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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE スカウト

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OPENING

異界の辺境、廃墟が並ぶ不気味な地域。
魔物の出現が頻繁な、物騒地。
異界の住人でも、好き好んで寄り付く者はいないであろう、この地に存在する、
美しき白亜の館。
その館から、今。
一人の少年が、姿を現した。
「はぁ〜。ひっさしぶりだよな。スカウト!腕が鳴るぜ〜」
伸びをしながら、サクサクと歩く、何とも楽しそうな表情の少年。
そんな少年の後ろを、小柄な少女が、ゆっくりと付いて行く。
少女は、少年の背中に忠告を突き刺した。
「…誰でも良いわけじゃないんだからね」
「わ〜かってるよ」
ケラケラと笑いつつ返す少年。
無邪気な少年に、少女は溜息を落とす。

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「…醜いな」
ポツリと呟き、剣を抜く凰華。
目の前には、内臓が飛び出している野犬。
不気味に輝く紫色の瞳は、魔に憑かれている証だ。
知人から、この野犬…いや、魔物の始末を依頼され、
凰華は迅速に、標的の棲家である洞穴へやってきた。
毛並みから察するに、老犬だったのだろう。
死を前に、洞穴へと身を潜め、最期のときを待った。
けれど、そこへ魔物が憑き…。
こいつはもう、寿命というものを迎えることができない。
命を全うし、死を認め受け入れていたのに。
もう、犬ですらない。ただの、不気味な醜い魔物だ。
凰華は慈愛を含む溜息を落とし、
「眠れ」
そう一言告げて、剣で魔物の額に十字を刻んだ。
唸り声と悲鳴が混じった鳴き声を放ち、やがて地に伏せる。
その声に、感謝の片鱗を感じたのは…気のせいなんかじゃない。
「ふぅ」
剣を鞘に戻し、一息つく凰華。
近頃、この手の依頼が、とてつもなく多い。
それだけ魔物、悪しきものの力が強まっているということ。
やがては、人に憑く魔物も出てくるであろう。
それを思うと、気が重い。
凰華は切なくも鋭い眼差しでキッと前を見据えた。
どんな事態になろうとも、私は私にできることをやるだけ。
その努力と覚悟が、いつか報われる日がくるはずだ。
依頼人である友人のところへ報告に戻ろうと一歩踏み出す凰華。
決意新たに、スッと踏み出した…そのときだった。
ボッ―
背後から、妙な音と気配。
(まさか)
仕留め損ねた?そんな馬鹿な。
いくら不憫に思っていたとしても、
そんなヘマを私がやらかすわけがない。
凰華はバッと振り返った。
仕留めた魔物は、煙となって消えている最中だった。
魔物は確かに仕留めている。
この妙な音の正体は……。
ぐんぐん近づいてくる赤い玉。
(炎!?)
凰華は咄嗟に水の結界を張って自身を保護する。
ジュワァァァッ…―
結界に衝突し、蒸気となって昇る炎。
凰華は結界を張ったまま、炎が飛んできた方向をジッと見やった。
銃をクルクル回しつつ、こちらへ向かってくる少年の姿を捉える凰華の瞳。
(子供……?)
少年は、とても幼い顔立ちをしており、無邪気な笑みを浮かべていた。
突然襲ってくるような…クレイジーな奴には見えないが…。
この辺りに魔法を得意とする魔物はいない。
そして、少年が持っている銃の銃口には、炎が灯っている。
間違いなく…今の攻撃は、あの少年が仕向けたものだ。
凰華は警戒を怠らず、少年を見据えて尋ねた。
「随分と手荒な挨拶だが…。何の用だ…?」
「んー?遊んでくれないかなーと思って」
ある程度距離を保ち、立ち止まって言う少年。
遊んで欲しくて、発砲したのか。
それはそれは…。
見た目によらず、ブッ飛びまくりのクレイジーだな。
凰華はフゥ…と息を吐くと、剣を抜き、身構えた。
それは、構わない、相手になってやろうという返答代わり。
突然発砲してくるイカレ者だ。
嫌だと拒んだところで、ハイそうですかと聞き入れはしないだろう。
身構えた凰華にニッと笑う少年。
少年は銃口を凰華に向け、
「たーまやー!」
場違いな言葉と共に引き金を引いた。
ゴッ ゴッ ゴォッ―
次々と発砲し、炎を飛ばしてくる少年。
(変わった銃だな…)
凰華は、水を纏わせた魔剣で飛んでくる炎を次々と払う。
払いきれぬ分は、水の結界で蒸気にしてしまえば。
冷静に対処すれば、何も恐れることはない。
少年に、間合いを詰めてくる気配はない…。
遠距離…アウトレンジからの攻撃が得意なのだろうか。
それならば…と凰華はジワリジワリと間合いを詰めていく。
接近戦に持ち込んでみようという目論みだ。
やはり接近戦は不得意なのか。
少年は、後退しつつ発砲を続ける。
(逃げるつもりか?)
凰華はフッと口元に淡い笑みを浮かべると、
ダンッと強く踏み込んだ。
突風と共に、瞬時に至近距離へと詰め寄る凰華。
「わーぉ」
少年は苦笑しつつ、両手を上げて降参ポーズを示す。
突然襲われ、遊んでくれと言われ。
機嫌が良いわけもない。
凰華はスッと剣の切っ先を少年の喉元へ宛がい、呟くように言った。
「満足か…?」
「うん。満足満足」
ケラケラと笑う少年。
反省の色ナシとは、このことか。
凰華はムッと眉を寄せて、お仕置きしようとした。
だが、少年が次の瞬間放った言葉に、その気は削がれてしまう。
「どーよ?合格でしょーこれは」
笑いながら言う少年。
すると、茂みからガサガサと音が鳴り、小柄な少女が現れた。
「うん。申し分ないかな」
体についた葉っぱを払いつつ、淡々と言う少女。
凰華は少年の喉元に剣の切っ先を宛がったまま、首を傾げた。


