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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夢の中から

★オープニング

「夢を見たんだ」
 草間の目の前に座る男はそうつぶやいて草間を見た。彼はやつれており顔色も悪かった。
 草間は男の言っている言葉の意味がつかめず、眉をゆがめることしか出来なかった。だが、彼の身に尋常ではない事態が起こっているのは目に見えて明らかだった。
「夢?」
「ああ、いつも見る夢なんだ。俺が夢の中から飛び出して、ある女に呼び出される夢。その女はとても妖艶で、俺はついつい彼女に身を任せるのだが、この頃ボーっとすることも多いし、体の調子が悪くて、このままじゃ殺されるかもしれない」
 彼の瞳の中には恐怖という感情がありありと浮かんでいた。
「頼む、助けてくれ」
 必死の形相で頼まれ、命の危険があるとなったら助けないわけにはいかないだろう。
「怪奇専門じゃないんだがな」
 草間は溜息を吐き出して、彼に言った。
「わかった。詳細を教えてくれ」


***


「で? 俺んとこに来たってわけか」
「ああ」
 もう日も暮れかけている夕方、タバコを片手に持っている草間が向き合っているのは一人の男だった。藍沢佑、路上パフォーマンスの手品師でありながら、裏の仕事も請け負う消去屋である彼は、愛想のいい笑みを浮かべながら縁石に腰掛けて草間を眺めていた。
「まァ、あんたの頼みなら引き受けなくもないけどネ? 報酬は十分なんだろ?」
「十分な報酬を出せない客をおまえにまわすと思うか?」
 草間があきれたように言えば、佑はくくく、と低く笑い「違いねェ」とつぶやいた。それから草間が持ってきた書類を見た。
「夢の中の女ねェ。依頼人サンはどこかに誘い出されてたりするんじゃないの?」
「それを調べるのが、俺らだろ」
「だネ。まぁ、張ってみるか。依頼者に見張りの許可は取ってるんだろう?」
「ああ、今日部屋に行く」
「よし、じゃあ、行くとするか」
 藍沢は楽しげに笑うと、立ち上がった。

***

 もう日もとっぷり暮れ、星たちがきらきらと輝き、満月が顔を出し、もう眠っている家庭もある時間帯、二人は依頼人と顔を合わせていた。
「この人が」
 依頼人の男がまじまじと藍沢を眺めた。藍沢はそんな不躾な視線にも人のいい笑みを浮かべこたえる。
「ヨロシク」
 草間はそんな藍沢をちらりと眺めてから依頼人に向かって言葉を放つ。
「とりあえず、俺たちは部屋の前に張っているから安心して寝てくれ」
「あ、ありがとう」
 依頼人は一瞬草間にすがるような視線を向けてから部屋の中へと入っていった。依頼人が消えたのを確認すると、二人は同時に壁に寄りかかった。
「失礼な依頼人だネ。消すか」
 笑いながらとんでもないことを言い出した藍沢に、草間はため息を吐き出した。
「やめてくれ」
「ジョーダンだよ、ジョーダン」
 笑いながら草間の肩を叩く藍沢の真意は見えない。草間は片眉を上げてからまぶたを閉じた。
 どれぐらいの時間が経っただろうか。
 ごとり、と何かの物音が部屋から聞こえてきた。草間はまぶたを上げ、藍沢は笑みを強くした。しばらくそのまま待っていると、部屋の扉が開き、依頼人が顔を出した。トイレかとも思えたが、明らかにその顔には生気や覇気がなく、死人のように操られるのみに見えた。
 ひゅい、と藍沢が口笛を吹き、それを草間がたしなめるように見た。
 依頼人はそのまま玄関へと向かう。二人はその後を静かにつけた。靴も履かずに外へ出た依頼人を追いかける。
 夜はあ叩くなってきたとはいえ肌寒い。ジャージを身につけただけの依頼人は寒いだろうに一向に戻る気配はない。それは明らかに操られている証拠だった。
 しばらく後をつけていると、角を曲がった。少し歩調を速め追いつくと、その先には古ぼけた寺が合った。依頼人の姿はない。
「ここか」
 低く、草間が呟いて、藍沢は頷いた。
 二人は示し合わせたように歩き出すと、寺へと入った。寺へ入ると一目散に墓地のほうへ向かう。墓地を目にした瞬間、依頼人がどこにいるかすぐにわかった。
 青い光が依頼人を包み込んでいる。草間は藍沢に視線を合わせた。藍沢はわかっているというように頷き、依頼人の下へ向かった。
「ちょいと、おいたが過ぎるんじゃネェの?」
 青い光は白い顔をした女だった。藍沢の声に反応し、彼を睨みつける。
『邪魔するな』
「邪魔ねェ」
 藍沢は頭を掻いた。
 顔には笑みが浮かんでいる。
「ん〜どうしてもその人から離れてくれない?」
『……』
「困ったなァ。それじゃあ」
 風が二人の間を吹き抜け、去っていく。
 藍沢の笑みが濃くなった。
「消えてもらおうかネ」
 藍沢の言葉と共に、彼の手が動き、その瞬間、女は断末魔の悲鳴を上げることすらままならないまま消えた。それは空気に溶けたというような生易しいものではなく、文字通り、突然この世から消えたのだ。これが藍沢の力だった。
 依頼人は己を動かしていた力が消えたことによってそのままその場に崩れ落ち、その衝撃によって目を覚ました。
「……う」
「依頼人サン」
 目覚めた彼に藍沢が声をかけ、草間も傍に寄ってきた。
「どうして、俺は」
「幽霊に呼び出されてたみたいだネ。ほら、もう終わったから帰ろう。報酬をもらわないと」
 それから、依頼人サンの記憶もね。
 声にならない呟きは、藍沢の笑顔の中に吸い込まれていった。


エンド


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
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【6985/藍沢・佑/男性/32歳/手品師兼消去屋】

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■         ライター通信          ■
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藍沢・佑様

依頼、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
書きやすかったというのが本音です。
機会がありましたら、またよろしくお願いいたします。