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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


血染めのニューナンブ

●オープニング
 客となるべき人間を、自らの意思で選ぶといわれている謎の店『幽玄堂』。
 毎日、何かしらの香が漂うその店に『アンティークショップ・レン』の店主、碧摩・蓮が訪れた。
 彼女には何らかの能力が秘められているのか、自由に出入りすることができるようだ。
 それ故、今では『幽玄堂』店主である香月・那智と曰く付き商品の物々交換する付き合いとなっている。
「こんにちは、蓮さん。今日はどのような御用でしょうか?」
 店内の掃除を終えたばかりの那智が、入り口付近に立っている蓮を奥のテーブルへと招き、ハーブティーをご馳走しますよと微笑んだ。
「話が長くなりそうだから、ご馳走になるよ」
 那智の言葉に甘える蓮。

 那智が淹れたミントティーを一口飲んだ後、蓮は小さな箱をテーブルの上に置いた。
「この箱が何か?」
「開けてみな」
 那智が箱を開けると……そこには、一丁の拳銃が札をベタベタ貼られた状態で納められていた。
「この拳銃は、警官が所持しているニューナンブM60ですね」
 あんた、顔に似合わず拳銃に詳しいんだねと蓮は意外な表情で驚いたので「草間さんの受け売りですよ」と、那智は苦笑しながら答えた。
 ニューナンブM60はミネベア社製の38口径官用回転式拳銃で、日本警察が登場する作品には、必ずといってもいい程この拳銃が登場しているといっても過言ではない。
 拳銃には「オートマチック」と「リボルバー」の二種類あるが、ニューナンブM60は後者にあたる。
「この拳銃は、数週間前に起きた銀行強盗事件で殉職した交番勤務の警官が所有していたものなんだ。パトロール中に銀行強盗事件を目撃し、人質となった女性行員を助けようとそいつで威嚇したのまでは良かったんだけど……」
「強盗に返り討ちにされた、のですか?」
 ああ、と答え、口直しにとミントティーを飲む蓮。
「この拳銃ですが、どういう経緯で蓮さんのところに?」
「この拳銃は……殉職した警官の怨念が籠もっているから、ひとりでに発砲するのさ。弾が充填されていない状態でもね」
 空砲でも発砲できるのですか? と、今度は那智が驚いた。
「信じ難い話だろうけど、殉職した警官の手から離れ、そいつは自分を殺した強盗を射殺し、その後、仲間の強盗を射殺した。それで血の味を覚えちまったのか、無差別に人を襲いたくなっちまったんだろうねぇ」
 その翌日、宙に浮き、ひとりでに発砲したという拳銃による射殺事件が立て続けに二件起きたことは、各マスメディアは大きく報じたが、暫くすると、遺族以外の人々に忘れられた。
「こいつ、たまたま外出していたあたしを狙いやがってさ」
 良くご無事でいられましたね……と心配する那智。報道されなくなった要因は、蓮にあるというのはここだけの話である。
「こいつが発砲する前に、魔封じの札を素早く貼り付けたのさ。そしたら、こいつに憑依していた警官が『モット撃チタイ……』って言うもんだから、こりゃ危ないと思い、うちの店に持って帰ったのさ」
 そちらでも、うちでも危なくて扱えないじゃないですか! と、那智にしては珍しく激しい表情を見せた。
 魔封じの札で警官の怨念が抑えつけられているとはいえ、いずれは封印がひとりでに解けてしまう。
 二人が出した結論は、怨念が放たれる前にこの拳銃を始末することだった。

「そう決めたのは良いのですが……私には、そのような力がありません」
「あたしだって同じさ」
 冷めたミントティーをぐいっと一気に飲み干した蓮は、窓越しに幽玄堂前を通りがかった人物を見てフッっと笑った。
「丁度良いタイミングで、この話を引き受けてくれそうなのが来たよ。頼んでみるかい?」
 幽玄堂は、店内外問わず、入店できる客を選ぶ能力がある。そのことを那智から聞いて知っている連は、悪戯な笑みを浮かべて那智に訊ねた。
「頼んでみるしかなさそうですね……」

