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<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜本屋にて〜】

 
(……遭遇率高いなぁ)
 法条風槻は、自分の入った本屋の片隅、学術書コーナーに見知った後ろ姿を認めて、そう思った。
 すらっとした長身に無造作に束ねられた少し長めの茶髪。実際に会ったのはまだ一度だけだが、それでもすぐに判別できた。
 陽月――…色々と謎のありそうな、そしてかなり癖のありそうな、男。
(まぁ、それはともかくとして)
 自分がここに来たのは、仕事結果の反映具合をチェックするためだ。今後仕事を請けるかどうかの目安にもするのでさっさと済ませてしまわないと。
 すたすたと目当ての場所に行き、雑誌をぱらぱらと捲る。
(うーん、まあまあってとこかな。結構反映されてるけど、活かし切れてない感じ。でも、まあこれくらいなら許容範囲、かな?)
 心中で呟きながら、次の雑誌を手に取る。
(あぁ、こっちは駄目だな。あんまり活用されてない。次仕事が来ても請けなくていいか)
 判断してその雑誌を置き、また違うコーナーへと。
 視界の隅で陽月が振り返ったのが一瞬見えたがとりあえず無視。背中になんだか視線が突き刺さっているがやっぱり無視。結果チェックが先だ。
 …そして数分後。
 ぱたりと雑誌を閉じた風槻は、雑誌を元の場所に戻して後ろを振り向いた。背後に突っ立っていた陽月と目が合う。
「こんちわー」
「…こんにちは」
 にっこーと笑って挨拶されたので軽く会釈しつつ挨拶を返す。
「なんか色々見てたみたいだけど、仕事関係?」
「まあ、そんなところ。陽月は本でも買いに来たの?」
「ん、暇潰し用になんか買おうかと思ったんだけど、止めた。で、法条さん用事終わった?」
「一応」
「そんじゃさ、ちょっと時間ちょーだい。聞きたいことあるんだよね」
「別にいいけど…」
「んじゃ、喫茶店でも行こっか。こないださっちゃんが連れてったとこでいい?」
 問いに頷く。元々風槻自身も陽月を喫茶店にでも誘おうと思っていたのだ。立ち話でもいいが、人目を惹く容姿の陽月といると注目されることは免れないだろうと考えて。
 陽月は風槻が了承したのを確認すると、さっさと歩き出す。風槻もそれに合わせて歩き出すが、陽月がさりげなく歩調を合わせてくれているのに気づいて、小さく笑った。なんというか、陽月らしい気がする。
 他愛のない話をしながら数分歩き、件の喫茶店に着く。この間とは違って自分たち以外にも客がいるし、マスター以外の従業員もいた。
 適当な席に腰を下ろし、手早く注文を終えて一息。
「んで、『聞きたいこと』なんだけど」
 思ったより早く切り出された話に先を目で促せば、陽月は読めない笑顔を浮かべた。
「ほら、こないださっちゃん経由で連絡くれって言ったじゃん、俺」
 確かに言われた。つっこみどころ満載の朔月の行動とセットできちんと覚えている。
「――連絡なら、もう入れたけど?」
 笑みを浮かべて言う。
 そう、すでに連絡はした。
 ……ただし、スパムメールを装って、だが。
 陽月が欲しがっている『情報屋』としての面は、恐らく『D』の方だろう。だから少々慎重にいかせてもらおうと考えているのだ。
「ん、知ってる。なんかスパムっぽいやつだろ?」
(あれ、気づいたんだ)
 ちょっと意外だった。陽月は表面上は軽いが、ガードは固そうなので、スパム系のメールは中を確認することもなく消去しそうなイメージだったのだが。
 その思いが顔に出ていたのだろうか、陽月はにやりと笑う。
「俺、勘はイイんだよ。なんかビビッと来たから見てみたら案の定だったってわけ」
「なるほどね」
 納得したところで頼んでいた飲み物が来たので、一度話を中断する。互いにコーヒーを一口飲んで、話を再開。
「そんで、ここからが本題なんだけど」
 陽月が笑う。しかしその瞳からは全く感情が読み取れない。
