ジッとして。すぐ、済むから。
目を伏せ数秒、精神研澄。
能力解放。
「…あっ?」
瞬時に癒える少女の羽。
少女は驚きつつも羽をパタパタさせて、感謝を告げる。
「ありがと…ございます」
「どういたしまして」
俺は目を伏せ淡く微笑んで返す。


「…さて…どうするか…」
ボソボソと呟くディテクター。
「何を?」
俺が問うと、ディテクターは空を見上げて、こう返した。
「そいつ…どこから来たと思う?」
どこから…?
うーん。そうだね…天使、だから。やっぱり…。
「空、じゃない?」
同じく、空を見上げて言う俺。
ディテクターはクッと笑って「だよな」と頷くと、俺に指示した。
「帰せるかどうかはわからんが、とりあえず…やってみよう。お前、背負え」
「え?俺?」
「お前以外に誰がいる?」
「あ、そっか?…ん。わかった」
ディテクターが背負えば良いんじゃ…と少し不思議に思いつつも、
俺は言うとおり、少女を背負う。
「よいしょ…っと」
この子を家に帰す。
ただの迷子なら、いつかは必ず帰してあげれるけれど。
この子は天使。
本当に空から落ちてきたのだとしたら…どうやって帰してあげれば良いんだろう。

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2.

「う…っ…っく…」
背中で、声を殺して泣く少女。
アテもなく歩き続けて、かれこれ一時間。
少女は泣きっぱなし…。
「…はぁ」
立ち止まり、溜息を落とすディテクター。
それも、仕方のない事。
本当に、まったくアテがないのだから。
この子が何か、手がかりになるような事を話してくれれば助かるんだけどね…。
「よしよし」
泣き止まない天使を、あやす俺。
「…これ以上歩き回っても、無意味だな」
ディテクターは、天使をあやす俺を見つつ、
そう言って、木陰に腰を下ろす。
俺は天使をディテクターの隣に座らせると、
彼女の前にしゃがんで。
「何か、話してくれないかな。何でもいいから」
頭を撫でてやりつつ言った。
すると天使は俺の顔をジッと見やり、
ウルウルと目に涙を溜め、小さな声で返す。
「帰り…たくないの」
天使の、その言葉にクッと笑うディテクター。
帰りたくない…って。え、そうなの?
てっきり帰りたくて、心細くて泣いてるんだと思ってた。
えーと…じゃあ…。
「何で帰りたくないの?」
俺が問うと。
「…ぅ」
天使は俯き、また泣き出して口ごもる。
言いたくないのかな。それとも、言えないのかな。
うーん、と首を傾げていると。
「…言わねぇと、わかんねぇんだよ」
ディテクターは煙草に火をつけつつ言った。
コホンコホンと咳き込む天使。
俺は煙を手で払いつつ思う。
うん、確かに。
言ってくれないと、話してくれないと俺達も困る。
どうしてあげれば良いのか、わかんないからね。
帰りたくないからといって、このまま放っておくわけにもいかないし。
見た感じ、本当、少女って感じだから。
家に帰るのが、一番だと思う。
きっと、みんな心配してるはず。
…でも、帰りたくないんなら。
うーん。どうすれば…。




依然泣き止まない天使を前に、途方に暮れて数十分。
バサッ―
「!?」
突然、頭上に何かが。
バッと上を見やると。
「探したぞ!ミトっ!このバァカ!」
黒い羽を揺らして、大声で少年が叫んでいた。
ゆっくり降りて来る、その姿もまた…。
絵本で見た…。
「悪魔…」
ポツリと呟く俺。
天使に歩み寄り、頭を乱暴に撫でる悪魔の少年。
夢でも見ているかのような光景。
でも、現実。
呆気に取られ、ポカンと立ち尽くす俺。
「…何つぅ日だ。今日は」
ディテクターが煙草を踏み消しつつ苦笑して言った。

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3.

「悪かったな。メーワクかけて」
頭をボリボリと掻きつつ言う、悪魔の少年。
少年の話によると、二人は恋人同士で。
始まりは、些細な喧嘩。
悪魔の冷たい言葉に少女は泣きながら、家を飛出。
そこでうっかり、天上にある大樹アヴェナリアに衝突し、
羽を傷めて地上に落下した…との事。
「こいつ、昔っからドジでよ。ほら、お前も謝れ」
少年に小突かれて、少女はシュンとしつつ。
「ご、ごめんなさい…」
そう言って、ペコリと頭を下げた。
少女はしょげてはいるものの、もう泣いていない。
心なしか…嬉しそうにも見える。
俺は微笑み、少年に言う。
「どうすればいいかわかんなくて、困ってたんだ。助かったよ」





「じゃあな!」
手を振り、空高く舞い上がる悪魔の少年。
少年に抱きかかえられ、照れくさそうに腕の中からヒラヒラと手を振る天使の少女。
青い空に溶け、消えていく白と黒。
幻のような、その光景。
「…夢じゃないよね」
誰に言うわけでもなく、自然と漏れた言葉。
ディテクターはハッと笑って言った。
「揃って同じ夢なんて見るかよ。気味悪ィ」
俺はクスクス笑って。
二人が溶け、消えていった空を見つめながら言う。
「幸せになれるといいな、あの二人」
「…難しいだろうな」
目を伏せ言うディテクター。
その表情は、どこか切なげ。
天使と悪魔。
対する存在だけど。
対なる存在でもある。
俺は、そう思うんだ。
確かに、大変なのかもしれない。
俺には、深く理解できないけれど。
でも、願う事は。
心から願う事は、一つだけ。
異種な彼等が、いつまでも仲良くありますよう。


恋に落ちた天使と悪魔。
悪魔の些細な一言で、深く深く傷ついた天使。
切なさから悪魔の元を離れた天使は、
天上樹に頼み、羽を切り落として地上に降りた。
羽を失った天使は、下界で一人。
悪魔を想う。
もう二度と逢えぬ愛しき人を、永遠に―…。
絵本は、そこで終わる。
ずっと、思ってたんだ。
何て切ない結末なんだろう、って。
でも、違った。違ったんだ。
あの絵本は、あそこで終わりじゃなかった。
続きがあった。
悪魔は、天使を追って来た。
迎えに来たんだ。
本当だよ。嘘じゃない。
ちょっと違うんじゃないかって?
いいんだよ。細かい事は。

俺は、真実を。
絵本の続きを、この目で見たんだよ。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

3626 / 冷泉院・蓮生 (れいぜいいん・れんしょう) / ♂ / 13歳 / 少年

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / ミト / ♀ / 15歳 / 天使・ガウルの彼女

NPC / ガウル / ♂ / 16歳 / 悪魔・ミトの彼氏


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           ライター通信          
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こんにちは。はじめまして^^
発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです!また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/06/21 椎葉 あずま