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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 最早、景色はアリーナではなくなっていた。
 目の前に見えるのは大きな建物。中にいるのは、どうやら敵らしい。
 唐突に理解する、というよりは頭の中に無理矢理詰め込まれた感覚。
 ミリーシャ・ゾルレグスキーは一度にいろいろな情報を与えられ、軽い頭痛を覚えながらも、いつの間にか両手に持っていた拳銃を握る。
「……殲滅……しなきゃ」
 目的まで頭の中に流れ込んできていた。
 どうやらその目的を達成するまで、この妙な夢も覚めてくれないらしい。
 それがわかれば善は急げ。こんな意味のわからない夢なんかすぐに終わらせてくれる。

 建物の周りには見張りのような人間はいないらしく、ミリーシャは無造作に建物に近付き、窓をブチ破って中に入る。
 入った中はどうやら廊下。左右に伸びていて、壁に幾つかドアがついている。
 突然の襲撃に、廊下を歩いていた男は驚いて一瞬行動を停止する。
 その一瞬の呆けが死に至る。
 ミリーシャは瞬間的に男に狙いをつけ、間髪いれずに撃つ。
 綺麗に眉間を撃ち抜かれた男はその場に倒れ伏せ、そのまま動かなくなった。
 窓をブチ破った音、銃声。とてつもなく騒がしい登場だったので、おそらく中の人間に侵入を気づかれただろう。
 それならそれで好都合だ。自分から出向く事無く敵がやってきてくれるのだ。それを全部殺せばこの夢も終わりだ。
 音を聞きつけ、駆けつけてくる足音が二つほど。
 ミリーシャはすぐにそれに対処するために、近くにあった観葉植物の陰に隠れる。
「ど、どうした!?」
 廊下の角を曲がって駆けつけたのは小銃を持った男が二人。倒れている男に目を奪われて索敵を忘れているらしい。
 その隙を狙ってミリーシャが落ち着いて狙いをつけ、その二人を一発ずつで殺す。
 少し遠かったので心臓を狙って。
 しっかり銃弾が命中した男二人は、バッタリ倒れた。
 ミリーシャはその死体に近付き、小銃とマガジンを奪う。
 これで拳銃よりも多少武装強化がなった。まだまだマシに戦えるだろう。
「……あれ? ……このマーク……」
 ミリーシャが小銃を奪う時、倒れている男の服にとあるシンボルが縫い付けられているのに気付いた。
 それは随分昔に潰した狂信的オカルト集団のマーク。オカルト集団というか、半ばテロリストだったが。
 そのときも確か、こんな建物を襲撃し、制圧したはず。間違いない。記憶に残っている。
 再結成したような情報は聞いてないが……。という事は、これは過去のミリーシャの記憶を元にして作られた夢なのだろうか。
 だとすればこれほど気が楽な事はない。ミリーシャは一度、この組織を潰しているのだから、今回も勝てるはず。

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 記憶によれば、この建物は三階建て。中に居る人間は五十人強、その内戦闘員は二十にも満たないはずだ。
 その戦闘員を殺せばこの夢も終わるはず。
 先程三人殺したから、後は十数人。やって出来ない事は無いだろう。
 更に、建物の見取り図もおぼろげながら覚えている。
 コの字のように折れ曲がった建物で、今ミリーシャがいるのは建物の南側の角。
 階段がこちらの廊下に見当たらない所を見ると、逆側の廊下にあるはず。
 敵の全滅を狙うなら、向こうに行かなければなるまい。

