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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【女王様失踪】


〜OP〜

【Side:B】

「うーーー、なぁ…もう、勘弁してくれよ…」
テーブルに突っ伏したまま、あたいは疲れきった声を上げた。
「あたい、もう、帰りたいんだよ」
そう訴えども、訴えられた方は「けけけっ」と笑って、「ツレない事を言うんじゃないよ。 女王様。 せぇっかく、こうやってお越し下さったんだもの。 おいらにだって、色々お話したい事や、もてなしたいプランなんかがたぁっくさんあるんですよぅ」と馴れ馴れしい口調で言い募る。
黒い山高帽を目深く被っているせいで、その表情はにやついている口元しか窺えない。
黒を基調としながらも、何だかヘンテコな組み合わせの随分派手なジャケットと、シャツを着こなす男が、あたいの隣に腰掛け、ティーカップを持ち上げながら、そう答えた。
「…おい、帽子屋。 ベイブは?」
「は?」
「ここの王様は、あんたに、あたいの事返せって言ってねぇのかよ?」
あたいの問いかけに、「ええ、ええ、『女王を私の元へ無事な姿で返せ』と何度もご命令いただいてますよ?」と帽子屋と呼ばれる男は頷いて「ですけどね。 そちらの椅子に座っちまったら、しょうがねぇや。 おいらからの『なぞなぞ』に正解するか、このお茶会が終わらなければ『無事』な姿で立ち上がれない。 ですから、ね? 命令を守る為にも、こうやって女王様にお茶会にご参加願ってるってわけです」と、帽子屋はシレっとした表情で言葉を続けた。
あたいは溜息を吐き、恐る恐る頭上を見上げる。
そこにはギラギラと鋭い刃。
「客人をもてなす為のお席に座って貰ったのが、まさかこんな事になるなんて! おいらも心が痛みまさぁ」
処刑台。
その言葉がまさに相応しい席にあたいは座っていた。
あたいの脇には、兎の耳を生やした少年が一人。
無表情に立ち尽くすその手の中には、小さな鋏が一つ握り締められていた。
その鋏がチョキン!と組み合わされれば、鋏の間に張られているロープは切れて、あたいの頭上でギラギラ光ってくれちゃってる刃はストン!とあたいの首を綺麗に落としてくれるこったろう。
冗談じゃない!
先週HDDに録った「ぶらり 爆走バイクの旅 3時間SP」をまだ見れてないのに、ここで死ぬ訳にはいかない!
そう、強く強く心に思えど、ここに拘束されてから、一体どれ位の時間が過ぎたのか。
永遠とも思えるほどの長い間此処に座らされている気がする。
「そこの『三月兎』に鋏から手を離せって言えば済む話じゃねぇのかよ?」
唸るようにして言えば、「まさか! そんなご英断! 三月兎のキチガイっぷりはご存知でしょう? マドモアゼル。 おいらの言った言葉は全部あべこべ! 何一つ言う事を聞いてくれなんかいたしやせん。 増してや、こいつときたら、最近は、この『首ちょっきん』ゲームが大のお気に入り。 今まで何人のお客人の首を、断頭台の露としてきたか数えきれませんや。 無理に立ち上がろうとしても、なぞなぞを間違えても、このロープを躊躇なくこいつは切っちまうでしょう。 ですからね?」
帽子屋は、にいいっと酷く並びの悪い、まるで牙のようにそれぞれが鋭い形を見せる歯を剥き出しにして笑うと「もう少しだけお付き合い下さいな。 この、パーティに」と朗らかに告げる。

あたいは、その言葉に「もう、いやだ!」と悲鳴のような声を上げた。

悪趣味で、残虐極まりない見世物が目の前で何度も、何度も繰り広げられた。
幸いと言っていいのか、この帽子屋が無上の悦びとしているらしい、迷い込んだ人間の客人に対する残酷な振る舞いは今のところ獲物がいないせいもあって行われてないが、この王宮内に棲む有象無象の者々に対して行われる悪趣味な振る舞いはあたいにとって悪夢でしかない。
ベイブが飽きて放り出した「生きている絵画」や、愛玩生物、動く人形等を何処からか掻っ攫ってきては、弄くりまわしたり、解体したり、よくもまぁ、此処までと思うような吐き気を催す所業に及んでは無邪気に喜んでいる。
今だってそうだ。
生きている絵画を火にくべて、その悲鳴をBGMに恍惚とした表情でお茶を楽しむ帽子屋を眺め、あたいは「狂ってる…」と小さく呻いた。
「狂ってる? その通り! よっぽど、女王様はこのお茶会がお気に召さないと見受けられる! では、女王様、命を掛けてお答えになりますか? おいらのなぞなぞに」

帽子屋がにいいっと唇を裂いて問うてきた。

「千年生きる呪いを掛けられたベイブ様。 あのお方が、千年待たずして命を失う方法がただ一つだけあります。 さぁ、それは、どんな方法?」





--------------本編------------------



「じゃア、いい子で留守番してるのですヨ?」

まず、出掛けのその一言がムカついた。
子供扱いが何より嫌いなウラにしてみれば、致命的にも等しい言葉を平気に投げつけておいて、ウラの師匠兼保護者デリクが部屋を出たのが午後になったばかりの時間帯。
ポカポカとした春の陽気に、どうしてこんな日に留守番なんてしていなければならないのか、退屈極まりない時間を過ごさねばならないのか理解できずに、ウラは「つーまーんなーいー!」とわざわざベランダに出て大声で喚く。
近所の子供がぽかんとした表情で見上げてくるが、知った事ではない。
その行為こそが、子供の証明等とは思い至らずに、ベランダに出て思いつくままに、ウラは喚き散らした。
後で、おかしな噂にでもなってデリクが困れば良いのだとすら思い、それでも、デリクに頼まれたベランダの草花への水やりはきちんと済ませる。
こういう仕事を怠ると、出かけた後のお土産のランクがダウンしたり、一緒にカフェや、ブティックへと連れて貰える機会が減らされたりするのだ。
「この私が! ウラ・フレンツヒェンが、花に、水やり! 糞が! 反吐が出るってもんよ! おえ! おえええ!」
憤懣やるかたないといった表情ぶつぶつと文句を垂れるがそれでも、美しいものをこよなく愛するウラは、きちんと花々の根元に水が掛かるようにジョウロを傾けた。

ふわふわと、優しい春風がウラの頬を撫でる。

こんな日は、やっぱり外で一日過ごしたい。
勿論日焼け対策はばっちりして、お気に入りの柄の部分が星の形になっている黒レースの日傘を差して、まず、近所に出来たキャンディーショップ「メリィ」で色とりどりのお菓子達から好きなものを選んでハート型のケースにしこたま詰め込んでもらうのだ。
鮮やかな色したキャンディ、グミに、チョコレート!
クッキー、ラムネ、ポップコーン。
見ているだけで幸せになるあのお店に、今月に入ってまだ、一度も連れて行って貰えてないのは、ウラにとって、屈辱的なまでの失態と言える。
有楽町にあるカフェにだって、今月は忙しいだの、なんだのと言い訳ばかりで、いつだってウラはお部屋で留守番だの、雑用だのさせられて、好い加減彼女の堪忍袋が「プチッ」と千切れてしまいそうだった。

大体、元から、我慢強いほうではないのだ、ウラは。

キラキラしたもの、綺麗なもの、レースにお菓子に、享楽的な刹那の幸せ!
そんな幸福を享受する為のアンテナを幼いながら目一杯伸ばして生きるウラにしてみれば、「質素」「倹約」「清貧」等という言葉は反吐が出るほど気に喰わなかったし、況や今のように我慢をさせられている状況なんか、悪夢としか言いようがなかった。

ベランダにしゃがみこみ、青空を見上げながら、ウラは、幸せな妄想に浸る。


メリィの後は少し足を伸ばして、一駅向こうの線路沿いにあるオープンカフェのクラブサンドと、キャラメルカプチーノをテイクアウトし、桜が散り始めた並木通りを歩き、その先にある中央公園で散りゆく花弁を眺めながらピクニックと洒落込もう。
その後は、最近デリクに強請って買って貰った装丁の美しいルイスキャロルの「鏡の国のアリス」を抱えて春の日の下で読書に勤しみ、夕暮れ時の町並みの情景を楽しみながら、ゆっくりと歩いて帰宅の途につき、自宅直ぐ近くの絶品のテリーヌを出す落ち着いたリストランテでディナー。
ああ、なんて完璧なんだろう。
別段、バカ高い歌劇のプラチナチケットを強請る訳でもなし、高価なキラキラ光る宝石だって欲しがっちゃいない。 掌から溢れる程度のキャンディ達と、ピクニック、それにディナー。 この慎ましい乙女の願いがどうして叶えられないのか、ウラは不満でしょうがなくなり、「畜生!」と一度吼えて、部屋の中へと已む無くひっこんだ。

「つまんない! つまんない! つまんない〜!」

独特のリズムで唄うように繰り返し、ふらふらと適当なステップを踏んでいると、どうしてもこの憂鬱な気分を吹き飛ばす音楽が欲しくなった。
こういう時は、近代的なオーディオ機器で聞くより、昔懐かしいアンティークのレコードプレーヤーの音の方がウラの気分にしっくりくる。
デリクが自らの趣味で買い求めた、そのプレーヤーは大事に、棚の上に仕舞われていて、おいそれとウラの手には届かないようにされていた。
「フン! 浅はかってぇのよ、デリィク! 私がその気になったなら、何だって手に入るの。 何だってよ?」
そう独り言を呟きながら、ずるずるとキッチンの椅子を引きずって、プレーヤーが置いてある棚の前へと持ってくる。
ヨイショ、ヨイショと椅子の上に上り、棚の上に視線を走らせれば、そこには置いてある筈のプレーヤーの姿は見当たらず、その変わり、両掌に治まるほどの硝子の球体をウラは見つけた。
首を傾げ手を伸ばしかけるも、何てったってデリクは歴とした魔術師で、そんな魔術師の持ち物に、無防備に手を触れていいのかしら?なんて、大胆極まりないウラにしては珍しく慎重な躊躇の念に囚われる。
硝子の球体の中には黒い渦のようなものが浮かんでいて、じっと見つめていると、眼を回しそうになった。

すると突然、球体が触ってもいないのにゴロンと揺れた。
ウラが、目を見開いて、じっとその硝子の珠を見つめれば、ゴロンゴロンと硝子が左右に揺れる。

よく見れば、球体の中で何かが暴れているようだった。
それは、真っ白な、真っ白な、真っ白な…女の手。

ごろんごろんごろんと硝子が転がり、見る見るうちに、硝子は棚から転がり落ちた。

ガシャン!!

