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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


【東京衛生博覧会 前編】



長く美しい黒髪が、真っ赤な血溜まりとなっている床に散らばり、たゆたっていた。
裸の背中をぺたりと強化硝子に預け、黄色い陰険な眼差しを虚ろに彷徨わせている姿は、哀れよりも怖気を誘う。
杭が打たれた胸からはトロトロトロと細い筋となって血液が流れ出る。

血の気をなくした唇を、薄く開いたまま浅い呼吸を繰り返す。
黒須誠は、下半身が大蛇という、本性を晒したまま強化硝子の檻の中で生死の縁を彷徨っていた。

心臓に、 杭が刺されている。

黒須は日没後、瀕死時に本性に変身するという一時的「不死」に目をつけられ、死の縁に縫いとめられたまま放置されつづけていた。

「蛇ちゃん、辛そうでしゅねぇ?」

ねっとりとした、鼓膜を蛞蝓が這うような口調。
強化硝子で出来たケースに閉じ込められた黒須の前に立つ男は、その出自も、経歴も、本名すら誰も知らず、ただ「Dr」とだけ周囲の人間に呼ばれていた。

キメラ開発の第一人者。
人間と動物の融合生物を生み出す禁忌の研究に手を染めた、マッドサイエンスト。

「うひっ、ほらご覧よぅ、狐ちゃん。 ほらね、あんな状態でも生きてる」
男がそう言う相手は、まさに狐。
Drの隣に立つ背の高い美女の耳は銀色の狐の耳に改造され、小さな形のいいお尻の尾てい骨からはふさふさとした狐の尻尾が揺らいでいる。

キメラ。
K麒麟が独自の技術として開発した、獣と人を無理矢理融合させた、歪な生き物。
女は身体をくねらせ、自分よりも頭二つ分ほども背の低いDrの腕に無理矢理絡まると、ちらりと黒須に嫌悪と侮蔑の入り混じった視線を寄越してくる。
「ずっとお薬で体を夜の状態のまま留めているから、夜行性の蛇ちゃんは眠れなくてお疲れでちょ? 大丈夫でしゅよぉ? 明日には、蛇ちゃんの新しいご主人様を見つけてあげましゅからねぇ?」

Drの言葉に億劫げに視線を上げれば、益々嬉しげに笑い「優しい飼い主さんに当たればきっと一思いに楽にしてくれましゅ」と事もなげな調子で言う。

「蛇ちゃんは、とっても醜い生き物でしゅから愛玩動物にするには適しましぇんが、その髪と皮だけは、上等でしゅ。 きっと、良い『材料』になりましゅよ。 鱗なんか、バッグにしても、良さそうでしゅねぇ」
うっとりとした目で眺められ、背筋に冷たい汗が浮かんだ。

ここは東京新名所、青山に新設された超高層ビル「メサイア」の倉庫内。
このビルの最上階フロア。 普段は、セレブリティがエグゼクティブな時を楽しむ為に利用する高級スカイラウンジとして名を知られた「背徳」にて、明日不届き極まりない催しが企画されていた。
まさに、背徳という名の会場で行われるに相応しい、新興の中国マフィアK麒麟主催「人身」のオークション、「K花市」。
「K花市」では、研究の産物である「キメラ」や、K麒麟が世界中から攫ってきた「人以外の知的種族」が、 年一回開催される「K花市」にてオークションに掛けられて、余り趣味の宜しくない金持ち連中に、法外な価格にて、 不埒な目的で買われていた。

「まぁ、あの一つ目の『化け物のガキ』のように何か特技でも持っていれば、使い道もありましたが、 無芸で、研究材料としても扱い難い蛇ちゃんは、組織で飼うにしても、厄介なだけでしゅからねぇ、明日、他のキメラ達と一緒に売り飛ばしてあげましゅ」
そう言いながらペタリと硝子に手を這わせ、まじまじと黒須を覗くDrの異様に大きな目玉を見返して、黒須は凶暴な眼差しでDrを睨み返した。
Drは首を傾げ、それから笑う。
にっと唇を裂き、Drは唄うように言った。
「どっかに欲しいという買い手がいたのか、何かに使うつもりだったか知らないけど、命がけでポンコツ攫って、すぐに壊れちゃった上、こんな風に自分が捕まって…本当に蛇ちゃんは、お馬鹿さんだなぁ…。 大体、あのガキは僕が散々手術による延命処置と、劇薬の投与をし続けていて、そもそも限界だったんでしゅ。 あとは、肉食キメラの餌にでも…」
「黙れよ」
ふいに黒須は口を開いた。
平静な、全くもって平らな声だったので、Drは少し驚いたように固まって、黒須を見返す。
「どうせ、薬や、後ろ盾がなきゃ、誰ともまともに口すら利けねぇような分際で、おこがましくもべらべら人の言葉を語るんじゃねぇよ。 耳が腐らぁ」
黒須はツイと唇を片端だけ上げて皮肉な笑みを見せ、下から掬い上げるように陰惨な視線でDrを睨みつけると「気持ち悪ぃよ。 あんた、吐き気がする」と言ってのけた。
異形の不気味な生き物に、「気持ち悪い」と罵倒されDrは無表情のままヒクヒクヒクッと数度痙攣する。
「狐ちゃん…」
軋む声でDrが女を呼んだ。
「…僕の…靴が…汚れてるみたいでしゅ」
そう口にした瞬間、躊躇うそぶりもなく女は跪き、Drの革靴に舌を這わせる。
舌先で、無心になったようにDrの靴を「磨く」女の姿に、黒須が眉を顰め、視線を逸らすのを凝視しながら、錆付いた声で「ね? よく、躾てあるでしょ?」とDrは囁き、その懐から禍々しく黒光りする銃を一丁取り出した。

「すぐに、蛇ちゃんも、こうなるように、躾てあげる」

Drが黒須を見つめたまま引き金を引く。
鼓膜を凶悪に揺さぶる銃声。

「っ!」
制止の声すら間に合わなかった。
女のふくらはぎが撃ち抜かれ、悲鳴をあげながら顔を上げた額に、躊躇いなく、視線も向けず、Drは2発目の弾丸で穴を穿つ。
美しい顔を強張らせたまま倒れる女に、Drは「黒須を見据えたまま」何発も弾丸を撃ち込む。

そのヒステリックな有様、そして音に黒須は知らず目を固く閉じ、耳を両手で塞いで身体を折り曲げていた。
銃声が止み、それでもカチカチカチッと狂ったように引き金を引く音が暫らく続き、それから完全な無音になった。
黒須の微かに荒い息の音のみが倉庫内に響く。
どれ位じっとしていただろう?
薄っすらと目を見開けば、無残な姿と成り果てた女の姿が目に入り「あぁ…」と吐息交じりの声を零して黒須はずるずると背中を硝子に預けた。
「あぁ…」
沈痛の面持ち。 視界からDrの姿は消えていて、黒須は「畜生…」と小さく呻く。
そのまま、後頭部を「コン」と音を立てて後ろの硝子にぶつけた瞬間だった。


ドン!!!!!


硝子が強く叩かれて揺れた。
「ひあっ!!」
黒須の全身が跳ね、喉から絞り出すような悲鳴が洩れた。

「あーあ、結構狐ちゃんはお気に入りだったのに、蛇ちゃんのせいで、お肉になっちゃいました」

ドン!!!!!

「まぁ、いいでしゅ。 これで、ゲージが一つ空きました」

ドン!!!!!

「新しく人魚ちゃんも作れるようになったご褒美に、何か一つ欲しいものあげるってボスに言って貰ってたんでしゅよ。 僕、本当は明日搬入される『薔薇姫』を一匹貰うつもりでしたが、やめました」

ドン!! ドン!!!!

「蛇ちゃん。 僕の研究室にいらっしゃい。 僕が新しいご主人様になってあげましゅ」

全身をカタカタと震わせながら、黒須はそろり、そろりと視線を横に滑らせる。
ふいに、黒須の背後から硝子に手をつきべったりと壁面に横顔をつけ、目を爛々と見開きながら此方を見ているDrと目が合う。

血走った目。

悲鳴じみた声をあげそうになり、ヒクリと一度黒須は喉を震わせる。
硝子越しにDrは爪を立て、黒須の頬の辺りをカリカリカリと引っ掻いた。
分厚い硝子一枚挟んだ向こうに、黒須はこの世の地獄の淵を見る。

「舐めた口利きやがって。 生まれてきた事を後悔させてやるよ」と優しい位の穏やかな声で囁いて、

Drはそれから、唇をニイィッと裂いた。


SideA
【デリク・オーロフ編】


「コーヒーは豆から淹れたものじゃないと、やっぱり飲めたもんじゃないね」

心地良い我が家の、心地良いソファーに、視覚的に全く心地良くないものが鎮座している姿を、朝寝起き一番に発見したデリク・オーロフは、弟子でもあり、同居人でもあるウラ・フレンツヒェンから「絶対似合うから!」とゴリ押しにてプレゼントされた、「着ぐるみパジャマシリーズ・ワンコ編」を着込んだ、若干、いや、どう贔屓目に見てもMAXレベルに間抜け可愛い姿のまま、「おはよウございマス」と、驚嘆すべき冷静さで挨拶をする。

このクソ暑いのに黒いタキシードを着込み、自律神経狂ってんじゃないかしら?と疑いたくなるような姿で熱いコーヒーを啜っているのは千年王宮の住人道化師だった。

ヒラヒラと手を振って、「ハロー? ハロー? ハロー? ご機嫌はいかが?」と問い掛けられて、とりあえず、英語講師の身としては「この時間帯なラ、Good mourningが正解です」と、とりあえず注意し、それから、周囲を見回して、肩を落とす。
デリク・オーロフが、栞代わりに千年王宮に残してあるガラス詰めの異空間。
前回、その栞のせいで、ウラが千年王宮に招かれ、デリクが帽子屋と論戦を繰り広げる騒動へと繋がった訳だが、デリク・オーロフ程の男なれば、千年王宮に残してきた「異空間」が、前回ウラや道化師達に使われた王間に仕込んだ一つきりな訳はない。
図書館に一つ、薔薇園に一つ、あと、何かの際に利用しようと、前回足を踏み入れた深層域にも一つ残してある。

が、少しばかりデリク、今回は自分の貪欲さを後悔した。

つまり、「千年王宮内」の事を全て把握している白雪にかかれば、あの城に残した異空間の場所等お見通してあるのだろうし、そんな白雪と組めば、彼が残した異空間の穴を辿って道化師が、この自宅に出入りする事等簡単極まりないという事になるわけだ。


「道化サンがここにいらしていて、ウラがいなイ…という事ハ…」
デリクの言葉に、カップをソーサに戻すと、「流石に察しがよくて、気持ちが良いや! が、今回は、彼女の意思だぜ?」と道化が言えば、デリクも頷く。
「そもそモ、彼女に無理強い出来る者など、この世におりまセン。 あの王宮は、彼女のお気に入リ。 それニ…」と、くんと、鼻を蠢かせ、「チョコレートの匂いダ。 彼女の十八番の一つでス。 手作りお菓子を持参しテ、攫われたなんテありえまセンからネ」と言いながら、デリクは自分の分のコーヒーを入れにキッチンに向かう。
「で、今回は何があったんでス?」
ウラが自分の意思で向かおうが、そうでなかろうが、結局大事な彼女が、人質に取られているような状況には前回同様変わりはないのだ。
面倒なやり取りを、喰えない相手とするような気力は、寝起きという事もあって湧いて来ず、とっとと話を進める事にする。
「嗚呼、本当に話が早くて、気持ちの良い相手だ魔術師殿は! こんな時でもなければ、もっと色々と語り合いたい事が多々あるのだがねぇ」
そうあながち冗談とも思えない口調で詠嘆する道化師に、デリクは眉を顰めつつも、声は大変陽気に「全く、同感デス!」と返事を返す。
「それに、中々のファッションセンスだよ! その寝巻きは、本当によく似合ってる。 そういう趣味かい?」と言われるに至って、デリクは、少しだけ陰険な色を含んだ視線で道化を射ると「お褒めに預かり光栄デス」と、声のトーンは変えずに答えながらも、慌てて着替える為に、自室に直行した。

