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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 BIRTHDAY SONG

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「お兄さん、ノリが悪いですよ」
「ノれってか……」
「はい」
「難しいな、それは」
「どうしてですか〜。せっかく〜……」
「いや、理解るよ。理解るけどよ」
「う〜〜〜……」
「あー。そんな顔すんなや」
「う〜〜〜……」
「この歳になると、喜ぶってのが微妙になってくるんだって……」
 カラフルな装飾が施された草間興信所のリビングルーム。
 現在進行形で彩りを施しているのは、零。
 彼女が持つ箱の中では、まだ無数の飾りが己の出番を待ちわびている。 
 デコレーションは、お祝いの下準備。
 今日は、武彦の誕生日なのだ。
 毎度のことだけれど、どうにも照れ臭い。
 加えて、重ねた歳が歳なだけに、素直に喜べない自分がいる。
 生まれてくれて、ありがとう。
 そう思われることは嬉しい。幸せだと思う。
 けれど、どうにも照れ臭い、くすぐったい。
 いてもたってもいられず、武彦は苦笑しながら自室へと逃げた。
 けれど、お祝いの準備が中止されることはない。
 確実に、着実に、準備は進行していく。
 照れ臭い? 恥ずかしい? そんなの知ったことかっ!

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 ピンポーン―
「お兄さ〜ん。そろそろ下りてきて下さい〜!」
「…………」
「お兄さ〜ん!?」
「……わァかったよ! 今、下りるっ」
「早く早く〜。冷めちゃいますよ〜。御馳走が〜」
 ピンポーン―
 頭を掻きながら自室からノソノソと出て、階段を下りていく武彦。
 声のトーンからして、零のテンションは、かなり高い。
 まったくよぉ……何だって、あいつは毎年毎年……。
 まぁ、嬉しくないわけじゃないけど。ありがたいけど。
 気恥ずかしそうに苦笑しながら、一階へ下りた時だ。
 ピンポーン―
 チャイムが鳴っていることに、ようやく気付く。
 興信所内では今、爆音で陽気な音楽が流されている為、
 ささやかなチャイムの音は、掻き消されてしまい、容易には耳に届かない。
「何だ。誰か来てんぞ」
 時間的に……新聞の集金っぽいな。
 まずいな。金ねぇよ。また少し待ってもらうしかねぇな……。
 何だかなぁ、毎月同じことを繰り返してるよなぁ、俺って。
 はぁ〜……と溜息を落としながら、扉へと向かう。
 ピンポン、ピンポン、ピンポーン―
「わァかったって。はいはい、どちらさま〜?」
 ガチャリと扉を開けて、武彦は呆然とした。
 いや、呆然としたというよりは、硬直しまったと言うべきか。
 扉の向こうには、やたらと背の高い男が立っていた。
 奇妙なピエロの仮面を付けた男は、微動だにしない。
 あからさまに怪しい来客。武彦は、呆気に取られながらも尋ねる。
「えぇと。どちらさん?」
「…………」
 返答はない。男は身動き一つせず、ただジーッと武彦を見つめるばかりだ。
 何だってんだ。変な奴だな……関わり合いにならないほうが良さそうだ。
 そう判断した武彦は、見なかったことにしようと、扉を閉めようとした。
 その時だ。
「こりゃ! 待たんかいっ」
「え。って、あぁ……何だ。お前か」
 男の背中から肩へ。ちょこちょこと上って姿を現したのは、
 ご存知、サーカスの団長。団長・Mだった。
 団長はカッカッカッと笑い、持っていた小さな杖で室内を示す。
「祝賀会場へ、お邪魔してもいいかね?」
「……あぁ、いいけど。何、お前、呼ばれたの?」
「うむ。麗しき零嬢にな。では、邪魔するぞ」
 ピエロの仮面をつけた男が、のっしのっしと動く。
 室内へと入っていく、その後姿を見やりながら武彦は呟いた。
「そのデカい男は何なんだ……?」
「ん? こいつはダミーじゃ。人形じゃよ」
「……あぁ、そう」