派手に砕け散る音を聞き、ウラは「私のせいじゃないわ?」と誰かに言い訳しつつ椅子から降りる。
破片が足元に散らばってないか注意しつつ、硝子珠の落ちた場所に足を向ければ、そこには、硝子に閉じ込められていた真っ黒な渦がぐうるぐうると渦巻いていた。

「硝子の中から出たかったの? お前」

デリクは、両掌の痣によって異空間を作り出す事を得意としている。
この渦も、ウラは何度か目にした事があって、つまりこれは「硝子詰めにして保存されていた異空間…って事かしら?」とウラは首を傾げた。
缶詰で保存されてる食料なら分るが、硝子詰めの異空間なんて滅多とお目に掛かれるものじゃないだろう。
「まぁ、よくも、こんな事考え付くものねぇ」
そう呆れたように呟けば、突如渦の中から白い手がにょきりと突き出された。

「Come-on!Come-on!Littlelady!」

白い手が、ウラを手招きしている。
ウラは目を見開いて、そのまま掌の傍へと寄ると「私を呼んでいるの?」と掌に問い掛けた。

振り返れば窓の向こうに青い空。

こんな日に、私を留守番なんてさせるデリクが悪い。


ウラは退屈からの解放を求め、全ての責任をデリクに押し付けると、白い手に自分の掌を伸ばす。
ヒュルンと巻きつくようにして、白い手はウラの手を握り締めると、スルンとまるで飲み込むみたいに、ウラは手に引っ張られて渦の中へと体を飛び込ませた。



闇を抜ければ、そこは、見覚えのある広間。

「千年王宮!」

間違いない、あの不思議な王宮の玉座の間だ。

歓声を上げれば、ウラの手を握り締めている女がニコリと笑いかけてきた。

「初めまして。 リトルレディ」

細い声した女にウラは微笑み返し、「お前は誰?」と傲慢な声で問い掛ける。
「私の名は白雪。 この世を全て見通す大鏡でございます」
恭しい声音にウラは「クヒッ」と笑い、「じゃあ、お前に問うわ。 世界で一番美しい女は私?」と問い掛ける。
「貴女の愛らしさは世界一級。 ですが美しさを評す『女』には未だ至っておりません」と慇懃無礼な口調で白雪が告げる。
途端、ウラは不機嫌になり「ナめんじゃねぇぞ、このクソ女がぁ! 女に至ってねぇだと? このイかれ牝が! 言えよ! 私が世界で一番美しいってな! 言わねぇと、その飾り程度の目玉を刳り貫くぞ!」と喚き散らす。
そんなウラを、冷たい目で眺め、それから、「お茶会」とたった一言呟いた。
「本日、『嘆きの森』にて、女王様のイかれたお茶会が開かれております。 そちらに是非、ウラお嬢様をお招きしたかったのですが…お茶会に参加できる婦女子は、当然淑女でなければなりません。 さて、ウラお嬢様。 貴女は、淑女ですか?」
白雪の問い掛けに、ピタと口を噤むと、「クヒッ」とウラは笑い声をあげ、おしとやかに、スカートの裾をつまんで一礼する。
そして、挑戦的な眼差しで睨み上げると、「私が、淑女以外の何者に見えて?」とシレっと問い掛けた。
白雪は静かに頷いて「では、会場へとご案内いたします」と先に立って歩き始めた。

「会場は地下階に御座います。 お嬢様は、前回訪れた際は、地下階の様子はご覧になっていない筈。 大層美しい光景に、きっと驚かれると思います」

そう白雪が説明するのをワクワクと聞きながら「お前、この城の住人なの?」と問い掛ける。
「ええ、私は、ベイブ様に仕えるもの。 ベイブ様の一番の宝」
そう言う白雪に、「へえ、ベイブ。 あの、辛気臭い王様」とウラが呟けば「無礼な!」と白雪が悲鳴じみた非難の声を上げる。
ウラは白雪の様子に「あらあら、お前、あいつに惚れてるわけ?」と問い掛ければ、途端白雪は真っ白な体を少しくねらせ「ほ、惚れるなどとは…そんな身の程知らずな…」と呟いた。

どう見たって、ベイブに心底惚れ込んでるようにしか見えない白雪の態度に「痘痕もえくぼね」と心中で呟いて、「ま、がんばりなさいな」と他人事めいた声で言い放つ。
白雪は、コホンと咳払いを一つして「いえ、従者の身故、ベイブ様のお役に立つ事こそが私の使命。 それ以上の事は何も望みません」と白雪は告げると、ロビーへとウラを誘い、上階へと続く螺旋階段の吹き抜け部分真下へと立たせた。
大きな薔薇の紋章が描かれている絨毯部分に立ち、「お傍に」とウラに声を掛けてくる。
ウラが白雪に寄り添えば、微かに白雪は頷いて突然一度「ドン!」と強く足を踏み鳴らした。

その瞬間金色の正方形の柵がせり上がり、四方を取り囲む。
天井から、同じく金色の鎖が垂れ下がってくるのを白雪は確認すると「潜る」と一言宣言して、ぐいと鎖を強く引いた。
その瞬間、三半規管の弱いものなら眩暈を覚えるほどのスピードで柵に囲まれている部分の床が、沈む。

「っ!」

金色の柵の向こう側の景色が猛スピードで駆け上がっていくようだった。
なんて、刺激的なエレベーター!

「ここ」

そう静かに囁いて、白雪がぐいと再び金色の鎖を引けば、チンと涼やかな鐘の音。
せり上がってきた時と同じく、金色の柵が静かに沈んでいく。

「まぁ…」

ウラは咄嗟に何も言えずに感嘆の声を漏らした。

青色のステンドグラス。
天井も、床も、壁も全てステンドグラスで出来ている。
その全てに精緻な花や、聖人の絵が描かれており、ウラはその青く統一された色彩から、ランス大聖堂のシャガールのステンドグラスを思い出した。


深い澄んだ深海の底に沈んでいるような気持ちになる。
天井には教会などで天井近くに嵌められている明り取りの為の円形の薔薇窓が連なっていた。
何処までも青く透き通った、ほの暗い世界。

ここが、この城の、地下階域。

なんて暗い…
なんて澄んだ…
なんて…なんて…

息を吸い込む。
空気が重い。

肺が、ずんと空気の重みに少し沈んだような心地さえ覚える。
それほどに、この空間は見るものを圧倒させる荘厳さを有していた。

四方全てがガラスで出来たホールを見回し「美しいわ」と素直に呟くと、「お前についてきて良かった。 少なくとも、部屋に一日中引きこもって過ごすより、よっぽど素敵よ。 褒めてあげる」と嬉しげに白雪に言う。
「それは何よりです、お嬢様」
そう白雪は無表情に答えると、「では、参りましょう。 私の後から離れないで」とウラに告げ、スタスタと先に立って歩き始めた。

天井からぶら下がっている巨大なシャンデリアが煌々とした光を放っている。
白雪が歩き出せば、壁に配置されているガラスの燭台にもその後を追うようにして灯りが灯り始めた。
迷いの無い足取りに遅れぬよう、急ぎつつも周囲の様子に目を走らせる。
上層階にあるものも随分奇妙極まりなかったが、この地下階にあるものも、酷く変わっている。
ステンドグラスに描かれていた蝶の絵がキラキラのガラスの羽をはためかせ、その近くに描かれている花に停まった。

動くステンドグラスの絵。

欲しいと、身悶えするほどに願えども、さて、このようなステンドグラスを、あのマンションの一室の何処に飾ろうと悩み、やはり、こういうものは、それが設置されるに相応しい場所にあるのが良いのだろうと諦める。
振り返れば、ウラの歩いた後に、美しい硝子の花が咲き始めていて、「ああ」と幸福の溜息を吐いて、もっと白雪がゆっくり歩いてくれるのをウラは切望した。

だって、ここは、何もかもが美しすぎる。

そのうち、硝子の蝶は壁から抜け出して飛び交い始め、ウラは目が目を細めて眺めれば、そのうちの一羽がそっと、髪飾りのようにウラの髪に止まった。

透き通る、青いガラス製の蝶。

これ位は持って帰っても良いんじゃないかしら?と白雪に気付かれない事を願いつつ歩みを進めれば突然二人は硝子で出来た青い薔薇が咲き乱れた広間へと出た。
円形の広間は十字の硝子の通路が引かれ、その脇を飾るようにして薔薇が咲いている。
薔薇の咲いている床部は澄んだ水が張られていて、ひやりと広間に満ちる温度は低い。
覗き込めば、サファイヤの如き色合いをした、美しい水の中、薔薇の茎部の間をすり抜けるように、真っ青な硝子で出来た小さな魚達が泳いでいる。


「こちらです」と白雪が、指し示すのは中央部に聳え立つ、大きな扉。
裏側にまわってみても何もない硝子の扉だが、白雪は「この向こうでお茶会は開かれております」と無表情に告げた。

コンココンコン

硝子の扉を独特のリズムで白雪がノックすると、ギギギと徐々に扉が開き始める。
「では、私がご案内できるのはここまでで御座います」
そう告げる白雪に「ありがとう。 白雪」と礼を述べれば、白雪は白い小指をウラに差し出してきた。
「一つ、お約束いただきたい事が」
「なぁに?」
「私がここまで案内した事を、どなたにも黙っていて欲しいのです」
「白雪が案内したって事を?」
「ええ」
白雪の言葉に、ウラは首を少し傾げ、それから「いいわ。 その位は」と請け負うと白雪の小指に自分の小指を絡めた。

冷たい指。

ウラは少し身を竦める。

「でも、じゃあ、どうすればいいのかしら? どうやって、私がここまで来たのか聞かれた時は」と悩めば「白兎が連れてきたと仰ってください」と白雪は言った。
「白兎?」
「ええ。 アリスを不思議の国に導いたのも兎でしたから」
白雪の提案は、いたくウラのお気に召して、「分ったわ、白兎、クヒッ」と引き攣った声で笑う。
そのまま、開いた扉の向こうに足を進めれば、背後で「いってらっしゃいませ」と囁く白雪の声が聞こえた。

扉の向こうにあるのは、新緑の色深い森の姿だった。





甘い匂いが鼻腔を擽る。
ウラは微笑み、快哉に似た声を上げた。

「スコーンよ! ストロベリーと、ラズベリーのジャムは絶対に必要! あと、クリームもたっぷりね! 御存知? 有楽町にあるカフェでは、採れたての蓮華の蜂蜜とクリームチーズでスコーンを戴けるそうよ? デリクにおねだりしてるんだけど、中々連れて行ってくれないの!」
黒い髪が風に舞う。
西洋とも東洋とも区別は付かないが、何にしろ熟練の職人によって作り上げられたかの如くの、人形めいた血の気のない顔。
白いレースをたっぷりとあしらった大きな襟が特徴的な黒いボレロの下に、白い総レースのキャミソールを合わせ、膝丈のパニエで膨らませた裾部に精緻な薔薇の刺繍が施されているスカートを穿いている。
頭には、黒いレースのヘッドピース。
その全てが大変馴染む空間に、ウラは満足の溜息を吐き出した。

なんて、私に相応しいお茶会。

黒い絹の手袋を嵌めた可愛らしい指先が踊るように閃き、テーブルに並べられたメニューをチェックする。

紅茶。
OK。

スコーン。
OK。

ジャム。
OK。

にっこりと笑い、ウラは高らかに告げる。
「合格! さぁ、私の席は何処?」
そして、席に座っている金髪のやけに顔の良い男が、随分と不機嫌な表情をしているのを見咎め、腰に手を当てて注文をつけた。
「あと、お前! 笑いなさい! クヒッ! そんな面はお茶会には似合わないわ!」
余りの言葉に男は目を見開き、即座に言い返す言葉を捜しあぐねる。
「ウラ?」
驚いたような声を上げているのは、この王宮の「女王」竜子で、まるで信じられないといった声音で名を呼ぶものだから、ウラは愉快でたまらなくなった。
「そうよ? 他に私のような者がいて? 竜子! 相変わらず寝ぼけた面をしてんのね。 それにしたって、イカれたお茶会! 愉快だわ!竜子もたまには面白いことやるのね? 見直したわよ。 クヒッ!」
機関銃のように間断なく喋る音楽のようなリズム。
歩く足音すらダンスのステップに変わる。


じっと見つめる男の顔に、ウラは見覚えがあった。
ああ、そうだ、こいつは、この前城に来た時に、ベイブのおむずかりを宥めるのに一役買った男だ。
確か、そう、金蝉とか呼ばれていた筈。


漸く名前を思い出し、すっきりしたウラに金蝉が目を見開いて「おい、てめぇ、あいつは此処に来てんのか?」と低い声で問いかけてくる。
ウラがこんな問われ方をするという事は当然「あいつ」とはデリクを指し示しているのだろうと理解しつつも、その失礼な問い掛け方にウラは美しい眉を顰め「て め ぇ? ですって? このスットコドッコイ。 誰に向かって口を利いていやがるのかしら?」と凄み、「デリクなら多分もうすぐ来るわ」と自信たっぷりに答えた。


