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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夢の中から

<オープニング>

「夢を見たんだ」
 草間の目の前に座る男はそうつぶやいて草間を見た。彼はやつれており顔色も悪かった。
 草間は男の言っている言葉の意味がつかめず、眉をゆがめることしか出来なかった。だが、彼の身に尋常ではない事態が起こっているのは目に見えて明らかだった。
「夢?」
「ああ、いつも見る夢なんだ。俺が夢の中から飛び出して、ある女に呼び出される夢。その女はとても妖艶で、俺はついつい彼女に身を任せるのだが、この頃ボーっとすることも多いし、体の調子が悪くて、このままじゃ殺されるかもしれない」
 彼の瞳の中には恐怖という感情がありありと浮かんでいた。
「頼む、助けてくれ」
 必死の形相で頼まれ、命の危険があるとなったら助けないわけにはいかないだろう。
「怪奇専門じゃないんだがな」
 草間は溜息を吐き出して、彼に言った。
「わかった。詳細を教えてくれ」



 草間が依頼人の男から詳細を聞いていると、騒々しい足音が聞こえてきた。荒っぽい足音。雑居ビルなので、階段を上がる音は珍しくもない。だが、扉の開く音を耳にして、草間は男の話をさえぎった。零が人をあげたのかとも思ったが、零の声も聞こえない。
 ドアがいきなり勢いよく開く。
 見知らぬ男がそこにはいた。
「ここから怪奇現象の匂いがプンプンと……。あんた、何かが起きているだろう!」
 現われた瞬間、錫杖を依頼人の男に向ける一人の坊主姿の男。黒染衣に白い袈裟を身に着けている。依頼人の男も唖然と自分に向けられた錫杖を眺めていた。
 草間は、呆気に取られて、男の後ろで慌てる零を視界に入れた。どうやら、零が招き入れたわけではなく、男が勝手に上がりこんでしまったようだ。
「誰だよ」
 草間は不機嫌に言う。
 もはやこれしきのことでは驚かなくなっている自分自身に対して、慣れとは怖いものだとひそかに思った。
「おっと、他人様の家に上がりこんで、挨拶すんの忘れてたな。俺は天・孔雀。中国から高野山に修行に来た密教の僧侶だ」
 豪快に笑う男に対して、草間と依頼人の男は胡散臭いと言わんばかりの視線を送った。
「胡散臭い奴だな」
「信じられない!? このカッコ見りゃ一目瞭然だろうが!」
「他人様の家に勝手に上がりこむ僧侶がいるのか」
 草間の言葉に、孔雀は言葉を詰まらせた。それから気を取り直すようにコホンと一回咳払いをすると、呆気に取られている依頼人の男を見た。
「で、なんか怪奇現象が起こってるんだろ」
「あ、そうなんだ。怪奇現象の調査をしてほしくて」
 孔雀はさりげなく依頼人の男が座っているソファーに腰掛けた。
「おい」
 草間は居座るつもりの孔雀に対して、声をかけたが立ち去る気配がないと見て取ると、ため息を吐き出して、口をつぐんだ。
「で、あんたの調査してほしいことって何だ」
「え」
 男は戸惑ったように草間を見るが、草間は静かにうなずくだけだった。男は孔雀に視線を戻すと、ゆっくり話し始めた。
「現象が始まったのは、一週間前。夜寝付いてしばらく経つと、夢の中で俺は幽体離脱をしているんだ。幽体離脱をして、そのまま一人の妖艶な女に出会う。女は俺のベッドの上にいて、俺を誘うんだ。そして、俺はついつい身を任せてしまって……」
「何? 妖艶な美女に迫られる夢を見るだと!? しかもお任せ状態!羨ましいな!! ……って、あんたはそれで困ってるんだよな」
 不謹慎だったと自覚したのか、孔雀はすまなそうに頭を掻いた。
「ああ、このごろ疲れが取れないし、このままじゃ取り殺されるような気がして」
 暗い顔の男に対して、孔雀は自分の胸をたたく。
「おっし、そいつの説得、俺に任せな。いいだろ、探偵さん」
「俺は怪奇専門じゃないからな、好きにしてくれ。あんたはちょうど僧侶だしな」
「よっしゃ、とゆーワケで、あんたの家に泊めてくれ」
「あ、ああ」
 男は戸惑いながらも、深くうなずいた。



 深夜一時、男が寝付いてから、孔雀はどっかりと床に腰をおろした。
 男の寝顔を見つめる趣味はないと思いながら、からん、と錫杖を鳴らす。
 どれほどの時間、孔雀は待っていただろうか。時間の流れの遅い夜の闇の中で、身動き一つせずひたすら待っていると、ある異変が部屋で起きた。
 扉がやんわりとした青白い光に包まれはじめたのだ。
 孔雀が異変に気づき、じっとその扉を見つめていると、扉をすり抜けて、黒髪の妖艶な女が現われた。
 豊満な肉体と、豊かな黒い髪、血をすすったような真っ赤な唇と、白い肌。美しすぎる女だ。男の願望すべてを体の細部にまで詰め込んだようなその女は、わき目もふらずまっすぐ依頼人の男のベッドへ向かっていく。
 だが。
「ちょーいい女!」
「!?」
「俺に迫って、身を任せ状態にしてくれ〜!」
 孔雀は唐突に女に抱きついた。
「きゃぁ何よ!」
 女はいきなり出てきた孔雀に対して、驚きの声を上げるとともに、孔雀を力いっぱい突き放した。
 しかし、孔雀はそれにもめげず、「嫌よ嫌よも好きのうち♪」といいながら再び抱きつく。女は激しく抵抗した。
「やめて!! なんなのよ、あんた!!」
「見りゃわかるだろ、僧侶だよ僧侶」
「そ、僧侶」
 女は僧侶という言葉に多少ひるんだようだった。そして、渾身の力で再び孔雀を突き飛ばすと、ひらりと手の届かない天井に逃げた。
「僧侶、ね」
「降りてきてくれよ〜」
「厄介な奴を呼んでくれたものだわ。悪いけど、一生かかわり合いになりたくない男ナンバーワンなのよ、あなた」
「つれないねぇ」
 孔雀はにやりと笑った。
「悪いけど、退散させてもらうわ」
「また会ってくれよ」
「悪いけど、お断りだわ」
「二度と、来てくんないのかな?」
「そのほうがいいんでしょう」
 女はいらだったようにそう言って、すっと天井の中へ消えていった。その様子を眺めてから、孔雀は肩をすくめた。
「やれやれ、怒らせちゃったみたいだな。最近の女は冷たいもんだね〜」
 孔雀はそう言って、窓から夜空に輝く星を見つめ、しゃらんと錫杖を鳴らした。その音は、夜の闇の中へと溶けるように消えていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7740/ 天・孔雀 / 男性 / 26歳 / 退魔師 】

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■         ライター通信          ■
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天・孔雀様

楽しく書かせていただきました。
いかがでしたでしょうか。
これからも、何かありましたらよろしくお願いします。