●店に選ばれし者
 退魔の仕事を終えて『幽玄堂』の前を素通りしたのは、元特殊工作員で、現在はサーカス団のモーターアクロバットの中心スターであるミリーシャ・ゾルレグスキー(みりーしゃ・ぞるれぐすきー)と、ミリーシャの相棒であるハイイロオオカミのミグ(みぐ)の一人と一匹。
 ミグは、何か気になるのか『幽玄堂』前で立ち止まった。
「ミグ…どうしたの…?」
「グルル…(訳:この店、何か臭う…)」
 ミグの言葉は、相棒であるミリーシャにしかわからない。そう言われて良く見ると、何やらただならぬ雰囲気がこの店から発せられている。
 その反対方向から、MTBに乗った紺のバンダナを額に締めた青年が『幽玄堂』前を通り過ぎようとしたが、店の存在に気づいてMTBを止めてじっと見た。
「あれ? こんな店あったっけか? ここはたしか、空き地だったはず……だったような。最近できたのかもしんねぇな。客、来てんのかね?」
 店の存在を怪しんでいる一人と一匹、こんな店あったっけ? とふと思った青年は、店の出入り口から出てきた碧摩蓮に「良く来たね、待ってたよ」と言われた。
「良く…来たね…?」
「グルル……(訳:何を言っているんだ? この女……)」
「待ってたよって、俺はあんたと待ち合わせした覚えはねぇぞ」
 三者三様に、蓮に対してあれこれ言うが、蓮はそれにお構い無しで「さっさと店に入りな」と、二人と一匹を強引に店内に入れた。

「那智、例の仕事できそうなの連れてきたよ」
「連れてきた、というより、強引にスカウトしたように見えるのですが」
 苦笑して言う那智。
「そこの姉ちゃん、俺らをスカウトってどういうことだよ!」
 強引に店内に入れられたことに腹を立てたバンダナの青年、五代・真(ごだい・まこと)は、蓮に突っかかってきた。
「聞いても信じちゃもらえないだろうけど、あんたらは、この店に選ばれたのさ。今から、あたしが依頼する仕事をこなすためにね」
 ミグは、蓮に向かって唸り声を上げ、ミリーシャは「どうして…?」と不思議がり、真は「そんな馬鹿なことがあんのかよ!」とそれぞれの反応を見せたが、蓮はお構い無しに札が貼られた曰くつきの拳銃が封印されている箱を開け、テーブルの上に置き、二人と一匹に見せた。
「これは…ニューナンブM60…」
「グルル…(訳:そのようだな。だが、普通ではないようだ…)」
 テーブルに前足を置き、ニューナンブM60の臭いを嗅ぐミグ。
「ご名答」
 一発で当てるなんて見事なもんだね、と拍手して感心する蓮。
 ミリーシャに拳銃の知識が無いと思っているのだろうが、ミリーシャは銃使いなので銃に関しての知識はある。
「ニューナンブって、警官が持ってるリボリバー拳銃だろ? 何でそんなもん、あんたが持っているんだよ? それに、札がベタベタ貼ってあるってことは……こいつ、厄介なシロモノなんだろ」
「あんたも、拳銃に関しちゃ多少の知識があるようだね」
「多少だがな。って、話逸らすな! 俺らにコイツをどうして欲しいか説明してくれ」
 蓮は、愛用のキセルに火をつけて一服し終えると依頼人として選んだ二人と一匹に説明を始めた。

