コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


全てを潰す者(後編)

3.巨人を見上げる者

…あれ?
うち、何をやってたんだっけか?
何か楽しい遊びをしていた気がするが、よく覚えていない。
そう…何か、とても楽しい事をして遊んでいた気がするのだが…
いつの間にか、首を傾げて街の中心部の市街地を歩いている華蓮。
まるで夢の中にでも居るかのように、記憶がはっきりしない。
そんな彼女の耳に響いたのは、女の声だった。
『そいじゃあ、はじめの一歩と行くかいな。
 あはは、うちの足指より高い建物が見つからんわ。
 いやー、こら、足の踏み場に困るなぁ!』
陽気な女の声は、まるで耳元で叫ばれているかのような怒声だ。
どーん!
次に華蓮の耳を貫いたのは轟音。
…な、なんや!?
何かの爆発音にも聞こえる。加えて、激しく揺れる地面と吹き荒れる突風が彼女を襲った。
周囲を見ると道行く人が地面に倒され、車が道を逸れているのが見えた。
それでも、彼女の身体能力は地面に倒れるのを拒み、轟音がした方角を振り向かせた。
遥か遠くの住宅地の方である。
異様な黒い柱が二本、そびえ立っている事がすぐにわかった。
十キロ以上は離れていると思われる住宅地だが、その黒い柱は、はっきりと見る事が出来た。
真っ直ぐに立っている柱ではない。
優美な曲線を描き、天高くそびえていた。
その色は漆黒という色合いとは、少し違い、肌色がかっているようにも見える。
その優美な曲線と色合いには、見覚えがある。
あれは…足や。
黒い二本の柱。それはストッキングを履いた女の足だった。
直径100メートルを優に越えるであろう黒いストッキングを履いた女が、住宅地の真ん中に立っているのが見えた。
そうや…あれは、うちや。
華蓮は思い出した。
つい、さっきまで、ミニチュアの玩具の街で遊んでいたのだ。
遥か遠くにそびえ立っている、全長数千メートルの巨人の女…自分の姿を見て、華蓮は全てを思い出した。
轟音。地震。突風。
それらは、全て、巨人の女が十キロ以上離れた住宅地に足を踏み降ろした事の余波に過ぎないのだ。
『おお、どんな作りになっとるんや、これ?』
驚愕の表情を浮かべる巨人。
自分の余りの力に驚いているようだ。
「あんなのが近づいてきたら…
 一体どうなるんや?」
単なる余波でも、立っている事すら困難なのである。
…や、やっぱり夢だったんやな、これ。
先ほど、思う存分に壊したミニチュアの街に、どうやら自分は居るようだ。
夢だとしか思えなかった。
『うはぁ、初めの一歩で大破壊やな』
自分の起こした破壊の力に驚きつつも、満足そうな表情を浮かべる巨人。
鏡で見慣れた、自分の笑顔だった。
一体…どれだけの建物と人が、あの巨人が足を踏み降ろした周辺で犠牲になったのだろうか?
想像すると、背筋が震えてしまった。
カラン…
小さな音を立てて、壊れた窓ガラスが一枚、華蓮の目の前に落ちた。地震で窓ガラスが割れてしまったようだ。
十キロ以上離れたこの場所まで、巨人が足を降ろした余波は伝わっている。その息遣いすら聞こえてくるような気がする。
『今ので100軒位、壊れたかな? 』
巨人の声。
いやいや、一桁違うやろ。1000軒は壊れたんじゃないだろうかと華蓮は思った。
『もしも本物の街だったら、今ので何万人か死んだかも知れんなぁ』
うんうん。それ位は死んでるやろな。
などと自分にツッコミを入れながら、華蓮は駆け出した。
ここがミニチュアの街で、あれが先ほどまでの自分だったら、次の行動はわかっている。
巨人は街の中心部を目指すのだ。
そして、自分の足指よりも背が高い高層ビル街を見て、驚くのだ。
夢だと思う。
だが、逃げた方が良い。
華蓮は街の中心部から、必死で逃げ出した。
『もしも本物の街だったら、今ので何万人か死んだかも知れんなぁ』
