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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


あやかし危機一髪
 あやかし壮管理人、因幡 恵美(いなば めぐみ)は奇奇怪怪な悩みを抱えていた。あやかし壮に住みついた座敷童、嬉璃(きり)によって恵美の男性付き合いのことごとくを邪魔されていたのだ。恵美の苦情を一切聞き入れない嬉璃。とうとう堪忍袋の緒を緩めた恵美は、あやかし壮住人ミリーシャ・ゾルレグスキーに相談を持ちかけ、問題を解決してみせると決心するのだった。

 ○

 一切の過去がヴェールに包まれたエージェント、ミリーシャ・ゾルレグスキーは任務遂行のベースキャンプとして、あやかし壮に居を構えていた。留学生として日本にいる今、下宿人として滞在、素性を隠してくれるあやかし壮は、ミリーシャにとって重要な拠点だった。それに些細な事だが、このアパートには男性がいない。アッシュブロンドに、エメラルドを髣髴とさせる瞳。見目麗しい彼女に言い寄る男はそれこそ星の数ほどいる中、唯一男達から身を遠ざけてくれるこの場所をミリーシャは気に入っていた。
 階段を駆け上がる音が聞こえると、ミリーシャの部屋にノックが響く。切羽詰まっているのだろうか、慌しい。
「誰?」
 ミリーシャのか細いソプラノがノックをぴたりと抑えた。
「す、すいません。管理人の因幡です」
「……あいてる」
 ミリーシャの落ち着いた声音で自分を取り戻したのか、ドアを開ける音はかろうじて聞こえる程度だった。
 恵美はミリーシャと目が合うと、ばつが悪そうにはにかんだ。
「何か……あったの?」
 ミリーシャの問いに、恵美は表情を一変させ瞳一杯に涙を溜めてミリーシャのしがみつく。
 しかし。
「あら?」
 恵美は、ミリーシャの合気によってあさっての方へと飛んでいく。恵美は埃をあげて壁に激突した。
「不用意に……つかんじゃ……ダメ」
「そ、そうでしたね。入居時の約束でした」
 恵美は、力なく笑うとその場で正座して数十分前に起きた話を始めた。

―数時間後

 外は街灯が等距離にぽつりぽつりと地面を照らしていた。
 ミリーシャは顔色一つ変えずに恵美の愚痴を聞き続けていた。
「―それで私、嬉璃に言ったんですよ!」
 静かにミリーシャの手が上がる。
「要点を……述べて」
 恵美ははっとなって、両手で頬を抑えた。
「やだ、私ったら。ごめんなさい、あの、何とか私も男の方と付き合えないかなって……」
「彼とケンカ……した訳では」
「ありません! 全部嬉璃が!」
 ミリーシャは握りこぶしを作る恵美を見つめて数秒沈黙を続けると、やってみると呟き、こくりと頷いた。
「本当ですか? よろしくお願いします!」
 恵美はミリーシャに何度も頭を下げて玄関を出た。
「恵美……さん」
「はい?」
 きょとんとする恵美、ミリーシャに名前を呼ばれるのは久しぶりかもしれない。
「相手の……コードネー……名前は……何?」
「コード? あ、名前は只野 信也さんです」
「つづりも……教えて」
 ミリーシャは紙とペンを指差すと、恵美は丁寧な字で男の名前を書いてミリーシャに渡した。
 恵美はもう一度礼を言うと、ドアをゆっくりと閉めた。
 ミリーシャは足音が小さくなるのを確認すると、脱いだ服の内ポケットから名刺とクレジットカード数枚を取り出した。
 どれも写真入だが、名前がどれも違う。目の前のカード類が何に扱われているのか想像に難くない。
 ミリーシャは息をついて、一枚の名刺を取り出した。
「只野信也……照合」
 恵美の書いた文字とあやかし壮の前で拾った名刺に記載されている字が一致。おそらく、嬉璃の術にはまり曖昧になった所、只野本人が落としていったのだろう。
 ミリーシャは一つの仮説を立て、紙で名刺をくるむとイスに背中を預けるように座った。
「疲れた……」
 流石にミリーシャも恵美の愚痴には応えた様だった。