垂れた犬耳フードも可愛いパジャマを荒々しく脱ぎ捨て(そして脱ぎ捨てたままだとウラに叱られるので、きちんと畳み)、私服に着替えアイスコーヒーを片手にリビングに戻った所で、インターフォンが鳴らされた。
首を傾げるデリクを置いて「おお、来なすった!」と声をあげ、玄関に走っていく道化師を思わず見送る。
「…エ?」と首を傾げれば、「お邪魔しまぁす」の声と共に、まず、草間興信所の超絶有能事務員シュライン・エマと、いかにも高そうなスーツを隙無く着こなす端麗な顔立ちの男性が、デリク宅に足を踏み入れ、道化師に案内されてリビングに顔を出した。
「あ」
エマがデリクを指差し、デリクは益々意味が分らず首を傾げ、道化師と、エマの顔を交互に見比べた後、深い、深い溜息を吐く。

「ネェ、道化さン? 我が家を、勝手に集合場所にするの…やめて頂けマス?」
そう告げるデリクに、「表札に書いてあるの見ても半信半疑だったんだけど、やっぱり、ここ、デリクさんのお家なのね」と、まずエマは首を巡らせ、部屋の様子を見回し、それから「あ、とりあえず、これ、ごめんなさいね? 手作りなんだけど、お邪魔するからと思って…」と言いながら、風呂敷包みを渡してくる。
「今回は、夏という事で水饅頭! 保冷剤入れてきてあるから、まだ冷たいはずだし、美味しいから、是非是非」と言うエマに、「あ、じゃあ、俺も途中で買ってきたんですけど、これ、エマさんお勧めの煎餅屋の、醤油煎餅です」と、デリクに手渡し、それから、数秒顔を合わせて「初めまして。 兎月原正嗣と言います」と、蜂蜜めいた甘い声で、なんともタイミング的には奇妙だと言わざる得ない初対面の挨拶をしてくる。
デリクもとりあえず「ア、コチラこそ、初めましテ。 私、都内英語教室にて、講師をしておりマス、デリク・オーロフと申しマス。 以後、お見知りおきヲ」と丁寧な挨拶を返した後、再び数秒沈黙し、思わずといった調子で「おかしくない?」と兎月原が呟くのに、大いに頷いて「おかしいですヨネ」とデリクも答える。
確かに、世間一般から鑑みても、こんな初対面は奇妙すぎる。
「大体、どうして、我が家が分ったんでス? っていうか、私の事をご存じない人が、どうして我が家ニ? エマさんだって、私の家だとは、知らずに此処まで来たようデスシ」
そう問うデリクに「えーと、私達は白雪嬢に案内されたのよ」とエマは答え、ポーチからコンパクトを取り出して見せた。
「もう、映ってないんだけどね、このコンパクトに白雪嬢が映って、ここまで道案内してくれたの」
そんな器用な事が出来るのか…と感心しかけ、彼女にこの所在地を教えたのは、この中で唯一デリクの自宅住所を知っている、道化師に違いないと思い至り、「個人情報漏洩の問題がそこらかしこで取り沙汰されている昨今だというのに、なんて非常識な!」と内心憤慨する。
「『映し身』は、体力を使うからね、そうそう、長時間は出来ないんだよ」
そう道化師は言い、それから「まぁ、立ち話もなんだし、座ったらどうだい?」とデリクの家にも関わらず勝手にソファーを薦めてくる。
まぁ、実際、手土産も貰った事だし…と、デリクはウラが好んでいる為に、冷蔵庫に常備している冷やした麦茶を硝子の器に入れて出し、手の中で温くなってしまったアイスコーヒーを換わりに冷蔵庫に仕舞いこんだ。
流石に朝から連続して思いがけない客人が訪れた事に対し、さしものデリクといえど動揺せずにはいられなかったが、千年王宮に関わる出来事は、いつだって始まりは唐突で、否応なしである事が多い為、早々に事態に抵抗する事を選択肢から外す。
エマや、兎月原という面々が、我が家に招かれている以上事態は、知らぬうちに取り返しのつかない所まで進んでいるのだろう。 勝手に自分を巻き込んで…、と判断すると、エマの手作りのよく冷えた水饅頭を、朝食代わりに口の中に放り込んで咀嚼し、糖分を摂取する事によって、いつもの頭の回転速度を取り戻す事に専念した。


「……で、道化さんとしては、私達に、黒須サンを救出して欲しい…と、いう事ですカ?」
デリクの言葉に、「ふん!」と鼻息で答え「まぁ、借りは、きっちり返して貰うつもりだがね」と道化師が唇を捻じ曲げて言う。

あ、この人、余程、黒須の為に動いてるのが気に入らないんだなぁと理解しつつも、話を聞けば、黒須不在のせいで、千年王宮は崩壊寸前だし、ベイブは発狂間際、竜子は竜子で別メンツを動き、ベイブのお守りの為にも人員を集めているとの事で、何故、黒須救出のメンバーに自分が選ばれているのか、さっぱり、めっきり、全く理解できないのだが…と、半眼になって道化師を眺めれば、同じ気持ちを抱いていたのか「で? なんで、俺が黒須さんを助けてやんないといけないんだ?」と兎月原が道化師に問い掛ける。
「いや…まぁ、面識はあるし、話を聞いてしまった以上、救出メンバーに加わる事に異論はないが…」
そう兎月原が、麦茶の入ったグラスを片手に言うと、「異論はないんだろ?」とどこか含みを持った声で道化師は言った。
「じゃあ、助けてやんなよ。 ジャバウォッキーを。 大層弱ってるみたいだぜ? 檻の中に閉じ込められてキイキイ鳴いてんじゃないのかね? 可哀想じゃないか」
道化師が身を乗り出し、兎月原の端正な顔を間近で覗きこむ。
「胸が痛むだろ?」
兎月原は道化師の顔を正面から見返すと、それはそれは恐ろしい、見るものを凍りつかせるような笑みを浮かべて、何も答えずに、首を少しだけ傾げた。
デリクとエマは顔を見合わせ、二人の間に漂う剣呑な空気に首を傾げあう。
デリクは興味を持った事に対しては、驚異的な勘の鋭さと洞察力を行使し、真相を見抜く努力を怠らないが、興味の持てない事には、注意すら払わない性格なので、何かを明らかに含んでいるやり取りに対しても、さして気を停めることなく、「私は、まぁ、他に選択肢もない事ですシ…自宅を、作戦会議室にされてしまいましタシ……」と、若干嫌味たらしい声で言えば、全く堪えた様子もなく「君のように志のある者なら、必ずそう答えてくれると信じていたよ」としゃあしゃあと答えられる。
エマは水饅頭をカプカプと食みながら「私はやるわよ? どうせ、ここまで、ずっとあの王宮の人達に関わってきたんですもの。 それに……」と、水饅頭を咥えたまま、一瞬何かに思いを馳せ、「…今回は、関わりたいわ。 見届けたいものもあるから」というと、つるりと綺麗な形の唇の中に水饅頭を吸い込み、はぐはぐと頬を膨らませた。

「ブラボー! お三方の協力に心から感謝するよ!」
そう言いながらパチパチと小さく拍手し、次の瞬間、思いもかけないようなスピードで立ち上がると、「じゃ、後は頼んだよ?」とだけ告げて、スタスタスタと道化師は部屋を後にした。
その、コマ送りめいたスピードに、三人、一瞬呆然と見送ったあと、ふっと同時に我に帰り(投げっぱなし!!!)と胸中で叫ぶ。
「な、なんて無責任な…」
「物凄い豪快なジャーマンープレックスって感じの、投げ具合よね」
「幾ら、黒須サンを救出する事に対しては、然程やる気が出ないんだろうナーと察してあげようとしてモ、この投げっぱなし具合は、あんまりダ!」
そう口々に、道化師の無責任具合を責め合い、改めてデリクはエマと、兎月原の顔を眺める。
(まぁ…エマさんが明晰なのは確かですシ、兎月原さんも、頭の回転は早そうダ)
そう判断したデリクを裏打ちするように、「ま、とりあえず、然程時間の猶予はなさそうね。 私は、興信所の情報網を利用して、見取り図や、監視カメラ位置、電気配線位置や、通気孔構造等々建設面からの情報等、分る範囲で調べてみるわ」とエマが言えば、兎月原はスーツから携帯を取り出し、「俺が懇意にしている女性が、メサイア内にある宝飾店でオーナーをしていた筈だ。 ビル内の事なら、スタッフレベル程度には詳しいだろう。 連絡を取ってみる」と言い、ボタンをプッシュし始める。
情報収集という点においても頼りになる面々の即座の行動に、「確かに、この面々なら道化サンが、丸投げしても大丈夫と認識するのも納得デス」と、一人胸中で頷くと、デリクも「侵入と脱出に関しテハ、私もお役に立てるかと思いマス」と片手を挙げる。
「空間を歪めれば、経路の確保等は、かなり安全にできるノデ…」と告げるデリクに、初対面の兎月原がメールを打つ手を止め首を傾げた。
デリクの能力を知るエマが、「えーと、あの、ぐいーん!ってなって、うにょーんってなるやつよね」と、物凄く曖昧な説明をし、デリクも、「英語講師」の立場を貫きたい関係もあり、細部まで説明するのも面倒臭く、「ハイ。 ぐいーん!ってヤツです」と頷き返す。
二人意味無く、「うんうんうん」と頷きあう間で、一瞬途方に暮れた表情を晒す兎月原。
まぁ、「ぐいーん」「うにょーん」で、デリクの能力について理解されても困るのだが、携帯を握り締めたまま、「ぐいーん…って…」と呆れたように呻く兎月原に、「大丈夫デス。 私の、ぐいーん!にお任せアレ☆ とにかく、お二人をメサイア内に、多分、出来るだけ頑張って、無理ならゴメンネ?位の姿勢デ、無事ご案内しますカラ」と微笑んで見せる。
「うわぁ、信用できない。 此処近年稀に見る、信用出来なさ。 信用できないんですけどランキング、2008年、堂々のランク1位獲得!」と、兎月原が真顔でそう並べ立てるが、「ま、大丈夫、大丈夫」と、デリクが呑気を装いつつも、呆れる程に安全第一な性格をしている事を把握しているエマが、修羅場を潜り抜けてきすぎたせいか、冷静で周到な割には、最終的には楽天的という美点を発揮し、「じゃ、私は一旦、事務所に戻って、色々用意してくるわ」と立ち上がり、兎月原も、溜息を吐きつつも「俺も、色々準備があるから…」と、言いソファーを立つ。
「そうね…今から、二時間後に、メサイア前で集合って事で良いかしら?」
エマの言葉に頷いて、何かあった時、連絡を取り合えるように、お互いに携帯ナンバーの交換だけ行うと、デリク達は、メサイア前での再会を約束し、一旦解散する事にした。


「サテ…」
とりあえず、二人を自宅から送り出し、ソファーに身を埋めたまま、腕を組んで「まぁタ、あの子ハ…」と眉を潜めつつ呻く。

道化の話によれば、彼女は今、発狂間際のベイブを救いに、またあの千年王宮に向かったらしい。
ブランデーの香りと入り混じる、甘ったるいチョコの匂いに包まれて、ソワソワと爪先が落ち着かなく、揺らぐのを見下ろしてみる。

基本的には、動揺はしない性質だ。
人を煙に撒くのが得意だし。
計算高いところは、自分の美点だと思っている。

が。

デリクは、自分の顔を両手で覆う。
「…心配は…するデショウ?」
そのまま、ポスンとソファーに横になり、喉でうううと、犬のように唸る。

他の誰にも見せられやしない、こんな姿。
ウラにだって、絶対だ。

今の千年王宮の状況は、デリクでなくても大変危険である事は察せられる。
ベイブの心境を反映して、あの王宮がどういう有り様を見せるのか、その片鱗を(しかも己が原因で)目の当たりにしているデリクだ。

