コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Innocence / 01 / スカウト

------------------------------------------------------

OPENING

異界の辺境、廃墟が並ぶ不気味な地域。
魔物の出現が頻繁な、物騒地。
異界の住人でも、好き好んで寄り付く者はいないであろう、この地に存在する、
美しき白亜の館。
その館から、今。
一人の少年が、姿を現した。
「はぁ〜。ひっさしぶりだよな。スカウト!腕が鳴るぜ〜」
伸びをしながら、サクサクと歩く、何とも楽しそうな表情の少年。
そんな少年の後ろを、小柄な少女が、ゆっくりと付いて行く。
少女は、少年の背中に忠告を突き刺した。
「…誰でも良いわけじゃないんだからね」
「わ〜かってるよ」
ケラケラと笑いつつ返す少年。
無邪気な少年に、少女は溜息を落とす。

------------------------------------------------------

「あ、もしもし、母さん? うん。今、終わった」
携帯で話しつつ、スタスタと足早に異界を歩む、隠岐・明日菜。
仕事を終え、依頼人である義母に完了報告をしながら、
明日菜は、何やら落ち着かない様子でチラチラと辺りを窺う。
無理もない。
明日菜が歩いている地域は、異界で最も不気味な地域だ。
異界に暮らす者も、滅多なことでは寄り付かない。
仕事が、たまたま この付近で片付いた為、
彼女は、ここを通らざるを得ない。
別の道は幾つもあるが、どれも遠回りになってしまうのだ。
「はぁ〜…気持ち悪いなぁ…」
眉を寄せ、ボソリと呟く明日菜。
彼女の言葉に、電話の向こうの義母が言う。
『何。どうしたの。具合でも悪い?』
「え?あぁ。違う違う。今、いるトコが、ちょっとね」
すぐさま、苦笑して返す明日菜。
そんな明日菜に、義母はクスクス笑いつつ告げる。
『あ。そうそう、近い内にあなたの所に、二人組の面白い子達が遊びに行くから相手をしてあげてね』
「へ?」
明日菜は一瞬呆け、あっと気付き、義母に確認する。
「ねぇ。それって、追加依頼じゃないよね?」
電話の向こうの義母は、クスクス笑うばかりで、
否定しないまま、よろしくねと言って電話を切った。
携帯を上着にしまい。ハァと溜息を落として、苦笑いを浮かべる明日菜。
彼女の義母は、いつもそう。
面倒事や、厄介事を、ポンポンと押し付ける。
迷惑な話だけれど、明日菜にとって、それは嬉しい事でもあった。
自分を信頼して、仕事を任せてくれている…と思うが故に。
「…二人組みの面白い子達、って、どういう事かしら」
足早に歩きながら、ボソボソと呟く明日菜。
(もしかして、子守りをしろ、とか? 子供は嫌いじゃないけど…うーん…)
義母が放った、唯一のヒント ”二人組みの面白い子達” を念頭に、
様々な想像、予想を巡らせる明日菜。
そんな彼女を木の陰に隠れて見やる者がいた。
そう。彼等こそ、明日菜の義母が言い放った”二人組みの面白い子達”
海斗と、梨乃だ。




「ねぇ、もう少し様子を見たほうが良いんじゃない?」
眉を寄せて、海斗に告げる梨乃。
梨乃の忠告を無視して、海斗は、懐から”銃”を取り出した。
普通の銃とは、一風変わったデザインの、その銃は、
海斗だけではなく、梨乃も所有している。
とある組織のオリジナルアイテムであるが故に、
銃の所有は、彼等が ”とある組織” に所属している事を意味する。
銃には、銃弾を装填する部位は見当たらない。
一体、どのように使うのか…一般人なら、首を傾げるであろう。
ニッと笑い、銃を左手で軽く叩く海斗。
すると、銃にボッと紅い炎が灯る。
そう、彼等が持つ銃は”魔銃”という代物で、
魔法、魔力の塊を銃弾の代わりに装填するものなのだ。
「思い立ったが吉日って言うだろ?」
銃を左右に振って、炎を揺らしながら得意気に言う海斗。
そんな海斗に、梨乃は呆れて言った。
「そういう事ばっかりよね、あんたが覚えてるのって」
「うっさいな〜。いいから見てろって、絶対イケるから」
自信たっぷりに言う海斗。
彼が銃口を向ける先、それは…明日菜の背中だ。