だって、私がここにいるんだもの。
デリクが迎えにこない筈がない。

髪には青い透き通るような硝子の蝶が停まったままだったが、スタスタと歩くウラの速度についていきあぐねたがごとく、突如キラキラと光る青い破片となって砕け散ってしまった。

「あら、残念」

手を伸ばし、蝶が崩れ去ったことを知ると肩を竦め事も無げに呟いて、「私の席は何処?」とウラは帽子屋に尋ねる。

「ええ、こちらに。 ドリス。 おいで、お嬢様がおいでだ」

そう言いながら帽子屋が呼べば、背もたれの部分の形も美しい漆黒の椅子がトコトコと駆け寄ってきて、金蝉のすぐ隣にチョコンと納まった。
「どうぞ、お嬢様」
そう椅子を引きながら薦められ鷹揚に頷きつつ、当然のようにウラは腰掛ける。
咄嗟に「何が仕掛けてあるか分んねぇぞ?」と金蝉が忠告してくるので、チラッと視線を走らせれば金蝉の腰には椅子から生えた女の腕が回されていた。
そういえばと、今更気付いてみるのだが、金蝉の頭上にも、竜子の頭上にも大きな処刑台の刃が設置されていて、確かに一筋縄ではいかない椅子なのだとウラは認識した。

まぁ、なんてったって自分で歩いて現れたのだ。
そんな自動椅子見たことも、聞いた事もない。

だが、そういった椅子もイかれたお茶会には相応しい。
「何を仕掛けるというの? この私に?」とウラは笑い、「大体、こんなお城で『普通』の椅子にありつこうだなんて甘い考え、はなから持っていなくってよ? スリル、サスペンス、ミステリー、あとはまぁ、美味しいお茶菓子? そういうものを求めてお前も此処を訪れたんじゃないの?」と問いかける。
金蝉の返事を待つ気もなく、ランチも食べずにこの城に連れてこられて、お腹がペコペコだったウラは、テーブルの上に視線を走らせ、ひとまずスコーンを鷲掴みにする。
備え付けの生クリームをたっぷりつけて、クランベリーのジャムをトロリと垂らすと、はむりとかじりつくようにして、口の中にスコーンを迎え入れた。
途端口いっぱいに広がる甘みと、ベリーの酸味に、口角がにいと挙がる。
サクサクと租借すれば、幸せ極まりない味が口の中でダンスして「ああ、メリィのチンケな菓子共よりも、よっぽどこっちの方が上等だわ」と心から呟いた。
ボロボロと指の隙間からスコーンの欠片を零しつつ、薔薇の香りのする紅茶を口に運ぶウラに、「好きでこんな場所に来たわけではない」と金蝉が不機嫌に返答した。
お茶会に来たくない人間が居るだなんて信じられないと、哀れな者を見る目で金蝉を眺めれば、ウラのそんな視線に気付かずに、「大体此処は何なんだ」と唸るようにして金蝉は、自らが置かれた境遇への根源的な疑問を口にした。

「ここは、千年王宮の地下階。 ベイブ様の深層域」

歌うように帽子屋が言う。

「地下階?」

唸るようにして問い返せば「なんつうかな、心の奥底…みてぇなもんだよ」と竜子が大雑把な説明をしてくれた。

「この前此処に来たときに、あんたベイブの発狂を抑える手伝いをしてくれたの、覚えてるか?」
竜子に問われて頷き次いで「お前の保護者のあの、魔術師のせいで起こった厄介だったんだがな」と金蝉が嫌味を言うが、デリクはデリク、私は私と認識しているウラは何処吹く風といった顔で「まぁ、そうなの? それはご苦労様」と他人事のように答える。
そんなウラの態度に、金蝉は苛立たしげに一度地面を蹴り付け「何にしろ、この城の主はお前の事を見捨ててんのか? あの、気味の悪ぃ、髪の長い男は如何した? 助けに来て貰えてねぇのか?」と今度は竜子に当れば、竜子は竜子でその質問は気に入らない内容だったのか、「だから、ここは奥底なんだよ」と吼えるような声で言った。

「いいか、この城っつうのはな、あの、性格のわるーーい、腐れ王様ベイブの思うがままの城なんだよ。 んでだ、この城の内装自体あの王様の思うがままでな? 部屋の位置だってあいつの気まぐれで好きなように変えられっちまうわけだ。 一度なんかよぉ、地上200階建てになっていた事があってな…」
へっへへへ…と虚ろな笑い声を肩を震わせながら漏らす竜子。
だが、ウラからすればそれは、まるで御伽噺に出てくる、塔お姫様を閉じ込める塔のように思え、思わず感激の声を上げる。
「200階…まぁ、ラプンツェルの塔のようね! 美しき髪のラプンツェル…って、あら、ちょっと待ちなさいよ。 だとすると、あの蛇男がラプンツェル? やだわ。 冗談じゃないわ。 浪漫が何もないわよ、そんなの」
何だか不快な結論に達し、勝手に怒るウラに「そうだ! 冗談じゃねぇ! ふざけんなって感じだよ!」と全く違う理由で同意し、「もー、大変だったんだぞ!」と渾身の声で竜子は訴えてきた。
「あたいと誠の部屋は、1階にあって、あの腐れ殿様がいる玉座200階なのな! 登るの! あたい達が! 200階の階段を! しかも、あいつ、すげー、アホな事に、エレベーターとか、ゴンドラとか! そういうなんか、あたい達を自動的に上に運ぶ装置一切思いついてなくて! そんで、やっと登りきったら『外が見えないなら、高い場所にいてもつまらんもんだな』って、ほんと、バカじゃねぇの?! バカじゃねぇの?!(二度目) あたい、基本的に、一時間に一回はぼんやりと、『あー、あいつ、ほんとに死なねーかなー』ってベイブの事を考えんだけど、あの時は、二分に一回考えた! 二分に一回『死ね!』って、誠と一緒に叫んでた!」
ヒステリックに叫ぶ竜子に、まぁ、遊びに来るのはいいけど、住むのはね?とウラも同意する。
そりゃあ、お姫様住むような城に住んでみたいと夢想した事もあるが、部屋の移動が大変そうだし、何より、きっと、落ち着かない。
だが、自ら出て行こうとしていない竜子には竜子なりの理由があるのだろう。
他人の思惑なんかどうでも良いウラは、今度は色とりどりのマカロンに手を伸ばす。
アーモンドクリームが間に挟まれた白いマカロンを食んでいると、「つまり、そんだけ自由自在なら、それこそ、あの野郎がいる部屋の前にでも、この場所を移動させて、とっとと脱出させて貰えよ」と、金蝉がもっともな事を言った。
思わず「つまーんなーい!」とウラは抗議し、帽子屋も「全く、お嬢さんの言う通りでさぁ。 そんな此処から早く出て行こうとしなくても良いじゃないですかぁ」と言いつつ如才ない手つきで氷を浮かべたウィスキーのグラスを金蝉に薦める。

お茶会でお酒を飲むなんて、なんて無粋な男だろうとウラは呆れるような気持ちになり「外見は、デリクに負けない程度にはイけてるけども、中身が駄目ね」とウラは心の中で一刀両断した。

「多分、表層手前までは引っ張ってくれてるだろうが、そこ以上は無理だな」と竜子にしては至って冷静な声で言う。
「表層?」
「つまり、人の精神構造と同一なんです」
帽子屋が、自分の被っている帽子に手をやり、胡散臭い声音で説明しだす。
「人の心理の、他者からも目に見えて分かりやすい表面上の心理を表層心理、その奥にある真実の心理を深層心理と呼ぶっつうのはご存知ですか? この表層の心理というものは、心理の持ち主自信が他者に対して『提示』したい、『こう見られたい』という思惑を含んだものである為、行動者本人によるコントロールが可能な心理となるが、深層の心理は、持ち主自身も把握しきれず、またコントロールが効かない場合が多々あるんでさぁ。 つまり『真実の想い』というのは、自分自身では操作不可能であるという事ですねぇ」
「元は考古学発祥のメタファーだったか? 表層・深層という隠喩は…」
金蝉が口を挟めば「おや! お詳しい」と帽子屋が手を叩く。
何だかバカにしたような声音に、帽子屋とデリクってちょっと似てるかも?と、どんだけ絶賛しても、相手に信じてもらえないんですと、落ち込んでいたデリクの事を思い出す。
日頃から胡散臭い言動ばかり繰り返すから、そういう事になるのだ、自業自得だと思ったのだが、なんだかシュンとしている顔が可愛くて、「よしよし」と頭を撫でてやっていた。
帽子屋も、シュンとすれば可愛くなるかしら?と想像して、全然無理ねと、すぐさま益体のない思考を停止させる。
「で?」と金蝉が先を促せば、帽子屋は嬉しげに言葉を続けた。
「そして、この城も考古学と同じく深層、つまり今我々がいるこの部屋のある城の地下部と、その表層、上層階に分けられてるってぇんだから、まぁ、複雑極まりない。 この城は、先程聞き及びの通り、ベイブ様の意識の変化によって、その都度内部が変化を遂げております。 つまり、ベイブ様の心そのものであるってぇ訳ですね。 荒れれば…どうなるかは、こちらにいらっしゃる見なさははようく御存知でしょう?」
つまり、ベイブが荒れると前回に此処を訪れた時に目撃したような大騒ぎになる訳だと、あの時の事を思い出し、何だかお祭りみたいで面白かったから、もう一度くらいなら見てみたいかも…とウラは望んだ。

「客人を招き入れるような、『他者の目に触れる事を前提とした』この表層部分ですと、ベイブ様の意識が明確であればコントロールはかなり自由に出来るのですが、この深層まではベイブ様自身でも、理解しきれておらぬご様子。 その様相が『ベイブ様次第』で変わるものというのは間違いないのですが、心の奥底、すなわち深層域にあるものを、心の表面、つまり表層まで持ち上げる事は不可能でなのです」
そう説明する、帽子屋にウラがクリームをたっぷり乗せ、今度はストロベリージャムを垂らしたスコーンを口に運びながら、興味なさそうに問いかけた。
「じゃあ、お前、なんでこんな場所でお茶会を開いているの? 客人が招かれるような階域で開いたほうがよっぽど招待客も来てくれるでしょうに」
ウラの言葉に帽子屋は、初めて感情らしきものを垣間見せた。

それは、まるで「嫉妬」にも似たヒステリックな声音だった。


「その通り。 おいらだって、華やかなりし時はあった。 一階の階層全てを会場にして、ティーパーティを開いた事だって、二度や、三度じゃない。 ベイブ様の傍らで、毎日毎日、このイかれたお茶会を開き、たくさんの人間共を肴に楽しんだもんだった。 あのお方は、おいらのセンスを好んでくれた! 猟奇で、マッドで、ああ、表層! 上層階! 表に現れる人間心理。 あのお方は、つまり、包み隠さず狂っていた! そのベイブ様のお膝元で、おいらはあの城を取り仕切っていたというのに、今や、こんな地下で、こんな風に、誰にも省みられる事なく…、どうです? 誰が、どうして望みましょうや?」

己の不遇を愚痴る帽子屋の声の醜さにウラは、気軽な調子で頷いて、それから「分るわ? 理解できないけど。 可哀想にね。 全く同情しないけども。 何にしろ、お前の声は美しくないわ。 聴いてて、とっても耳障り。 音楽を頂戴。 何が良い?」と金蝉に問い掛ける。
「煩くなければなんでも」という、うんざりした声で告げられたつまらない注文にウラは肩を竦めると、(おまかせってことね)と理解して、「じゃあ、ラヴェルのボレロを」と、大好きなバレエ音楽の名を口にした。

ウラのオーダーにわざとらしく目の下にハンカチを当てていた帽子屋がウンウンと頷いて指を鳴らせば、トコトコトコと、今度は椅子でなく楽器達がめいめい勝手に現れ、各自与えられたと思わしきポジションにつく。
無人の楽団を見て、ウラは「また、面白い連中がきやがった」と嬉しくなると、その演奏を待ち望む。
ウィスキーで舌を湿らせた金蝉が、「で、俺達をお前どうするつもりなんだ?」と凄惨な目で帽子屋を睨みつけているのを見て、「金蝉も音楽を聴いて、心を落ち着ければ良いのに」なんて心底思う。
「どうするとは?」
帽子屋がとぼけた様子で首を傾げ、フイと指を振れば、無人の楽団は、クラッシックに疎い人間でも一度は耳にした事があるであろう、独特の前奏を奏で始めた。

「なぞなぞです」

帽子屋が緩く唇をカーブの形に変える。

「なぞなぞ?」
「ベイブが死ぬ方法を答えろだとよ」

竜子の投げ槍な声。
「正解すれば、こっから解放してくれるそうな」
金蝉が眉を寄せて帽子屋を見れば、彼は「不正解なら、処刑ですけどね」と、期待するような声で言う。

なぞなぞ…ね?