自分自身に及ぶ危険ならば何一つ怖くない。
用意は周到に、絶対の安全を確信してから動くデリクは、自分の命を守る事に対しては、かなりの自信を持っているし、ウラの傍にいる時ならば、どんな危険が及ぼうと、他の全てを犠牲にしたって、彼女を守り抜く自信がある。

が、目の届かない場所で、彼女が何か危険に合う事だけは、どうにもこうにも、耐えられなかった。
どれだけ、運も、勘も、頭の回転も良かろうが、彼女は子供で、まだ、魔女としても半人前なのだ。
前回の訪問の時よりも、今回の方が遥かに始末に終えない予感がする。

「…エマさんや、兎月原サンには悪いのですが」

デリクは、ふいに決心を付けると、ソファーから立ち上がると、自室の引き出しの奥底に転がしてあるガラス詰めの異空間を一つ取り出す。
黒須の救出なんぞとは比べるべくもなく、当然ウラの安全を守る事の方が大事だ。

「うまい事言いくるめテ連れ戻しちゃいショウ」

エマ達には、また後で、フォローを入れれば良いし、ウラを連れ戻してから、まだ何か手伝えるようであれば合流するという選択肢だってある。
道化師も大概無責任だったが、じゃあ、デリクに責任感があるかといえば、彼も負けず劣らず持ち合わせが無いといって良い人間で、状況によって自分のスタンスをコロコロ返る狡猾さを有していた。
何より自分と自分の大切な者の身が一番大事という姿勢を、徹頭徹尾貫くデリクは、ある意味潔いとも言えたが、朝一番に自室に踏み込まれ、よりにもよっての着ぐるみパジャマ姿を見られた事から見ても、今日のデリクは、どうにもこうにも、自分のペースを掴み損ねる運命にあるらしい。
美しい球体のガラスの中に詰められている異空間の渦を覗き込む。

(これは…薔薇園に隠した「穴」に繋がっている筈ですガ…)

出口の気配がやけにぐにゃぐにゃと歪んでいる。
目を細め、「つまり、城の状態が極めて不安定な状況にアル…と、いう事カ」と呟き、「ふむ」と唸って指先を顎にあてる。
普段のデリクなら行く先がどうなっているのか定かではないのに、飛び込む事等ないが、逆に言えば、見通しの効かない程危険な状況の最中にウラがいる事を思うと、想像以上に予断を許さない状況だとも言えた。
首を傾げ、頭を目まぐるしく回転させながら、千年王宮に突入し、極めて安全にウラをこの世界に連れ戻す手段を考えているそんなデリクの耳に、今まさに、彼の頭を悩ませている張本人の声が聞こえてきた。

「デリク!! デリィーク!!」

「アア、ウラの幻聴まで聞こえてきテ…。 どれだけ私を困らせたら、あの子は気が済むんでショウネ? 私って、ほら、センシティブで、センチメンタルジャーニーですから(間違った日本語)、このままだと、ストレスで胃炎とかを患ってしまうかも知れまセン」
聞く者が聞けば、白目を剥きそうな事をのたまえば、再度「デリク! 貴方に世界で一番無縁な病の心配なんてどうでもいいのよ! それよりも、こっちを見なさいよ! このあたしがこんなに一生懸命に呼んであげてるのよ!」とウラがデリクを呼ぶも、デリク、若干意地になりつつ、「…ほら、また幻聴が」と嘯く。
「大体、様式美にこだわる癖に、肝心なトコで抜けてるっていうか、ガサツ? 結構単純? むしろ、考えナシ? なウラに振り回される私は、もう、カワイソウ過ぎまス! しかも、チョコ、私の分ないシ! ないシ!!」と拳をぶんぶん振りつつ訴えれば、「はぁ」と深い溜息を吐く声が聞こえ「…冷蔵庫の二段目に…デリクの分のチョコ菓子が入れてあるから…」と若干疲れた声でウラが言う。
その瞬間クリンと笑顔で声がする方向に顔を向け「可愛いウラ! 良かった、無事デ!」と言った。

そこにあるのは、姿見で、本来なら自分の姿が映るはずの鏡面に、ウラの姿が映っている。
その後ろには、二人のやり取りに呆れたような表情を浮かべている蒼王翼と、もう一人、見知らぬ少女が映っていた。

これが、『映し身』。 白雪の能か…。

「まぁ、白々しい! 誰ががさつよ! 考えナシよ! 明日から、デリク、無事に毎日靴を履けると思うんじゃなくってよ? そして、我が家の調味料の安否も気遣うことね! 特に、マヨネーズ、ケチャップ、味噌あたりは、一気になくなると思いなさい!」
そう指差しながら喚くウラをニコニコと眺め、「革靴の味噌漬けとか、マヨネーズ和えは、美味しそうジャないのデ、やめて下さイ」と、全然切実じゃない声で頼む。
腰に手を当て、鏡に映るウラが身に纏う、涼しげな白ベースのキャミワンピースは、彼女のとっときの一枚だ。
細めの黒いリボンで、フロントも、バックも編み上げられ、レースで胸元を飾っているそのワンピースは、可憐過ぎるデザインと華奢な作りが、着るものを限定するデザインではあるが、これ以上ない程ウラに似合っている。
薔薇の透かし模様が入ったふわふわと広がるワンピースと、厚底の大きなストライプリボンがあしらわれた白いサンダルとの相性はばっちりで、黒髪に留められたキラキラと光る蝶の髪飾りも絶妙なアクセントになっていた。
「今日のコーディネートも、大変素晴らしいでス」と褒めた後、間髪いれず、「とはいえ、私に何も言わずに遠出したのハ、大減点でス。 丁度、私の部屋の本棚が、大分乱れてキタ所でス」と、そこまで言ったところで、後に続く言葉を悟ったのか、盛大に顔を顰め、それでも溜息混じりに、「しょうがないわね! 整理してあげるわ」と珍しく素直に請け負った後、「だから、あたし、まだ、帰らない」ときっぱりとした口調で言った。
目を見開き、首を傾げて、デリクは言葉を重ねるのを止め「どうしてモ?」とだけ問い掛ける。
ウラは、微笑を浮かべ、「どうしてもよ!」ときっぱり言い切ると、「だって、この城の薔薇園も、素敵なキッチンも、美しかった何もかも、今は、糞つまんない事になっちゃってるのよ? そんなの誰が許したって、この私が許す筈ないわ!」と笑いながら言い放つ。
「あたしは、あたしのお気に入りが失われる事を許さない。 そして、あたしが許さない限り、その所業が行われる事はありえないのよ。 だって、デリク。 世界はあたしを中心に回っているのだもの」

傲慢な言葉ですら、ウラの薔薇の唇から飛び出せば、予言めいて聞こえる。
我が儘も、不遜も、何もかも、ウラの言葉なら愛おしいのだ。

デリクは鏡の前に立ち尽くしたまま、目を細め、それから、「ふー」と意識せぬまま肺の中の空気を押し出す。
ウラの後ろに座り込んでいる少女が口を開いた。
「デリクとやら…、まぁ、心配はいらぬ。 燐がついておる限り、ぱわーあっぷきのこ、100体分がウラの味方についておると考えてくれてよい」
そう言い、ぐいと胸を張る燐という少女に「いや、それ心強いのか、心強くないのか、かなり微妙なんだけど…」と翼が言えば「えーと、じゃあ、フラワー! あの、炎がコロコロコロってでるやつ! あれが100本分じゃ!」と、更に「あれ、役に立つか、立たないか微妙なんだよね…」というようなアイテム名を挙げてくる。
「…是非、スター100個分でお願いしまス」と、思わず真顔で頼んでしまうデリクに、「デリクさんが、今まで見たことない位、結構必死なのは伝わってくるんだけど、繰り広げられる会話がトンチキ過ぎて、今いち真剣に聞けない…」と、翼が呻き、それから、「ふう…」と溜息を吐いた。

「デリクさん、千年王宮の状態は、今のところは小康状態を保っています。 燐が精気をベイブさんに分け与えてくれたお陰でもあるし、ウラが、ベイブの精神状態を落ち着けてくれた事も大いに役立ってる。 今、彼女は、僕達に必要なんです。 だから…」
ひゅっと翼は息を吸い、「僕が守ります。 この場にいる誰も傷付けない。 信じて下さい」と、凛とした声で言い放った。
それは、単なる自信のみならず、どこか悲壮めいた決意を秘めた声。
デリクは首を傾げて彼女を見つめる。
真っ青な美しい目が、デリクの目を見返してきた。
その、真摯な様子にデリクは、ふにゃっと唇を緩め、「コンコン」と鏡面をノックする。
「いいですヨ。 そんなに、気負わなくてモ。 ネ? ウラ」
するとウラは、「あふっ」と一度欠伸して、それから「とーぜん! 馬鹿ね。 翼。 あたしを誰だと思ってるの? 守ってもらわなくても良いなんて言わないわ。 でも、あたしが貴女も守らない理由も無くってよ?」と笑いながら言う。
「燐もじゃ! 燐がおるからには、負けは有り得ぬ! まぁ、任せておけ! すっごい、応援、するから! 前代未聞の応援をするから! 乞う! ご期待!」
座り込んだまま、それでもぐっと握り拳で、「なんで、応援だけなのに、そんなに自信たっぷりなんだ! ていうか、もう、むしろ、前代未聞の応援とか気になるよ! 見たいよ!」と言うような台詞をのたまう燐とウラを振り返り、それから再び翼は苦笑を浮かべてこちらに向き直ると「あなたの大事なお姫様、お預かりします」とデリクに言った。
デリクは、もう、何も言いようがなくて、ウラの表情を見て、連れ戻すなんて事、到底不可能だって事だけは悟って、翼がどれだけの実力者かも分っていて、燐が何だかウラとは良い友達になれそうなのも分かってしまって、だから、滅多に出さないような、心からの声で「ウラの事を、ヨロシク頼みマス」とデリクは翼に言った。


ウラの為ならば、どれ程の嘘も吐けたし、謀りも企てられるデリクは同時に、彼女の為ならば、どれだけだって真実を晒せた。


「これが、『メサイア』の見取図。 監視カメラの位置は、赤ペンで丸を付けといてあるわ」
「倉庫位置は、通常倉庫の他に、もう一つ、最上階の真下に隠しフロアがあるようだ。 俺が話を聞いた相手も、特別な客からオーダーされた高価な宝石等は、入荷後は、そのフロアに保管しておくらしい。 『背徳』では、年間を通じてK麒麟のイベントを行っている訳で、キメラをイベントの際、どの場所に搬入するか不思議だったんだが、客には知らされてない窓のない階層に一時運び込むと考えれば合点がいく」
メサイアビルの一階。
アメリカから初進出してきたという、ボリュームたっぷりなハンバーガーが売りのファーストフード店の机の上に地図を広げ、三人顔を突き合わせる。
エマが頼りになる事は重々承知していたが、意外な情報源を有している兎月原も心強い。
デリクは、小首を傾げて地図を覗き込み「穴」を空けて入り込むなら、どの場所がいいのかをまず、考える。
ベイブを救う為にウラが、千年王宮に向かい、彼が正常な意識を取り戻すのに必要不可欠であるらしい、黒須と竜子の帰りを待っている。
彼女の為に、黒須はなんとしても救出せねばならない。
確実に彼の身柄を確保し、出来るだけ攻撃を受けず、安全に脱出を果たす為には、組織の人間に気付かれぬよう、隠密行動を心がけるのが常套と言えよう。
「その、多分、この、従業員専用エレベーターから、そのフロアに行けるでしょうけど…」
「ああ、監視カメラがエレベーター内に仕掛けられているんデスネ」
「と、すると…」
そう言いながら、エマの細い指先が見取り図上を彷徨い、それからある一点を指差す。
「ここ。 この、最上階と、隠しフロアの間を通っているダクト。 ここを通れば…」
そう言いながら、ツツツと指先がダクトをなぞり、トンと、隠しフロアのある筈の箇所を指先で叩いた。
「この階に出れる。 ただ、見取り図では、この隠しフロアに何が仕掛けられているかまでは分からないし…」
「俺の知り合いに聞いても、監視カメラの位置までは把握していない…」
二人の言葉にデリクは頷いて、「つまり、この隠し倉庫フロアの情報に関しては、何もナシって訳ですカ…。 フロアに直接異空間の穴を空けて飛び込むというのは、フロアの状態を把握できない以上、論外ですし…」と顎に手を当てて思案を巡らせれば、兎月原も同じように眉を寄せ「…この通気孔への侵入口がある通路や、フロアには、軒並み監視カメラが仕掛けてあるな…」と言いながら地図を睨む。
エマは、「あああ…嫌だけど…嫌だけど、ああ、嫌だけど…」と一頻り唸り、それから「最後の手段!」と言いながら、「はい」と言いつつ、二人それぞれに紙袋を渡した。
「ん?」
「制服! 今夜、背徳で催されるオークションの、ボーイのね」
そう言うエマに、デリクは一瞬兎月原と顔を見合わせ、「オオ!」と、頷きながら手を叩く。