 このニューナンブM60は、銀行強盗事件で殉職したパトロール中の交番勤務の警官が所有していたこと。人質となった女性行員を助けようと威嚇したまでは良かったが、返り討ちにされたこと。
 強盗に殺害された警官の怨念が宿ったニューナンブM60がひとりでに発砲し、強盗達を射殺し、行員、客関係無く無差別発砲した後、何処へ消え、蓮に出会うまでの経緯。
「信じちゃもらえないだろうけど、こいつが話の真相さ。その警察官は、人一倍正義感の強かった巡査だったとのことだ。悪は許せない、という思いが歪んじまい、こういうことになったんだろうねぇ」
 ふぅ…とキセルをふかす蓮。
「なる。で、その物騒な拳銃と怨霊と化しちまった警官を俺らに倒せ……と。あんた、店に持ち帰ったのはいいが、剥き出しのまんまだと銃刀法違反で捕まっちまってたかもしんねぇんだせ!? まぁ、それはおいといて。そいつと拳銃戦やってみたいんだけど構わないかい?」
「拳銃戦って……あんた、本物の拳銃持っているのかい!?」
「サバイバルゲーム戦用のモデルガンだけどな。俺の能力使えば、実弾に近い威力があるぜ」
 真は自慢気にそう言うと、デイパックの中から箱を取り出し、そこから一丁のエアガンを取り出した。
「来週、サバイバルゲームに参加するんでこいつ隠すの大変でさ。モデルガンでも、剥き出しのまんま持っていると軽犯罪法違反になるからな」
 真が言うことは正しい。
 エアソフトガンは、通常はゲーム会場以外では外から見えないようなケースや袋に入れて持ち運ぶものである。剥き出しのまま持っていては軽犯罪法違反になり、警察官の職務質問を受ける羽目になるからだ。たとえケースに入れていた場合でも、金融機関や商業施設などに持ち込んだ場合は、強盗予備として通報される恐れもある。
 サバイバルゲームを趣味としないものにとっては、本物の銃と誤認され、弾丸の発射の有無を問わず人々を威嚇するには十分な力を持っているからだ。
 そんな彼が、厳重に箱にしまいこんでいたのはデザートイーグル。
「デザートイーグル…アメリカ合衆国ミネソタ州のミネアポリスにあるM.R.Iリミテッド社発案…。イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社と…マグナムリサーチ社が生産する自動式拳銃…」
「お嬢ちゃん、あんた詳しいな。その通りだぜ」
 感心する真。なお、小火器部門はイスラエル・ミリタリー・インダストリーズI社から半独立し、イスラエル・ウェポン・インダストリーズ社に社名が変わっている。
「私は…トカレフで応戦…」
「それ、トカレフの中でも殺傷能力が高いモーゼルC96じゃねぇか! 本物か!?」
 それに関しては、何も語らないミリーシャ。
 トカレフとは、旧ソビエト連邦陸軍が1930年代に開発した軍用制式銃として開発した自動拳銃であり、設計者の名前にちなみその名で知られている。日本では中国製トカレフのコピー品「黒星」(通称『ヤクザ拳銃』)が暴力団等の発砲事件にしばしば使われているので、一般人には悪い意味でその存在が知られている。
「拳銃の話はそのくらいにしとくれ。那智、準備は良いかい?」
「はい、万全に整いました。こちらへどうぞ」
 那智に案内され、決戦場へと赴くミリーシャとミグ、真、蓮。

●ニューナンブの怨霊
 常春の世界である『幽玄堂』の中庭には、特殊な結界が張り巡らされているので、外界に被害が及ぶ心配は全く無い。
 そのことを那智から聞いた真は「遠慮なくやれるぜ!」とデザートイーグルを右手で器用に回し、ミリーシャはトカレフの準備を念入りに行い、いつでも攻撃できるようにしている。
「グルル…(訳:ミリーシャ、気をつけろ。奴はいつ現れるかわからんぞ)」
「わかってるよ…ミグ…」
 三人がスタンバイし終えたのを見計らい、蓮はニューナンブM60を放り投げた。
「グルル…(訳:何か臭うな…。怨霊か?)」

