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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


例えば、君が、この声に

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OPENING

例えば、の話ですよ。
空を自由に飛ぶことが出来たなら。
僕は迷わず、貴女の元へ向かいます。
例えば、の話ですよ。
眠りの中で幻想を見ることが出来たなら。
僕は迷わず、貴女の姿を描きます。
例えば、の話ですよ。
触れることが、出来るのならば。
僕は迷わず、貴女を強く抱きしめます。
例えば、の話ですよ。
言葉を交わすことが出来たなら。
僕は迷わず、想いを伝えます。
例えば、の話。例えば、の話ですよ。
貴女を愛することが許されるのならば。
僕は…迷わず、永遠の愛を…誓います。

例えば、の話。あくまでも、例えば、の話。
抱えた膝に顔を埋めて、青年は続ける。
頭の中で、願いや想いを、吐き散らす。
誰よりも美しく、誰よりも愛しい人。
愛した女は、IO2エージェント。
そして自分は…彼女の標的。

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「発見次第、即始末して」
腰元に銃をおさめつつ言う女性。
長い黒髪に青い瞳、長身の彼女はIO2エージェントの、リナ・川崎。
誰の目から見ても美人、としか映らないであろう女性だ。
リナに協力を頼まれ、京司は彼女と合流。
先日、異界で大暴れし死者を多数出した妖豹に子供がいることを知って、
IO2は総出で、妖豹の子の始末・討伐を遂行中だ。
妖豹の子は、五人…いや、五匹いるらしい。
内四匹は捕獲、討伐が完了している。
残る一匹が、なかなかすばしっこく捕獲・討伐に苦戦しているとのこと。
「了解。ところであんた、相変わらず綺麗だな」
任務詳細を聞き終え、クッと笑って言う京司。
リナはフィッと顔を背け「じゃあ」と言い残し、任務へ。
(固いのも相変わらず、だねぇ)
クックと笑い、京司も次いで任務遂行へと動き出す。


妖豹はとても凶暴で獰猛な妖だった。
人語を理解はするものの、話し合いという選択肢は皆無。
対峙すれば、すぐに牙を剥く。厄介なことに実力も伴っていたが故に、
捕獲討伐には、死者という犠牲を数名出してしまった。
そんな妖豹の子の討伐というだけあって、油断は禁物。
親と違い、子は温厚だ。言葉を理解し、会話が成立する。
だが、妖豹の子は、どうあがいても妖豹の子。
いずれは牙を剥き、人を襲う存在と化す。
被害が出る前に始末せねばならないのだ。
例え、無抵抗であっても…。

妖豹の子の捜索を行う最中、京司は森の中にひっそりと建つ教会を発見。
放置されて長いもののようで、全体にツタのようなものが巻きついている。
ボロボロになってはいるものの、十字架やステンドグラスを確認できることから、
不気味な雰囲気だが、教会であることは間違いないだろう。
(へぇ。何つぅか…雰囲気あるねぇ)
吸い寄せられるように京司は教会へと向かい、扉を開けた。
ギギギギィ… ―
外観とは違い、中は随分と綺麗だ。
誰かが頻繁に掃除しにきたりしているのだろう。
コツコツと足音を響かせて、黒い布の敷かれた中央を行く京司。
最前列の椅子に一人、座っている人物がいる。
祈りを捧げているようで、気付いていないようだ。
京司は少し離れた椅子に腰を下ろし、声を放る。
「カミサマにお祈り、か。ご苦労なこった」
「…!」
京司の言葉でハッと我に返る人物。
組んでいた手を解き、後ろを見やると、煙草をふかす京司の姿。
京司の腰元には銃。それに戸惑いと恐怖を覚えた人物の心は乱れる。
シュゥ、と昇る煙。突然の出来事にポカンとしていた京司だが、
煙が晴れると共に、最前列にいる人物の正体が明らかになっていく。
人間の姿形はしているが、見紛うことなき尻尾と耳が確認できる。
そう、この人物こそが…討伐対象・妖豹の子である。
人間の姿に扮装し目晦まし、追っ手から逃げて…この教会に逃げ込んだ。
探す手間が省けた、と京司はケタケタと笑った。
妖豹の子は俯いたまま、何も言わない。
「妖がカミサマに祈るとはな。いいもん見たぜ」
苦笑しつつ、妖豹の子の隣へと移動する京司。
妖豹の子は俯いたまま、微動だにしない。
怯えているのかと顔を覗き込むと、
妖豹の子は、目に涙を浮かべていた。
「室内じゃ逃げ道がねぇだろ。わかってて逃げ込んだんじゃねぇのか?」
煙草を踏み消して笑う京司。
これから始末される…―
妖豹の子の涙の理由は、それしかないだろうと確信して笑う京司だが、
何やら、様子がおかしい。
妖豹の子は、小さな声で『もしも…』と呟きを繰り返している。
京司は、妖豹の子に尋ねた。涙の真の理由を。

