コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


お隣は獣人さん

------------------------------------------------------

OPENING

暫く住人のいなかった三下の部屋の隣に、
昨日、とある住人が引越してきた。
住人は、昨日のうちにタオルを持って、
あやかし荘の全部屋へ挨拶回りをした。
とても礼儀正しい人物だ。
だが、人間ではない。獣人なのだ。
”フラウ”と名乗る、その住人は、
隣に住む三下を何故か気に入り、やたらと接触してくる。

「はぁ…気が重い…」
部屋の中心で体育座りしている三下。
彼がローテンションな理由。それは…。
今晩、お隣さんに一緒に鍋しようと誘われているからだ。
お隣さんは、ものっすごい怖い顔。
フレンドリーで、良い人なんだと頭では理解しているが、
どうにも怖くて仕方ない。
約束の時間まで、あと三十分。
「はぁ…気が重いぃぃ…」

------------------------------------------------------

「………」
時間まで部屋でジッとしていることができずに、
三下は外へ出てキョロキョロと辺りを伺う。
(誰か…誰でもいいです…誰か…)
獣人と二人きりで食事をするのが、どうしても嫌らしい。
三下は、そこらへんを都合よく知人友人が通りかからないかと淡い期待を抱いている。
そんなに必死になっても、うまくいかないっていうのが人生ってもの…。
「あっ!」
突然、三下が、とある人物を指差して叫んだ。
示す先にいるのは…柳・宗真だ。
まさか本当に通りかかるとは…。
三下は運が良い。逆に宗真は…運が悪いのかもしれない。
タタタッと駆け寄り、三下はしがみついて訴える。
「宗真さんっ。御願いします。助けてくださいぃぃ…」
半泣きで訴える三下に、宗真は何事かと目を丸くした。

事情を聞いた宗真は、フゥと溜息を落とす。
よほど怖いのだろう。三下の説明は支離滅裂で、理解するのに苦労した。
獣人との食事。その獣人が、どれほどのものなのかはわからないが、
三下の怯えようから察するに、かなりのものなのだろう。
「もう少し男らしく…自信を持たないと駄目ですよ、三下さん」
依然しがみついて離れない三下に苦笑しつつ言う宗真。
三下は「うぅ…」と俯くばかりだ。
やれやれ、と肩を竦めて、宗真は言った。
「仕方ないですね。僕も夕飯はまだですから…ご一緒しましょう」
「っ、あぁぁ…ありがとうございますぅぅぅぁぁぁぁ…!」
三下は、みっともなく顔を歪ませて、心から喜んだ。



「ふぅ…はぁ…ふぅ…」
獣人宅前で深呼吸をする三下。もう、何度目かわからない。
(やれやれ…)
苦笑して宗真は肩を竦めつつ、三下の心の準備が整う時を待つ。
三下の話によると、隣に引っ越してきたのは長身の獣人で、
般若の面を、もっと怖く、イカつくした顔をしているのだという。
あやかし荘には、あらゆるものが住んで(憑んで)いる為、
誰も獣人を非難したりはしないし、入居はすんなりとOKされた。
別に構わない、獣人だって命がある、人間と何ら変わりない。
人を襲う危険性がないからこそ入居を許されたのだし、
廊下ですれ違うときは毎回丁寧な挨拶をしてくることから、
悪い人ではない、寧ろ良い感じの人だということは、わかっている。
頭では、そう。わかっているのだが…。
どうしても、三下は恐怖が拭えない。
隣に獣人が住んでいるという事実を、
いつまでたっても自然に捉えることが出来ずにいた。
「ふぅ…よしっ…そ、宗真さん。逃げないで下さいね」
「逃げませんよ」
意を決して扉をノックする三下。
すぐに「開いてるから、どうぞ」との声が返ってくる。
随分と低い声だ。想像が膨らむ。宗真は少しワクワクしつつ、
三下と共に、獣人宅へと入っていった。