「確かに、この制服を着ていれバ、侵入後は目立たずに済みマス」
「ビル内をうろついていても、不審がられないだろうしな」
兎月原とそう言い合い、「よく、こんなものヲ手に入れられましたネ」とデリクが言えば、エマは顔を顰め「役に立つかと思って、興信所の仕事で知った、マニア向けの制服専門店から手に入れたの。 一応、興信所の事務員だと、こういうツテは幾らでも出来るから…」と沈んだ声で言う。
何故か、落ち込んでる様子のエマに兎月原が「どうしたんだ?」と問い掛ければ、「…スカートが…凄く短いの」と呻いて、それから項垂れた。
男性陣二人、咄嗟にエマに何と言えばいいのか見失い、無言になる。
「…太ももの、…半分、…までしかないの」
そう途切れ途切れに呻くエマ。
確かに彼女は普段パンツルックを好んでいるようで、今も細身のタイトなジーンズを形良く穿きこなしている。
そんなに落ち込むとは、よっぽどのデザインなのだろうと思いつつも、「大丈夫デスヨ。 エマさん、スタイル良いシ、何でも似合うカラ」とデリクがフォローを入れれば、「…女は…25を越えるとね…一度ドレッサーの中を総点検するの…。 それぞれの服が、自分がまだ、着ても世間に許される服かどうかを、判断する為にね? 四捨五入して30のミニスカは、超…デッドライン…っていうか、ギリギリアウト。 アウト…ゲームセット…コールド負け…。 勿論、世の中には、セーフなミニスカのデザインも確かにあるんだけど、この制服は間違いなくアウトライン」と呻くので「ほウ。 女性には、そういう常識があるんデスネー」なんて、デリクは呑気にエマの様子を眺めていたが、兎月原はにこりと彼女に笑いかけ、「楽しみだな。 エマさんのミニスカ姿」と、端正な顔立ちに色気のある笑みを刷く。
「…絶対笑うわ」
恨めしげにエマが言えば、「まさか。 エマさんを、俺が?」と目を見開き、兎月原は「有り得ない。 そんな愚かな感性を持って生まれた覚えは、俺にはないです」と真顔で言い放つ。

色 男!と、同じ男としても、真似出来ないな〜という台詞を、平気で言える兎月原に感心すれば、その瞬間、エマはぐりん!と勢い良くデリクに顔を向け、「もうさぁ! 兎月原さんとか! 翼さんみたいな人ってさぁ! どこに行けば売ってるの?!」と結構真剣な顔で訴えてくる。
「必要だと思うの! 女子には! 女子には今の時代、一家に一台、兎月原さんか翼さんが必要だと思うの!! 心が折れそうな時とかに!! 貯金、全額はたく覚悟あるわよ?」
「イヤ…知りませんヨ」
「じゃあ、異次元の穴で、私をそういう世界へ連れてってよ!」
「無理ですヨ。 ていうか、私の能力を、なんだと思ってるんですカ」
「分かった! そういう異界とかないの? 兎月原さん&翼さんを売ってます!な異界! 参加するぞ? 何をおいても参加するぞ?」
「分かったって、何も分かってないじゃないデスカ。 見たことないデスヨ。 そんなピンポイントな異界、間違いなく、持て余しますヨ」
思わず即答で、エマの望みを一刀両断!し続けていると、突然エマの携帯が鳴った。
会話が会話だったからか、びくっと大げさな反応を見せた後、エマはいそいそと手を伸ばし、携帯電話を手にする。

「もしもし…って…え? 竜子ちゃん?!」

エマの言葉に、思わずデリクも体を揺らす反応を抑え切れなかった。
「え? 今、どこにいるの? 嘘? ここの、上の階にあるホテル? な、何してるの?」

「確か…竜子さんは、あの道化師曰く、別のやり方で、黒須さんを助けようとしてるんだよな?」
デリク宅にて道化師がしてくれた説明を口にする兎月原に頷き返し、デリクはエマの会話を見守る。
「…うん…うん…分った…けど、大丈夫なの? 怪我は? 体調は? 誰と一緒なの? うん…うん…ああ…うん…」
エマが眉を顰め、心配そうに相槌を打つのを見守りながら、デリクは地図を取り上げ、制服を着て他者の目を誤魔化すとして、では、最初にどこから侵入を果たせば良いのかを算段し始めた。


「…じゃあ、気をつけてね? 無理しないように」

エマが電話を切り、一つ溜息を吐き出すのを眺めると「向こうの状況ハ?」と問い掛ける。
「…うーん…道化師さんの口振りから薄々察してたけど、今回、本当に大ピンチなのね。 何だか危うい感じがするわ。 ただ、メンバーは聞く限りじゃ、心強いメンツが揃ってるし、とにかく私達は私達の出来る事をしましょう…。 黒須さん助けださないと、竜子ちゃん達も、メサイアから脱出できないしね。 こちらのサポートとして、向こうで陽動作戦を展開してくれるらしいから、K麒麟の人達の目を引きつけてくれると思うわ」
エマの言葉に、兎月原は頷いて「じゃあ、こちらの計画を詰めてしまおう」と言い、デリクも、全ての目から死角となるような、最適な侵入口を探すべく、地図を睨み付けた。



「…写メを!」
「是非、写メを草間さんニ!!」

そう口々に兎月原と言い合えば、エマが「送ったらコロス!」と若干本気の声で言うっていうか、兎月原の携帯を取り上げようと躍起になっている。
だが、そのエマは、スカートの裾を片手で引っ張りつつ、背の高く、体格の良い兎月原の手から携帯を奪還しようとしているせいで、少し身を屈めたままピョン、ピョンと跳ねるような、不恰好な体勢になっており、兎月原は、難なく携帯のボタンを押し続けている。
タイトな光沢のある黒スカートにはサスペンダーがついていて、エマの美しい形の胸を強調していた。
白いシンプルな形のシャツは、ボタンの両サイドに縦フリルがあしらわれており、髪を纏め上げたエマのスッキリした美貌によく似合っている。
スカート丈は確かに凄く短かいが、体に張り付くエマのスタイルの良さが如実に分るようなデザインは、男からすれば「ありがとうございます」と無条件で礼を述べたくなるような光景を生み出してくれていた。
エマの珍しい格好に、デリクは滅多に発揮しない優しさに目覚め、日頃お世話になっている事もあるし、この姿を是非、恋人である武彦にも見せてやりたい等と考えてしまう。
それは、兎月原にとっても同じらしい。
「これは駄目だ! 俺達の間だけで終わらせてはいけない! 勿体無い! せめて、恋人には! 恋人には、見せてあげないと!」と言いつつ、エマが油断した隙に撮った写メを、武彦に送信すべく奮闘していた。
「ばっかじゃないの! やめなさい! ほら、その写真を消しなさい!」と喚くエマを無視して、「頑張っテ! めっちゃ頑張っテ、兎月原サン!!」と、懸命に応援するデリク。
「っ! 送信…出来た!」と兎月原が宣言した瞬間、「終わった」とエマは壁に手をつき、デリクは「わァ! でかしまシタ!」と両手をあげた。
女から見れば、「男って…バカだなぁ…」と呆れ顔で笑うしかない光景ではあるが、男の身にすれば、「お前ら、心の友と書いて、心友!」と呼びたくなるような心遣いであり、実際、武彦は、受信したメールを見て「心の友よ!」と天を仰いだらしいが、まぁ、そんな話はどうでもいい。(ほんとにね!)
「…とにかく、とっとと行くわよ……!」
そう半眼になって呻くエマにデリクは、「わァ! どうしたんですカ? 敵地突入前に、そんなに焦燥シテ。 本番はこれからですヨ! 頑張ッテ☆」と、嘘くさい笑みを浮かべてエマを応援する。
エマは、「お…おおお…おお…何か…、何か言ってやりたいけど、この人には何言ったって、無駄って事が分ってるから、もう何も言いたくない…」と呟いて肩を落とし、デリクは、流石結構付き合い長いだけあるなぁと感心しつつ、両手の痣を行使して異空間の穴をこじ開ける。
「…じゃ、行きますカ」とデリクが言えば、「かってない程に、緊張感のない敵地侵入前の心境だわ…」とエマが呻き、兎月原は「作戦的には良いんじゃないですか?」と呑気な声で呟く。
「私もそれを狙ッテ、雰囲気作りに努めさせて頂きマシタ」ととりあえず、便乗して言ってみれば、盛大な溜息を二人揃って吐かれてしまった。


「…どうゾ」

にこやかに微笑みながら、しれっと客に飲み物を出す。
黒革のソファーに身を沈め、濃い化粧を顔面に施した女性客が、唇を緩めてデリクを見上げ、ツイと、その袖口を掴んで「貴方は『花』じゃないのかしらん?」と問い掛けてきた。
ここでは、『商品』の事を皆、『花』と呼ぶらしい。
「申し訳ございまセン。 私はただのボーイでしテ。 ですが、本日は、例年になク、良品が取り揃えられているようデスし、お客様が、素敵なお買い物が出来る事をお祈りしておりマス」
そう告げれば、惜しそうにしつつも大人しくデリクの袖口解放してくれた女を尻目にその場を立ち去り、女がつまんでいた袖口を埃を払うように手ではたいた。
銀色の盆を小脇に抱え、「K花市」のオークション会場を歩けば、エマや、兎月原が同じように、ボーイやフロアレディに徹している姿が映る。
人混みでごった返す会場内では、新たに増えた、三人のスタッフの姿など、誰の気にも止まらないらしく、極々自然に、会場内に留まり続けていられた。
デリク達の狙いは、この会場の奥、スタッフルームに設置されている通気口の入り口だった。
ビル内の死角に、デリクが穴を空け、侵入を果たした後、エマが予め見取り図でチェックを入れてくれていた死角や、デリクが空間を歪める事によって作り出した、抜け穴等を使い、この会場にもぐりこむ事に成功した。 が、スタッフルームには、組織の人間らしい黒服の物騒な男連中がたむろしており、通気口内に人目につかずに侵入するのは、竜子達陽動班が騒ぎを起こし、会場内に皆の目を向けるように計らってくれるまでは不可能と言える。
竜子達が騒ぎを起こすまで、この会場内にて時を見計らい、騒ぎに乗じて通気口への侵入を果たそうと計画を立てていた三人ではあるが、それに加えて、もう一点、デリクにとっては意外な人間が、現在会場中の視線を掻っ攫っている事に、驚きを禁じえなかった。

「1千万」

ひょいと、札を上げ、テーブルに設置されたマイクにそう告げる整った横顔を横目で眺める。
不自然なまでに真っ白な肌をした金髪の羽の生えた少女が、檻の中で両手を組み合わせ、祈るような眼差しで男を眺めていた。

確か、千年王宮で一度、合い間見えた事がある。
あの時、デリクがリリパット・ベイブとの間で引き起こされたトラブルの一部始終を眺めながら、呑気な様子で佇んでいた、かなり肝の据わった男の筈だ。
何故此処に?