「侵入者だー!!」
 小銃を奪った男の位置で、ミリーシャは戦闘員に発見された。廊下を曲がった向こうに三人ほど人影を見た。
 気付いた時にはこちらに銃口を向けられ、既に引き金も絞られていた。
 ミリーシャは咄嗟に元の廊下に戻り、銃弾を回避する。
 その片手間に周りを確認する。建物の外から回ってくるような人はいなさそうだが、こちら側の廊下に逃げ道は無さそうだ。
 見えるのは壁に三つあるドア。ミリーシャの記憶に残っている限り、その三つのどれも行き止まり、というか部屋だったはずだ。
 部屋に入ったところで階段に近づけるわけではない。窓を開けて中庭に出ると狙い撃ちにされるのはミリーシャだ。
 これからどうするか考えていると、ふと銃弾がやむ。近付いてくるつもりだろうか。
 ミリーシャはとりあえず距離を保つために壁から半身乗り出し、小銃を乱射する。
 確認できただけでも近くに居る敵は三人。三対一の劣勢で敵を近づけさせて良い事はない。
 それよりも早くこの状況を打開して、援軍を呼ばれる前に自由に動けるようになりたい。
 何か手は無いか、と辺りを探してみると、倒れている男のポケットに良いモノを発見する。
 黒光りする拳大のそれは、手榴弾だった。
 ミリーシャは手早くそれを奪い取ると、また壁に隠れてタイミングを窺う。
 出来るなら敵をひきつけて逃げられない所でぶつけてやりたい。
 ミリーシャが壁に隠れると、敵の銃撃が始まる。だが、それはすぐに止み、代わりに足音が聞こえてくる。
 それを聞いて、ミリーシャは手榴弾の安全ピンを引き抜き、敵に向かって投げる。
 数秒して、敵が慌てふためき始めた頃に爆発。
 チラリと廊下を窺うと煙がもうもうと立ちこめ、辺りを埋めていた。
「うわぁ、くそっ! なんてこった!」
「お、おい、しっかりしろ!!」
 煙の奥のほうで敵が騒いでいる。どうやら二人ほど健在らしい。
 爆風になめられたのは一人か。まぁ、向こうの混乱を招けたようなのでこれはこれで良しとしよう。
 ミリーシャは銃を構えつつ煙の中を突進、驚くべき身体能力で敵の反応より先に距離を縮める。
 拳銃で生き残った二人を撃ち殺し、更に奥の廊下の様子を窺う。
 どうやら援軍はまだ来ていないらしい。
 今殺した二人からマガジンと手榴弾を二つずつ奪い、ミリーシャはどんどん奥へ進む。

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 階段に近づくと、上階から銃弾が降ってくる。
 どうやら二階と踊り場で待ち伏せしていたらしい。
 敵のリロードタイミングを狙おうとしても、二階連中と踊り場連中でリロードのタイミングが違う。
 こんな所で攻めあぐねている場合ではないので、力技で切り抜けることにする。

 まずは先程殺した敵の死体を持ってきて、盾を確保する。
 見かけによらず、驚きの身体能力を持っているミリーシャは片手で大の男一人を担ぐのも問題ない。
 片手に小銃を構え、手榴弾を踊り場に放る。
 それに驚いた踊り場にいた敵は二階へ逃げ出す。直後、爆発。
 それを合図にミリーシャは死体を背中に担いで踊り場までダッシュ。二階から降ってくる銃弾は担いでいる死体が防いでくれた。
 手榴弾で巻き起こった煙の中に入ったミリーシャは死体を自分の前面に持ち替え、死体の脇から小銃を構えてそのまま突進。
 その場にいた敵五名を撃ち殺して階段を制圧する。

 ボロボロになった死体を捨て、新しく出来た死体からマガジンと手榴弾を人数分奪う。
 敵の数はおそらくあと十人ほど。この調子で行けば案外楽に夢を終わらせる事もできそうだ。
 ミリーシャは三階から襲撃が無いか注意しながら、二階の廊下に移る。
 三階には敵がいないのか、特に襲撃は無かった。

 二階廊下の奥から騒がしい音が聞こえてくる。
 何かを持ち運んでいるようなそんな音だが、ここからでは何をやっているのかわからない。
 廊下の角まで進んで奥を窺うと、敵は随分大掛かりなバリケードを作っていた。
 部屋にあったモノを何でも持ってきたようで、テーブル、本棚、クローゼット、その他諸々で作られたそれは案外丈夫そうだ。
 そのバリケードの隙間から銃口がこちらに向いている。容易く攻略は出来なさそうだ。
 それなら無理にここから攻める必要は無い。もしも三階に敵がいて、そいつらが降りてきたら挟み撃ちだ。
 まずは上の階から攻めることにしよう。