罪悪感は感じられない巨人の声。
もうすぐ、巨人は動き始めるだろう。
逃げるんや…
でも、どこへ逃げれば?
確か、ミニチュアの街は全て壊したはずだ…
わからないが、ともかく華蓮は街の中心部からは逃げ出す事にした。
戦おうなどとは考えなかった。いくらなんでも、あの巨人…自分は大き過ぎる。
『まあ、何でもええか。
 次、壊そうかいな』
巨人の死刑宣告。
華蓮は走った。
『あはは、すごいわ。ほんとに本物みたいに出来とるな』
巨人の言う通りだ。
こうして見上げる巨人の自分の姿も、まるで本物のようである。
何とリアルな夢だろう…
街に響く巨人の笑い声を聞きながら、華蓮は逃げた。
どーん!
また、地面を揺れと突風が襲った。
さっきよりも大きな巨人の足音と、その力の余波。
走っていた華蓮は、身体を支えきれずに地面に転がってしまう。
手を突き、受身を取りながら地面を転がる。
『うちが軽く足を降ろすだけで、まるで巨大隕石でも落ちてきたみたいになるんやな』
相変わらず自分の力に戸惑っている巨人。
確か、電車を線路ごと踏み潰した時だっただろうか?
その後は、もう、逃げるどころでは無かった。
女巨人が歩くたびに響く足音の迫力が、胸を潰してしまう程である。
地面の揺れも止まらなかった。突風も収まる事を知らない。
地震が止まるよりも、風がまるよりも早く、巨人が次の歩みを続けるからだ。
地面を転がされながら、華蓮は巨人を見上げた。
黒い塊…黒いストッキングを履いた女の足が、空から落ちてくるのが見えた。
サイズが恐らく1000メートルを越える、女の足だ。
踏み潰されるんか…?
巨大な物体が伴う激しい突風が、塵のように華蓮の身体を吹き飛ばす。
だが、足は華蓮の上には落ちてこず、数百メートル離れた辺りにつま先が落ちてきた。
どーん!
今までとは質が違う轟音。
巨人の足を踏み降ろす時に巻き起こした風で吹き飛ばされていた華蓮は、巨人が足を踏み降ろした時の衝撃波で、再度、空から空へと巻き上げられた。
同じように、巨人に弄ばれた人々の断末魔の悲鳴と、衝撃波によって倒壊したビルの音が耳を貫く。
埃のように空を舞っていると、地面が遥か下に見えた。
さらに、かろうじて巨人の方に目線をやると、彼女の爪先がはっきりと見えた。
滑らかな丸みを帯びた巨大な肌色が、黒いストッキング越しに見える。高さが100メートルに及ぼうかという巨人の足の指先である。
それが起こした衝撃波に巻き上げられて空を舞っている華蓮だが、その巨人の足指の表面は、まだ高い所にあるようだ。
これだけ高く吹き飛ばされているのに、巨人にとっては足指の高さにも満たないのだ。
なんや…この大きさ…
目の前に居る女巨人の大きさは、足指の大きさでも、高層ビルがやっと背比べが出来る程だとはわかっていたが、目の当たりにすると、やはり迫力があった。
華蓮は、まるで埃のように衝撃波に巻き上げられ、飛ばされ、彼女と同じように吹き飛ばされて砕けている高層ビルの瓦礫の上に叩きつけられる。
「あ、あはは…
 やっぱり夢みたいやな…」
生きていた。
どう考えても、即死だが生きている。やっぱり夢なのだ。これは。
地面に倒れながら、華蓮は女巨人の足指を見上げる。近すぎて、足指しか見えなかった。
け、結構良い感じやないか、うちの足。
こんな状況ではあるが、悠然とそびえる巨人…自分の足指の美しさに、華蓮は自信を持った。
いや、そんな事を考えている場合じゃない。
確か、次に巨人は…
女巨人は再び足を上げた。今度は爪先を立ててゆっくりと降ろしてくる。
華蓮が居る所とは離れた場所に、巨人の指は静かに指先から落ちてきた。
その圧倒的な質量に、やはり高層ビルが潰されていく様が見える。
丸みを帯びた優雅な爪先に踏みつけられたビルは、その精悍に佇んでいた長方形の形が歪んでいく。女の足指の力だけで、ガラス窓や中身を撒き散らしながら潰れていった。
