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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


「武彦さん」

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OPENING

零が外出して、一時間が経過。
テーブルの上に置かれた、女性向けの雑誌。
表紙に踊る "こんなプロポーズ" の見出し…。
武彦は、おもむろに雑誌を手にとり、パラパラとめくる。
(結婚…なぁ…)

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「すみません、草間さん。小麦粉って…どこでしたっけ」
キッチンから、ヒョコッと現れて尋ねる香織。
今日も今日とて、香織は興信所で、お手伝い。
零はデートで外出している為、所内には武彦と香織だけ。
夕食の準備をしている香織は、可愛らしいエプロンを着けている。
「小麦粉…どこだっけかな。えーと…あ、棚の奥だ。右奥」
「わかりました。ありがとうございます」
「零が動かしてなければだけどな。あったか?」
「あっ。ありました」
「そか」
小麦粉を見つけ、調理へと戻る香織。
どうやら、今晩のメニューは天ぷらのようだ。
下拵えの済んだ、エビやイカ、あなご、ナス、かぼちゃなどが見える。
揚げ物が好きな武彦にとっては、嬉しいメニューだ。
手際良く調理を進めていく香織を見つつ、
武彦はソファに持たれ、再び、手に取った雑誌を見やる。
結婚に関して、あれこれ掲載されている特集ページ。
そこには、こんなプロポーズが良いなぁとか、
人気の指輪など、女性観点で "結婚" が記されていた。
中には、夢を抱きすぎだろ…と苦笑してしまうような記事も。
武彦はパラパラとページをめくりつつ、
なるほどなぁ、と頷き、真剣に見やっている。
じゅわわーと、天ぷらを揚げながら、香織は、そんな武彦をジッと見やる。
真剣に読んでる…かと思いきや、時々、クックッと笑ったり。
楽しそうに見えるけれど…何を読んでいるんだろう?
香織は、チラチラと武彦の様子を窺いつつ、調理を済ませた。

