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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


アイドル護衛 (後編)

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OPENING

ライブ終了とほぼ同時に、
突如、姿を消した、人気アイドル・リュシル。
いまだに熱気冷めやらぬファンと裏腹に、関係者は大混乱。
総出で探しているが、どこにも、いない。
一体リュシルは、どこへ行ってしまったのか…。

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「で?何すりゃいいわけ?」
腰に手をあてて言う京司。
行方不明になったリュシルを探すことにしたはいいが、
何をすればいいのやら、京司はわかない。
ディテクターは、親指でクィッと楽屋を示す。
「楽屋漁るのか?空き巣みてぇだなぁ」
苦笑して京司が言うと、ディテクターはペシッと京司の頭を叩いた。
手掛かりを探すのなら、先ずは一番身近なところから。
闇雲にあちこちを探し回っても、ただ疲れるだけ。
それよりも一点集中。
手掛かり・ヒントは、大抵近くにあるものだとディテクターは言う。
楽屋は八畳ほどの広さ。
中央にテーブルとソファ。
大きな鏡と、クローゼット。
それなりに居心地の良さそうな、何の変哲もない楽屋。
リュシルのマネージャーに許可を貰い、早速楽屋内を物色する二人。
クローゼットの中には…マフラーのみ。
パンダ柄の可愛らしいものだ。
鏡に変わった様子も…ない。ピッカピカの鏡だ。
テーブルの上には…空のティーカップが置いてあるだけ。
ソファにも…これといって妙な箇所は見当たらない。
残るは…鏡の前に置いてある鞄のみ。
ギンガムチェックのトートバッグ。
リュシルの私物だ。
「いいか?」
ディテクターが鞄を示して言うと、
マネージャーは少し躊躇った後「どうぞ」と小さな声で返す。
リュシルの鞄をガサゴソと漁り始めるディテクター。
中には手帳やリップ、手鏡といった、
いかにも少女の私物といったものばかりが入っている。
一つ一つを念入りに確認しては、
それらをテーブルへ置いていくディテクター。
その様子をソファに凭れて見ている京司はケラッと笑って言った。
「や〜。何か、こういうのってワクワクするよな」
「何がだ」
鞄を漁り続けながらディテクターが返す。
「アイドルのプライベート暴露!って感じじゃねぇ?」
「お前なぁ…」
「何か、すっげぇもん入ってねぇかな」
「いい加減に……ん?」
真剣に作業しているのだから、茶化すなと叱ろうとしたときだった。
ピタリとディテクターの動きが止まる。
何か、見つけたようだ。
「ん?どうした?」
よっ、と体を起こして京司が尋ねると、
ディテクターは鞄から、一枚の写真を取り出した。
「写真〜?それが、どうしたってんだよ…」
何の手掛かりにもならないだろうと思い、そう言った京司だったが、
写真に写っている人物を見て、途中で口を噤む。
写真には、幸せそうなカップルが写っていた。
リュシルと…二十歳そこらの青年。
(うわぁ。マジで、すげぇもん出たよ)
写真をまじまじと見ながら思う京司。
確かに、これは凄いものだ。
リュシルは大人気のアイドル。
そのアイドルが、男性とツーショット。
マスコミは、間違いなく、この写真に食いつくだろう。
ポラロイドカメラで撮られたであろう、その写真には、
カラフルに日付と「LOVE」の文字が書かれている。
筆跡からして、リュシルが書き込んだものだろう。
「こいつは…彼女の恋人、だな?」
写真を見せながら尋ねるディテクター。
マネージャーは俯き、口篭る。
すぐに返事が返ってこない。
それが、何を意味するか…ディテクターも京司も、すぐに理解する。
「まぁ、あの人気だもんな。そう簡単に彼氏なんて作れねぇよなぁ」
ピッとディテクターから写真を奪い、写真を見やりながら言う京司。
写真に写るリュシルは、とても嬉しそう。
幸せで、幸せでたまらない…そんな顔をしている。
けれどリュシルは人気アイドル。
皆に愛される存在ゆえに、軽率な真似はできない。
リュシルには、自分を愛してくれている多くの者の想いに応え続ける義務がある。
そういう仕事。それは、リュシルも心得ているはずだ。
けれど気持ちというか…人を好きになるという行為に、歯止めはきかない。
当人でさえ、どうしていいかわからなくなることがあるほどだ。
第三者が、どうにかできるわけがない。
リュシルは、悩んだのだろう。
舞台では笑顔を見せ、普段と変わらぬよう、
皆に迷惑をかけぬよう…一生懸命仕事をこなしてきた。
その中で、彼女はどれほど戸惑っただろう。
自分の想いを偽れないことに…どれほど迷っただろう。
京司はフゥと息を吐き、マネージャーに歩み寄ると、
写真をスッと差し出して、小さな声で呟いた。
「ちょっとさ。仕事…減らしてやったらどうだ?」
「………」
写真を受け取り、躊躇いつつも、それを見つめるマネージャー。
「毎日何かしらの仕事入れてんだろ?」
「…そう、ですね」
「認めてやれとは言わない。あんたはあんたで大変なんだろうし」
「………」
「ただ少しだけ。悩む為の時間を与えてやった方がいい」
「………」
「と、俺は思うんだけど、どうですかねぇ?探偵さん?」
クルリと振り返り、それまでの真剣な表情から、
いつもの気さくな雰囲気に戻って、ディテクターに尋ねる京司。
「同感だな」
ディテクターはクックッと肩を揺らして笑いながら、そう返した。