少年と少女の正体。
彼等は、INNOCENCEのエージェントだった。
イノセンスは近頃あちこちで名を聞く組織だ。
IO2とライバル関係にあるという噂も耳にしたことがある。
けれど、多くの噂が飛び交うものの事実は不明。
だが各地で魔物の討伐を遂行しているようで、実力は確かなもののようだ。
そういうこともあり、謎めいた組織として、評判になっている。
それが、イノセンスという組織について凰華が知りえている情報だ。
その評判組織のエージェントが、一体何用だというのか。
その答えは単純明快だった。
突然襲ったのは、お手並み拝見。
彼等は情報資料を元に、凰華をスカウトしようとしていたのだ。
組織に、新たに加わるエージェントとして…迎えようと。
「……………」
事情を聞いてから、凰華は、ずっと無言だ。
何も言わずに、ただ腕を組んで話を聞いているだけ。
だが、少年は、そんなのお構いなしといった様子で、あれこれ説明を続けていく。
組織に入る依頼は、レベルも報酬も高いものばかりだから、仕事にも金にも困らなくなるとか、
組織に所属しているエージェント達は皆、個性的で面白い奴等ばかりだとか…。
加入することで得られるメリットばかりを述べている。
確かに、話を聞いた感じでは、好条件揃いだ。
スカウト行為の際にデメリットを挙げることはしないだろうから、
加入したらしたで、色々面倒なことも、それなりにはあるだろう。
けれど仕事と金、待遇においては何一つ不備がない。
不満や疑問を覚える箇所は、一つもないのだ。
普通なら、正常なら、ありがたく受けるべきスカウトだ。
けれど、凰華には加入の意思がない。
「あれこれ説明してもらったのに申し訳ないがな。私は組織というものに身を置く気はない」
サラリと言ってのける凰華。
その言葉には偽りなんて微塵もない。
彼女は、どこか特定の場所へ身を置くことを嫌うのだ。
自由奔放な性格ともいえるが、他にも何か…理由があるのかもしれない。
スッパリとスカウト拒否され、少女はしょぼんと俯いた。
「いきなり攻撃とか…失礼ですもんね。怒ってらっしゃいますか…?」
「いや。まぁ、確かにムッとはするが…過ぎたことだ。事情もわかったしな」
目を伏せて返す凰華。
突然襲ってきたことには、そりゃあ怒りは覚える。
けれど、事情というかワケあっての行為だということが理解った以上、
ここで、ああだこうだと怒りを露わにして感情を吐き出すのは、みっともない。
それに、そのことが原因で拒否しているわけではないのだ。
拒否理由は、彼女の性格と根底から生じるもの。
どこが何が不満なのか悪いのかと聞かれても、何も答えられない。
返せる言葉はただ一つ「嫌だから」それだけだ。
一向に応じる気配のない凰華。
彼女の意思は固いようだ。
もう、テコでも動かないであろう。
だが、ここですんなりと引かないのがイノセンス流。
とはいえ、所属する気が皆無な者を無理矢理連れて行くわけにもいかない。
強行手段の一つとして、いっそのこと拉致してしまう手もあるが、
それでは、本当に彼女の機嫌を根底から損ねてしまいかねない。
そこまでのリスクを負ってまで強行するべきではない。
少年と少女は凰華を気に入っている。
彼女が組織に加入してくれたら、どんなに嬉しいか。
彼女と一緒に仕事ができて生活できたら、どんなに楽しいか。
出来ることなら、無理矢理にでも引っ張っていきたい。
けれど、彼等はそれを必死に堪えた。
そんな彼等のとった行動。それは…。
「気が向いたら来てよ。大歓迎すっからさ」
「よろしくお願いします」
二人は、自身の名前が記された名刺を差し出した。
名刺には、彼等の名前と組織名、そして、組織本部付近の地図か記されている。
凰華はハァ…と溜息を落とし、淡く微笑むと、
彼等の差し出した名刺を受け取り「わかった」と返した。
「じゃーな!急に襲ってゴメンな!」
「失礼します」
そそくさと撤退してい少年と少女。
二人は後ろ髪を引かれる思いで、何度も振り返る。
けれど、引き返すことはしない。
彼等に出来る、精一杯の我慢。
それと同時に、大きな賭けでもある行為。
何度も振り返る少年と少女に苦笑しつつ、凰華は名刺に視線を落とす。
少年の名前は『海斗』 少女の名前は『梨乃』 というらしい。
凰華が彼等の前に再び姿を見せる日は…来るのだろうか。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

4634 / 天城・凰華(あまぎ・おうか) / ♀ / 20歳 / 退魔・魔術師
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは! ようこそ、いらっしゃいませ!(*'ー'*)
ゲームノベル”INNOCENCE”への参加・発注ありがとうございます。
発注・参加 心から感謝申し上げます。 気に入って頂ければ幸いです。
INNOCENCEは、関連シナリオが幾つもありますので、
是非。また、ご参加下さいませ^^

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2008.03.28 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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