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ＩＮＮＯＣＥＮＣＥ // 熱烈ラブコール
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ＯＰＥＮＩＮＧ
セントラルホールで、ウロウロしている人物がいる……。
見慣れぬ人物だ。お客さんかな？と思ったけれど。
腰元に、魔銃が確認できる。
それは、イノセンスのエージェントである確固たる証。
新入りさんか。どこに何があるのか理解らなくて困っているのかな。
そう思い、歩み寄って声をかけた。
先輩として、当然のことだと思った。
純粋な親切心から、手を差し伸べた。
まさか、そこから受難の日々が始まるだなんて知るわけもなく。
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「はぁ………」
自室で一人、大きな溜息を落とした蓮。
憂いの理由、それは、とある女の子。
恋わずらいだとか、そういうことではなくて。寧ろ、逆？
マリカという名の、新入りエージェント。先週、組織に加入した新入り。
彼女に声をかけたのが、受難の始まりだった。
女の子に声をかけて、それを後悔したのは、初めてかもしれない。
蓮を悩ませている理由、それはマリカの熱烈ラブコールにある。
マリカいわく、一目惚れ、だそうだ。
組織に入ったばかりで、心細かったからというのも少なからずある。
あの日、蓮は、いつものように微笑みながら声をかけた。
「どうしたの？ 大丈夫？」
キョロキョロしているところを見ると……何かを探してるとかかな？
結構広いからね、本部。慣れるまでは大変でしょ。俺も、そうだったからさ。
どこに行きたいの？ レストラン？ ライブラリー？ バスプレイス？
案内してあげるよ。大丈夫、遠慮なんてしないで。ちょうど退屈してたし。ね？
優しい、その言葉に甘えるカタチで、本部内を案内してもらった。
グルリと一周して、その後は、誘われるがまま、一緒に食事をとった。
一目惚れなんて、ありえないって思ってた。
でも、本当にあるんだ。だって、こうして、今、ドキドキしてるもの。
ねぇ、蓮くん。私ね、イノセンスに入って良かった、って心から思ってる。
ううん、違うね。 そうじゃないわ。そうじゃなくて、えぇと。
そう、これは運命なのよね。 あなたと出会う為、私は、ここに来た。
あなたが導いたのかな。 あなたに導かれたのかな。
ねぇ、蓮くん。私ね、今、すごく幸せよ。あなたに会えて、本当に良かった。
優しい言葉と笑顔、それに心を射抜かれたマリカの暴走。
声をかけた、その日。 蓮は、既に後悔していた。
向かいあって食事をしている最中、ビシビシと感じる熱い眼差し。
初めのうちは、と言っても、本当に一分やそこらの間だけれど、
嬉しいな、光栄だな、俺に興味持ってくれてるんだ？ って思ってた。
でも、そうじゃないんだよね。いや、そうなんだけどさ。
ちょっとズレてるんだよ。残念なことに、厄介なタイプだったんだ。
言葉を交わした、その日から始まった、マリカのラブコール。
それはもう、誰から見ても、あからさまなものだ。
やたらとペタペタくっついて、どこかに触れたり、
運命の出会いを果たしたの、などと言いふらしたり。
もはや、完全に『付き合ってる』つもりのようで。
マリカのラブコールに、悩まされている蓮。
想われるのは嬉しいよ、そりゃあね。ありがたいことだとも思う。
でも、さすがにね。ここまで電波な子は、ちょっとね……許容外っていうかさ。
正直、面倒くさいんだよね。いちいち付き合うのが。
だってさ、完全にトんでるよね、キミ。
すっかり彼女気取りでしょ。 見つけたら、すぐさま近寄ってくるし。
口を開けば、運命だから……って言うし。しかも頬を赤らめて。
残念なことにね、可愛いなぁだとか、そういうの一切ないんだ。
勘弁してよ。もう疲れるよ。面倒くさい子は嫌いなんだよ。
ゲンナリしている蓮だが、もう一つ、気がかりなことがある。
本物の（というと何か微妙だが）彼女である、梨乃の反応だ。
これみよがしに、ペタペタしてくるもんだから、誤魔化しようがない。
まぁ、梨乃も状況を把握しているようで、不機嫌になったりはしないけれど、
この状態がいつまでも続けば、嫌でも不貞腐れてしまうだろう。
マリカに付き纏われてから、蓮と梨乃は、デートが出来ていない。
さすがに、そろそろマズイと思うんだ。
嫌なんだよ。梨乃ちゃんを失うとかさ、考えられないの。
スパッと、はっきり断るなり迷惑だからと伝えるなりすれば良い。
それは理解ってる。けれど、また厄介なことに、
素っ気なくすると、マリカは「酷い……」と声を震わせて泣き出すのだ。
酷いのはどっち。泣きたいのは、俺の方だよ……はぁ〜あ。