そう思えど、飄々とした風情で、キメラを次々と落札していく男には、その美貌も相まって、周囲の視線が否応なしに惹き付けられている様子を眺めると、何だか、愉快な気持ちにすらなってくる。

多分、敵対するつもりで此処にいるのではない。

楽しげに長い足を組みながら、ポンポンポンと大きな買い物をしていく男の正体を訝しんでいると、エマが、ワインを注いだグラスを盆に載せて、彼に近付いて行った。

身を屈め、男の机にワイングラスを置くエマに、チラリと視線を送った男が、表情を変えないままグラスを手に取る。
クルリと踵を返すエマを見送りながら、デリクは、目敏く彼女が男に一枚のメモを渡しているのを見逃さなかった。
彼女の知り合いとなると、多分、彼も「興信所」の関係者という事になる。
男が如何なる人物であるのか、注意深く観察をしようとしたデリクの耳に、ざわめきが届く。


それは、この「K花市」の目玉商品お出ましの合図だった。


色とりどりの美しい花が足元に敷き詰められた鳥篭の形をした檻の中に閉じ込められた美しい男女が会場内に運び込まれる。
それぞれ、華美な衣装で着飾り、美しく装飾されて入るが、皆目は虚ろで、意識が現実にない事を如実に悟らせる。
デリクは視線を彷徨わせ、金色の髪を結われ、花をたくさん飾られ、赤いドレスを着せられた竜子の姿に目を見開いた。
一瞬、普段のケバく、ファッションセンスの欠片もない姿からかけ離れた美しい姿に「別人だろう…」と視線と外したものの、まるで漫画が何かで見られるような、見事な二度見を披露して、竜子の姿を凝視する。
じっと他の「薔薇姫」達と同じく、微動だにせず佇んでいるが、血色の良い頬や、滑らかな肌、そして何より表情が、虚ろな表情を晒す者達よりも、躍動感に満ち、健康的で、華麗な色香を漂わせていた。
他にも、彼女と一緒に潜入しているメンバーがいるはずだが、顔見知りの者はいないのか、誰が仲間かは判然としない。
ただ、『薔薇姫』の面々の中でも目に付くのは、黒い透かし模様の精緻なレースが施された大き目な白い立て襟のドレスシャツの上に銀色の十字架モチーフがあしらわれ、いたるところにメタルボタンが付けられているインパクトのあるデザインの、裾の長いジャケットコートを羽織り、ウラが好みそうなゴシックファッションを身に纏う無性めいたスレンダーな美青年や、黒薔薇のモチーフを濃い黒糸で刺繍で施された和洋折衷の打ち掛けを、豪奢に重ね、美しい絹糸の如き黒髪を背中に流して、十二単を身に纏い、銀色のティアラを頭に飾っている気品ある姫君の如き美少女等は、他の薔薇姫に比べても際立って容姿が美しく、その目にも光があり、デリクは思わず視線が吸い寄せられてしまう。

「皆様、お待ちかねの目玉商品『薔薇姫』にございます。 どうぞ、お近くで、『花』の状態を御覧になって下さい」

その言葉を合図に、客たちが一斉に立ち上がり、薔薇姫達に近寄っていく。
デリクも、ドリンクのサービスに勤める振りをして、薔薇姫を見て回ろうかとした瞬間、ふと、ある硝子ケースが目に入り硬直した。

「…エ」

思わず漏れた声は、純粋な驚きの声。
思わず振り返った先は、先程次々とキメラ達を落札していた、千年王宮であった事のある、あの男。

デリクの目の前にある鳥篭の中に入っている生き物は、世にも美しい姿をしていた。
背中が大きく開いた金糸にて龍の刺繍が大胆に施された光沢のある中国服を身に纏い、その白い背中から色鮮やかな極彩色の大きな羽が生えている。
黄金色の、波打つ目に眩しい程の光を放つ髪や目は、見るものの目を射るのに、見つめ続けていたくなるような、それでいて畏怖の念を抱かざる得ない程の輝きに満ちていた。

異形の生き物。
故に美しい。

金色の角が、頭部より二本生えている。
首筋や、肘より先の腕が金色の鱗で覆われていた。

金の燐粉を振りまいているかの如く、その身の周囲がほんのりと黄金色に輝いて見える。

だが、何より、驚嘆すべきは、その顔。
白い肌。
赤い唇。

完璧なまでに整った あの男と 同じ 顔。



首を巡らせ、捜した男は席にはおらず、視線を彷徨わせれば人ごみに紛れエマと連れ立ち、会場のドア入り口へと向かっている。
その横顔を凝視し、そして再び、鳥篭の中に納まる男の顔を見る。

同じ顔をしている。
双子なんてレベルじゃない。
全く同じ造詣。

ドッペルゲンガー。
いや、まさか。

唇に笑みを刷く。
鳥篭の中の生き物は、デリクの視線に気付かぬげに正面を凝視したまま動かない。

ポケットに入れた携帯のバイブ機能が作動し、デリクも、踵を返して会場入り口へと足を向ける。

集合の合図だ。

『薔薇姫』が会場内に運び込まれた後、メンバーの中に、人心を操る能力がある歌声を持つ者がおり、会場内の人間を歌声によって催眠状態に陥らせた後、竜子達は騒ぎを起こすそうだ。

デリクが足早にエマと男の傍に寄れば、兎月原も時同じくして、集合場所であるスタッフルームの入り口すぐ傍に辿り着いた。

「えーと、魏幇禍さんって、デリクさんはお会いした事あったかしら?」
そう男を指し示しながら問い掛けられ、「お顔は千年王宮で一度拝見した事がございマスが、お名前は今、初めて知りましタ」とデリクは答え、「デリク・オーロフと申しまス」と挨拶をする。
幇禍は、にっこりと笑い返し「どうも! あの時は楽しかったですよねぇ」なんて呑気に返答してくるので、「全くでス!」と笑顔で答えておいた。
だが、あの時の騒ぎを知っているエマからすれば「冗談じゃない!」という会話なのか、「どうして、トラブルを喜ぶ人が、興信所に集まる面々には多いのかしら」と頭痛に耐えるような顔を見せ、兎月原は、幇禍とは完全に初対面らしく、「初めまして、幇禍さん。 俺は、兎月原正嗣と言います。 えっと、興信所の関係の方で良かったのかな?」と問い掛けていた。
「あ…はい、初めまして。 興信所の関係っていうか、時々手伝わせて貰ったりする位なんですけど…えーと、兎月原さんも?」
「あ、はい、先日、ちょっと、興信所に依頼のあった仕事に関わらせて貰って…」
そう、会話を交わす風景は美形二人という事もあって、女性から見れば大変眼福な光景ではあろうが、現状呑気な会話をしている状況ではない。
「…はい、えーと、簡潔に結論から述べると、今から幇禍さんは、半強制的に私達に協力してもらいます」
エマの宣言に、デリクは、ここに一緒に集まっている時点で、そういう流れになるのだろうなと薄々察していたからか、動揺なく即座に「よろしくお願いしマス」と幇禍に告げ、幇禍も「至らない点が、多々あるかもしれませんが精一杯頑張ります!」等と、多分事態を若干分ってない感じの事を言ってくる。
兎月原が、エマに「えーと、話が早いんだか、通じてないんだか、突然メンバーが増えるっていうのは、結構重大な出来事だと思うのだが、こういう感じでいいのか?」と戸惑ったように問い掛ければ「まぁ、こういうメンバーだと、大体こんな感じになるから、兎月原さんも『ああ、話が早いなぁ』とだけ思ってくれてればいいわ」と、物凄く曖昧な説明をして、何だか釈然としないように首を傾げつつも、兎月原も納得してくれた。

デリクは空間を歪め、四人の周りに「空間」のカーテンを構築する。
外部からの音が一切遮断され、外の風景がぐにゃぐにゃと歪んで目に映る。
この状態になれば、外からは、こちらの様子は一切見えず、ただ、何もない壁が見えているだけになる。聴く者を催眠状態に陥らせるという歌は、敵味方関係なく、無差別に耳にするものの人心に影響を及ぼすらしく、デリクは音も注意深く遮断できるよう力をコントロールした。
「うわ! 面白い!」
そうはしゃいだ声をあげる幇禍。
「こっちの声も、向こうには聞こえなくなるんですよね?」
問われ、笑顔で頷き返し、それから、マジマジと幇禍の顔を眺める。

見れば、見るほど、あの『薔薇姫』と同じ顔をしている。
彼は、あの『薔薇姫』に気付いていたのだろうか?

問いかけようかと思えど、何も知らぬげにはしゃぐ姿を見て、デリクは口を噤んだ。
興味がないわけではないが、他者の事情に深入りするような性格でもない。
この様子を見ていると、薔薇姫の中に、自分にそっくりな者がいる事は気付いていないのだろう。
あの薔薇姫が、今回の件に、何か関わりを持っているのならまだしも、そうかどうかも分からない時点で、みだりに話題にする事もない。
結果、あの薔薇姫の事はとりあえず忘れる事にして、
この空間から出るタイミングを計る。
エマの携帯がバイブ音を奏でた。
竜子が、エマと約束していたらしい、歌が終わった合図だ。
「…行くわよ」
エマの言葉に皆が頷く。
デリクが、歪めた空間を正常な状態に戻した。

その瞬間目に入った光景は、まぁ、壮絶なものだった。

「だぁああああああらあぁぁああああ!!!」

竜子がテーブルの上に仁王立ち、深紅のドレスを翻し、意味の分からない喚き声をあげながら、派手な火花を散らす武器を両手に抱えて、そこらかしこに撃ちまくってる姿が、まず目に入った。
剣戟の音や、人だかり、何処かからぶっ飛ばされている男達の姿も見える。
そこらかしこで暴動の悲鳴や、怒号が聞こえ、デリクは「派手に暴れてくれてるものダ」と呆れ半分、感心半分の気持ちを抱きつつ、するりとデリクは、スタッフルームに滑り込んだ。
外での騒ぎに、内部にいた人間全員飛び出して行ったのだろう。
目論見どおり、誰もいないスタッフルームの監視カメラを、部屋に入った瞬間、サイレンサーを掛けてあるらしい銃を両手に構え、視線さえ送らずに幇禍が撃ち抜く。
「プシュッ」と、消音装置独特の気の抜けた音を奏でた銃を不満げに見下ろし、「この音、気合抜けて嫌いなんですよ」と言う幇禍の腕前に内心舌を巻きつつ「ぶらぼー」と拍手を送っておく。
「あの外の騒ぎじゃ、銃声ぐらい、誰も気にしないかもな」と兎月原が言えば「いやよ、銃声って、近くで聞くと、暫く耳使い物にならなくなっちゃうんだもの」とエマが不満を口にする。
至極冷静になってみれば、「銃」とか実物を目にする事自体、結構、一般人からすれば、稀な体験になるのだろうが、この四人が、一々、発砲とかに驚くタマな訳もなく、皆、動揺など一切見せずに、速攻で、次の作業に取り掛かった。

まず、兎月原が、椅子の上に立ち、通気口の蓋を押し上げると、腕の力で軽々と、その内部に潜り込む。
続いてデリク、幇禍と続き、最後に幇禍が手を伸ばし、引き上げるのを手伝ってあげながら、エマが通気口に潜り込むと、ずるずるずると、狭く暗い通気口内を、先頭にいる兎月原が予め用意していた細身の懐中電灯の光を頼りに、先に進み始めた。

