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14人目の時守候補
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真っ暗な空間に、ポツンとある白い椅子。
椅子の前でピタリと立ち止まれば、どこからか声が聞こえた。
「いらっしゃい。じゃあ、座って」
その声に促されるがまま、椅子に座る。
闇の中から聞こえてくる声。その声の主は、幾つか尋ねた。
偽ることなく、その一つ一つに答えを返していく。
無意味だと思った。嘘をついても、すぐにバレてしまうと理解していた。
だから、ありのままを伝える。何ひとつ、偽らず。
鐘を鳴らさねばと思うが故に。
「−……！」
ハッと我に返れば、目の前には銀色の時計台。
夢じゃない。夢を見ていたわけじゃないんだ。
思い返していたんだ。過去を、思い返していた。
けれど、この心に痞える違和感は何だろう。
自分の存在さえも、酷く曖昧に思えてしまう。
けれど、覚える違和感に戸惑う暇なんて、与えられない。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
肩にポンと手を乗せ、微笑んで言った男。
あなたは誰ですか？ と、そう疑問に思うことはなかった。
何故って、知っているから。何もかもを。
もちろん、これから何処へ向かうのかも理解している。
鐘を。鐘を鳴らさなくちゃ。
その為に必要な経験は、全て網羅せねば。
そうさ。自分は、14人目の時守（トキモリ）候補。
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「じゃあ、とりあえず名前から教えて貰おうかな」
淡く微笑み、言った男性。裏のありそうな、男性。
その笑顔を見やりながら、僕は名乗った。自身の名前を。
「朝霧・慧だよ。好きなように呼んでくれて構わないよ」
僕が名乗ると、男性も名乗った。
あぁ、ごめん。こっちが先に名乗るべきだったねって笑いながら。
男性の名前はヒヨリ。随分と可愛らしい名前じゃないかって思った。
見た目と一致しないっていうか。ちょっと可笑しかったかな。
まぁ、人の名前を聞いて笑うなんて失礼なことだから我慢はしたけど。
でも、気付いてたんじゃないかな。僕が、どんなことを考えてるか。
気付いていたからこそ、ヒヨリは、ちょっと不愉快そうに言ったんじゃないかな。
「年齢は？」
「……。二十歳だよ。ねぇ、怒ってるの？」
「別に怒ってないよ。怒る理由もないし」
微笑んでヒヨリは言ったけれど。僕は思ったよ。
この人は、嘘のつけない人なんだなぁって思った。
だって、全然違ったんだもん。声のトーンも落ちてたし、笑顔もぎこちなかったし。
僕は目を伏せて、とりあえず謝ったよ。謝っておくべきだと思ったから。
でもね、ヒヨリは惚けてみせた。どうして謝るの？ って。
意地っ張りなところもあるのかぁって。余計に可笑しくなってね。
我慢出来なくなって、僕はクスクス笑った。
子供みたいな大人だなぁって思ったんだ。
仲良くやっていけそうだなぁとも思ったよ。
どことなく、僕に似ているような気もしたから。
クスクス笑う僕に、ヒヨリは尋ねた。肩を竦めてね。
「楽しそうなところ申し訳ないんだけど。質問の続き、良いかな」
「あ、うん。ごめんね。いいよ」
「慧。お前にとって "時間" って何？」
「時間……？」
「そう。思うがままの意見を聞かせて」
「そうだねぇ、時間……。時間かぁ。時間っていうのは……」
視認は出来ないけれど、確かに存在するもの。
こうして話している間も、絶えず巡っているもの。
２４時間、３６５日。休みなく動いてる、働き者。そんな存在。
過去から未来への不可逆的方向を持つもの。
前後に無限に続くもの。終わりのないもの。
空間と共に、世界の基本的枠組みを形成するもの。
まぁ、こう言うと堅苦しくて難しい感じがするけど。哲学だね。
時間っていうのは、秩序そのものだと。僕は思うよ。
ポン、と肩を叩かれて、ゆっくりと振り返る慧。
振り返った先では、ヒヨリがニコリと微笑んでいた。
漆黒の空間の中心部。そこに聳える、銀色の時計台。
もう、何度足を運んだか、わからない。