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 三階はシンと静まり返っている。二階とは大違いだ。
 ミリーシャも出来るだけ足音を立てないように、静かに廊下を進む。
 廊下の角の奥にも誰もいない。試しに部屋の中も窺ってみたがそこも同じだった。人の気配が全くしない。
 どうやら敵は二階で篭城を決め込むつもりらしい。
 緊張して歩いてきたが、本当に三階には誰もいないようだ。
 最後の部屋のドアも閉め、ミリーシャはため息をつく。
 ここからあのバリケードをどうやって攻めるか……それを考えると気が重くなる。
 ちょっとやそっとではビクともしないだろう、あのバリケード。時間を置いた今ならもっと強化されているだろう。
 いや……だが待てよ。
 今ミリーシャがいるのはバリケードが張られている奥の廊下の丁度真上。
 廊下の窓から下を覗くと、敵は上に全く警戒していない。
 敵はどうやら戦闘経験が薄いのか、幾つか拙い戦術が見られる。
 まぁ、そこはミリーシャにとって哀れむ所ではなく、むしろ喜ぶべきところだ。

 部屋の中で見つけた適当な紐に手榴弾の安全ピンを結びつける。
 紐を掴み、手榴弾を窓から外に投げる。
 すると手榴弾はグルリと回って、丁度下の廊下の窓をブチ破る軌道を通る。
 手榴弾が窓を破った所で紐を強く引けば安全ピンも抜け、数秒後に爆発だ。
 敵が前面からやってくると思っていただろう敵は、それに不意打ちを受け、ダメージを受けたはず。
 ミリーシャは壁を伝って下階に下りる。煙が立ち込める廊下で、左右構わず小銃を乱射する。
 どうせ自分以外は敵だけ。乱射して誰に当たろうが構うものか。
 引き金を引けば引いただけ、短い悲鳴が聞こえ、続いて人が倒れる音も聞こえる。
 それが十を数える頃に、悲鳴も倒れる音も聞こえなくなった。
 煙も晴れ、辺りを窺うとその辺りにあるのは死体だけだった。
 一応、ミリーシャはその一体一体に止めと言わんばかりに銃弾を放つ。
 睨んだとおり、幾人かは死んだフリをしていたようで、その止めで絶命した敵もいたようだ。

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 これでおそらく、敵の戦闘員は全滅したはず。
 なのに、この夢が終わるような感じは全く受けない。
 何故だろう、戦いは終わったはずなのに……。
 手持ち無沙汰になったミリーシャは手近にあったドアを開ける。
 一応警戒して銃を構えてみた所、中から多くの悲鳴が。
 部屋の中には戦闘員ではない教徒らしき女子供が大勢いた。
 その時、夢の初めに聞こえた声がまた聞こえてくる。
『戦え、さもなくば、殺す』
 その声に、ミリーシャは嫌悪感を覚える。
 どうやらこの怯えて震えることしか出来ない人間たちも殺せ、と言いたいらしい。
 何の抵抗も出来ない人間を殺す。それは、あまり気分の良い事ではなかった。
 だが、声はまたも急かす。
『戦え、さもなくば、殺す』
 ミリーシャのいつも冷静な瞳が一瞬濁る。
 だがやらなければならないと言うなら……。

 嫌な夢だった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー (みりーしゃ・ぞるれぐすきー) / 女性 / 17歳 / サーカスの団員/元特殊工作員】


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■         ライター通信          ■
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 ミリーシャ・ゾルレグスキー様、ご依頼ありがとうございます! 『戦術の拙さは俺の頭が悪い所為!』ピコかめです。
 兵法なんて全然わからない単騎突入大好き人間です。どうも。多少の無茶はお願いだから見逃してください。

 拳銃、機関銃、手榴弾をぶっ放す、ってことで中距離から遠距離での戦闘になりました。
 俺的にはこういう戦闘は、まだまだ未開の地であります。もっとスキルアップせねば!
 勝敗的には楽勝、でもちょっと後味悪し、って感じでしょうか。試合に勝って勝負に負けた、みたいな。あれ、違うか……?
 ではでは、また気が向きましたらよろしくどうぞ!