「ど、どう…ですか?」
不安気な表情で尋ねる香織。
香織が尋ねているのは、料理の出来栄えだ。
武彦は、わっさわさと天ぷらを口に運び、
「美味いよ」
嬉しそうに、そう答える。
食いっぷりから、美味しいことは明らかだが、
それでも香織は不安なのだ。
お口に合わなくても、草間さんは優しいから…。
きっと、何も言わずに食べてくれる。
もしも、そうだったら…とても悲しいから。
もしも、そうだったら…もっと料理上手にならなくちゃ。
そう思うから、聞いてみるんです。
最近、気付いたことがあって。
草間さんは、嘘をつくとき、左の眉が上がるんですよね。
癖…とは少し違うのかもしれないけれど。
うん…美味しいっていうの、嘘じゃないみたい。良かった…。
興信所に出入りするようになって数ヶ月。
まだまだ、わからないことだらけ。
けれど、その中で、香織の武彦に対する想いは大きくなっていくばかり。
ちょっとした癖だったり、好物だったり、
武彦のことを少しずつ知っていく毎日。
その生活に、香織は幸せを感じている。
淡く微笑み、嬉しそうな香織。
そんな香織を、武彦はジッと見やる。
武彦の口からは、エビの尻尾がピョコンと…。
その姿が何だか可笑しくて。香織はクスクス笑った。
「草間さん、子供みたい」
「失敬だな。オトナの男だよ。俺は」
もしゃもしゃとエビの天ぷらを食べつつ言う武彦。
子供みたい、という言葉にムキになって即答してくることが、
それこそ子供っぽいような気がする、と香織は笑う。口には出さないけれど。
目を伏せ、微笑みながら食事する香織。
香織を見つつ、武彦はボンヤリと考える。
香織は…何歳だっけか。
十九?いや、十八か。
十代か…どうなんだろうな。
まだ、そういうことは頭にないだろうか。
「香織」
「はい?」
「お前、結婚ってどう思う?」
「え…?」
「結婚願望とか」
「えっ……」
突然の質問に驚き目を丸くする香織。
それに加えて、質問内容が…。
香織は気恥ずかしくなり、俯いて返す。
「どう…でしょう。素敵なことだとは思いますけど」
香織の、その返答に、どこか安心を覚える武彦。
武彦は、安心を覚えた勢いで続けた。
「じゃあ、俺とするか?結婚」
「………」
カチャン、と箸を落としてしまう香織。
慌てて箸を手に取り、香織は頬を赤らめる。
な、何を言い出すんでしょうか。草間さん。
結婚って…草間さんと、私が?
私が、草間さんの奥さんに?
それって…それって…。
困惑、頭の中が、ちんぷんかんぷん。
グルグルと回る、もやもや感に俯く香織。
しばらく悩んだ後、香織はハッと気付く。
「…冗談、ですよね。そうですよね」
やたらと真剣に捉えて考え込んでしまったが、
普通に考えてみれば、ありえない話だ。
香織にとって、武彦の存在は、
言葉で言い表せないほどに大きい。
そんな彼が、自分に結婚する?だなんて言ってくるわけがない。
冷静になれば、すぐに気付くことだ。
香織は、ふぅ…と息を吐いた。しかし。
「本気だったら、どうする?」
武彦は、ジッと見つめながら言った。
冗談なんだと理解したはずなのに、
武彦の言葉は、一瞬でそれを払い、
再び自分を困惑へと落としてしまう。
箸の使い方が、とても綺麗な香織だが、しどろもどろ。
なかなか天ぷらを掴めない。
逃げる(逃げているわけではないが)天ぷらを追いつつ、香織は呟く。
「…あの、えぇと…私なんか…草間さんに釣り合わないですから」
自分を卑下するのは、彼女の癖だ。
武彦に寄せている想いが確かだと確信しても、
口に出して伝えようとしないのは、その所為もある。
自分なんて、武彦には釣り合わない。そう思うが故に。
香織の言葉に武彦はクスクスと笑う。
それは、お前が勝手に思ってるだけ。
俺の気持ちは、どうなるの?
そんな言葉を立て続けに吐かれ、香織は沈黙。
最初は…軽い感じだったのかもしれない。
どう思っているんだろう。
結婚について。
その想いから、軽く尋ねてみたのがキッカケ。
けれど、いつしか。武彦は妙な感覚に気がついた。
本気だったら、どうする?という言葉を発した時から、
何だか、妙に…自分が必死になっているような気がして。
何をやってんだかな、俺は。
まだ十八だってのに、結婚なんて。
いや、でも年齢なんて関係ねぇか。
いやいや、それもどうだ。
っつうか…香織…真っ赤じゃねぇか。
どんどん俯いて、考え込んでいる香織を見つつ、武彦は笑う。
ひとりよがりなとこが、あったな。
いや、自分でも何だかなぁとは思ってんだ。
メシ食いながら、結婚する?なんて、
ムードのカケラもねぇしな。
さっき読んだ雑誌、何の為にもなってねぇじゃねぇか。
何やってんだか、俺は。
うーんうーん、と悩んでいる香織に声を掛け、武彦は言う。
「悪い。いいよ、もう考えなくて。困らせてごめんな」
「へ…あ、いえ。その…」
「まだ早いよな。さすがに」
「えっと…その…私、草間さんに釣り合う女になりますから」
「あははっ。オーケィ。期待してるよ。所で、さ…」
武彦は苦笑しつつ、一つの要望を口にした。
香織が放つ "草間さん" という言葉に、
武彦は、どうにもくすぐったいような…そんな感覚を覚えていた。
同時に、何だか酷く他人っぽいような気もして。
要するに、その呼び方は、やめてくれないかということ。
これから、ゆっくりと。お互いを知っていく上で、
俺は香織、と呼び捨てにするのに、
香織は、さん付けだなんて。何だかおかしいだろ?
武彦は、これからも仲良くしてくれるなら、
その証として、武彦と呼んでくれないかと言った。
戸惑い、恥ずかしそうにするも…武彦の頼みなら、と。
香織は、その要望に応じる。
「武彦…さん」
「はい。何ですか?」
初めて名前で呼ばれ、ニコリと微笑む武彦。

何気ない一言から。二人の仲は進展。
これからも、こうして。
ゆっくり、一緒に一歩ずつ、歩んでいけたら良いね。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

7440 / 月宮・香織 (つきみや・かおり) / ♀ / 18歳 / お手伝い(草間興信所贔屓)
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは。いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

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2008.05.16 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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