普段、肉体派では全くないデリクが、慣れない肉体労働丸出しで、這い進み続ける事に体力的にも、気持ち的にも辟易し始めた頃、漸く、本来の目的地である、隠し倉庫の階層の通気口に辿り着いた。
順繰りに床に降り立ち、長い間狭い通路内を固まった姿勢で移動し続けてきた体をぐきぐきと伸ばした後、ふと皆の姿を眺めて思わず噴出す。
埃や、蜘蛛の巣のようなものがみなそこらかしこに引っ掛かり、まぁ、酷い有り様だとしか言いようがない。
自分も勿論同じような状態なのだろう。
四人とも、お互いの姿を眺め、くくくっと体を折り曲げ声を殺して笑いあった後、エマが「竜子ちゃん達とか、薔薇姫とかって、凄い綺麗な姿だったのに、私たちは、こんな状態なんて、割に合わないわ」とおどけた声で言う。
「確かに…あーあ、これなんて、俺、お嬢さんに見立てて貰ったスーツなのに、しこたま怒られます」と、泥遊びを母親に見つかる前の子供のような顔を幇禍はし、デリクも、「ウラが見たら、怒るでしょうネ。 みっともないっテ」と笑った。
「まぁ、いいじゃないですか。 大人になると、中々、こんなに盛大に自分を汚す機会も少ないですから」としれっとした顔で兎月原は言うのを聞いて、本当に悪ガキにでもなった気分になり、また小さく笑うと、それから周囲を見回す。

無機質な真っ白なリノウム張りの廊下。

「黒須さんがいた倉庫は、こっちです」と先に立って歩き出す幇禍に皆が目を見開けば、「俺、今日ここに案内して貰ってるんですよ。 一応、招待客だから」と言いつつ自分で自分を指示す。
「…監視カメラの位置とか、分る?」
エマに問われ、幇禍は「おぼろげにですが…」と言いつつ、まるで日常動作を行うが如くの滑らかな動きで、廊下に設置されているカメラを、恐ろしいほどの正確さで、連続して撃ち抜き始めた。
「こっちに…三台と…向こう側に、二台。 倉庫内にも、幾つかありましたから、俺が先頭で入って、全部壊しちゃいます」
気軽に告げる幇禍につられたわけでもないが、デリクも気軽な調子で頷いて「会場のあの騒ぎっぷりなラ、監視カメラの前に呑気に座ってる人間もいないでしょうガ、此方の様子を知られるのは厄介でス。 念には念を入れた方がいいですシネ」と言う。
「頼りにしてるわよ」とエマが幇禍の肩を叩き、兎月原も「凄い腕前だな」と感嘆するものだから、幇禍は何だか嬉しげに笑うと「あんまりおだてると、調子に乗っちゃいますよー?」なんて言いつつ、言葉通り張り切った様子で、どんどんカメラを撃ち壊し始めた。

倉庫の入り口前、本来なら指紋や角膜によるID認証を行わなければ入れないらしい内部には、デリクが空間を歪める事によって出来た穴から侵入する。
真っ暗な倉庫内に、暫く、「プシュッ、プシュッ」と例の「気が抜ける」という音が連続して聞こえる。
音が止み、続いて告げられた「あ、その壁の脇に電灯のスイッチがあったと思います」という幇禍の言葉に反応して、エマが倉庫内に灯りを灯した。

一度明滅し、照らし出された広大な倉庫の様子に息を呑む。

倉庫内には、おびたたしい数の硝子ケースや檻が存在していた。
中には漏れなくキメラや、異形の生き物が閉じ込められている。
突然付いた灯りに怯えたように檻の隅に身を寄せるキメラ達に、エマが眉を潜めた。
幾つかの折には、プラスティック製のカードが提げられ「売却済み」の赤文字と、売却先の名前が書いてある。

「…あ…幇禍さん!」

檻の中の一人のキメラが、幇禍の姿を見止めて声を上げた。
確か、彼に落札されていた、羽の生えた少女だ。

「あの…ありがとう…ございました。 助けていただいて…!」

そう檻を掴み礼を述べる少女に微笑みかけ、「いえいえ」と答える幇禍。
皆が首を傾げれば幇禍は「いえね、事前にここに案内して貰った時に、話しが通じて自由になりたそうなキメラ達に約束したんです。 競り落として、鬼丸精神病院の清掃員なり介護介助職員見りとして引き取るって。 とはいえ…」と苦笑を浮かべ、檻を見回し、「中には、生きる気力ごと失っていて、こっちの話を聞けないキメラも多かったですけどね」と言う。
蛍光灯の真っ白な光の下、兎月原が一つ一つの檻を覗き込みながら、痛ましげな表情を見せる。
幇禍の言葉通り、無気力に身を伏せたまま、こちらの存在も無視し、身じろぐ事もないキメラの姿も目立った。
「…確かに…突然攫われ、理不尽に人の身とは違う姿にされてしまえば、絶望するのも無理はない。 だけど…」
エマも頷き「…でも、このままだと、もっと辛い現実が待ってるのに」と、暗い声で言う。

顔も上げない生き物達。
不条理な現実に、全ての気力を失った残骸。

ここで、無理矢理、彼らを解放し、彼らが今、望んでない自由を与えたとて、それはただの独善に過ぎない。
生きたくない生き物は、淘汰されていくのも、また自然の摂理。
デリクにしてみれば、個人個人の選択の元に好きに在ればいいのだし、自分の役に立たない者に対しては、そもそも、余り興味がない。

だが…。


(『役に立つ』のなら…別でス…)


デリクの唇が笑みの形を作る。

「…ここ、防音利いてますよネ?」

デリクの言葉に、意味が分からないと言う風な表情を見せつつも、エマと幇禍が同時に頷いた。

タッタッと、軽やかに歩き、倉庫の真ん中で進むと、まるで大舞台の真ん中に立つ主演俳優の如く堂々と、デリクはその、滑らかに動く舌先に言葉を乗せる。
圧倒的な程に、聞き入らずにいられない、稀代の名演説を。

「サテ!! さて、さてサテ! 世にモ不幸! 余りニモ悲劇! これ以上ない程ノ、理不尽に見舞われておりマス、皆々様! 大変、ご愁傷様にございまス」

両手を広げ、大音声。
人の心を掴むには、まず、魅力ある発声を。
空間を弄くって、自分の声の浸透度を増し、倉庫の隅から、隅へと自分の声が届くよう調整する。

「人に歴史アリと申しますようニ、人の人生は千差万別。 きっト、皆々様には、それぞれが、それぞれなりの、このような事態に見舞われる経緯がおアリになる事でしょウ! ヤミ組織相手の事ですカラ、突如攫われて来た人ヤ、借金の片になんてお人。 もしかしたラ、何か弱みを握らレテ、已む無くなんてお人もいるかも知れませン。 しかし、一つ共通してイル事は、そウ、貴方方は被害者であるといウ、その事実! 人にハ、尊厳があリ、貴方方の尊厳は、現在、大いに傷付けられている、状況にあル! 大変、ご同情申し上げまス! 本当に、胸が痛いばかりダ!」

芝居がかった仕草で大げさに顔を顰め、倉庫の真ん中で大演説。
檻の中の生き物が、その声、その独特のリズム、耳元で喚きたてるようなその声に、皆一斉に、デリクを凝視する。

まるで、魔法のように。
ザッと音が聞こえる程に、同じタイミングで。

「貴方方ハ、今、虐げられていル! 物語ならバ、正義の味方ガ、あなた方を助けにきてくれるでしょウ! 罪なキ人々を救う、ヒーロー。 ただ力なく項垂れ、祈りの形に、両手を組み合わせていれバ、訪れるメシア!」

そして、デリクは、大声で笑う。
皆の目が気持ちが、魂毎全部、自分に惹き付けられているのを確信して、腹の底から。


「誰が為の救世主? 救世主は誰が為ニ。 ああ、残念ながら、貴方方の救世主は、訪れはシナイ! だって、…見たコト ありますカ? そんな都合の良い 存在ヲ?」


空気が揺れた。
ゆらゆらと、温度を上げて。

「私? 違いマス。 そんなに心がけの良い存在ではナイ。 じゃあ、彼らハ? 違いまス。 彼らの主目的は、あなた方を救うコトでは、ナイ。 良いですカ? 蹲っている、方々。 私は、貴方を救いませン。 どうぞ、絶望し続けてくだサイ。 立ち上がらず、踏みしだかレ、牙を剥かズ、人間の尊厳を踏みにじられ果テ、辱めラレ、生き続けて下さイ。 貴方方を愛シテいただろう存在モ、育ててくレタ家族モ、恋人モ、友モ、何もかも、忘れ果てて下さイ! きっと、貴方方を待ち受けるのは、そういう地獄ダ! 生き地獄ダ!」

デリクは笑う。
それは、人を唆す微笑み。
騙す者の言葉。


されど。
されど、その力は、真実よりも力強く、今、キメラ立ちにとっては、どんな光よりも、眩い。


「…ど…うすれば……」

デリクの傍らにある、狭い檻の中に閉じ込められた、手足に鉤爪を生やされ、額に大きな角を生やされた男が震える声で呻くように問うた。

「どう…すれば良い? こんな…姿で、娘だって…妻だって、受け入れられないだろう?」

「そうよ…彼氏だって…きっと…私だって分んない。 お父さんも…お…お母さんも…こんな、化け物みたいな…姿で帰ってきたら…悲しむよ…」

透き通るような水色の肌と、鮮やかな黄緑の髪をした、水かきのある少女が両手で顔を覆って涙声で呟いた。

「誰にも、見られたくないの、こんな姿。 特に…大切な人には…。 イヤよ…、無理…。 どうしたって、生きてけない…」

赤い瞳に、白い肌、銀色の髪をして、兎の耳を生やした女が、か細い声で言う。

「皆さんモ、同じお気持ちなのですカ?」

デリクは倉庫を見回す。

「皆さん、同じ絶望の中にイル?」

心中で呟く。
それは、殆ど無意識に。


(It's show time!)

心無い言葉を、偽りの真実を、甘やかな幻想を。


されど。

彼らの未来の為に。


「…待ってますヨ。 それでも、貴方方の帰りヲ」

デリクは言った。

「誰かガ、待っていマス。 貴方方を愛していル、人たちガ。 貴方方、だって、一人で生きてきたワケじゃないでしょウ? どんな姿になってモ、待ってくれている人がいマス。 こんな場所デ、訳も分からズ、踏みにじらレテ、これから、誰かの所有物になっテ、人並になんて、扱われない人生ヲ、貴方方が送るコトを、命を賭けてでも、止めたいと思う人がいまス」



それは、真実ではない。

彼らを待ち受けるのは、酷い偏見の嵐かもしれない。
孤独な人生かもしれない。
誰にも受け入れられない絶望かもしれない。

甘くない現実がある。

だが、そんな事は知った事ではない。

それでも…、嗚呼、それでも、そうか、腹が立っているのだ、自分は…と、デリクは漸く悟る。

腹が立っているのだ。
絶望に立ち向かわない、その姿に。

突然の不幸は、誰にでも起こりうる。
自分だってそうだ。

明日の命を、誰も保証してくれはしないだろう。
いつ、事故に会い、手足を失うかだって分からない。
人と違う姿になる事だって、これ程異常な状況でなくても起こり得る。
不幸の運命は、誰にでも降りかかる可能性があるのだ。

平等に。

それは、辛いコトだろう。
ただ、ただ、嘆き、立ち竦みたくなる気持ちも分る。
幾らでも、泣いて蹲って、喚いて、怒れば良い。

でも、今はその時じゃない。

デリクは何度だって、見てきた。
たくさんの人を見てきた。
興信所に集まる者だってそうだ。

人とは違う何かを持っている。
苦しんだ者もいるかもしれない。
受け入れ、如才なくその能力を享受し生きる者もいるだろう。
他者との差異に頓着せずに生活している者もいるかもしれない。

それでも、生きている。
皆、俯かずに。

強かで、狡猾で、エゴイスティックで、能天気で、単純で、だから、人は。

人は、多分、然程弱くないのだ。


「甘ったれてんじゃナイ!」

腹の底から怒鳴る。

「立ち上がらなけれバ! 闘わなけれバ! 誰も、貴方方を救わナイ! 貴方を救うノハ! 貴方自身でしかないのデス! 祈ったっテ、どうしようもないでショウ! 両手を組んだッテ、自由を失くす、だけでショウ! それでも、立ち上がれないと言うのナラ、私は、貴方方を見捨てマス。 サヨウナラ。 ゴキゲンヨウ。 ドウゾ、奴隷の幸せが、見つかるコトを、お祈り申し上げマス」

そう述べ、演説を終える。
自信の笑みが唇を彩っていた。
キメラ達の空気が変わっていた。

はじめは一人のキメラが、檻を揺すった。

ガチャガチャと金属質の音が倉庫に響き渡る。
そのうち、一人、二人と、檻を揺する者が増え、吼えるような怒号が入り混じり始めた。
硝子ケースの中に入っている者は、その壁を引っ掻き、獣の声で吼える者の声達が、倉庫内を揺らす。

デリクは笑う。
大声で。

バカなキメラ共だ。
人間とは、もう、土台違う生き物にされているのに。
こんな言葉にノせられて。

なんて単純!
なんて気楽な!
なんて、おめでたい連中!