ゾクリと背中に感じる、妙な気配。
それを察知した瞬間、明日菜はピタリと足を止める。
そして、チラリと。背後を見やった。
木の陰に隠れている、見知らぬ少年と少女。
義母の言葉が、脳裏をよぎる。
あぁ、あの子達の事か。
そう把握したものの、明日菜は安堵することができない。
なぜなら、少年が自身の背中に向けて、銃を構えているから。
ドッ―
「!!ちょっ…」
何の前触れもなく放たれた銃弾。
明日菜は咄嗟に、近くにあった瓦礫の山に身を隠す。
非難はしたものの、明日菜の頭の中は困惑でいっぱいだ。
突然攻撃されたこともそうだが、
見間違いじゃなければ、放たれたのは銃弾ではなく…。
(火だったような…)
首を傾げる明日菜。その直後。
ボッ―
瓦礫の隙間から、炎が噴き出した。
「…うっそぉ」
見間違いではなかったことを悟ると同時に、
それまでとは比にならないほどの、危機感が明日菜を襲う。
炎が掠め、チリッと痛みが走る腕を擦りながら、
攻撃を凌ぐ場所を変える明日菜。
明日菜の動きは、とても俊敏だ。
まるで忍者のように、場所を変え、攻撃を凌ぐ。
そんな彼女を見つつ、海斗は歓声をあげた。
「うっは!やっぱな!見ろよ、あの動き!いいじゃん、いいじゃん!」
発砲を続けながら、何とも楽しそうに言う海斗。
攻撃されている明日菜の心境を思い、
隣にいる梨乃は、もはや呆れて何も言えぬ状態だ。
海斗の攻撃を見事に避けつつ、
廃墟の中へ身を隠した明日菜。
息を整えながら、彼女は自身の愛銃であるUSP.40S&Wを腰元から抜いた。
銃弾を装填し、構えながら敵(?)…海斗と梨乃が、どこにいるかを把握する明日菜。
海斗と梨乃は、隠れた明日菜を追い、
すぐ近くまで来ている。
海斗の発砲は、一発目から休みなく続いており、
廃墟の周りにあった枯れ葉は、ほとんど炭と化している。
「ほんと…勘弁してよね」
ポツリと言った直後、
一歩踏み出して、二人に身を晒す明日菜。
突然、自分から姿を見せた明日菜に不意をつかれたのか、
海斗の発砲が、一瞬止まる。
その一瞬の隙を、明日菜は見逃さない。
ドドッ―
二人の足元に放つ銃弾。
「うぉっ」
「きゃ…」
明日菜の攻撃に、ひるむ海斗と梨乃。
今だ、とばかりに明日菜は闘気術で加速し、梨乃の背後に回る。
「…!」
一瞬で背中をとられた梨乃は身動きせず、眉を寄せた。
梨乃の頬に銃口をあてて、明日菜は言う。
「どういう事なのか、説明してくんないかなぁ」
梨乃を人質にとり、説明を仰ぐ。
それは、成功したかのように見えた。
しかし…。
バチンッ―
ガシャッ―
「あっ…?」
梨乃は、自身にあてがわれていた銃を、いとも容易く叩き落とした。
恐怖も、危機も、何も感じていなかったようだ。
そして、叩き落とした その銃を、すぐさま拾い上げると、
引き金に指をかけ、銃口を明日菜に向ける。
梨乃の一連の行為にニヤニヤと笑いながら、海斗も魔銃の銃口を明日菜に向けた。
至近距離で二人に銃口を向けられる明日菜。
(いっきなり形勢逆転っ…?ぜ、絶体絶命、もう駄目。あ〜あ…)
そう思った瞬間。
「ど〜よ、梨乃?大したもんだろ?」
魔銃を懐にしまいながら、海斗は言った。
「そうね。うん…良いかもね」
銃を明日菜に差し出しつつ言う梨乃。
返される自身の愛銃を受け取りつつ、
明日菜は首を傾げた。