 ○

「おぉ〜! 恵美これをみるのじゃ。つーはんばんぐみと全く同じ商品じゃて!」
 嬉璃があやかし壮玄関に広げられた商品に目を輝かせて手に取っている。
「はい、先日は不躾な訪問申し訳ありませんでした。お詫びにと思いこれを持って参りました」
「苦しゅうない! 苦しゅうないぞ!」
 嬉璃は只野の言葉全てを鵜呑みにしている。興奮気味の嬉璃の横で、不安げに只野を見やる恵美。
「でも、これって訪問販売の……」
 只野は恵美を手招きすると、玄関の外へと向かった。
「今日は急に訪ねてごめんね」
「いえ、それはいいですけど……」
 只野は恵美の手を取って、顔を近づけた。
「言いたいことは分かる。でも、これは僕達二人の将来を思ってなんだ」
 将来と言うフレーズを聞いて恵美は体を硬直させた。
「将来?」
「ああ、この商品のノルマを達成すれと収入も増え、胸を張って君にプロポーズが出来る」
 プロポーズ。恋愛経験の浅い恵美には甘い響き。
「信也さん」
「これを一ヵ月後未開封のまま返品してくれればそれでいい。お金も戻る、そしてこのボロアパートからも離れられるよ」
 恵美のとろんとしていた目に一瞬ひずみが入る。
「ボロ?」
「ああ、二人の新居はこのマンションがいいって決めているんだ。ちなみに住所はここ。取り潰して二人の城を建てよう」
 只野は建設予定マンションのビラを恵美に渡すと玄関へと戻って行った。
「恵美さんから承諾を頂きました。こちらにサインを頂けますか?」
 只野は嬉璃に契約書とペンを差し出した。
「なんじゃ、これは?」
 只野は舌打ちするのを堪えて地面に膝をついた。
「これに名前を書いて頂くと、これを全て差し上げたという事になります」
 嬉璃はすぐさまペンを取って契約書類に名前を書き込んだ。
「嬉璃様ですか、名字の記入もお願いします」
「好きにせぇ」
「しかし」
 嬉璃は商品を持って、さっさと部屋に引っ込んでしまった。
 只野は振り返ると、恵美を見つめ書類を差し出した。
「お願いだ。二人の将来の為に」
 乾いた音が響く。恵美は音の方へ振り向くと、ミリーシャがハンドガンをこちらに向けていた。
「恵美さん……こっちに」
 恵美は頷いてミリーシャの後ろに隠れた。
「あ、アパートの同居人の方ですか。これはどうも」
 只野が一歩前に踏み出すと、ミリーシャはもう一度発砲。書類を貫通した。
 書類に二つ穴が開いていた。丁度、嬉璃の字が弾丸に貫かれ消え去っていた。
「次は……詐欺師の額……」
 ミリーシャは銃口を微かに動かして、只野に狙いをつけた。
「ひどいじゃないか! 詐欺師呼ばわりした上に一般市民にこんな事をしてただで済むと思っているのか!」
「あの、これって違法な行為では……」
 後ろからの問いかけにミリーシャは首を振る。
「モデルガン……」
「え、そうには」
 遠慮がちに呟く恵美。
「モデルガン……なの」
「そ、そうですか」
 いそいそと再度後ろに隠れる恵美。
「ふざけんじゃねぇ! 殺し屋雇ってんじゃねぇ! 出て来い、てめえらぁ!」
 只野の怒号であやかし壮を取り囲んで数十人の男が姿を現した。
「相田 隆二……大型詐欺前科四十一件……手口は……」
 ミリーシャは言いかけて言葉をすり替えた。
「非道」
 相田と呼ばれた男、只野はにやけて拍手をした。
「よく知ってるねお譲ちゃん。君はこっちの世界の住人かな」
 ミリーシャは表情を変えない。
「もっと……深い」
 只野は地面に唾を吐き捨てると、顔にありったけの皺をうかべて叫ぶ。
「土地をもらってくださいと懇願するまで、しばきまわさんかぁ!」
 男達は怒号をあげて、ミリーシャ達に迫る。
 ミリーシャは、迫り来る男達に手持ちのリュックを開放、ありったけの火力を用いて殲滅にかかる。
 本気になったミリーシャが鎮圧するのに、時間はかからなかった。

 ○

 一方的な戦闘はものの数分で決着。壊れたブロックを補修、商品を無料で譲渡することを条件に只野たちを解放した。
 玄関でうずくまる恵美。
「はぁ……私、男を見る目ないのかな。詐欺師にひっかかるなんて」
「だからお主を思い、男は寄せ付けんようしとるのじゃワシは」
「嬉璃も思いっきり詐欺に引っかかってたじゃない!」
 空しくなって、恵美は再度俯いた。
 ミリーシャは恵美に一枚の写真を差し出した。
 金髪、碧眼の二十台前半の好青年が写っている。
「え? この格好いい人……」
 恵美の語尾に期待が見える。
 ミリーシャが頷く。
「約束……話はついてるから……明日ゆっくり……食事に行くといい」
「何をしている人?」
「ロシアンマフィア……頭目」
 恵美の口がへの字になる。
「もう、そういう人いや〜〜〜〜〜!」
 恵美の叫びが町内にこだました。
 きょとんとするミリーシャ。でも。こうしている時間が楽しいことは確かだ。ミリーシャの中に芽生える何か。それを見つけ、求めたいとミリーシャは強く思った。

                        【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【六八一四 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女性 / 十七 / エージェント】


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■         ライター通信          ■
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 初めまして! 吉崎 智宏と言います。プレイングを読み、ミリーシャは優しく何にでも一生懸命な子だと感じました。恵美、嬉璃とおとぼけなキャラがいるあやかし壮に、芯の通った少女ミリーシャ。書いていて楽しかったです。
 ちなみに、吉崎の私生活といえばクーラーに頼りきりの電気代請求の怖い日々を送っております。

 請求書 送ってくるなよ 頼むから
           ちひろ悲痛の川柳

 では、またお会いできる日をお待ちしてます。ではでは〜!