ウラがうっすらと笑う。
あの王様が死ぬ方法。
へぇ、中々、考えてみる価値がありそうじゃない。

そう興味を抱いたウラは、ボレロのリズムに身を委ねながら思考をめぐらせ始めた。

竜子と相談してみようかしらと横を見れば、阿呆そうな竜子が、阿呆そうな顔丸出しで、阿呆そうに「そんな謎々の答えなんか知るかー!」と阿呆な怒鳴り声を上げていて、全く、こんな阿呆は速やかに私の視界から消えてくれとウラは咄嗟に心底望む。
だが、竜子を越える阿呆がその場にはいて、金蝉が虚ろな声で、「壊せば…いいんじゃねぇの?」と呟いた。

その声の圧倒的静けさに、竜子とウラは顔を見合わせ、同じタイミングで金蝉の顔を覗き込む。


あ、魔王だ。

咄嗟に、自宅にある童話集の中にあった、魔王の挿絵を思い出した。

其れほどまでに金蝉は殺気に満ちた顔をしている。

「いっそのこと王宮ごと全て壊せば呪いとか…解けるんじゃねぇの?」


虚ろながらも、かなり濃度の濃い殺意混じりの声に、竜子が目を逸らし、ウラは意味もなく金蝉を拝む仕草をする。
「ご臨終ね」
ウラの呟きを聞きとがめ竜子が問い返してきた。
「何がだ?」
「堪忍袋。 完全にイっちゃってるわ。 あの男」
うんうんと頷きながら、ウラは知った風な口を聞き、「せめて、薔薇園だけは残しなさいね。 あすこは、とっても、とっても綺麗なの」と金蝉がこの王宮を壊すことを前提にして金蝉に提案しておく。
「い…いやいやいや? 壊しちゃ…駄目だぞ?」
冷や汗のようなものを浮かべつつ竜子に言われ「そもそも、そんな簡単に壊れるような城じゃねぇよ」と言葉を続ける彼女を、無言で、金蝉は数秒間ほど眺めそれから「試してみるか?」と掠れた声で一度問いかけた。
そんな金蝉とじっと見つめあう竜子。
ウラは、二人の様子などどうでも良いので、テーブルの上に自分の大好物が並んでいる事に気付き、満足の笑みを浮かべた。
「あら、兎肉のロースとも私のために用意してくれたの? 褒めてあげる。 兎肉って、パサパサしてて大味だけども、ジャムを塗って頂くと、中々乙な味になって、私は好きなの。 パテなんかにすると、大分穏やかに味になるしね?」と帽子屋相手に講釈を一頻りぶてば「お嬢さんは中々グルメでいらっしゃる」と帽子屋が褒めてくる。
その間、呑気なんだか、間抜けなんだか底知れない沈黙が続いていた竜子と金蝉だったが、そのプレッシャーに耐えかねたように竜子が涙目になりながら「壊せんだな?」と問いかけた。
金蝉は、冷たい顔のまま無反応に首を巡らせ、テーブルの上を見回した。
そんな金蝉に「壊すなよぉぉぉ! あたい、もうアパートとか解約してきちゃったし! 一応こっちで生活してっからさぁ、いきなし城壊されても困るんだって! っていうか、ベイブとか、この城の外とかで暮らす事になったら、すげー、困るぜ? あたいが! 主にあたいが! あと、多分誠も! 大体、考えてもみろよ? あいつin東京生活! 田舎の学生が急に始める一人暮らしより、かなり危険! 寂しいOLの一人暮らしよりも、危うい匂い! そして想像すると、何だか、若干不快! 99円ショップとかで、食事の材料とか買うのか? なぁ、ベイブが、そんな事出来ると思うのかよ?!」と訴えてくる竜子を金蝉は虫を追い払うように手で制して「じゃあ、アレだ、あいつの周りだけ、1000年ばかり時を進めてやりゃあいいだろう。 時間を自由自在に操るような野郎だって、興信所に集まる連中の中にはいてもおかしくねぇ」と告げるも、ちらっと竜子が帽子屋を横目で見れば、帽子屋はにこにこと「そいつを、謎々の答えって事にしますかい?」と余裕の表情で、竜子は「いい」と答えつつ肩を落とす。
正解・不正解というよりも、考える気すらないらしい金蝉の短絡的な回答は「なぞなぞ」の答えとしては情緒を欠いているのだろう。 それに…。
「一応、ベイブに呪いを掛けたのが、『時の魔法』を最初に見つけたつうか、作った女らしいから、その魔女に対抗するには、その『本人』の魔力でないと無理らしいんだよ」と竜子はたどたどしい説明をし、それから肩を竦める。
「ていうか、前のあたいだったら、時間を自由自在とか聞いても、『あほか』とか言ってんのに、今は『そういう奴もいるかもな』とか受け入れちまってんのな」
そう自分に呆れたように言う竜子を「あほね」とウラは一刀両断し、「よかったじゃない。 真実を知ることが出来て、少しは賢くなれて」とすげない声で言葉を続ける。
「大体、お前、なんで、こんな所で、そんな風に捕まっているの? 私はここへ『白兎』に案内されて辿り着いたけれども、かなり歩かされたわ? そんなに此処は簡単に辿り着ける場所ではないでしょう?」
その問い掛けは、金蝉も気になっていたところだったのだろう。
何も言わずに竜子の答えを沈黙で促せば「いや…私もさぁ…なんか知らねぇうちに、こーんなトコに辿り着いちまってて…」と、なんとも頼りない答えが返ってくる。
確か、この部屋は「深層」階とやらにある筈で、おいそれと迷ったからといって辿りつける場所ではないと思うのだが…。

口を半開きにして「なぁんか、変な階段とか降りたり、台所を探し回ってるうちにこんな場所に…」と呟く竜子の間抜けな顔を見て「こいつならば…ありえる…」と、前回の経験も踏まえてウラは確信する。
「相変わらずの方向音痴ね」とサラリと呟いただけで、ウラは彼女がここに迷い込んだ経緯を納得し、犬ですら帰巣本能でもって、目的地に辿り着くというのに、犬以下か…と竜子が少し哀れになった。
「さて、ご歓談中のところ口を挟みまして悪いのですが、なぞなぞの答えには一向に辿り着けぬご様子」
帽子屋が、跳ねるような声でそう言いながらついと、テーブルの上に白と黒の象牙で出来た美しいチェス台を置いた。

その瞬間、ザッザッザと複数の一糸乱れぬ足音が聞こえ、視線を向ければ、突然四人が座るテーブルの前に、大きなチェス台が出現している。
チェス台の上には、王様や、女王、騎士等の人形が立っていた。

「おいら、最近暇の余りに手慰みにチェスを覚えましてねぇ、折角なので、1ゲームどなたかにお付き合い頂きたいのですが…。 お客人の中に私のお相手をしてくださる方はいらっしゃいませんでしょうか? 私との勝負に勝てば、なぞなぞの回答に辿り着くのに大変有効なヒントを差し上げたいと思ってるのですが?」
帽子屋の提案に眉を顰めつつ、金蝉が竜子とウラの顔を順繰りに眺め、それから深い、深い溜息をついて「良いだろう。 俺が相手してやる」と金蝉が嫌々声を上げた。
なんだか、先程の仕草は失礼極まりないように見えたがなぞなぞのヒントがもらえるのは嬉しいし、チェスは確かにウラは余り得意ではない。
熟考するのが苦手な性質で、ルールはデリクに教えてもらっていたが、どうも自分の性格に合うゲームだとはどうしても思えなかったのだ。
ウラは「まぁ、余興に見る分には楽しそうね」等と足をぶらつかせながら言い、竜子は「金蝉は、チェス分かんのか?」等と感心したように言う。
金蝉も自分と同じく短気の性質に見えるのだが、チェスは得意なのだろうか?とウラが疑問に思えば、自信ありげな声で「将棋と然程変わらねぇなら、勝てるだろ」と、金蝉は呟いた。
その声の温度に「極度の負けず嫌い」の匂いを嗅ぎ取ったウラは(あら、そんな所も私と一緒)と自分との共通項に小さく笑う。
(けれど、私の方がずっと、優雅を解するわ。 勿論浪漫もね)
そう確信しながらウラは、チェスの盤面に視線を走らせた。

「では、まず、おいらから」
帽子屋がそう言いながら手元にある象牙のチェス台に置かれた女王の駒を「KR4」の位置に動かした。
すると、目の前にある巨大チェス盤上の女王の人形も、ズズズズ…と帽子屋が女王を置いた位置まで移動する。
金蝉が、素早く盤上に目を走らせて、ポーンを動かす。
すると、やはり、巨大なチェス盤の上の人形も動いた。
序盤は定跡どおりに戦いに備えての準備を整えるのが重要。
デリクの教えを思い出し、中々順調じゃないと金蝉に賞賛のまなざしを送る。
カッカしてばかりいるから、どれだけ単細胞なのかと呆れてもいたのだが、中々頭はキレるようだ。
序盤が終わり、記憶通りの定跡では対応し切れない中盤を迎えるにあたって、金蝉が一つ、相手の駒を取る。
「貰うぞ?」
そう宣言して、相手のポーンを取ると、巨大な盤上でも、金蝉のポーンが剣を振りかざし、相手ポーンの胸を深々と突き刺した。
その瞬間「ぎゃああああ!!!」と、劈くような悲鳴が響き渡り、突き刺された人形の胸から鮮血が吹き上がる。
ゴトンと倒れた人形の顔は、文字通り凄惨な表情そのもので、金蝉は「悪趣味な」と吐き捨てウラは、その声に折角の生演奏が掻き消されてしまった事を不快に思い「うるさいわ」と顔を顰めた。
倒されたポーンの悲鳴にならうかのように、足元を走り回っている小人共も、口々に悲鳴を上げている。
ぎゃあぎゃあと、響き渡るキチガイ染みた悲鳴が重なり合う状況に竜子が「まぁた始まった!!」と怒鳴りながら両耳を塞いだ。
「あたいがここに捕まってる間、何度この悲鳴共を聞いたか!! 小人共は臆病だから何かあったらすぐ喚きやがるんだ!」
そうがなる竜子の言葉にに頬を膨らませ、「何とかできないの? あの、耳障りな叫び声は」とウラは帽子屋に訴える。
「申し訳ありません。 この城の人形らは、どれもこれも煩くって仕方がねぇのが特徴でして、おいらなんかは、ああいう声を聴くとうっとりしちまうんですが、お嬢様には刺激が強すぎましたかな?」という帽子屋の返答に自分が子ども扱いをされた事を察したウラは、「ふん」と鼻を鳴らし、「今すぐ、黙らせな! せめて、この馬鹿げた悲鳴たちだけでも、今すぐよ!」とヒステリックに喚き、それから、手近にいた小人を一匹捕まえると、その口の中に菓子を押し込んだ。