…なんて圧倒的なんや。
足指だけでも、100メートルを越える建物を弄ぶのに大き過ぎるのだ。
その破壊の光景に恐怖を覚える。気が狂いそうになり、眼が離せない。
『うち、まるで神様やな』
うっとりとしたような巨人の声。
正にその通りだ。彼女を止める事など不可能に思える。
巨人というのは、こんなにも圧倒的に見えるものなのか。
華蓮は玩具のように街を弄ぶ巨人の力に、感動すら覚えた。
それから、地面に悠然と腰を降ろした女巨人は、巨大な柱…手の指で、街を弄び始めた。
もはや生きている者が居るとも思えないような街を、数十メートルの直径がある巨大な指がつつき、すり潰していた。
砂山でも崩すように、女の指先がビルが薙ぎ倒されていく光景を、華蓮は見つめているしかなかった。
夢や…夢に違いない。
自分が虫けら…いや、それ以下の存在だという事はよくわかる。巨人は、人間1人など、小さすぎて見る事も出来ないだろう。
この後は…どうなるんだったっけな?
一度見た映画を思い出すように、思いを巡らせていると、また、地面に揺れを感じた。
巨人が起こす揺れとは違う。
何十台ものトラックが走るかのような音が地面から響いてくる。
音がした方を見ると、キャタピラで走る無数の車の群れが巨人へ向かっていくのが見えた。
…うわ、おっきぃ戦車やなぁ。
まるでアニメに出てくる巨大ロボットのような戦車だった。
全長が10メートルを越えるような巨大な戦車の群れである。
…いや、でも。
華蓮は街を弄ぶ自分。仁王立ちしている女巨人を見上げた。
街を踏みしめる二本の巨大な柱。彼女の黒いストッキングを履いた足と比べてしまうと、戦車は米粒よりも小さかった。
やがて、数十台の巨大戦車の砲撃が巨人を襲った。
砲撃の音が華蓮の耳を襲うが、それは巨人の足音に比べてしまうと、囁くような小さな音だった。
戦車の群れは巨人の足を狙って、地面に倒してしまおうというのだろう。それは、賢明な判断である。
だが、相手が大きすぎたのだ。力の差がありすぎたのだ。
黒いストッキングを履いた女の足は、巨大戦車の群れの砲撃でも傷一つ付いているようには見えなかった。
『あはは、そんな玩具じゃ、うちのストッキングも破れないで?』
女の満足そうな笑い声が、轟音となって降り注ぐ。その衝撃だけで、戦車が砕けてしまうのでは無いかと華蓮は思った。
『うちに逆らうんやったら、それなりに覚悟は出来ているんやろうな?』
特に怒った素振りの無い、巨人の死刑宣告。
傷一つ付けられていないのだから、怒るにも値しないという事だろうか?
久しぶりに、巨人が足を振り上げると、戦車の群れは逃げ出した。
『あのなぁ…』
巨人の呆れた声。
『逃げられると思ってるん?』
全くだ。
1000メートルサイズの巨人の足から、米粒のような戦車が逃げられる筈が無い。
久しぶりに踏み降ろされた巨人の足が、戦車の群れを瓦礫ごと粉砕した。
華蓮は、またも巨人の踏みつけの衝撃波に飛ばされた。
街は、もうすっかり瓦礫の下。地獄と化している。
巨人は、尚もその圧倒的な大きさと力でで街を玩具にし続けた。
成す術も無く、地面に倒れて女巨人を見上げる華蓮。
人々の悲鳴や崩れ落ちる瓦礫の音も聞き飽きた頃に、辺りが真っ暗になった。
空を何かが覆っている。
「夢…これ、夢やろ?」
夢と思いつつも、あまりの恐怖で体が動かない。
巨大な黒い足が、ついに自分の上を覆ったのだ。
それは勢いをつけて落ちてくる。
風を巻き起こし地面に近づいてくる巨人の足。地面に吹き付ける風は、急激に強さを増していく。
巨人に比べて、まるで埃のように小さい自分の体が、風によって地面に張り付けにされているのがわかる。
すぐに、華蓮の視界は完全に黒いストッキングを履いた女の足の裏で覆われた。
…これじゃ、虫けら以下やな、ほんまに。
ぷちっ。
自分の体が虫けらのように踏み潰される音を、華蓮は聞いたような気がした。