瓦礫の上に腰を下ろして、海斗と梨乃、二人と向かい合う明日菜。
二人から(ほとんど海斗からだが)説明を受けたものの、いまいち把握できていないようだ。
「…え〜と?つまりは、どういうこと?」
苦笑しながら、二人に問う明日菜。
すると海斗は頭を掻きつつ笑って、梨乃に言った。
「難しかったのかな。俺の説明」
梨乃はハァと溜息を落とし、返す。
「…説明が下手すぎるのよ」
確かに、梨乃の言うとおり。
海斗の説明は、非常に突飛で、ワケがわからなかった。
明日菜が、確認したくなって当然だ。
「えぇとですね、つまり…」
海斗の説明は、なかったことにされ、
梨乃の、わかりやすい説明が開始される。

「なるほど…理解はしたわ」
梨乃の説明により、明日菜は大まかな事情を把握した。
話によると、彼等は”Innocence”という組織のエージェントで、
組織のボス、トップであるマスターの指示により、
新エージェントのスカウトを行っていたらしい。
スカウトに出た直後、海斗と梨乃は、仕事をする明日菜を偶然見かけ、
その働きっぷりと戦闘能力に興味を持ったそうだ。
「すみませんでした。手荒な真似をして…」
ペコリと頭を下げ、突然攻撃した事を謝罪する梨乃。
攻撃をしかけたのは海斗であり、
梨乃の忠告を無視したのも彼だが…。
どうやら、梨乃はいつも、このように海斗の尻拭いをしているようだ。
それを悟った明日菜はクスクスと笑い、
「いいわよ。別に。…驚いたけどね」
そう言って、梨乃に頭を上げるよう促す。
「それにしても…あなた達が、あのイノセンスのエージェントだなんて。そっちの方が、びっくりだわ」
微笑みつつ言う明日菜。
梨乃はキョトンとして、問う。
「知ってるんですか。イノセンスのこと…」
「えぇ。軽ぅくだけど」
言葉通り、明日菜は、イノセンスの存在を知っていた。
まぁ、イノセンスは、あのIO2と肩を並べる組織だ。
巨大組織である為、異界で噂になることも、少なくない。
頻繁に異界で仕事をする明日菜は、知っていて当然かもしれない。
自身が所属する組織、イノセンスに関して、ある程度の情報を持っている。
明日菜が、そういう存在であることを知った海斗は、
「なぁんだ。だったら話は早ぇじゃん!」
そう言いながら立ち上がり、明日菜の腕を掴んだ。
「…ん?」
キョトンと首を傾げる明日菜。
海斗はグイッと明日菜の腕を引っ張り上げて、
明日菜を半ば強引に立ち上がらせると、
そのまま、彼女の手を引いてスタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと?どこ行くの?」
海斗に手を引かれながら、困惑して問う明日菜。
すると海斗は、クルリと振り返り、満面の笑みを浮かべて言った。
「俺達の家。イノセンス、本部へ御招待〜〜」
「ちょ、私、まだ…」
明日菜の言葉など聞く耳持たず。
海斗は、鼻歌しながらスタスタと歩く。
海斗に手を引かれて歩く明日菜の後ろを歩きながら、
梨乃はポツリと呟いた。
「すみません…」

(と、止めては、くれないのね…)
ガックリと肩を落としつつ、明日菜は、されるがまま。
人気のない方へ、人気のない方へと。
連行されて行く。

------------------------------------------------------


■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2922 / 隠岐・明日菜 (おき・あすな) / ♀ / 26歳 / 何でも屋

NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / Innocence:エージェント

NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / Innocence:エージェント


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。はじめまして。
ゲームノベル”Innocence”への参加・発注ありがとうございます。
心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。

Innocenceには、まだまだ続編・関連シナリオがありますので、
是非。また御参加下さいませ^^ お待ちしております。

椎葉 あずま(2007/11/26)