「黙れ。 糞共が。 これ以上騒ぎ散らすと残らず捻り潰すわよ? クヒッ」

肩を震わせ、引き攣った笑みを漏らし、本気極まりない声でそう物騒な宣言をするウラに、捕まり口の中一杯に菓子をつめられた小人のみならず、叫び回っていた小人達が一斉に口をつぐんだ。

「…こりゃあ、驚いた!」

感心したようにそう告げる帽子屋に、ギラリと尖った目を向けて「ちゃんと躾しておくことね」と告げつつ、小人を放り出す。
「さて、ゲームの続きを見せて頂戴?」
ウラに促され、金蝉は頷くと、再び盤面へと視線を向ける。

それから暫くは、幾つかの駒を取り、取られ、盤上は終盤のお互いの手の読み合いが重要となってくる局面を迎えた。
機械的な読みの深さを必要とする盤面の状態をじいっと眺めていると、金蝉の横から竜子が覗き込みつつ、「意味分んね…」と小さく呟く。
帽子屋がかなり厳しい駒の進め方をしてきているせいで、金蝉は若干ピンチなようだった。
厳しい状況に瀕しているせいもあって、金蝉は「うるせえ」と唸りつつ、その顔を邪険に押しのける。
「んだよ! まぁ、あたいにも見せてみろよ。 苦戦してるみてぇだし、あたいがアドバイスしてやんよ」
そう言う竜子に「お前から受ける助言など、1センテンスもねぇ!」と金蝉が否定すれども、退屈していたのだろう。
「まぁまぁまぁ」と無理矢理盤面を眺め、あまつさえ、ルール等微塵も分かってない癖に、「あ、なんか、こいつを、此処に置けば良いんじゃねぇの?」と言いつつ勝手に駒に手を伸ばす。

その瞬間、金蝉が遠慮のない手つきで、その頭を叩き倒した。

「や め ろ !」

そう怒鳴り、べたっと伏した竜子を無視して、チェスの盤面を見下ろし、金蝉は獣のような唸り声を上げる。

「なんで、お前はっ!」

ウラもその状況に呆れ果てけ「なんて間抜けどもだ」と喚き声をあげようとしたが、余りのばかばかしさにその気力も失せた。

「死ね!」

軽快ですらある調子で金蝉がそう怒鳴りつければ、「んあ?」と顔を上げた竜子は自分の手が駒を一つ握り締めている事に自分自身で驚いたような顔をしてみせる。
叩き倒されたせいで、握っていた駒は元いた場所から動いてしまっている。
「あ…りゃ?」と首を傾げ、それから慌てて「今のなし! なし!! 違う!! これは、あたいが倒れたから…!!」と帽子屋に言い募るが、帽子屋は首を振り、巨大チェスの方を指し示した。
すると人形も、竜子が動かしてしまったと通りに進んでいて、「うああ!! ごめん! 悪い!!」と竜子は絶叫し、頭を抱えた。
「え? まずい? やばい? 負ける?? 絶対負ける??」と戦々恐々と尋ねてくる竜子を半眼になって眺め、わざとらしい溜息をついてみせると、再び盤上に視線を戻す。

そして、変わってしまった状況を眺め、それから、微かに金蝉が首を傾げた。

「あ」

奇跡って案外間抜けなタイミングで訪れるのねと、白けたような気持ちになりつつも、竜子の一手が所謂大逆転に繋がるような改心の手であった事をウラは確認する。

「ひょうたんから駒ね」
そう呟いたウラと金蝉は一瞬視線を合わせ、それから竜子に同じタイミングで視線を送った。


「な…なんだよ。 あたい謝ったからな。 これ以上責められたって、不機嫌になるだけだかんな」

そう子供のような声で言う竜子の頭にペシとウラが掌を置いて「コングラッチレーション」と気のない声で呟き「起死回生の手よ、竜子」と教えた。

「そうなのか?」と無邪気なまでの様子で質問を投げかけてくる目に、金蝉が顔を顰めつつ頷けば、にしゃりと顔が緩み「…ま…まぁ? あたいは分ってたけどね? これが、その、凄ぇ手だってぇのはな? ていうか、ほらな? 言ったろ? あたいのアドバイスを受けろってさっ! んはははは!」と大声で笑う竜子を思いっきり睨み、「調子に乗るな」と金蝉が唸る。
帽子屋はと言えば、優勢だったのが一転し、思いも掛けない手をどうかわすか、「うぐぐ」と呻き焦っている様子だったが、
盤上の状況は覆せず一気に、戦局を進め「チェックメイト」とキングにチェックを掛ける。

「よおおっしゃあ!!」と竜子がガッツポーズを決め、ウラは「よくやったわ」と言いながら小さな拍手を送ってやった。
金蝉が、「で? ヒントとやらを教えて貰おうか?」と問いかければ、未練がましく盤上を眺めていた帽子屋は、渋々と言った調子で口を開いた。
「お見事、お見事。 流石の腕前。 女王の助言も有用だったようで、おいらのような浅はかな者では、お相手など務まるはずもなかったよう。 まずは、御見それいたしやしたとお伝えさせてくださいな」
悔しげに、そう並べ立て、それから溜息を一つはいて「ヒント。 ヒント。 さぁて、なぞなぞのヒントでございましたね?」と呟く。
「それでは、大サービスのヒントを一つ」

帽子屋はにやりと微笑んで、指を立てた。

「それは、あのお方の心の名前。 その心の名前を認めれば、難しい手続きはなんら必要と致しません。 ただ、ベイブ様のお気持ち次第。 さすれば、あのお方は御自分がお望みになっているように、自分の命を絶つ事が出来る」

帽子屋の言葉にウラが、ピンク色のマカロンを一つ齧りながら、ツと目を細めた。

気持ちの 持ちよう ね?


「何故、お前は自分の主人に、その方法を教えてやらないの?」
ウラの問いかけに「まさか、まさか、あのお方が死ぬるこの城が終わる時は、おいらの命も道連れです。 そのような自殺行為を出来る筈がない」と帽子屋は答える。
「へぇ…」
そう呟いて、綺麗に整え、透明のマニュキアを塗ってある桜色の爪先を唇に当てるとウラは首を傾げて囁いた。

「つまり、その答えって奴は、お前だけじゃなくて、城の住人全員が知ってて、あいつに黙ってるって事で良いのかしら?」

ウラの問いかけに、竜子がまず目を見開いた。

「みんな…知ってる?」

掠れた声の問いかけに、ウラは肩を竦め「頭を使いなさいよ、この薄ら馬鹿が。 ちょっと考えれば分かる事でしょう? この城は、あの腑抜け王の心そのもの。 つまり、この住人たちだって、あの王の心に属するものには違いないのよ。 みんな同じ成り立ちの生き物。 この『帽子屋』だけが、王を殺せる答えを知っていて、他の者が知らないと考える理由の方が見当たらないじゃない? みーーんな、お口にチャック。 それが本当。 お前女王なんて呼ばれてても何にも知らないのね」と事も無げに答えた。
金蝉が驚いたように眺めてくるのを心地良く感じ、ウラは若干胸を張る。

「さて、なぞなぞ…なぞなぞ…、つまり、それは、あの腑抜け野郎の気持ち次第。 あいつの気持ち一つなのに、あいつは気付かない、いえ、気付いていないフリをしてるの? 認めたくないのよ。 そう、何かを認めていないって事。 何を認めてないの? 何を認めたくないの? ベイビー。 それは子供の領分ね。 頭の固くなった大人には、クヒッ、百年経っても分からないわ」とウラは驕慢な声で一人呟いた。

「ああ…つまり、そうよ、ベイブが認めたくないのは、『時の魔女』への本当の気持ちなんだわ。 そうでしょ?」

ウラの言葉に、帽子屋の体が大げさなまでにビクリと震えた。
「当たりね?」

ウラが子供に相応しくないような、嫣然とした笑みを浮かべた。
帽子屋は、何も言わずに頷いた。

「クヒヒッ! ほらね? お見通し! まぁ、私はもう、子供じゃないけど…クヒッ、このなぞなぞは、きっと、私の取り分よ。 ねぇ、帽子屋? 答えが分かったって言ったら、お前、信じる?」

金蝉も、竜子も、帽子屋ですらポカンと口を開きウラを見つめた。
帽子屋が震える声で問いかける。

「では、問います。 お嬢さん。 王様の、時の魔女への『本当の気持ち』は…一体何?」

その瞬間、突如目の前に大きな青い硝子の扉が出現し、ギ、ギギギと軋んだ音を立てて、開け放たれた。

「新しいお客人が来なすった」

帽子屋が嬉しげに声を上げる。
ウラはいいところで邪魔された事が気に喰わず、「大詰めね」とつまらなそうに呟いた。


扉の向こうから現れたメンツは、皆、そこそこ見覚えのある顔ばかりでその中でも一際、ウラには縁深い男の顔を見つけ、「ほうら、やっぱり来ちゃった」と胸中でつまらなさそうに独白する。

「ようこそ!」


人を嘲るような、朗らかなのに油断ならぬ声。
帽子屋の第一声に、扉から訪れた面々が一斉に顔を向けた。


「ひい、ふう、みぃ…嬉や、嬉し! 是ほどのお客人は珍しい! しかも、ジャバウォッキーやっと来てくれた! アンタはホントに罪な男さ! 何度も招待状は送っていただろう?」

そう言いながら何処か猟奇的ですらある声音で帽子屋が詰る相手は、この前此処を訪れた際に顔を合わせた記憶のある、黒須とかいう男だった。

確か竜子と同じく、このイかれた城の住人だったはずと何とか記憶を手繰り寄せる。
どうも、この新たな客たちは、竜子を救出に来た面々らしいとウラは察し、楽しい時間の終わりが近づいて居る事を寂しく思った。

黒須は帽子屋に対し「へっ」と鼻を鳴らすと、「毎回毎回、贈り物と称して趣味の悪いもんまで一緒に送りつけやがって。 あんな招待状で誘い込まれる奴なんざいるかよ」と告げた。
黒須の声に反応して顔を上げた竜子が、顔をくしゃくしゃに歪め「誠!」とその名を呼ぶ。
「待たせたな」
ひらひらと手を振る黒須に「馬鹿野郎! おせーんだよ!!」と竜子が喚いた。
「お陰でアタイの体の節々はもう限界だ! 老人だ! 老人と海だ! うん! 疲れすぎてて、意味が分からない! あと、もう、精神的にも限界越え! だって、怖いし!! 隣に座ってる人怖いしぃぃぃ!!」
そう隣を指差しつつ怒鳴る竜子を、「う る せ ぇ」と地獄の底ボイスで金蝉が脅している。
前回、玉座の間で束の間顔を合わせた蒼王・翼が「…随分とご機嫌で」と、金蝉に疲れたような声を掛けていた。
「おかげさまでな」と、険しい表情のまま獣が唸るような声で金蝉が答える。

そして、翼のすぐ隣に立つ若い男に視線をスライドさせると、「あれ? ここ、アラスカ?」と問いかけたい程に、金蝉の周りの温度が冷え込ませた。
なんだか、男女の諍いの匂いがプンプンするが、状況は今、それどころではない。
ウラは、「若いっていいわね」なんて、自分の年齢を忘却の彼方に置き去りにするような事を考えつつ、視線をデリクに向ければ、帽子屋が嬉しげに声を張り上げた。