「ぶっちゃけ、法条さんって俺を試そうとしてる…――っつーか、見極めようとしてるよな?」
(……そこまで気づくとは、ね。ちょっと甘く見てたかな)
 初対面時から食えない奴だろうとは思っていたけれど――予想以上に鋭い。
「さぁ、どうかな」
 しかし肯定はしない。極めて曖昧にしておく。
「ここでしらばっくれる? フツー」
「何のことかな」
「ま、いーけど」
 表情一つ変えずに返せば、陽月はひとつ溜息をついてそう言った。
「……こないださー、さっちゃんが変なこと言ったっしょ」
 手元のコーヒーカップに視線を落として、ぼそぼそと言う陽月。
 言葉に、風槻は朔月との会話を思い出してみる。変なこととは一体。
「変なこと?」
 よく分からなかったので問い返してみると、陽月は居心地悪げに身じろぎしながら答えた。
「『罪』がどーとか……そういうの」
 もごもごと歯切れが悪い陽月を見つつ、頭の中で先日の朔月との会話を思い返す。
(まあ、確かに意味は分からなかったけど…変なこと、ねぇ)
 朔月も風槻に詳しく説明する気はなかったようだから、意味が分からなかったのは仕方ない。
 けれど、陽月の様子からすると、朔月の言を誤魔化したいのだろうか。理由は分からないが。
「あれ、気にしなくていいから。さっちゃんってちょっとお節介っつーか気にしすぎなんだって。……うるさいよさっちゃん、ホントのことだろ」
 朔月が反論したのか、後半は朔月への言葉だった。だが、『罪』云々の話を陽月が避けたがっているのはよく分かった。
 風槻は少し考えて、とりあえず今はつっこまないでおくことにした。
「あ、そういやさっちゃんの力のこと聞いたよな。どうせだし俺のも教えとく。俺の力は――」
 言葉とともに風槻の目の前にあったコーヒーカップがふわりと宙に浮かぶ。
「見ての通り、念動力…PKって言ったほうが通りがいいか――まあ、とにかくこういう風に物を浮かせたりできる。あんまり派手じゃないけどな」
 かちゃ、と小さな音を立ててソーサーにコーヒーカップが着地する。これくらいの異能ならば驚くほどでもないので、風槻は至極冷静に陽月の発言につっこんだ。
「別に派手じゃなくていいでしょ」
「そりゃ、そうだけどさ。まぁでもこの力はさっちゃんのと対みたいなもんだから、結構好きなんだけど」
「対?」
 陽月は意味なくコーヒーをスプーンでかき回しながら答える。
「さっちゃんがESPで俺がPKってのはすげぇバランス取れてるんだよ。――ま、そうなるようにされてんだけど…」
「え?」
「なんでもないなんでもない」
 小さな声で付け加えられた言葉に聞き返すも、陽月は手を振ってなんでもないと言う。むしろその態度がなんでもなくないと語っているも同然だが。
 仕方ないので追求はしないでおく。話すときは相手から話してくるだろうし。
 コーヒーの程よい苦味を楽しみながら、風槻はこの先どうなることやら、と心中で呟いたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6235/法条・風槻(のりなが・ふづき)/女性/25歳/情報請負人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、法条さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜ミッドナイト・ティータイム〜」にご参加下さり有難うございました。

 陽月との二度目の邂逅ということで、結構フレンドリーな感じに…。主に話し方が。
 陽月は色々かるーく流したがってるので、喋りも軽くなります。1話とは大分変わってますね。
 『抜け目ないやり取り』を頑張ってみようとしたものの、何かを間違った気がします…。
 今回は伏線やらは少なめなのであっさり会話風味ですが、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。