嗚呼、だが、嫌いじゃない。
嫌いじゃない。

デリクが両手を広げる。
怒号が一斉に止み、また全ての生き物がデリクに注目する。

「行きましょウ。 自由の為ニ」

デリクの両手にある痣が光る。
酷くコントロールが難しく、今までにない程の大技では在ったが、意識を集中し、呼吸を整える。
デリクが目を見開けば、倉庫中の檻や、硝子ケースに、人一人が通れる程の大きさの穴が空いた。

空間を歪め作った通り穴を、キメラ達は驚きの声を上げながらも潜り抜ける。

額に汗が浮かぶ。

ほんと、肉体労働は性に合わないっていうのに、今回は、体力を使ってばかりだ。
埋め合わせは、きっちりして貰わないと…と思いつつ、キメラ達が脱出したのを確認すると、空間を正常に戻した。

「…お見事」
感嘆したように幇禍が言う。
「いえいエ、ご協力感謝いたしマス」
にこりと笑ってデリクがいえば、幇禍は、「へ?」と首を傾げた。

「えート、皆さんに朗報でス! コチラにいる方は、幇禍さんと仰いまして、皆様の就職先を斡旋してくださるそうでス! ここを逃げ出した後の、社会復帰は中々難しいでしょうシ、是非、お世話になってみては如何でショウ!」
デリクの言葉に、歓声のようなものがあがる。
「いやぁ、彼らにも生活がありマスからネ」
シれっとそう告げれば「あ、いや、そりゃ、世話はするつもりでしたけど…」と目を瞬かせ、それから、「うーん…」と唸って「何だか、デリクさんに、うまーく、使われてる気がしないでもないですけど、そんな事ないですよね?」と問い掛けてくる。
デリクは、わざとらしく瞳をきらめかせ「何言ってるんですカ! 心外ナ! 私ハ! 心から、このキメラ達の窮状を救いたいと思ってですネ!」と訴える。
兎月原が、「出会ったばかりなのに、どうしてだろう。 その言葉が信頼できないのは…」と言えば、エマが「…で、本当の狙いは何?」と至極冷静に問い掛けた。
「アハハハハ、酷いなァ、皆さン」と軽い調子で言った後、即座に「という訳で、えーと、スイマセーン、はい、こっちから、コッチ側の人はデスね、はい、私の前に、ハイ、一列に並んで下さーイ!」とキメラ達に声を掛ける。

「ハイ! これからの就職先とかもですネ! 保証させては貰いましたガ! 勿論、美味しい話ばかりが続くと思ったら、大間違いダー!」
キメラ達を整列させ、そう拳を振り上げるデリクに、「え? 何、何? そのテンション。 無闇矢鱈に不安なんだけど?」と兎月原がデリクの腕を掴みつつ訴えてくる。
「大丈夫デース! 任せて下さイ」と、大絶賛、信用ならない口調で言いつつ、「じゃあ、こちら側のキメラの方々は、えーと、今から、ちょっとパンキッシュで、リリカルで、ビビットな世界に行って貰いたいと思いまス!」と、宣言する。
すると、エマが戦慄く声で「え? 千年王宮行かせる気なの?!」と問い掛けてきた。
「ハイ。 向こうの状況は限りなく逼迫した状況のようでスシ、キメラ化するコトで、戦闘能力が増大している方も大勢いらっしゃるように見受けられまス」と、言えば、エマは呆れたような顔をする。
「…やっぱり、何か、企んでたんじゃない。 千年王宮にウラちゃんが行ってるから?」
尋ねられて、「アれ? ご存知なんですカ?」と笑顔で答える。
「…デリクさんが、こんなに解決の為に頑張ってくれてるのって珍しいし、相手が黒須さんで、やる気なんて出さないでしょ?」
エマの言葉に、「流石、エマさン」と答えれば「はふっ…」と大きく息を吐き出して「どんだけ…一筋縄ではいかない人なのよ…」と呆れたような声を出した。
「でも…私も向こうの様子、心配だし、これは、凄く良い案だと思うわ」
そうエマは言いつつ、「それに、真意がどこにあったにせよ、さっきの演説、私は好きよ」と言って笑い返してきた。
「何か、私が言いたかった、もやもやっとしてた事を言葉にしてくれた気がする。 ありがとう。 すっきりしたわ。 デリクさん…結構本気だったでしょ?」
上目遣いに、悪戯っぽくエマに問い掛けられ、デリクははぐらかすように笑って「サテ、どうでショウ?」と返答する。

本気と嘘の境目なんて、一流の詐欺師である程自分の中でも見失いがちになっていて、自身を詐欺師、ペテン師だとは露ほども思っていないデリクだが、誰が見ても認めざる得ない、人誑かしの才能を持つ彼は、自身自分が弁舌を振るっている最中、心がどこにあるかなんて忘れがちになっている。
故に、エマに問われたとて、曖昧に笑うしかないのだが、それでも、確かに今までにない温度で吐き出した言葉たちは、まだ、熱く、熱く、デリクの喉を焼いていた。

「でも、やっぱり、そう簡単にはキメラさん達も切り替えが巧くいかないみたいね」
そうエマは言い、不安そうな表情を見せるキメラ達を見回す。
まぁ、無理もない。
今から、別の世界に行って欲しい等と告げられて、不安にならない者の方が少ないだろう。
兎月原が、その様子を見かねてだろう。
大声を張り上げた。

「頼む! これが、最後だ! もう、多分、今までに見たことのない状況とか、辛い目にとかあって、色々信用できなかったり、気持ちが追いついてかないかもしれないけど、とりあえず俺達を信じて欲しい!」
そう兎月原が深く、甘い、色気のある声で真摯に訴えれば、まず、女性のキメラ達が、ほわんと顔を赤らめ、小さく頷く。
エマも、「引き換え条件にするわけじゃないけど、戻ってきてからの、貴方達の生活は、貴方達がやる気さえあれば、保証されているわ!」と、そこまで言って「ってことで良いのよね?」と幇禍に確認を取り、彼が苦笑を浮かべつつも頷けば、「なので、就職活動と思って、ちょっとばかり、変な世界に行って貰うけど、絶対に帰ってこれるのは約束するし、どうか向こうにいる三人の女の子達…まぁ、一人は男の子みたいなんだけど…とにかく、彼女達を助けて下さい!」と言い、ぺこんと頭を下げた。

デリクの事前の扇動の効果もあり、エマと兎月原の、デリクとはまた逆方向からの、真摯なアプローチに、キメラ達の気持ちが高まったのを視認して、デリクは懐から硝子玉を取り出す。

球体の中で、千年王宮に繋がる異空間の渦が浮かんでいる。
その硝子玉を地面に落とし叩き割って渦を現出させると、「はい、では、一列になって、この渦の中にお入り下さイ」と遊園地のアトラクションスタッフの如き口調で言った。
「向こうでハ既に戦闘が始まっている事ガ予想されまスガ、とりあえず、なんか、見た目的に悪い奴だなーッテ方を、思う存分ぶっ飛ばしてきて下サイ」
そう大雑把な説明をするデリクに呆れたような視線を向け、それから「えーっと…あの、この渦…みたいなのの向こう側が、『千年王宮』なのか?」と、兎月原が問うて来る。
「ハイ。 あ、兎月原さんは、まだ行った事がないんですヨネ? また、今の状況が落ち着いてからでモ、是非、遊びに行ってみて下サイ。 中々楽しい所ですかラ」と気楽に答え、先頭のキメラが渦の中に飛び込むのを躊躇しているのを見て、エマが「うーんと…」と一度唸ると「あんまり、よくないんだろうけど、緊急事態だし」と自分に言い聞かせるように呟いた。
一体何をするつもりだろうと興味深く見守れば、エマはゆっくりと口を開く。

「さぁ、キメラちゃん達! 早く行かないと、僕がまた、檻の中に閉じ込めてしまいましゅよ?」

粘ついた、酷く胸糞の悪い声。
驚いてエマに視線を向けた後で、彼女の十八番、形態模写による声である事に気付いた。
と、いう事は、先ほどの声は「Dr」とやらの声か。
キメラ達に視線を戻せば、驚いたのと、反射的な恐怖心の為にだろう。
悲鳴めいた声をあげながら、皆が雪崩をうつように異空間へと身を投じ始める。

「あ、あなた達はいいの! あなた達は!」と残す側に分けたキメラ達も、まるで逃げるかのように渦へと身を投じようとするのを見て、エマは慌てた様子でそう言い、それから再びDrの声で「待て!」と命令した。
よっぽどきつく躾られたのか、その瞬間ぴたっと動作を止めるキメラ達。
今度は渦に向かうキメラ達までも動作を止めようとするのを、「いいから、行って、行って」と促しつつ、「ふいー」と額を拭う。
「Drの声なんて、いつの間にマスターしたんです?」
幇禍の問い掛けに、「いや、役に立つかと思って、前にDrを見た時に、喉の形を観察しておいたのよ」と肩を竦める。
つまり、視認だけで、正確にDrの声を模写したというのか…。
その尋常でなさに、デリクは(どこまで器用なんですカ、この人ハ)と息を呑んだ。
実際エマのお陰で、思ったよりスムーズに向こうに救援を送り込めたデリクは、ウラの安全がこれで図れれば良いと心底願いながら「まぁ、数が多いだけでも、充分に戦力になりますシ、えーと、こちら側の人達ハ、今から、ちょっと、オークションが行われていた会場にでも突入して貰っテ、竜子さん達を手伝ってきて貰いましょウ」と提案した。
その言葉に、皆が頷いてからふっと、妙に不安な気持ちにさせる沈黙が落ちる。


「あれ…あの、そういえば…黒須さん…は?」


兎月原の呟きに、その瞬間、皆の間に衝撃が走った。


わ す れ て た !


うっかり、すっきり、さっぱり、何の為に此処に潜入したのかを忘れ果てていた、デリク達。
「あ、すいません! あの、ほら、倉庫に、物凄く気持ちの悪い、不気味の具現者、周囲湿度100%強の中年下半身蛇男がいた筈なんですが、どこへ行ったか知りませんか?」
そう、幇禍がかなり酷い言い様だが、物凄い的確な表現で羽の生えた少女に問えば、「え? その人なら、確か、Drにもう、連れて行かれたような…」と答える。

遅 か っ た !

思わず皆の目が泳ぐ。
潜入したけど、ダメでしたー!という結果の場合どうすればいいのか、全然考えていなかったものだから、咄嗟にデリク、ウラの為に、黒須なしで、ベイブを正気に戻す案を考え始めるって言うか、黒須、諦められるの早!!