「相変わらずジャバウォッキーはつれないなぁ! つれない、つれない! まぁ、いいや。 今は麗しきお客人を招いているからね」
そう帽子屋が言いながら、こちらを指し示してくる。
ウラは待っていましたとばかりに、スポットライトの当った女優さながらの表情で、デリクを見つめながら口を嬉しげに開いた。
「デリク! あら、残念。 とうとう見つかってしまったみたい! 帽子屋! ねえ、このスコーンと、マカロンを包んで頂戴? あと、ストロベリーとクランベリーのジャムはそれぞれ瓶詰めにしてね? 瓶には薔薇色のリボンと、桜色のリボンを結んでそれぞれ区別がつくようにしなさい」
そう傲慢なのに愛らしい声で帽子屋に命じ、ウラがにこりと微笑む。
そして、新たに現れた客の面々に自分でも取っておきだと思える声を出した。
「ごきげんよう! お前達!」
澄んだ声で挨拶し、「クヒッ」と引き攣った声で笑う。
「ああ、ウラ! また、こんな所に一人で遊びに来テ!」と言いながらスタスタと帽子屋の脇を抜け、デリクがウラの元へと歩み寄ってきた。
「危ない目に合ってモ、知りませんヨ?」
そう言いながら手を伸ばしてくるので、その手をピシャリと叩き落とし「デリーィク! 減点だわ、その口の聞き方! また子ども扱いね? いつになったらデリクにとって私は一人前にレィディになれるのかしら?」とウラは不機嫌そうに頬を膨らませる。
「その点帽子屋は紳士よ? ヒヒッ、ねぇ、お前達、音楽を変えて頂戴。 辛気臭いのはイヤ! 華々しい音楽に変えて? そうね…ドヴォルザーク! それも、謝肉祭がよくってよ?」

昂然とした言葉。
だが、ウラの佇まいはその我が儘をどうしたって叶えてやりたくなるような、そんな魅力に満ち溢れている。
帽子屋が「仰せのままに、お嬢様」と笑みを含んだ声で了承し、ふいと指をひらめかせば無人の楽団がまさにお祭り騒ぎと言って良い、派手な音を奏で始めた。
目を細め満足げに頷きながら薔薇の花弁が浮かぶ紅茶を口にし、ウラは「さぁ、お前達も席に着けば良いじゃない? スコーンは焼き立て、サンドイッチには、新鮮なスモークサーモン、お茶は摘み立ての薔薇の香りよ? 味合わない手はないわ?」と唆す。
「お褒めに預かり恐悦至極。 シェフにも、お嬢様のお言葉を伝えさせてもらいまさぁ」と帽子屋はにいっと牙のような歯を剥き出して答えた。
デリクは、目を細めて「随分とウラに良くしていただいたみたいデ、ありがとうございマス」と礼を述べる。
「いえいえ。 おいら達も、美味しそ…っと、いやいや、可愛らしいお嬢様とお喋りができて、こんなに楽しい時間は滅多とない!と喜んでいる次第。 さぁて、旦那様も席にお掛けなさいな。 あぁたは、どんな椅子がお好みで?」
帽子屋がパチンと指を鳴らせば、今自分が腰掛けている「ドリス」と同じく「トットット」と音を立てて、幾つもの椅子がその四つの足を交互に動かし走り寄ってきた。

「オディール、ガゼット、エカテリーナ、メヌエ、ジョセフィーヌ! さぁ、並んだ、並んだ、別嬪さん達!」
そう呼ばれた椅子たちは、それぞれ全く違うタイプで、樫の木で出来た重厚な椅子もあれば、革張りで如何にも座り心地の良さそうな椅子、近代デザイナーが手がけているようなインテリアとしても通用しそうなお洒落な椅子等々がピッと行儀良く長テーブルの周りに並ぶ。

「さぁて、お客人方好きな子を選んで下さいな」

首を傾げて問う帽子屋に竜子が「お前、今度は何考えてんだよ?」と唸り声を上げる。
「また、妙な仕掛けがあんだろ? どうせ、この椅子みてぇにな!」
竜子の怒鳴り声に帽子屋は肩を竦め「まさか、まさか、女王様? どうして、おいらの事をそんなに疑うようになっちまったんだろう?」とわざとらしい嘆きの声を出した。
だが、今の自分の状況を鑑みても、あの椅子共にも何らかの仕掛けがあると考えるのが普通だろう。
同じ考えに至っているのか、デリク達も決して椅子に座ろうとはしない。
「何にしろ、このお茶会から女王様を帰して欲しいのならば、お客人としておいらにもてなしさせて貰うか…そうさなぁ…ジャバウォッキー?」
掛けられた声に、黒須が顔を向ければ、「あんたが、女王様の代わりに此処に客として残るかい? それでもおいらは一向に構わないぜ? 素敵な時間を約束してやるよ」と、言いながら黒須へと歩み寄る。

帽子屋の声は、あながち冗談ではない偏執めいた響きがあり、どんな「素敵な時間」が繰り広げられるのか想像するだけでゾクゾクがする。 猟奇的嗜好の強い帽子屋の事だ。 竜子に対してはそれでも、未だ危害めいたものは加えてこないが、黒須に対してもその態度が守られるとは言動からも到底思えなかった。 
黒須は帽子屋から「熱狂的」に憎まれている事をウラは朧気に察する。
(人間関係っていつも難しいものね)
どうでもいいせいもあって、軽くそう自分の中で片付けると、そんな事よりも今から目の前で、どんな面白い見世物が見られるかの方を大事に思った。

だって、この世界。
この展開。
この状況。

私の魔術師が主役じゃない筈ないじゃない?


黒須は自分のすぐ目の前に立つ帽子屋の、己よりも頭一つ分低い場所にある顔を見下ろして「さぁて…、竜子どうするよ? お前の身代わりに俺に残れだとよ」と声を出した。
竜子が間髪入れずに叫んだ。


「誠はやらない!」


怒りに満ちたその声は明瞭な響きを持って、ウラの鼓膜を震わせる。
黒須は唇を捻じ曲げキュウッと目を細めた。
その表情は、幸福そうにも見えたし、哀しそうにも見えた。

「だとよ。 女王様の仰せだ。 ただの『門番』には逆らえねぇよ」
帽子屋は黒須をじいっと見上げて首を振る。

「そりゃあ、どうかな? ジャバウォッキー! あんたは、おいらの椅子に座る。 座らなきゃ、女王は返してやんない。 あんたが、おいらの招待を受けるってぇんなら、此処で捕まえてある客人も、他の奴らも無事返してやるさ。 なぁ、お座りよジャバウォッキー。 オディールならば、夢見心地の座り心地、エカテリーナは刺激的、ガゼットならば熱い抱擁! さぁ、どの子が良い? ジャバウォッキー?」

黒須は「どれも御免だ」と吐き捨てて、そして振り返りもせず叫んだ。

「さぁ、詐欺師の魔術師! お前の出番だ」


待ってたわ!! デリク!

もし許されるならば、大喝采と、手を壊れんばかりの拍手を送っていただろう。

デリクが「Okey-dokey!」とワクワクしたような声で返事をし、スタスタスタと歩いてくる。
途中、エマと、モーリスの隣で立ち止まり、如何にも意味ありげな表情で、何かを囁いていたのがやけに気になった。
(さぁ、どんな魔法を見せてくれるの?)
デリクが今からどうやって、あの油断ならぬ帽子屋をやりこめるのか、楽しみすぎて、全身が痙攣する。
デリクは、まず両手を広げ、「ハロー、ハロー、ハロー? 帽子屋さん、ジャバウォッキーと遊ぶ前に、私の相手をしてくれませんカ?」と首を傾げた。

まるで、羽を広げた悪魔のようだった。
黒い服装だからか、非現実的な世界でデリクは、益々非現実的な存在感を増している。


「ジャバウォッキーと取引したのですかい? お客人」
帽子屋が笑いながら問うた。
「エエ。 この先行き不透明な昨今、一寸先は闇と言えどモ、未来の自分を知りたいと願うハ、どなたも同ジ。 当るも八卦、当らぬも八卦な占い稼業モ、一向に廃れる気配はありまセン。 私とテ、一介の小市民。 雑誌の占いページを、毎回、毎回、アテにならぬと知りつつも、気になり覗いてしまウ程には、自分の未来に興味がありマス」
滑らかな口調、貼り付いた微笑み。
翻弄するような言葉の波を楽しげに聞き、帽子屋も負けじと口を躍らせる。
「白雪! 彼女を強請りなすったか! そりゃあ、お客人中々手強いものを所望なさる! 彼女は王様の言う事しか聞かぬ強情女! 惚れた、腫れたは世の常なれど、一途を極めりゃ物狂い! あの女から欲しい情報を欲しいように引き出すなんてぇなぁ、至難の技ですぜ?」
芝居がかった口調の応酬にウラの興奮は最高潮を迎え、ヒッヒヒックヒッと引き攣った笑い声が間断なく漏れた。
ふと隣に視線を送れば、自分の腰にしっかりと手を回しているロゼットに「てめぇ…いつ放すつもりなんだ?」と低く唸る金蝉の姿が目に入る。
だが、ピクリとも腕を動かさないロゼットの様子にウラは呆れ、「よっぽど気に入られてんのね」と言ってやれば、金蝉が「はあ」と深い溜息を吐いた。

そんなしみったれた溜息なんて、どうしてこんな面白い見世物を前に吐いていられるのだろうと不思議に思いながら、二人の舌戦を固唾を呑んで見守る。

「強情な女を、舌先で溶かすなんテ事、男として生まれたからにハ、是非、チャレンジしてみたいゲームじゃありませんカ?」
「確かに、お客人の舌先ならば、白雪の雪の如き冷たき心ですら溶かせそうだ! さぁて、しかしお相手をと所望されても、おいらは御覧の通りのつまらん男でして、お茶以外に貴方を持て成す術が御座いません」
「いえイエ、お気遣いなく、帽子屋サン! こうやって、お話しているだけで、私としては大変有意義な時間を過ごしておりまス。 折角、直接あなたにお招き頂いた身ですかラ、取るも取り合えず、御礼を申し上げたかったですしネ?」
そう言ってデリクの笑みが深くなる。
デリクの言葉を中々聞き逃せない台詞であると感じたウラは、二人の間に口を挟んでみる事にした。
「直接? どういう事かしらデリク?」
ウラが宙に浮いている足を揺らめかせ、興味なさ気に問いかける。
「ウラ? 君は、どうやって此処に来タんだイ?」
そう問い返されて、ウラは得意げに肩をそびやかした。
「間抜けなデリク。 私は、貴方が球体の硝子詰めにして保存してあった『異空間』を通ってよ来てよ?」
「イケナイ子ダ。 前回此処に来た際にまた直ぐに来られるよう、道筋を残しておいたのが失策だっタ! さぁて、では、更に質問ダ、お姫様? どうやって、硝子に詰めた異空間を見つケ、どうやっテ、この深層まで辿り着いたんだイ?」
ウラは、「クヒッ」と笑い、焦らすように口を噤んだまま周囲を見回すと、「呼ばれたの」と囁くように答えた。
皆が、デリクとウラを注目している。

愉しい!
愉しい!!

なんて、愉しい!!

