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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


メイクアップ・タケヒコ

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0.オープニング

覚えたての御化粧は。
何だか、くすぐったくて。
何だか、嬉しくて。

覚えたての好奇心は。
誰にも、止められなくて。
誰にも、負けなくて。

ソファで、ぐっすりと眠る お兄さん。
私は、音を立てぬよう化粧道具をテーブルに並べて。
クスクスと笑う。

込み上げるワクワクを堪えきれずに。

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1.

夏休み、盆が明けて。
サーカスの繁盛も、少しずつ落ち着き始めた。
これはこれで、ちょっと寂しいものがあるけれど…。
まぁ、久しぶりに、まとまった お休みを貰えたし。
良しとしますか。
連休三日の一日目。
さて…今日は何をしようかしら。
お買い物?散歩?それとも、真面目に新技の開発・練習とかしちゃう…?
公園のベンチで腕を組んで、うぅ〜んと悩む私。
すると、そこへ。
RRRRR―
一本の電話が。
携帯のディスプレイに表示される、可愛らしい笑顔の写真。
あらあら。どうしたのかしら。
電話なんて、珍しいわね。
ピッ―
「はいはい?」
微笑みつつ電話を取ると、元気な声が飛んできた。
『こんにちは。紗枝さん』
「ふふ。こんにちは。どうしたの?」
『あの…。共犯…じゃないや、協力して欲しいんですけど』
「ん?何に?どういう事?」
電話をかけてきたのは、零ちゃん。
草間興信所、探偵見習いの とても可愛らしい少女だ。
やぶからぼうな、協力依頼。
随分と、世話しないわね。
珍しいなぁ、何か大きな事件かしらなどと思いながら、詳しく話を聞いてみれば。
興信所の所長さんに悪戯をしたいらしく。
それを手伝って欲しいとの事。
兄に悪戯をしようだなんて…お茶目なコなんだから。ほんとに、もう。
私はクスクス笑い、それを承諾。
可愛いコの可愛いお願いを断る理由なんてないもの。
それに、楽しそうだしね。普通に。ふふ。


「おじゃまします…っととと」
興信所に赴き、リビングへ足を踏み入れた瞬間、
零ちゃんが人差し指を口にあてがい”静かに”とのジェスチャーを飛ばした。
私は苦笑し、極力足音をたてぬよう、零ちゃんに歩み寄る。
ソファ横に座り、準備をしている零ちゃん。
テーブルに並ぶ、色んなメイク道具と。
ソファには、グッスリと眠る所長の武彦さん。
そう。零ちゃんが仕掛けようとしている”悪戯”というのは。
メイクアップ。
ぶっきらぼうで何事にも動じない(らしい)武彦さんを、
可愛くメイクアップする、というもの。
テーブルに並ぶメイク道具を手に取りつつ微笑んで私は言う。
「凄いわね。結構、色々持ってるんだ」
私の言葉に零ちゃんは少し照れ笑いをして、返した。
「最近、色々買うようになったんです」
ははぁ、なるほど。そういう事かぁ。
まぁ、全然不思議な事じゃないわよね。
零ちゃん、可愛いもの。
そっかそっか。遂に、カレシというものができたのね。
ん〜…何だか、ほんのり寂しいような気もするけれど。
良かったじゃない。
今度、ゆっくりと。色々聞かせてもらわなくっちゃね。

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2.

「私も、色々持ってきたのよね。ほら」
持ってきたメイクボックスをパカリと開いて見せると、
零ちゃんはキョトンと目を丸くして呟いた。
「紗枝さん…これは、一体…」
メイクボックスから、紅い付け鼻を取り出し首を傾げる零ちゃん。
どうせ、やるなら。徹底的に。
徹底的に、面白可笑しく仕上げなくっちゃ。
「クラウンのメイクを施しましょ。きっと可愛いわ」
「クラウン…?」
「そ。んーと、わかりやすく言えば、ピエロね」
「ピッ…ピエロですか?」
「そーよ」
腕をまくり、意気揚々と返す私。
零ちゃんは苦笑しつつ、そんな私を見やっている。
可憐な少女のようなメイクを施すのも、楽しいかもしれないけれど。
それじゃあ、つまらないじゃない?
王道っていうか定番っていうか、ね。
だから。
ここは、思いっきり笑いに走ってみましょうよ。
その方が、後々面白い事になると思うから。