叶わぬ恋。
妖豹の子の涙の理由は、それだった。
IO2エージェントであるリナ。
自分を始末しようと追ってくる人物、
妖豹の子はリナの美しさに心を奪われてしまう。
サラリと揺れる長い髪、青く澄んだ瞳。
心を奪われるのに、かかった時間は、五秒。
見つからぬようにとザッと茂みに身を潜めたときには、
もう…高鳴る鼓動を誤魔化すことができなかった。
理解っている。彼女が自身を仕留めようとしていることは。
彼女の美しく鋭い瞳は、自分を仕留める眼差しであることは。
けれど、願ってやまない。
もしも…貴女と言葉を交わせるのなら。
もしも…貴女に触れることができたなら。
もしも…貴女を愛することが許されるなら。
妖豹の子は、身を潜めた教会で願いと懺悔を灯す。
叶わぬ願いと、聞き入れてすらもらえぬであろう懺悔を。
「………」
妖豹の子の気持ちを聞いて、京司は溜息を落としながらガシガシと頭を掻く。
痛いほどに伝わる想い。そこに偽りはない。
こいつは心から、リナを愛してしまった。
許されぬことだと理解っていながら、
それでも抑えきれぬ想いに…悩み苦しんでいたのだ。けれど…。
「あの女はな、標的を逃すなんて真似、絶対にしねぇ」
『………』
「そもそも、あいつが属する組織は、そういうトコだ」
『………』
「逃げても逃げても追ってくる。始末遂行するまで、延々とな」
『僕は……』
パタパタと涙を膝に落として俯く妖豹の子。
京司はスッと腰元から銃を抜き、銃口を妖豹の子の頭にあてがって告げる。
「お前には選択肢が二つしかない」
『………』
「今ここで、俺に殺されるか。後でリナに殺されるか。二つに一つだ」
銃口を頭に突きつけられて、妖豹の子はギュッと固く目を閉じる。
迫られる選択、選択肢は二つだけ。
そうだ、その二つしか…自分には選択肢は与えられない。
どんなに願っても、この恋は叶わない。
自分は妖。多くの者を殺めた妖の子なのだから…。


銃口を頭に突きつけられたまま…数分間。
妖豹の子からは、返答がない。
ただ固く目を瞑ったまま。肩を揺らすだけ。
「………」
溜息混じりに息を吐き、京司は引き金に指をかける。
これ以上、辛い想いをすることもないだろう。
一瞬。ほんの一瞬で、悩みは絶たれる。自分が、引き金を引いてやれば。
そうは思うが、引けない。引けずにいる自分を疑った。
何をやってるんだ、早くしろ。始末するんだ、するしかねぇんだ。
頭では理解ってる。遂行せねばならぬことだという事実は。
けれど…何故か…。
カタン―
「!」
始末を躊躇う京司の耳に、物音。
ハッと見やれば、そこには…。
銃口を妖豹の子に向けるリナの姿があった。
京司の後を追うように教会へ入ったリナは、身を潜めて様子を伺っていたのだ。
いつまでたっても引き金を引かない京司に痺れを切らしたリナ。
「………」
京司は、妖豹の子に突きつけていた銃をスッと引き腰元へ戻すと、
席を立ち、スタスタと歩いて教会入口へと向かう。
すれ違いざま、リナは京司に告げた。
「甘いわね、相変わらず」
「…おかげさまでね」
フッと苦笑を浮かべ、京司は教会の外へ。

一歩、教会の外へ出た瞬間だった。
パァンッ―
背後から、銃声。
京司は振り返ることなく、懐から煙草を取り出し、一本咥えて火をつける。
(…カミサマなんて、いねぇんだよ)
愛した女に殺された妖豹の子。
もしも…他の妖から生まれていたなら。
もしも…人間として生まれていたなら。
彼の恋は、叶っただろうか。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

7429 / 陣内・京司 (じんない・きょうじ) / ♂ / 25歳 / よろず屋・元暗殺者
NPC / 妖豹の子 / ♂ / ??歳 / 討伐対象の妖(豹・獣タイプ)
NPC / リナ・川崎 (りな・かわさき) / ♀ / 25歳 / IO2:エージェント

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです! ('∀'*)ノ
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです^^

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2008.03.15 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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