とても綺麗に片付けられた部屋。完璧な生理整頓。
床には、塵一つない。窓ガラスもピカピカ。
部屋の至る所には、様々な花が飾られている。
(おや…これは、意外だな)
宗真が頭の中で張り巡らせた妄想の中では、
獣人の部屋は、何というかこう…生贄の儀式がおこなわれるような感じだった。
大きな鍋があって、それがグツグツと…って、それじゃあまるで、魔女の大釜だ。
獣人はキッチンで何やら作業をしている。
右手には、おたま。料理の仕上げをしているのだろう。
適当に座っててと言われ、三下と宗真はソファへ。
自分にピッタリとくっついている三下に、宗真は苦笑。
(怯えすぎですって…)
準備を終えて、獣人が鍋を持ちリビングへとやってくる。
いよいよご対面となった獣人だが…。
(あぁ、これは。なるほど。確かに…)
獣人の顔を見て、即座にそう思う宗真。
獣人の顔は、三下が言っていたとおり、かなり恐ろしい。
人気のない道でバッタリと遭遇したら、攻撃してしまいかねない。
そんな顔をしている。
けれど、それは顔の話。外見のみの話だ。
獣人の放つ雰囲気は、とても柔らかく、優雅にさえ思えた。
怖い顔とは裏腹に、仕草や言葉遣いは上品そのものなのだ。
「ちょっと作りすぎちゃったのよね。たくさん食べて」
微笑みながら(これがまた怖い顔)言う獣人。
獣人の口調に、気付いた宗真は尋ねる。
「女性…なんですね。あ、ごめんなさい。失礼なことを」
獣人はクスクス笑いつつ小皿を用意し、
「構わないわ。慣れてるから」
そう言って鍋を小皿に取り分け始める。



獣人の名前は、フラウ。
かなり長身でゴツく、怖い顔をしているが、女性(というかメス?)だ。
外見とは裏腹に、フラウはとても気立てが良く、
ごく自然にあれこれと気を回す。
そんなフラウを見て宗真は、ものの三分で彼女を理解した。
話している、この雰囲気だけで十分だ。
彼女は、断じて悪い人ではない。
ただ、第一印象というのか中々拭えないもの。
印象が強ければ、余計に。
いまだにビクビクしている三下が、その良い例だ。
あれこれ世話を焼いてくれていることには、三下も気付いているはず。
けれど三下は、フラウの一挙一動に、いちいちビクつく。
頭では理解っていても、体が勝手に恐怖を感じ取ってしまうのだろう。
まぁ、三下は誰もが認めるヘタレだ。ヘタレキング。
ゆえに、仕方ないともいえるが。
それにしても怯えすぎだ。
三下の怯える様を楽しみつつ、宗真は美味しい夕食を頬張った。

「三下さん。ほら、冷めちゃいますから…」
小皿に鍋を取り分け、それを三下に渡すフラウ。
「どっ、どどど…どうも」
どもりつつ、カタカタと震える手でそれを受け取る三下。
笑ってはいるが、目が笑っていない。涙目だ。
フラウの気立ての良さは見ているだけで、すぐに理解るものだが、
(それにしても…)
宗真は、とあることに気が付く。
フラウは、三下に対して、やたらと気を配るのだ。
自分にも、かなり細かく気を配ってはくれるが、
それ以上に三下には気を配っている。
彼のことも把握しているようで、鍋の中には三下の好物ばかり。
コップが空になると同時に飲み物を注いだり、
寒くないかと尋ねては暖房を調節したり…。
一見、何のことはなく、ただの世話焼きにも見えるが。
どうやら、それだけではなさそうだ。
三下がトイレに行って席を外したと同時に、宗真はフラウに尋ねてみた。
「フラウさん。もしや、三下さんのこと…」
「!」
瞬時にポッと頬を染めるフラウ。やはり。
宗真の予感は的中した。
この獣人…フラウは、三下に想いを寄せているのだ。
宗真はクスクス笑ってフラウに告げる。
「頑張って下さい。応援しますよ」
「ほ、本当に?あ…ありがとう」
「えぇ」
フラウを応援する宗真の心中には、ちょっとした悪戯心。
トイレから戻ってきた三下は、
やたらと仲よさげに微笑み合う宗真とフラウに首を傾げた。
いやはや何とも。フラウの恋は前途多難っぽい。
(どうなることやら…)
宗真はクスクスと肩を揺らして笑う。

------------------------------------------------------


■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

7416 / 柳・宗真 (やなぎ・そうま) / ♂ / 20歳 / 退魔師・ドールマスター・人形師

NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

NPC / フラウ・ランラン / ♀ / ??歳 / 三下宅隣に引っ越してきた獣人


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは。 発注・参加 心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ、幸いです。是非また、宜しく御願い致します。

---------------------------------------------------
2008.03.05 / 櫻井 くろ(Kuro Sakurai)
---------------------------------------------------