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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE 01 スカウト

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OPENING

異界の辺境、廃墟が並ぶ不気味な地域。
魔物の出現が頻繁な、物騒地。
異界の住人でも、好き好んで寄り付く者はいないであろう、この地に存在する、
美しき白亜の館。
その館から、今。
一人の少年が、姿を現した。
「はぁ〜。ひっさしぶりだよな。スカウト!腕が鳴るぜ〜」
伸びをしながら、サクサクと歩く、何とも楽しそうな表情の少年。
そんな少年の後ろを、小柄な少女が、ゆっくりと付いて行く。
少女は、少年の背中に忠告を突き刺した。
「…誰でも良いわけじゃないんだからね」
「わ〜かってるよ」
ケラケラと笑いつつ返す少年。
無邪気な少年に、少女は溜息を落とす。

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異界の辺境を歩く少女。
不気味な地域だというのに、楽しそうに歩く。
彼女の名前は、神城・柚月。
知る人ぞ知る、時空管理維持局本局の課長だ。
この若さで、その地位に食らい付いているからには、
それなりの実力と経験、判断力を持ち合わせている。
そんな彼女が、何故、こんなところにいるのか。
答えは簡単。
仕事が予定よりも早く片付いた為、
散策と息抜きを兼ねつつ、異界の巡回を行っているのだ。
この辺りは、まだ未開の地で、人の手が加わっていない。
それ故に、ありのままの異界を堪能できる。
物騒とはいえ、それこそが異界の味というか魅力。
柚月は、心から息抜き散策を満喫している。
(廃墟が多いっちゅーことは、栄えていた証やんな)
並ぶ廃墟を見つつ、そんなことを思う柚月。
昔は、ここに人が住んでいて、それぞれ自由に暮らしていた。
賑やかだったのかもしれない。
そう思うと、不気味というよりも切なくなったりするものだ。
柚月は、廃墟の瓦礫に腰を下ろし、空を見上げる。
どんよりと淀んだ空。異界、独特の空。
妙にしんみりとしてしまう中、スッと目を閉じる。
こうすると、人の声、雑踏、笑い声が聞こえてくるかのようだ。
口元に淡い笑みを浮かべつつ感慨に耽る柚月。
そんな彼女に、声がかかる。
「おねーさん、ちょっとイイ?」

ハッと我に返り、目を開いて顔を上げる柚月。
見上げた先には、少年が立っていた。
パーカーにニット帽。至ってラフな服装の少年は、
どこにでもいそうな、何の害もなさそうな印象を受ける。
「うん?」
少し首を傾げて柚月が尋ねると、
少年は、おもむろに腰元から銃を抜いて言った。
「お手並み拝見、させて?」
ニコリと笑って言う少年。
可愛い笑顔で、突然何を言い出すのか、この子は。
そう思いつつも、柚月は釣られて笑顔で返す。
「何や。新手のナンパか?こんなとこで、ようやるわ」
柚月の言葉に、少年は笑顔のまま、銃口を柚月に向ける。
銃口には、紅い…炎。
柚月は、少年がナンパ目的ではないと瞬時に悟り、
スッと立ち上がると、迅速に間合いを取った。
「しゃあないな」
言いつつ、魔導書を喚び出す柚月。
何というか、物騒そのものだが、
こういうシチュエーションは、異界で頻繁に起こる。
腕試しをしたいと思う無法な猛者が数多く存在する異界ならではの事態だ。
柚月の戦闘態勢が整ったことを確認した少年は、
躊躇うことなく発砲。
少年の持つ銃から放たれる、紅い炎。
銃弾とは異なるそれに、柚月は即座に判断を下す。
「猛る赤を沈めよ、マウアー・デス・ヴァッサー」
詠唱に応じ、柚月の目前には、ザァッと水の障壁が出現。
少年の放った炎は障壁にあたって尚、赤々と燃えているが、
威力を失い、障壁の半ばで停止してしまう。
「おねーさん、魔法の使い手か。助かるなー!」
再び銃口にポッと紅い炎を灯しながら言う少年。
助かる、という言葉が理解できないところだが、
何というか、嬉しそうで何よりだ。
柚月は微笑み、「ほな、返礼に」と言いつつ、
魔導書をパラリと捲り、目を伏せて呟く。
「闇を纏いし黒き珠よ、魔弾となりて彼を撃て。シュバルツ・クーゲル」
詠唱に応じ、魔導書から無数の黒い珠が出現。
珠は一度、柚月の耳元に近づき、何かを囁くかのような動きを見せると、
一斉に、少年へと向かっていく。
「重力系か。貴重だな。っと、生身はヤバイ」
少年は柚月の能力に感心しつつ、自身の身を紅い炎で包み込んだ。
柚月の放った黒い珠は、少年の言うとおり重力を宿したもの。
魔力を惜しむことなく費やせば、恐ろしい威力を発揮するが、ここは控え目に。
少年が体に纏う炎を破り、肌を掠める程度に抑える。
抑えるとはいえ、重力系の魔法は元々威力が高い。
扱う難易度も高い故に、優れた使い手が、あまりいないのが現状。
肌を掠める程度とはいえ、少年には瞬間の激痛が珠の数だけ走る。
「いっ…!痛ぇ! いっ…!っ…!」
激痛から精神が乱れ、少年を護る炎が大きく揺らめく。
そんな少年を見つつ、柚月は苦笑してパタンと魔導書を閉じた。
フッと消える重力を宿した黒い珠。
「こんなもんで、えぇかな?」
クスクスと笑いながら言う柚月に、
少年は不敵な笑みを浮かべつつ、身を護る炎を解いた。


