コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


【D・A・N 〜お出かけしましょう〜】


 気分転換を兼ねてふらりと散歩に出た那智三織は、その道中で予期せぬ出来事にぴしりと固まった。
(うわー……)
 内心で悲鳴を上げる。
 三織の進行方向――ほぼ正面と言っていいだろう場所に、見覚えのある金髪の青年を見つけてしまったのだ。
(確か、ルツさんといっただろうか…)
 本人からは名前を聞いていないが、彼と何らかのかかわりがあるらしい銀髪赤眼の女性の言からするとそういう名前らしい。
 初対面時の印象があまりいいものではなかったからか、三織は彼に苦手意識を持ってしまっている。関わらずにいられるならその方がいい。
(よし、まだ見つかってないみたいだし、逃げよう)
 そもそも相手が自分のことを覚えていないという可能性もあるが、回避するに越したことはない。方針を決めた三織はくるりと踵を返し……かけたのだが。
 完全にルツに背を向ける前に、笑いを含んだ声が三織の鼓膜を震わせた。
「あ、この間の面白い子」
「誰が面白い子ですか!」
 笑みを浮かべたルツに叫んでから、状況を理解して「しまった!」と思う三織。
(ああ、見つかってしまった…)
 その上自分から反応してしまった。いくら聞き捨てならない科白だったとは言え、本当に何しているのだ自分。
 仕方ない。斯くなる上は挨拶だけしてさっさと逃げよう。
「ええと、こんにちは。ルツ…さん」
「こんにちは。ティアから聞いたんだ? 名前」
「ティア、って…」
「俺と入れ替わりで出てきたでしょ。アルビノの、俺よりちょっと年下くらいに見えるやつ」
 ルツの言葉で、やっとあの女の人の名前が分かった。少しだけ嬉しくなる。
 だが、だからと言ってルツの印象が良くなるわけではない。『挨拶だけしてさっさと逃げる』考えは変わらないのである。
「ああ、あの人ですか……できればよろしく伝えておいてください。それでは」
 会話すればするだけルツのペースに巻き込まれるだろうというのは何となく分かっていたので、自分から会話を切ってその場を離れることにする。ほぼ初対面に近い相手にちょっと失礼かもしれないが、前回会った時の彼の所業を考えれば差し引きゼロだろう。
 しかしルツは今度こそと踵を返した三織の背中に、軽く言葉を投げた。
「つれないなぁ。……お礼してくれるんじゃなかったっけ?」
 思わず足が止まった。
 とっさに言い返すこともできず、一瞬の沈黙。
「そ、それは貴方じゃなくてティアさんに言ったものだ!」
 振り返って何とかそう返すものの、焦りからか少し地が出てしまった。
 それに気づいているのかいないのか、ルツは楽しげに笑みながら口を開く。
「確かにそうだけど。でも元々ネックレス拾ったのは俺だよ? 俺にもお礼のひとつくらいあってしかるべきじゃないかな」
(う、それはそうだが……)
 でもなんか嫌だ。
 これは礼儀云々と言うより、ルツが相手だというのが問題なのだ。こう、素直に礼が言えない。
 心情が顔に出ていたのだろうか、ルツは少しだけ眉尻を下げて言った。
「嫌われたものだね」
「自業自得でしょう!」
 ペースが乱され少々イライラしていたために、つい反射的に返してしまった。
 明らかに二度会っただけの人に言う科白じゃない。
 けれどそれに気を悪くした様子も無く、ルツは顔に笑顔を浮かべながら――一体何が楽しいのか三織にはさっぱり分からない――唐突に「はい」と何かを差し出してきた。
 思わず受け取った三織は、手のひらの上のそれをまじまじと見る。
(……紙………?)
 それは手帳かなにかを破ったらしい紙を二つ折りにしたもののようだった。とりあえず開いてみようとした三織の耳に、ルツの声が響く。
「それ、ティアから」
 紙を開きかけた状態で顔を上げれば、初めて会ったときを彷彿とさせる笑みを浮かべたルツの顔。
「お礼したいなら、連絡先くらいは聞いときなよ。まぁ『縁』はできただろうけど、そうそう都合よく会えるかどうかなんてわからないんだし」
 また、笑われた。
 しかし至極真っ当な意見なので言い返すことも出来ない。
 やっぱり性格悪い、と再認識した。
 三織が彼からさっさと離れたいのを分かっていて、絶妙のタイミングでこうやって引き止める。これが性格悪い人間の所業でなくてなんだと言うのだ。
 色々な思いで拳を震わせる三織を愉快そうに眺めていたルツは、ふと空――というより太陽かもしれない――を見て、ポンとわざとらしく手を打った。
「っていうか、このまま夕方まで一緒にいたほうが確実に会わせられる気がするんだけど」
 その言葉を聞いた瞬間、三織は物凄く嫌な予感に襲われた。
 その予感に顔を引きつらせる三織に向かって、輝かんばかりの笑顔を浮かべたルツが訊ねる。
「…どうする?」
 予感は、見事に的中した。

 その発言から、またずるずると会話する羽目になって。
 ……ルツのことは苦手だし、出来れば関わりたくないし、関わっても精神的疲労がたまるだけで何一ついい事がないだろうことは分かりきっているのに、―――どうにか断ろうと悪戦苦闘した挙句に結局OKしてしまった自分に、三織は本気で眩暈を覚えたのだった。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4315/那智・三織(なち・みおり)/女性/18歳/高校生】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちは、那智さま。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜お出かけしましょう〜」にご参加くださりありがとうございました。

 お出かけに至るまでの流れ、ということで、逃げようとするんだけど結局逃げ切れない感じに。
 夜NPCの名前も明かされました。ルツ共々ティアをよろしくお願いします。
 そして実は那智さまの名前がまだ明かされていないという…。きっとずるずる会話している間にうっかり口を滑らせて名乗っていそうな気もしますが。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。