 *

「あっ! 団長さん! いらっしゃいませ〜」
「うむ。お〜。良い香りじゃな〜」
「ふふふ。座って下さい。ほら、お兄さんもっ」
「へいへい……」
 煌びやかに飾り付けられたリビング。
 先ほどまで流されていた爆音のBGMは、小さくなった。
 テーブルの上には、零が腕によりを掛けて作った料理。
 御馳走……確かに、御馳走であることに変わりはない。
 だが、料理はどれも、あり合わせのもので作られている。
 冷蔵庫にあった質素な材料の数々。
 それを、ここまで立派な御馳走に変えてしまう、その才能。
 零の料理の腕は、年々上がっているかのように思う。
 毎年、並べられる料理を見ながら、武彦は、そう実感せざるを得ない。
「はい、お兄さん。フーして下さい」
 ズィッと武彦の前に、ケーキを差し出して笑う零。
 ケーキの上では、数える気にならない数の蝋燭が灯っている。
 ポリポリと頭を掻き、恥ずかしそうに笑いながら、その灯りを吹き消す武彦。
 灯りが全て消え、白く細い煙が天井に昇る。
「お誕生日、おめでとうございます〜」
「めでたいのぅ〜!」
「……どうもどうも」
 パチパチと拍手しながら笑う団長と零。
 ビールをグビッと飲む武彦に、零はプレゼントを渡す。
 こっそりと重ねてきた、へそくり。
 この日の為に、こっそりと重ねてきた、へそくり。
 零が武彦へ贈ったものは、秋物のシャツだ。
 色合いやデザイン、どれもが武彦の好みと重なる。
 ありがとうと心から感謝を述べ、目を伏せて笑う武彦。
 満足そうに笑う武彦を見ながら、団長はニヤリと笑った。
 テーブルの上を、ちょこまかと走り、武彦の前へ。
 ツンツンと杖で武彦の腕を突く。
「ん?」
 目を開けて、団長を見やった武彦。
 団長は、焼き鳥片手に、ニカッと笑うと、傍らに置いておいた人形の男を操作した。
 ピエロの仮面を付けた男がヌッと動き、懐から紅い袋を取り出す。
 差し出されたそれを受け取り、武彦は「どうも」と苦笑した。
 袋を開いて見れば、中には木製のシガーケースやガスライターが、どっさり入っていた。
「うぉっ。すげぇ。かっこいいな、これ」
 笑いながら、袋の中からプレゼントを取り出しては見やる。
 ガスライターは米国産のもののようで、
 奇抜なデザインと色合いが、何ともお洒落だ。
 そして、このシガーケース。何とも高価な香りが漂う。
 そっと開けてみれば、中にはズラリと葉巻が。
「うわ。すげぇ」
 葉巻そのものよりも、葉巻が並ぶ、何とも高貴な様に驚く武彦。
 驚きっぱなしの武彦に見やりつつ、団長はカッカッカッと笑うと、
 自身お気に入りのプレミアムシガーに火をつけ、
 それを咥えて、スパッと一服。
 煙を吐き出しながら団長は言った。
「早速、どうじゃ?」
 促されるがまま、葉巻を咥える。
 昔、一度だけ口にしたことがあるけれど、かなり前の話だ。
 今やもう、葉巻の楽しみ方なんぞ、忘れてしまっている。
 どうしたもんかと苦笑している武彦へ。
 団長は、火をつけてやりながら、葉巻の楽しみ方をレクチャーしていく。
 モクモクと立ち昇る煙。
 普通の煙草の煙とは異なるそれは、何というか……VIPな雰囲気。
 質素な木製の椅子で、ふんぞり返って御満悦な武彦。
「あ〜。こりゃ、いいねぇ」
「そうじゃろ?」
「美味いのもあるけど、満たされる感じが何とも言えませんな」
「そうじゃろ、そうじゃろ。お気に召したかの?」
「おぅ。すげぇ嬉しいよ。ありがとう」

 武彦の誕生日を祝う、特別な日。
 朝から準備に奮闘した零、お呼ばれして、とっておきのプレゼントを贈った団長。
 美味しい零の手料理に加えて、団長が持ってきたブランデー(コニャック)と、
 カイコの蛹のから揚げが、祝賀の席に彩りと美味を追加する。
「この人形、メシ食ったりしないのか?」
「せんよ。人形じゃからな」
「食べたそうに見えますけどねぇ……?」
「だよなあ」
「気のせいじゃよ」
「食わせてみようぜ」
「やめんかっ。壊れるじゃろうがっ」
「じゃあ、葉巻でもどうだ」
「あ、お兄さん……火種が……」
「ん? あっ、やべ。燃えた」
「こりゃー! 何しとんじゃー!」
 火種が落ち、人形の指がドロリと溶けて落ちた。
 気のせいか……人形の顔が歪んだような気がしたような。
 まぁ、細かいことは気にせずに。
 折角のパーティ。心置きなく、楽しもうじゃないか。
 笑い声が響く、草間興信所。
 テーブルの上のケーキ、チョコレートプレートに刻まれた、お祝いの言葉。
 HAPPY BIRTHDAY―

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 6873 / 団長・M (だんちょう・えむ) / ♂ / 20歳 / サーカスの団長
 NPC / 草間・武彦 / ♂ / 30歳 / 草間興信所の所長
 NPC / 草間・零 / ♀ / ??歳 / 武彦の妹

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.10.04 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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