折角息抜きをしていたというのに、予想外の魔力消耗。
柚月はフゥと息を吐きつつ、再び瓦礫の上に腰を下ろす。
柚月に駆け寄り、満面の笑みを浮かべる少年。
「お見事っ」
嬉しそうに言う少年にポカンとしつつ、
柚月は目を伏せ微笑み「そら、どうも〜」と告げた。
突然、お手並み拝見と言って攻撃をしかけてきて、
控えたとはいえ、痛い思いをしたことに変わりはないのに、
少年はニッコニコ。嬉しそうったら、ありゃしない。
変わった子やなぁ…と思いつつも、
無邪気な少年の笑顔は、不思議なもので、釣られて笑顔になってしまう。
「満足したなら、お家に帰りや」
苦笑しつつ柚月が言うと、少年はズイッと柚月に顔を近づけて言う。
「こっからが、本題」
(近いわ〜…)
グイッと少年を押しのける柚月。
少年はニカッと笑って、誇らしげに言った。
「スカウトに来たんだよ。おねーさん、ウチで働かない?」
「…はぁ?」
キョトンとする柚月。まぁ、無理もない。話が突飛だ。
理解に苦しむ柚月。執拗にスカウト活動を行う少年。
傍から見れば、それこそナンパの真っ最中かのような光景。
そこに、一人の少女がやって来る。
少女は、一目散に少年に駆け寄り、パコンと少年の後頭部を叩いた。
「痛っ。何すんだ、梨乃っ」
ムッとした表情で言う少年。
少女はハァと溜息を落としながら言う。
「あんたこそ、何やってるのよ…。勝手なことして」
「お前がノロノロしてっからだろー」
「知らないから。怒られても」
「………」
目の前で繰り広げられる、二人の遣り取り。
柚月はキョトーンとしつつ、二人に尋ねる。
「何やの、あんたら」
ハッとし、少女は深々と頭を下げて、柚月に謝罪を述べる。
「ごめんなさい。こいつが失礼なことを」
「や、それはイイんやけど」
「えぇと…先ず私達は、INNOCENCE所属のエージェントでして」
「あら。そうなん?」
「はい。マスターに命じられて、新エージェントのスカウト活動中なんです」
「ふぅん?」
「本部の情報に長ける人物から、あなたを薦められて、実行に移そうとしていた矢先に…」
「この子が暴走した、っちゅーワケやな?」
「は、はい。すみません…」
柚月と少女の会話に、少年はブスッとした表情。
即実行、即行動。少年は、そういう性格らしい。
「無礼なまま、スカウト続行は出来ませんので、また日を改めて…」
少女が申し訳なさそうに言う。
無礼なことをした、というところは認めるが、
柚月をスカウトするということに変更はないらしい。
柚月は苦笑しつつ、少女に告げた。
「えぇよ。話だけは、聞いてみよか」
「えっ…」
申し訳なさそうな表情を浮かべる少女。
そんな少女とは逆に、少年は一気に御機嫌モードに突入した。
「よっしゃー!んじゃ、本部っつーか、ウチのアジトに御案内〜だ!」
柚月の手を掴み、北西を指差しながらズンズンと歩き出す少年。
「ちょ、ちょっと!」
少女は慌てて追いかけて、少年を止めようとする。
そんな少女に、柚月はクスクス笑いながら言った。
「えぇよ。あんたも、大変やなぁ」
「…す、すみません」

ゆっくりと息抜き。それが一転。
柚月は、少年に手を引かれつつ、しみじみ思う。
(えぇなぁ、この忙しない感じ。好きやで。ようわからんけど)

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

7305 / 神城・柚月 (かみしろ・ゆづき) / ♀ / 18歳 / 時空管理維持局本局課長・超常物理魔導師

NPC / 黒崎・海斗 / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

NPC / 白尾・梨乃 / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。 はじめまして。
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。
INNOCENCEは、関連シナリオが幾つもありますので、
是非。また、ご参加下さいませ。

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2008.02.22 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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