「封印が解けるよ、気をつけな!」
 
 蓮がそう言うと同時に、張り巡らされた魔封じの札が一斉に剥がれ、拳銃が暴発したので三人が巻き込まれたか? と思われたが……。
「間に合った…みたいだね…」
 暴発を予測していたミグが怨霊でバリアーを作ったため、二人と一匹は無傷だったが安心はできない。警官の怨霊が出現したからだ。
「敵がおいでなすったようだぜ。あんたらはどうするんだい?」
 デザートイーグルを構えながら、ミリーシャとミグに訊ねる真。
「グルル…(訳:強盗の怨霊を呼び寄せて応戦させ、拳銃を内部から破壊するしか方法はないな…)」
「私も…そう思うよ…」
 ミグの進言に従うミリーシャ。
 ミグの言葉がわからない真だったが、強い絆で結ばれているのがわかった。
「いくよ…ミグ…」
 ミグが警官の怨霊に銃殺された強盗の怨霊を呼び出している間、ミリーシャはトカレフを取り出し発砲。
「やるねぇ、お嬢ちゃん。俺にも見せ場くれよな」
 念を込めたマガジンを装填した真は、遠慮なく警官の怨霊に弾丸をぶっ放した。
「あんた、唯一拳銃所持できる職業の人間だろうが。国の治安を守る立場の人間が怨霊、悪になっちまってどうすんだこの馬鹿っ!」
 その一言が、警官の怨霊を更に怒らせてしまったのか、凄まじい形相になった。
「これを…使うしかないかな…?」
 トカレフをしまい、ミリーシャが代わりに取り出したのは黒い銃で、引き金部分に「INNOCENCE」の刻印がある魔銃だ。
 これは、とある物討伐・調査組織のエージェントのみが所有できる特殊な銃で、所有者の潜在能力を魔力(魔法)に変換し、それを銃弾の代わりに装填・発砲できるため、所有者の潜在能力により、様々なタイプに変化させることが可能だが、銃に宿る魔力(魔法)の属性は二つまで、対なる属性は宿せない、宿す属性が二つだと各属性の能力は半減するという欠点があるが、宿す属性が一つの場合は、その属性のみが爆発的に変換され、驚異的な威力を発揮する。
「これで…終わりにしよう…?」
 ミリーシャが魔銃の引き金を引くと同時にミグは強盗の怨霊を使い、ニューナンブM60を内部から壊したため木っ端微塵に。
 出現した警官の悪霊は、真が放ったデザートイーグルの弾丸で瞬時に消滅した。
「よっしゃ!」
「終ったの…かな…?」
「グルル…(訳:終わっただろう。何の臭いもしない)」
「やっつけたのはいいけど……ここ、良く滅茶苦茶にならねぇなぁ」
 辺りを見回した真が言うように、中庭は一切荒れていない。来たときのままである。

●仕事の後のお茶
「皆さん、お疲れ様でした。淹れたてのハーブティーをどうぞ」
 店内のテーブルに三人と蓮を案内した那智は、人数分のティーカップを乗せたトレイを持ってやって来た。
「ローズヒップティです。ビタミンCを大量に補給できますので、美容に良いですよ。あ、バンダナのお兄さんは喫煙者のようですね?」
 な、何でわかったんだよ! と驚く真。那智の嗅覚は毎日何かしらの香を調合しているためか、常人より数倍鋭い。
「喫煙は大量にビタミンCを消費するのですよ。ですから、これで補給してください」
「へいへい……」
 文句を言いつつローズヒップティを飲む真は、これすっぱ! と心の中で叫んだ。
「このハーブティー…美味しい…」
「グルル…(訳:俺には良くわからん…)」
 その様子を見て、ハーブティーを飲みながら微笑む那智と、真の様子を見てクスクス笑う蓮。
「そうそう。他にも曰くつきのものがあるんだ。今度は、人の生き血を求めるドスなんだけど、あんたら、壊してくれるかい?」

 まだ仕事あるの…? と呆然となる二人と一匹だった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7274 /ー・ミグ / 男性 / 5歳 / 元・動物型霊鬼兵】
【6814 /ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女性 / 17歳 / サーカスの団員/元特殊工作員】
【1335 /五代・真 / 男性 / 20歳 / 便利屋】

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■         ライター通信          ■
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氷邑 凍矢です。
「血染めのニューナンブ」にご参加くださり、まことにありがとうございました。
拳銃に疎いので調べつつ書きましたが、間違い等ございましたらお許しください。

>ミグ様
はじめまして。ご参加、ありがとうございます。
ハードボイルドなハイイロオオカミというふうな描写にしてみましたが、いかがでしょうか?
相方のミリーシャ様との息がピッタリ合っているような描写になるよう心がけて執筆いたしました。
いかがでしょうか?

>ミリーシャ・ゾルレグスキー様
ミグ様同様、はじめまして。
トカレフですが、短銃にしようかと思いましたが殺傷能力が高めの大型自動拳銃に設定しました。
短銃の方でしたら、申し訳ございません。
そちらの場合でしたら、リテイク願います。修正致しますので。
ミグ様とは信頼関係で結ばれている、という描写を心がけました。
いかがでしょうか?

>五代・真様
お久しぶりです。そして、便利屋復帰、おめでとうございます。
ご指定のデザートイーグルですが、かなり威力があるようですね。
パワータイプの真様ならではの銃だと思います。
銃に関しては詳しい、という設定にさせていただきました。
宜しかったでしょうか?

リテイクが有る場合は、遠慮なく申し出てください。

また皆様にお会いできることを楽しみにしております。

氷邑 凍矢 拝