顔は、可愛いんだよね。だからこそ、もったいないとは思うんだ。
そういう性格じゃなければ、是非ともガールフレンドにしたかった。
さぁて、どうしたもんかな、これ。
気のある素振りを、ちょっとでも見せたらオシマイなんだよね。
こういうタイプは、一気に燃え上がっちゃうからさ。
放置ってわけにもいかないし……そろそろ、精神的にもキツいし。
ちょっと可哀相だけど、はっきりさせなきゃね。
彼女の為にも、俺の為にも。
「あ、あの。これは一体……」
「いいから、いいから」
「……えぇぇ」
セントラルホール、ソファに並んで座る蓮と梨乃。
呼び出されて来てみれば、蓮は、すぐさま手を引き、自分を膝の上に乗せた。
後ろからギュッと、包む込むようなハグ。
行き交うエージェント達に、やたらと茶化される。
恥ずかしくて堪らず、俯いたまま頬を染めている梨乃。
何を言っても通じないなら、態度で示してやればいい。
諦めさせることが出来る（かもしれない）上に、梨乃の機嫌もとれる。
一石二鳥な手段だ。これ以上の手段は、思いあたらない。
これで駄目なら……マスターに相談とかする羽目になるかな。
梨乃をギュッとしつつ、苦笑していると。
二階から、物凄い勢いでマリカが降りてきた。
（おっ。来た来た）
泣きそうな顔をしているマリカへ、見せ付けるように。
梨乃の耳や首筋に、軽く口付けていく蓮。
唇が触れる度、ビクリと梨乃の肩が揺れる。
ユデダコのように赤くなっている梨乃に笑いつつ、蓮は告げた。
「マリカちゃん。俺はね、この子が好きなんだ」
確かに、キミは可愛いよ。顔はね。寧ろ、タイプだよ。
けど、それだけじゃ駄目なんだ。それとね、ここが一番重要なんだけど。
俺を独占することは、出来ないんだよ。どう足掻いても。
どうしてって？ 面倒くさいからだよ。そういうの。
じゃあ、その子は何なのって？ あぁ、彼女は特別なんだ。
俺の彼女だしね。 わかるかな。キミは、俺の彼女じゃないんだよ。
俺の彼女は、この子。 梨乃ちゃんだけなんだ。ごめんね。
心変わり？ あぁ、それも、ないなぁ。もう一度言うよ。ごめんね。
ハキハキとした口調で伝えた蓮。迷いのない言葉と想い。
これみよがしに、目の前でイチャつく二人。
さすがに、ここまでされると絶望的だ。
俯き、ポロポロと涙を零すマリカ。
どうして？ どうしてなの？
私と蓮くんは、運命の赤い糸で結ばれてるのに。
どうして？ どうして、あなたが横取りするの？
女の恨みは女へ向かう。それもまた自然の摂理。
後々、面倒なことにならぬよう、蓮はトドメをさした。
梨乃ちゃんに何かしたら、躊躇いなくキレるよ？
ニコリと微笑んで告げた警告に、一歩退くマリカ。
もう、どうしようもない。勝ち目はない。
号泣するマリカ。けれど蓮は、優しさなんて微塵も見せず。
「藤二のところ行きなよ。彼は凄く優しいよ。俺と違ってね」
そう言い放ち、思い切り、マリカを突き放した。もう二度と歩み寄ってこれぬように。
耐え切れず、ダッと駆け出し、その場から逃げ出したマリカ。
涙を飛ばしながら逃げていく、その後姿に、ちょっとした同情。
何も、ここまでする必要はなかったんじゃ。
ちょっと、可哀相すぎませんか、蓮さん……。
マリカの背中を見やりつつ、複雑な表情を浮かべて呟いた梨乃。
いいんだよ、これで。 こうしないと、延々と続くからね。
そんなの、俺が堪えられないからさ。いいんだよ、これで。
「じゃ、行こうか。梨乃ちゃん」
「はい？ どこに、ですか？」
「デート。久しぶりに。ね？」
「え、あの……」
「ほら、行くよ。オシャレな喫茶店、見つけたんだ」
「は、はい」
言われるがまま、手を引かれて駆け出す梨乃。
そんな顔しないでよ、梨乃ちゃん。 俺、複雑だよ？
ここはさ、素直に喜んで欲しいな。そうじゃないと、俺、切ないよ。
大丈夫だよ。きっと今頃、藤二に優しく介抱されてるだろうから。
まぁ、藤二には迷惑なことしちゃったかもだけど。彼なら大丈夫でしょ。
きっと、適当に（悪い意味じゃないよ？）付き合ってくれるよ。
彼を見込んでこその押し付けだからね。うん。
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７４３３ / 白月・蓮 （しらつき・れん） / ♂ / ２１歳 / 退魔師
ＮＰＣ / 白尾・梨乃 （しらお・りの） / ♀ / １８歳 / ＩＮＮＯＣＥＮＣＥ：エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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２００８．０７．０１ ／ 櫻井 くろ （Kuro Sakurai）
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