マネージャーはマネージャーで、果たすべき使命がある。
リュシルの人気は、マネージャーの努力の賜物でもある。
マネージャーにとってリュシルは、
かけがえのない…娘のように愛しい存在。
それゆえに、雁字搦めの愛で彼女を繋ぎ続けた。
二人で歩いてきた道を、歩いていく道を、何より大切に思うから。
けれど、その結果、リュシルは逃げ出した。
長い時間をかけて、自分を繋ぐ鎖を千切って。
どうして逃げ出したりしたのか…。
行方不明になったと聞いたときは、真っ先にそう思った。
けれど今は…思っていない。
何故逃げ出したのか、それを理解したから。
マネージャーが理解し反省を決意するとほぼ同時に、
リュシルから、マネージャーの携帯へ連絡があった。
リュシルは泣きながら何度も「ごめんなさい」と言った。
マネージャーは、その度に淡く微笑んで「こちらこそ…」と返していた。

リュシルは、ライブ会場の近くにある倉庫の中に隠れていた。
このことから、本気で失踪する気はなかったと判断できる。
暗い倉庫の中で、リュシルは愛しい彼と、
何通ものメールを遣り取りしていたという。
未送信ボックスの中のメールが、空になるまで。
「お前のあんな顔、初めて見たな」
報酬を受け取りにIO2本部へ向かう途中、
ディテクターが笑いながら言った。
京司はポリポリと頭を掻きながら、フィッと顔を背けて呟く。
「俺も…経験あっからな。わかるんだよ、ああいうの…」
京司の言葉にニヤリと笑い、ディテクターは追求する。
「お?何だ。興味あるな、それ」
「何だよ。何でもねぇよ」
「詳しく聞かせてもらおうか」
「だから何でもねぇって!」
「さて、そうと決まったら…居酒屋でも行くか。報酬でパーッとな」
「嫌だっ」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

7429 / 陣内・京司 (じんない・きょうじ) / ♂ / 25歳 / よろず屋・元暗殺者

NPC / ディテクター(草間・武彦) / ♂ / 30歳 / IO2:エージェント(草間興信所の所長)

NPC / リュシル・ファートン / ♀ / 17歳 / 異界で大人気のアイドル


■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


こんにちは!毎度さまです。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。
京司さんの過去…何があったのでしょう。気になります^^

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2008.03.08 / 櫻井 くろ(Kuro Sakurai)
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