「…えー…残念ながら、黒須さんは、もう、私達の知っている黒須さんじゃない姿にされている可能性が大です。 ああ、黒須さんよ永遠にって事で、黙祷あたりをね、皆さんで捧げられたらと思うのですが…」
そう幇禍が提案し、思わず、皆、両手を合わせかけて「駄目だろ!!」と渾身の声で、兎月原が突っ込む。
「いやいやいやいや! 後を追おうよ! なんか、もうちょっと、頑張ろうよ!」
そう兎月原が言えば、デリクと幇禍が期せずして声を揃え、同じタイミングで「「えー、なんカ…めんどイ…」」と答えた。
エマが、デリクといる時に良く見せる何かを堪えるような表情で、うんうんと唸った後、「その気持ちは良く分かるわ。 よく分かるけど、ほら、他にもね? 黒須さん救出の為に動いてくれてたり、一応あの人がいないと拙い事になっちゃう人達もいる訳だしね?」と、子供を諌めるような口調で言う。
まぁ、確かに、本丸とも言うべきこの班が、黒須攫われちゃいました!では洒落にならない。
渋々ながら、黒須の行方を追うべく、また作戦を立て直そうとした時だった。

ハッとエマが天井を見据えると「来る!」と叫んだ。
その瞬間、兎月原が無造作なくらいの手つきで右腕を振り上げ、何かを掴み、地面に叩き付ける。


「っ!」

その瞬間、兎月原の掴んだ形の手の先に突如、失神状態に陥っている男が現われた。
目が極端に離れ、こめかみの辺りに大きく飛び出してついている。
鮮やかな黄緑色の肌をして、ダラリと垂れた細長い舌を見て、デリクは呟いた。
「…カメレオンのキメラ」
つまり、擬態能力を身につけているというわけか…。

周囲に不穏な空気が満ちる。
「あーあ、ばれちゃったみたいですねぇ…」

幇禍が、何でもない事のように言った。

エマがじっと目を閉じ、一瞬何かに集中するような表情を見せると、次の瞬間手を跳ね上げ「向こうに、二人! あっちの壁には、三人! それから、また、天井から一人!」と素早く指差す。
どうも音で、その存在の居場所を察しているらしい。
幇禍が、その指先の軌跡を追うように続け様に銃を撃ち放し、兎月原もエマの指差す先に向かって足を高く上げ蹴り上げると、まるで相手が見えているかのように敵を叩き落した。
キメラ達の中でも、気配に聡い者達が、牙を剥き、爪を立てて見えない敵に踊りかかっていっている。

キーと耳障りな鳴き声が聞こえ、尋常でない速さで蝙蝠の羽根を生やしたキメラが鋭い牙を剥き、壁を蹴ってデリクに向かって急降下してきた。
(あまり、使いたくないのデスガ…)
そう思いながら、自分の影に潜む古の化け物を叩き起こす。
「…いただきます」
そう律儀に呟けば、巨大な化け物は一呑みに蝙蝠型のキメラを己の腹の中に収めた。
跳躍力の高いキメラや、翼のあるキメラ達も応戦し、異形VS異形の俄には現実とは思えないような戦闘風景が繰り広げられる。

「っ! キリがない!」

聴力のみで、擬態する敵の位置を把握し、その位置をナビしていたエマが、悲鳴じみた声で喚く。
こちらもキメラの増援があるとはいえ、実戦経験は然程ない存在が多く、戦闘用ではなく、愛玩用のキメラも多く含まれる為、連携が取れずに、思うように攻撃が出来ない。
(相手が一瞬でも固まってくれレバ、一気に飲み込めるのニ…!)

そう苛立ちを感じた瞬間、パン!と一回手を打ち鳴らす音が響き渡り、敵の攻撃がピタリと止まった。
ゾワリと不穏な空気が自分の周囲を押し包んでいるのを感じながら、音のした方へ視線を向ける。

パン、パン、パンと、間の開いた拍手。

「いやぁ、しゅごい、しゅごい! 面白いものを、見せて貰いました! ねぇ、蛇ちゃん、あの子達、蛇ちゃんのお友達?」

漸く、お出まし。

白衣を着た、異様に身長の低い男が緩慢な仕草で手を叩く。

Dr。 このキメラ達の創造主。
足元には、ここまで引きづられて来たのか、べったりの血の痕を床に残してきている黒須が下半身が蛇のままの姿を晒し、ずるりと倒れ伏している。
長い髪が床に散らばっていた。
緩慢な仕草で顔を上げるも、もう声も出ないのか、唇を微かに動かしただけで、再び地に伏す。


「キメラちゃん達には、みーんな肩甲骨の下にGPS発信機を埋め込んであるんでしゅ。 何だか不穏な動きを見せているので、慌てて様子を見にくれば…よくも…やってくれましたねぇ…という所でしゅか? オークションは滅茶苦茶、その上、この悪い子ちゃん達も、逃がしちゃうつもりでしゅか?」

Drが笑う。

「あれぇ? キメラちゃんの数が、大分少ないようでしゅが、どこにやりました?」

キロリと音を立てそうな動きを見せて、Drがこちらを見た。
ざわりとキメラ達が怯え、空気が揺れる。

「檻の中の窮屈さに耐えカね、自由を求めて飛び立ちましタ。 行方は追うのも野暮というモノ。 新たな旅立ちを祝ってあげようじゃありませんカ」

デリクがそう悠然と告げれば、Drは益々首を傾げる。

「…王宮にやったのでしゅか?」

低い声。
愉悦を含んでいるかのような。

「そうでしょう? 君達の誰かが、王宮の鍵を持ってるんでしゅか? 向こうは、今、猫ちゃんが掌握しようとしている筈。 赤ちゃんの子守のお手伝いに行かせたのでしゅか?」

一瞬言葉を見失った。

何故、あのオ城を知っていル?

思考の巡りが舌先を圧倒する。

ずっと気になってはいた。
マフィアとマッドサイエンスト。
全く分野の違う者同士が、協力者としてではなく、構成員として、ここまで深く組織内部に食い込み、No2なんて地位を与えられる程に、のし上がれた理由。

まるで、時が期するのを待ちかねていたかのように、反乱を起こした千年王宮の住人達。



Q.誰が、マフィアと、サイエンストを繋いだか?



「…チェシャ猫」

デリクの呟きにDrが笑う。

「君が探偵役? だったら、そちらの美しい女性がヒロインで、素敵な二人はWヒーローってとこかな? 蛇ちゃんは、哀れな怪物でしゅか? 可哀想にねぇ…」

エマが、冷静な声でDrに告げた。

「観念した方が良いわ。 この方々の反乱に加え、オークションでの騒動。 貴方の業界じゃあ、評判が何よりモノを言う筈よ? この失点は、早々取り返せはしない」
エマの言葉に続いて、幇禍がひらひらと手を振って満面の笑みを浮かべると「ていうか、取り返させません。 俺、鬼丸組の者なんで、揉み消そうとしても、日本ではシノギ出来ない位、同業者の間に話広めさせて頂きます」と言い、ツイと唇を釣り上げた。
「貴方達、ちょっと調子に乗りすぎましたね」
低めの凄みのある声でそう言い、ヒタリとDr狙って銃を構える。
兎月原が、Drを睨み据え、最後通告を口にした。
「黒須さんを、解放するんだ。 命までは、この場では取らない。 誰かを裁こうなんて分際でもないんでね。 この国の法律に委ねてやるよ。 大人しく、投降した方が…」
その言葉を手を振って遮り、Drは溜息を吐く。

「御託はいいでしゅ。 つまんないんだもん。 王宮やら、オークション会場やらで暴れているのは、君達のお仲間でしゅよね? 僕の邪魔をしないで下しゃいよぉ。 別にこんな、小さな国での評判も、組織の行く末も何もかも、あの王宮さえ手に入れば、どうでも良いんでしゅ。 僕の役目は、呉虎杰のあの王宮の王様にしてあげる事。 君達は、キメラちゃんにしてあげましゅ。 みんな綺麗でしゅから、とっても良い材料になりましゅ。 この子と違ってね」
蹲ったままの黒須の頭を転がすように蹴り付け、そして、ふと、キメラ達を見回した。

「お祝い…って 言ったよね?」

デリクを見る。

「この子達の門出をお祝いしてって?」

ポケットからひょいと取り出したのは、小さなスティック上のスイッチ。

顔も上げられずにいた黒須が悲鳴めいた声をあげ、Drに取り縋った。

「っ! …やめろ!」

カチッと軽い音を立てて、スイッチは押された。


「じゃあ お花を贈ってあげましゅ」

クラッカーみたいな音だった、

パンって 弾ける音が 連続して 鼓膜を揺らす。


赤い花が

たくさん 咲いた


べたりとデリクの頬に、熱い何かが張り付いた。
デリクは、Drを見据えたまま自分の頬に指先を伸ばした。

摘み上げたのは、血塗れの肉片。

一瞬遅れて、デリクにも降り注ぐ生温い深紅の雨と共に、ボトボトと音を立てて、空中戦を繰り広げていたキメラ達が落ちてきた。


みんな、頭が爆ぜていた。


「紅い花でしゅ。 綺麗でしゅねぇ…」

Drが朗らかに笑う。

ずるりと何者かがデリクの肩を掴む。
ゆっくりと視線を向ければ、頭に酷い損傷を負った水色の肌をしたキメラが、明瞭にならない声で言った。

「こわ…い…やだぁ…死に…たく…な……ぃ…」
デリクは目を見開いたまま、自分の肩口から手を滑り落とし、そのまま床に倒れこむキメラを凝視し続ける。

「安全装置。 キメラちゃんが、悪い子ちゃんで、反抗してきた時に、すぐに『処分』できるようお客様にお渡ししてるんでしゅよ。 後頭部に埋め込んである爆弾のスイッチをね? これは、今回納入予定の全キメラ達の爆破スイッチ。 K麒麟の商品は、アフターケアもばっちりの、良品ばかりでしゅ。 折角たくさんお買い上げいただいてたのに、楽しんでもらえなくて、とっても残念でしゅ」

そう言いながら幇禍に笑いかけ、そして、血の雨に打たれたデリク達を眺めて、Drは大声で笑った。

「蛇ちゃんのせいでしゅ」

転がったまま動かない黒須の体に、もう一発蹴りを入れる。

「蛇ちゃんをお友達が助けに来たから こんな事になったんでしゅ」

仰向けに転がる黒須の胸を、Drは踏み躙り、優しい位の声で言った。

「お前 そんなに醜くて こんなにたくさんの命を犠牲にして 全部 お前のせいだよ こんな事になるのなら いっそ 生まれてこなきゃ よかったのにね」

再び、気が狂ったような声で笑い、キトキトと不安定に揺れる目が、再びデリク達に向けられた。

「さて…これから、どうしましゅ?」


〜to be continued〜


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3432/ デリク・オーロフ  / 男性 / 31歳 / 魔術師】
【3343/ 魏・幇禍 (ぎ・ふうか) / 男性 / 27歳 / 家庭教師・殺し屋】
【0086/ シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【7521/ 兎月原・正嗣 / 男性 / 33歳 / 出張ホスト兼経営者 】
【3678/ 舜・蘇鼓 (しゅん・すぅこ) / 男性 / 999歳 / 道端の弾き語り/中国妖怪 】
【4582/ 七城・曜 (ななしろ・ひかり)/ 女性 / 17歳 / 女子高生(極道陰陽師)】
【2380/ 向坂・嵐/ 男性 / 19歳 / バイク便ライダー】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】
【3427/ ウラ・フレンツヒェン  / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【4236/ 水無瀬・燐 (みなせ・りん)  / 女性 / 13歳 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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お届けが遅くなってしまい大変申し訳御座いませんでした。
今回は前編のお届けに御座います。
是非続けて後編も参加くださいますようお願い申し上げます。

それでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

momiziでした。