4.全てを潰す者

…ん、よく寝たな。
華蓮は眼を覚ました。
途中で寝てしまったんやろか?
寝転びながら辺りを見渡すと、ミニチュアの街が広がっている。
…あれ?
華蓮は違和感を感じた。
自分が下敷きにして寝ている場所は、もちろん粉みじんの瓦礫になっている。
だが、見渡す限りの周囲のミニチュアの街は壊れていないのだ。
…さっき壊したはずや。だって、うち、見てたもん。
そうだ、自分が小人になってミニチュアの街に居る夢も見た。
理不尽な大きさの巨人が、玩具のように街を破壊する光景だ。
その夢で、小人にとって、巨人の力と大きさがどれ程に圧倒的なものなのかを体験した気がした。
…そっかぁ、巨人ってあんなに怖いんやな。
しみじみと、辺りに広がるミニチュア…玩具の街を見渡し、自分がストレス解消に楽しんだ玩具の街の破壊遊びを思い出す。
圧倒的な存在。数十万、数百万人の人間を虫けらのように踏み潰してしまう事も難しくない、巨人の恐ろしさ。
華蓮は体が震えた。震えが止まらない。
…まあ、そういう事で、小人の気持ちがわかった所で、ミニチュア遊びの再開といこうかいな。
体が震える程の快感。
小人の恐怖を体験した事で、玩具の街での巨人遊びが、ますます楽しくなった。
無数の人々が、巨人に恐怖して逃げ回っている光景を想像するだけで、楽しくなってしまう。
「あはは、まるで神様や。
 うち、こんだけ大きいやもん。
 誰も、うちに逆らう事なんて出来んもんな」
笑いながら、巨人は立ち上がった。
空を見上げると、青い空がどこまでも広がっている。
足元を見降ろすと、ミニチュアの街際限なく広がっている。
…あれ、ここは建物の中じゃなかったっけ?
華蓮は、また一歩、足を踏み出した。
無数の建物が、彼女の足の下で粉砕される。
…いつまで続くんやろうなぁ、この夢。
どこまでも続く青い空の下で、ミニチュアの街がどこまでも広がっている。
この世界の全てを潰すまで、華蓮の夢は、まだまだ終わりそうに無かった。
次はどうやって玩具の街を壊して遊ぶか、華蓮は考え続けた…

(完)

-----------------------------------

(ライター通信もどき)

初めましてか謎ですが、今回はお買い上げ頂き、ありがとうございました。
四の五の言わずにギガ破壊で書けば良いのかと思いましたので、
そういう風に書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?

個人的に、このサイズ(数千倍)の巨大娘は遊び相手が中途半端で、
書くのが一番難しいんじゃないかと思っています。

星より大きいなら、星を玩具にすれば書きやすいかなとは思うのですが…
ともかく、お買い上げありがとうございました。
また機会があったら、よろしくお願いします。

( ̄_ ̄)ノ あんまりベラベラ書いて、興醒めしたらすいません…

-----------------------------------