「呼ばれタ? 誰ニ?」
「兎よ? デリク」
白雪との約束を守り、彼女の名を口にしないまま、ウラは兎と彼女を呼んだ。
だが、ウラは分かっていたのである。

デリクは、全部お見通しって事を。

「硝子詰めの異空間の隠し場所はサイテーだったわ。 あんな高い場所に置くなんて、私が手が届かないと思ってたんでしょ? でもね、お生憎様。 兎の手! 硝子の中で大暴れ! コロンと揺れて落ちてきた。 硝子が高い場所から落ちたらどうなる? デリク」
「割れますネェ、硝子ですもノ」
「そう、割れて出て来た異空間の向こうから、真っ白な手が私を手招いたの。 後は分かるわね?」
「エエ。 勿論。 私のアリス! 兎の穴に飛び込んでお城に辿り着いた貴女ヲ、此処まで案内したのはどなたですカ?」
ウラは笑って答える。

「当然、『兎』よ! 『真っ白』なね?」

謎かけめいたウラの答え。

デリクはクルリと帽子屋を振り返り、「さても素敵な招待状。 ウラがこちらに来た以上、私もこちらの世界へ彼女を追ってこなければなりませン。 貴方の差し金ですよネ? ウラを『兎』に、ここまで案内させたのハ。 貴方が招きいれたのでなけレば、この森に通じるあの硝子の扉は開かなイ」と冷静な言葉を並べ立てる。
帽子屋はニヤニヤ笑ったまま一度頷く。
「その通りですぜ、お客人。 だって、こんな場所で、どんなお祭りをしでかそうとも、客は誰も寄り付いちゃあくれないんです。 おいら、人一倍寂しがりなもんだから、ついつい貴方の大事なお嬢さんを此処に招待しちまった。 とはいえ、随分と楽しんで貰えたようだし、傷一つつけぬよう、大事に、大事に持て成させて頂きましたぜ?」
「ええ、本当にありがとう御座いまス」
デリクは一度にこりと笑い、その笑顔のままで「さァ、貴方の目的はなぁニ?」と問うた。
「目的? さぁて、何のことやら」
帽子屋がはぐらかす。

ウラは、二人のまさに化かしあうようなやり取りを見ながら、それでも一つの結論を得ていた。

つまり、これは、自分を餌にして「デリク・オーロフ」という「魔術師」を此処に呼ぶために仕掛けられた罠であったという結論を。

「ウラを此処に連れ去り、私ヲこの城へ呼んだ理由。 それは、私が此処に来ル事で、何が起こるかを考えれば自ずと答えが出まス」

「発狂現象」

翼が呟く。

「ご明察! 私が来れバ、王様狂ウ。 前回の騒ぎは、ここの住人にとっても一大事だった筈。 貴方だって当然ご存知だっタ。 王様の一大事となった、魔術師の事もネ?」

デリクが笑いながら帽子屋に問いかける。

「だから『兎』を使っテ、私を此処まで連れて来タ。 後は待つだケ! 王様が私の存在に気付キ、発狂するその時ヲ。 私はジャバウォッキーとの取引で、貴方のお相手をしておりまス。 貴方も同じく、『兎』と取引をしタ。 兎、兎、何見て跳ねル?」

ウラが甲高い笑い声をあげた。

「アハハハハハハ! 流石よデリク! 全部、お見通し! 兎が跳ねる! 月見て跳ねる! 兎は、だ あ れ ?」

「白雪!」

黒須が叫んだ。

彼女を知らぬらしい金蝉が首を傾げれば、竜子が「ベイブの大鏡だ。 この世の事をなんでも見通す女なんだが、どうにもベイブにベタ惚れで、事ある毎にあたいを敵視してきやがんだ」と説明し、それから眉根を困った風に下げる。
そうか、竜子は白雪に嫌われているのか。
これで全て説明がつく。
「白雪が一枚噛んでやがんのか…」
そう呟く声には怒りよりも戸惑いの色の方が濃く、「頭にこねぇのか?」と金蝉が問えば「ううん…いや、だって、あいつさぁ…なんか、すげぇ、一生懸命だし…」と、顔をくしゃっと笑みの形に崩し、「憎めねぇんだよ」と竜子は言った。

お人よしの、大馬鹿女。
ウラは呆れたように胸中で呟きく。
金蝉が、「お前、人生楽しいだろう?」と聞いていた。
竜子はキョトンとした後頷いて「何で?」と問うているのに益々呆れる。
竜子のように、誰かを厭うたりする頭すら持って生まれてこなければ、逆に色んな事が単純に受け止められて、楽に違いないと思えども、じゃあ竜子が羨ましいかと問われれば、「いや」と即答できる自分がいる訳で、何にしろ、自分とは全く別種の生き物だと、ウラは再認識する。

黒須が、「あんにゃろ! お前とグルか!」と帽子屋を指差せば、「お前のせいだよ、ジャバウォッキー!」と帽子屋がやり返した。

「女王とジャバウォッキーが来てから、なぁんも面白い事なんかありゃしない! 王様は、イかれてた頃はさいっこーだった!! 毎日、毎日、人間共を酒の肴に血みどろになって楽しくお茶会をしていたというのに! ジャバウォッキー! お前を傍らに置くようになってからは、俺の事を城の奥底に閉じ込めて、見向きもしてくれなくなった!」

喚き、飛び跳ね、歯をむき出しにする帽子屋の狂気めいて凶暴な姿にウラは嫌悪感を抱く。

「お前が憎いよ、ジャバウォッキー! あんまり憎いもんだから、指の先から生きたまんま、少しずつ齧ってやりたい位だ! ああ、そうしてやったらどんなに愉快だろう! 全部、全部、長い時間を掛けておいらの胃袋の中に納めてやりたい。 泣き叫んだって許してやらない! 一番痛いとっときの方法で、一番苦しめてやる」

言い募る声には暗い熱。
だが黒須は受け流すような涼しい顔をしている。
「白雪は、そこまで知ってんのか? お前が、そこの魔術師使ってお前を狂わせようとしている事までな?」
「まさか! あの女はベイブ様命! あのお方の今の正気を喜ぶ立場にある事ぁ、ジャバウォッキーも知ってんだろ? ただ、恋に狂った女ほど、愚かで扱いやすい生き物もない。 おいらの舌先三寸で誤魔化し、騙して、ここにそこのお嬢さんを案内してくれたに過ぎない」
「見返りハ、竜子さンですよネ? 白雪さンは、随分と王様にご執心の様子。 傍にいる女王様を憎んデ、一時的にでも彼女を王様から引き離したくテ、貴方の口車に乗ってしまっタ」

白雪のベイブの事を放す時の、酷く一途な様子を思い出す。
女はバカね。
ウラは嘯く。
でも、バカだから可愛いのよね。

帽子屋は、デリクの問いかけに、再び拍手喝采、喜んだ。

「その通り! 流石、流石、流石の魔術師様々だ!」
そう言いながら帽子屋が手を打った。

鼻白んだような声で「おい、つまり、俺はアレか? 白雪だかなんだか知らねぇが、馬鹿な女が、あの馬鹿な王様だかなんだかのせいで、この馬鹿な小娘嫉んで、そこのキ印野郎の口車に乗ったせいでこうなってるって訳か?」と、余りに馬鹿馬鹿言いすぎて主語がどれなんだかも分からなくなりそうな台詞を金蝉が口にする。
そういや…何で金蝉は、このお茶会に参加させられてるのだろう?

自分が招かれたのは思惑が絡んでの招待だと理解したが、金蝉は何の意味があってこの場にいるのか?
金蝉は前回、ベイブの発狂を抑えるのに一役買った功労者だ。
わざわざ意図的に呼び込むとは考え難い。


その瞬間、ふっと皆の間に沈黙が落ちた。

無人楽団が奏でる謝肉祭が最高の盛り上がりを迎える中、帽子屋が、今までになく物凄く殊勝気な声で「いや、そちらのお客人は運悪くというか、多分、異空間の穴やら、でジャバウォッキーが援軍を呼び込む為に開けた入り口等の影響で、唯々偶然このお茶会に迷い込んじまっただけかと…」と言えば、「ああ…」と皆それぞれに納得やら、溜息やらの入り混じった声を気の毒そうに吐き出した。

が、金蝉からすれば、堪ったもんじゃないだろう。

金蝉は虚ろな目をしながら、それは、それは、恐ろしい静かな声で、ただ一言「……もげろ」と呟き、その呟きを耳にした者々の間に「え? 何が? 何を? 何を、もぎたいの?」と、その意味の分らなさと、意味分からない割にかなり具体的に怖い台詞選びに戦慄が走り抜ける。
黒須が青ざめながら口を開く。
「うし、分った。 何やかやこれで、辻褄は合った。 まぁ、それは、今はもう、この直面している危機に比べれば瑣末な事だ! とりあえず、あいつは解放しろ。 なんか、もう、闇雲に世界の平和の為に、解放しろ」といえども、帽子屋は帽子屋で一心不乱に首を振りながら「解放したら、終わりじゃない? これ、逆に解放したら、その時点でおいらジ・エンドじゃない? ていうか、もがれるよね? 最初に、もがれるよね?って、そもそも、何をもぐの?!」とかなり的確な判断を下す。
金蝉といえば、これはもう、カタストロフの序曲としか思えないような不吉っぽい術の詠唱に既に突入しており、翼が必死の声で「我慢だ! 金蝉我慢しろ!! もぐのは早まるな! そうだ、帰ったら、ほら、美味しいもの作るから! あ、ウィスキーあるよ? 焼酎も! あと、もうじき、知り合いが、春鰹を送ってくれるっていうから、それをタタキにしてあげるから!!」と、お菓子で子供の癇癪を宥めようとする母親の如くの声音で、思い留めさせようとしている。
以前、アンティークショップでの事件において一緒に行動した事のあるモーリスが、相変わらずの穏やかな微笑を浮かべながら「とりあえず、もげても、私、元に戻せるんで…ガンバッテもげて下さい!」と黒須にガッツポーズを見せ、「あ、俺もお前の中ではもげ要員なんだな」と黒須が冷静な声で突っ込んだ。
「と、とにかく、もがれるのはご勘弁! 全ての目論見そこの魔術師様に見抜かれちまわぁ、後は口封じしかござんせんや! 折角の楽しい楽しいお客人達。 一思いにもてなしちまうのは、至極残念極まりないが、これも一期一会の世の常だ! さぁ、別嬪さん達! ダンスの時間だ!」
帽子屋がそう宣言し指を鳴らせば、今度は楽団が陽気なジャズのダンスナンバーを奏で始める。
音楽に合わせるかのように、先程帽子屋に呼び込まれた椅子共がそれぞれ不穏な行動を見せ、針やら、熱やら、毒ガスやらを身にまとって、新しい客人連中に攻撃を仕掛けようとした。
ウラが座っているドリスも、彼女を座らせたまま身を震わせ、何か仕掛けようという気配を身に帯びるが、それよりも早く、ウラは、林檎のパイに手を伸ばしつつ「…木片に変えるぞ?」と低い声で脅す。
「てめぇ、何チョーシくれてんのか知らねぇが、私相手にあの腐れアマ椅子共みてぇに逆らってみろ。 楽に壊れられると思うなよ? 生まれてこなきゃ良かったと思う位の、無残な姿に変えてやるよ。 キヒッ、じっくりと時間を掛けてな…」
そう囁いて、甘いパイ生地に齧りつく。
ウラ好みの、脳天にまで響きそうな甘さだ。
にっと笑って頷くと、パクパクとパイを口に中に納め中がら、ウラは唄うように囁いた。
「私は今日は機嫌が良いんだ。 椅子は椅子らしく、私に座られていれば、見逃してやるよ。 感謝しな。 だけどね? もし、歯向かってきたら…」
そこで言葉を止めて足をぶらぶらと揺らめかせば、ドリスはウラの言葉にガタガタガタと、大きく震え、それから後は、本当に「ただの椅子」のように、微塵も動かなくなった。
満足げに頷いて、今度は、砂糖漬けのチェリーが入った瓶に手を伸ばす。
「あら、これも美味しい。 クヒッ! レシピを教えてもらおうかしら?」
そう呟いた後に、周囲を見回せば、それぞれ他の者々も、自分の能力で攻撃を仕掛けてきた椅子を倒していた。

帽子屋に目を向ければ、彼はデリクと相対したまま唆すような声で囁いている。


「…つまり、お客人。 貴方ならこの城の主になる事だって可能なんですぜ?」

帽子屋の言葉にもデリクは表情を換えず、微笑んだまま「ウラ? この城欲しいですカ?」とウラに問い掛けてきた。
ウラは、一瞬悩めども、「クヒッ」と笑い声をあげ「いらないわ! こんな辛気臭い城! 時々遊びに来るから良いんじゃない。 バカンスの為の場所は、バカンスの為に存在するべきよ」と言い、それから、ひょいと椅子の上に立ち上がる。
陽気な音楽に耳を澄ませ、やはり、生演奏に勝る音はないと確信した。
「良いわね。 ジャズってもっとつまらない音ばかりかと思ってたけど、これは気に入ったわ。 デリク、ねぇ、踊っても良い?」
そう言いながら、足を伸ばしテーブルの上にウラが立つ。
デリクは盛大に眉を潜め、「お行儀が悪いですヨ。 ウラ」と咎めながらも、自分もひょいと長い足を駆使し、軽い調子でテーブルの上に上がると「家では禁止」と言い、そしてウラに向かって両手を広げてくれた。

そんな風にされたなら、私としては、デリクの胸に飛び込む以外、何が出来て?