クラウンメイクを着々と進めながら、
ふと思った事を呟く私。
「武彦さんは、トランプなイメージよねぇ」
「トランプ?カードゲームのアレですか?」
首を傾げて、不思議そうに問う零ちゃん。
私はクスクス笑いつつ、クラウンの種類の説明をしてあげた。
「クラウンにも、色々種類があるのよ」
「へぇ。そうなんですか」
「まず、ホワイト。これは高貴な外見で賢いクラウンよ。ジャグリングが得意なの」
「ジャグリング…あれ、凄いですよねー」
「そうね、最も器用なクラウンと言われているわ」
「器用…羨ましいですね」
「あら。零ちゃんだって、器用じゃない?」
「いえ。基本的にドジですから、私って」
「ふふっ。じゃあ、零ちゃんは、オーギュストかしら?」
「オーギュスト…?」
「そう。ドジを繰り返しては観客の笑いを誘う、ムードメイカー的なクラウンよ」
「ムードメイカーだなんて大そうなの、私には不似合いですよぅ」
「そんな事ないと思うけど?」
「やめて下さいよぉ。何か、照れちゃいますから」
頬を掻きつつ照れ笑いする零ちゃん。
その仕草が、とっても可愛くて。私はクスクスと笑う。
クラウンメイクも完成間際に差し掛かってきて。
零ちゃんは、照れを隠すように質問してきた。
「さっき言ってた、トランプっていうのは…どんなピエロさんなんですか?」
「トランプは…だらしなくって、お酒が大好きなの。私欲に貪欲なクラウンよ」
「あはははっ。それ、確かにピッタリですね。お兄さんに」
「見栄っぱりなんだけど、クラウンの中では最も身分が低いのよ、トランプは」
「あはははっ。変にプライドが高いって事ですよね、それって」
「そうそう。まさに、それよ」
なぁんて、武彦さんが聞いていたら何だよそれって怒りそうな事を。
キャッキャとはしゃぎながら楽しく話しつつ、作業を進めていった私達。
時間にして、およそ一時間。
楽しいメイクアップは、見事な仕上がりになった。
「……ぷ」
口をおさえ、笑いが漏れるのを必死に堪える零ちゃん。
それも、仕方のない事。
白塗りされた、顔面。
目に痛いほど真っ赤な唇と、大きな鼻。
ものすごいボリュームのボンバーヘッド。
キッチリときまっているオレンジのアイシャドウと、
下まぶたに並ぶ、星型のラメラメシール。
自称ハードボイルド、な普段の武彦さんの面影は、どこにもない。
強いて言うなら、唯一。
面影があるのは、眼鏡くらい。
でも、その眼鏡も もはや滑稽なアイテムでしかない。
何ていうか…これ。
大阪の、くいだおれ人形…みたい。
ヒィヒィとお腹を抱えて必死に笑いを堪えつつ、
私と零ちゃんは、記念撮影を。
様々なアングルから撮るクラウン武彦さんは、
見ていて一向に飽きない。
あぁ、もう…もう駄目。
笑いが、止まらない。
お腹、痛い…。

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3.

記念撮影をしながら笑い転げる私達の騒々しさに、
グッスリと眠っていた武彦さんが、ようやくお目覚め。
ボーッとしながら頭を掻く姿は、
まさに間抜けなトランプそのもの。
大笑いする私達を見て異変を察知し、
眉を寄せつつテーブルの上に置いてあった鏡を見やる武彦さん。
寝起きの所為もあり、すぐに事態を把握できない武彦さんは、
鏡をジッと見やったまま、動かない。
そんな武彦さんに、私はお腹を押さえつつ、告げる。
「どうですか。クラウンメイク。素敵でしょう?」
「可愛いですよ。お兄さん」
凝視できずに目を逸らしつつ笑いを堪え、私に続く零ちゃん。
私達の、その言葉で。ようやく全てを理解した武彦さんは。
大きな紅い付け鼻を力任せに、もいで怒る。
「何やってんだ、お前らはぁぁぁっ!!!」
「きゃー!!」
「きゃはははは!!」




「お、お兄さんっ!!これ!これ見て下さいっ!!」
チラシを持ち、血相を変えて駆け寄ってくる零。
俺は新聞をバサリとテーブルの上に置き、
コーヒーを一口飲んで溜息交じりに言う。
「何だ。またどっか連れてけってか。今月は厳しいって何度言えば…」
「そうじゃなくてっ。これ!ほらっ」
ペシッと俺の膝にチラシを乗せる零。
何だよ、っとに。朝から元気だなぁ、お前は。
呆れつつ視線を落とし、チラシを見やった瞬間。
「っぶほぉっ!!」
俺は口に含んでいたコーヒーを思いっきり吹き出した。
「んなっ。何だ、これはぁっ!!」
そのチラシは、サーカスの呼び込みチラシで。
いや。チラシというよりはハイクオリティなポスターで。
中央に、デカデカと俺の写真が載っていた。
”クラウン・ドリーム”というワケのわからないキャッチフレーズと共に。
あのやろう…あの時撮った写真を自分のサーカス団のチラシに使いやがった。
立派な犯罪だぞ、これは。著作権侵害…って、そんな事は、どうでもいい!
どうしてくれんだ…これ。
色んな奴に馬鹿にされるじゃねぇか…。
それだけじゃねぇ。
もしかしたら、仕事も減って…。
ただでさえ今月はカツカツだっつーのに。
あぁぁぁぁ…くそぉぉぉ。
あのやろう…訴えてやる…!!
「いいなぁ、お兄さん。私もサーカスのチラシに載ってみたいです…」
「うっさい!」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

6788 / 柴樹・紗枝 (しばき・さえ) / ♀ / 17歳 / 猛獣使い&奇術師?

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀ / --歳 / 草間興信所の探偵見習い


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/08/19 椎葉 あずま