嬉しげに笑いながら、極彩色の料理の数々や、ケーキ、お菓子を蹴散らし、ウラがデリクに飛びつく。

さぁ、お腹も一杯になった事だし、もう、淑女はお家に帰る時間だわ。


謎々の答え。
お茶会の終了の合図。

鏡の国のアリス。
彼を捉えた女の名前。

帽子屋。
白兎。
薔薇園。
たくさんの奇妙な住人達。
トランプの小人。

そして、チェス。

まるで、ここは、アリスの不思議な国。

だけど、千年王宮は「ベイブの心を反映したお城」。

つまり、この城は、ベイブを呪った女を模した城なのだ。
ここは、ベイブが望んだ世界。
ベイブは、アリスを望んだ。


ベイブはアリスを望んだ!!


【では、問います。 お嬢さん。 王様の、時の魔女への『本当の気持ち』は…一体何?】

そんなの簡単だわ? 帽子屋。
私をナめて貰っちゃ困るのよ。


「お茶会は終了よ。 帽子屋! 私、デリクと一緒にお家に帰るわ。 謎々の答えは、『愛している』! そうじゃなくって?」
帽子屋の全身が硬直するのが傍目にもよく分かった。
全てお見通しのデリクが、先生が生徒を褒める声でウラを絶賛した。
「正解! 賢いウラ!」と言い、そして指をパチンと鳴らして、「ほら、聞こえてきましたヨ」と宣言する。


「愛している」

その瞬間何処からもなく、ベイブの声が、その場に響き渡った。

これは、どんな魔法?
そう思いデリクを見上げれば、デリクは得意げに笑ってウラを見下ろす。

ベイブのその声音に、帽子屋が、いや、その場にいる城の奇妙な住人達が全て恐慌状態に陥いる。

無人の楽団が、ギイギイとひっちゃかめっちゃかな音を出し、足元を走り回っていたトランプの小人達がめいめいに悲鳴を上げて逃げ惑う。
無表情に鋏を握りしめていた三月兎も、まさしく脱兎の如く逃げ出していた。

帽子屋が「ひいいい!」と悲鳴を上げて逃げようとするその周りに光の檻が現れた。
見れば、薄い花弁のような瞼を閉じ、白い両手に淡い光を宿らせているモーリスがいる。
デリクに視線を送れば愉しそうに笑っていて、全て彼の仕組んだとおりに事態が進んでいる事をウラは確信した。

見回せば、狂った光景。
不協和音。
耳障りな悲鳴。
ぐちゃぐちゃのテーブル。

イかれたお茶会!

デリクがウラの耳に囁いた。

「ダンスを見せテ。 ウラ」

「それは、お願い?」
「そう、お願いだヨ」
「じゃあ…今度のお休みには『メリィ』に連れてってくれる?」

ウラが見上げれば、一瞬思案するように指先を顎にあて、それからデリクは頷いた。

「OK! 私の魔術師!!」

ウラは快く了承し、滅茶苦茶な音に、壊れたような笑い声をあげ、出鱈目なステップを踏み始める。

心がどんどん興奮の坩堝に陥り、笑い声も息苦しいほどに止まらなくなり始めた。

「クヒヒッ、ヒヒッ、ヒヒヒッヒヒヒヒッ!」

お腹を押さえ、黒髪を乱し、机の上で、Dance! Dance! Dance!

ウラが踊るその爪先に、ビリビリと稲光のようなものが走り、振り上げる指先にもその光が宿るとデリクは楽しそうに叫んだ。

「ウラ! ウラ! ウラ! よおおおク、狙っテ? よーーーーォい、ドン!」

その瞬間、デリクの合図に合わせて、鋭い雷を落とす。

轟音と、眼を開けていられないほどの稲光の中、ウラは笑い続ける。

「キヒヒヒヒヒヒヒッ、アハッ、アハハフッフフフアハハッハハハハッアア!!!」


そして突如口を噤むと、小首を傾げ囁いた。

「はい、おしまい」

視線を下げれば、感電し、気を失っている帽子屋が倒れているのが目に入る。

無様ね。
でも、デリクに負けたんだもの、仕方がないわ。

金蝉が一歩一歩、それはそれは、人を圧迫するような空気を撒き散らしながら倒れている帽子屋の元へと訪れると「もぐぞ?」と一応の許可を求めるが如く、黒須に目を向けた。
「あ、どうぞ」
多分咄嗟にだろう、そう返事をしてしまった後で、「え? いいの? もぐの、良いの?」と誰にでもなく意見を求める。
竜子がうううんと、両腕を伸ばし、固まってるらしい体をバキバキとほぐしつつ「いいんじゃね?」と軽い口調で言った。
「もう、大絶賛もいでもらおう」
余りの言い様に、エマが慌てて、「ちょ、ちょっと待って!」と声を上げる。
「え、えーと、それよりもね? ここは、ハンムラビ法典にならって、目には目を…って事で…」といいつつ、金蝉と帽子屋の間に入り、帽子屋を何とか抱え起こそうとするのを、「手伝います」と言いつつ夜神がひょいとその体を抱え上げた。
「ありがとう」
エマが礼を述べて、帽子屋を先程まで竜子の座っていた場所に座らせれば、流石というべきかエマが何を望んでいるのか察したらしいモーリスが、三月兎の手を引いて、椅子の脇まで連れてくる。
「ハイ、首チョッキンゲーム、再開です」
地面に落ちている鋏を握らせ、そうモーリスが耳元で囁けば、コクンと兎少年は頷いた。
帽子屋の足首に、竜子が巻きつけられていたらしい拘束具を装着し、「…これで如何かしら?」とエマは、額の汗を拭いつつ言えば、流石に金蝉の「帽子屋のどっかもぐ姿」を見たくなかったらしい面々が「おお」と感心の声をあげだ。
(あら、残念)
そう心の中で呟いて、だけども、このトンチキなお茶会の幕切れとしては、中々のものかと納得する。

金蝉が、「何でもいい。 とりあえず、ここから今すぐ出せ」と唸り声をあげ、足音荒く出口へ向かう背中を見て、ウラはデリクの腕に手を回すと「約束を忘れたら、貴方も黒焦げよ? デリク」と微笑みかけた。


さて、黒須に、「帽子屋と対決する代わりに、白雪に会わせて欲しい」と取引を持ちかけていたデリクが、彼女に会わせて貰っている間、ウラは、玉座の間にてデリクがこの城に侵入している事がバレぬよう、その注意を引く役を仰せ付けられた。

「という訳で、はい、これ!」

胸をそびやかしながら、玉座にだらしなく座っているベイブにウラは砂糖漬けのチェリーを押し付ける。

「本当は、スコーンが良かったのだけれども、うっかり全部蹴っ飛ばしてしまったの。 そいつだけは、持ち出せたんだけど、まぁ、お前にやるわ。 感謝なさい」

そう昂然と告げれば、「…どうして…お前がここに…」と問い掛けて、「ああ…まぁ、理由などないのだろうな…」と一人勝手に納得して頷いた。
ウラはにいと笑い「分ってるじゃない。 どうして?なんて問いかけが私には無意味って事をね」と満足げに頷くと、ベイブが持っている瓶の蓋を勝手に開け、毒々しいまでの色合いのチェリーを一つ摘み上げて口の中に放り込んだ。
「旨いわ。 クフッ…お前も食べな?」
そう言いながらもう一粒つまみ上げ、ベイブの膝に身を乗り上げるようにして、チェリーを薄い唇に押し当てる。
首を傾げて「あーん」と言ってあげれば、無表情のままベイブは唇を半開きにし、その果実を口の中へと迎え入れた。
表情を変えずに咀嚼したベイブは、「甘い」と囁く。
ウラは笑って「だから、旨いのよ」と答えると、唐突にベイブも分っているのだ、と悟った。

謎々の答え。

この呪いから解放される手段。

心そのものである城に住まう者々が皆知っている「死の手段」。
きっと、ベイブも分ってる。
だけど、認められないのだろう。
その愛を。

可哀想なベイビー。

ウラは、酷く艶やかに微笑み、その真っ白な頬を一度ゆっくりと撫でる。

ベイブは目を閉じて、コトンと首を仰け反らせた。

「チェリーはもう一粒いかが?」

ウラが優しい声で問い掛ければ、何も言わずにベイブが口を開くので、まるで雛鳥に餌をやる母鳥のような気持ちになって、ウラはもう一粒その、真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な果実を白い唇の中に、押し込んだ。





それから、一週間後。

「聞いてないわ、デリーーク!!」
そう喚くウラの前には、ハートのケースから溢れんばかりの「メリィ」のお菓子と、そして山積みの参考書。

「ご褒美と、お仕置きでス」

留守番を放棄し、勝手に千年王宮へと向かった事を咎められ、ウラは机の前に齧り付きにさせられていた。
見習い魔術師に魔術学教えるテキストブックから、中学生の数学やら科学の参考書まで、たっぷり積み上げられた本を目の前に、ウラは頭を抱える。

「ううう、デリーーク! こんなもの永遠に終わる気がしないわ!! 私をこんな目に合わせてただで済むと思ってるの?!」

そう喚けども「頼んだ事を素直にやってくれなかったウラが悪いんでショ? それに、約束は守りましたヨ?」と言いつつ、ウラのキャンディボックスから、チョコレートを一つつまみ上げ、金色の包装紙を剥いて口の中に放り込む。

ニコと微笑んだデリクは、ウラの座っている椅子の背もたれに手を置いて、その耳元で「そのテキストブックを、ちゃんと全部終わらせたら、今度はピクニックに連れてってあげまス。 だから、桜が散る前に、終わらせるんだヨ?」と、詐欺師の声で唆した。
ウラは振り返りつつ、「私相手に、そういう手が通用するって思わない事ね?」と片眉を上げて告げると、にっと笑って、「ピクニックには、ローストビーフのクラブサンドウィッチと、キャラメルカプチーノ、それに、帰りのディナーも勿論セットにしてね?」と首を傾げて重ねて強請った。


fin




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
【2916/ 桜塚・金蝉  / 男性 / 21歳 / 陰陽師】
【7038/ 夜神・潤  / 男性/ 200歳 / 禁忌の存在】
【2318/ モーリス・ラジアル   / 男性 / 527歳 / ガードナー・医師・調和者】
【3427/ ウラ・フレンツヒェン  / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【3432/ デリク・オーロフ  / 男性 / 31歳 / 魔術師】


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■         ライター通信          ■
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お久っぶりです!!
よくぞ、「女王様失踪」に御参加いただきまして有難う御座います。
ライターのmomiziで御座います!

3年ぶりのOMCのお仕事に戸惑いつつも何とか書き上げさせて頂きました。
ご参加くださってる方も、皆さん、現役の頃にご参加くださった方々ばかりで、
私は何たる幸せなライターと、忘れられずにいた、幸せを噛み締めております。

本当に本当にありがとうございました!

僅かばかりでも腕前が上がっていればいいのですが、何にしろ発注して良かったとおもっていただける作品を仕上げる事が私の最大の使命だと思っております。
また、ちょくちょく窓の方は開けさせていただきたいなーと考えているので、その際は再び遊んでくだされば幸いです。

それでは、momiziでした。