この日も、慧は時計台を見上げて思い返していた。
動くことのない時計台の針を、じっと見つめながら。
「じゃあ、行こうか。失敗しても構わないから」
そう言って、ヒヨリは慧の手を引いて歩き出す。
どこに？ そう尋ねることはなかった。
理解っているから。聞かされていたから。
救わねばならぬ時があるんだね。今宵も。
*
自覚してるよ。僕はね、面倒くさがりやなんだ。
考えるとか悩むとか、そういうの面倒くさい。
悩んだところで、何か解決するの？ って思うし。
適当で良いんじゃない？ 何事も。考えながら生きるなんて息苦しいよ。
せっかくの人生なんだから、楽しまなきゃね。命には限りがあるんだから。
まぁ、そんな面倒くさがりやな僕だけど。ひとつだけ、あるんだよ。
熱中できることっていうのが。趣味……って言葉で片付けるのも惜しいくらい。
この本。記されている事柄を理解すること。
これはね、本当に楽しい。飽きがこない、唯一のもの。
知りたいとか学びたいとか、面倒くさがりやな僕が思うんだからね。凄いことだよ。
まぁ、この本を僕にくれた人のことも思い返すと、話は長くなるんだけど。
いや、長くなるだけじゃなく、面倒な心境になるんだけど。
そう考えると、僕を変えた、そういう大層なものなのかもしれない。
この本も。この本をくれた、あの人も。
とかね。……あぁ、面倒くさい。これ以上は話さないよ。
面倒なんだもん。思い出すのとか、面倒くさいよ。
思い出したところで、どうにもならないし。
思い出したところで、時間は戻らないんだし……。ねぇ？
漆黒の闇の中、ぽっかりと開いた穴。時の歪み。
もしも、あのとき。そう考える者がいる限り、何度でも生まれる歪み。
歪みに巡るのは、期待と後悔。淡い期待と、惜しみなき後悔。
後悔、かぁ。それもまた面倒な感情だよね。
過ぎ去った時間を思い返して悔やむ……。
悔やまないのが一番なんだろうけどね。
なかなか難しいんだよね、それって。
人間である限り、後悔はつきまとうんだ。死ぬまで。
一切の後悔なく生きてる人なんて存在しないんだから。
うん？ 僕？ まぁ、僕も……って、いいじゃん。僕のことは。
誰かと会話するように、ひとりごとを呟きながら。
慧はクスクス笑い、右手をピストルのような形にして、
不気味にうごめく時の歪みへ、銃口代わりの指先を向けた。
放たれるのは、虚無の光線。全てを無に帰す黒い光。
針のように鋭利で、花のように美しい、黒き光。
串刺しにした歪みへ、慧はニッコリと微笑みかける。
さぁ、在るべき場所へ。還りなさい。
「ごくろうさま」
満足そうに笑いながら、慧へ拍手を送るヒヨリ。
こうして、あなたと一緒に闇夜を歩き、
こうして、あなたが見守る中、後悔を説く。
もう、何度目になるかな。覚えてないっていうか数えてもいないけど。
面倒くさがりやな僕にしては、よくやってるほうだよね？
いや別に褒めて欲しいとか、そういうことを言ってるんじゃないんだよ。
ただ、そうだねって。笑って頷いてくれたら……満足かも。
時の番人、時守（トキモリ）
時の歪みを繕う者。それを使命と認め、全うする存在。
我等の目的は、ただ一つ。鐘を鳴らすこと。
高らかに、高らかに、響け、轟け、鐘の音。
その日まで、我等は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
その日まで、僕は唱い続けよう。幾年月、果てようとも。
この身を持って、時への忠誠を。
― 8032.7.7
*
*
*
分厚く黒い日記帳。その最初のページ。
確かにそこに刻まれている、記憶と自分の文字。
それらを指で辿りながら、慧は極めて謙虚な呼吸を繰り返す。
数秒間の物思いの後、懐から取り出す懐中時計。
時を刻まぬ、その時計が示す時間。
3時0分28秒。
取り戻さねばならぬ時間。取り戻そうと思えた時間。
動かぬ時計の針を見つめ、何度目とも知れぬ宣誓を心の中で呟く。
鐘が鳴るまで。再び、時が動き出す、その日まで。
唱い続けてみせるから。幾年月、果てようとも。
「…………」
懐中時計を見やりながら物思いに耽る慧。
らしくないなぁ、と自分で自分に呆れ笑いしてみたり。
一人、自室で淡く微笑む慧を呼ぶ声。
扉を叩きながら、ヒヨリがいつものモーニングコール。
慧は肩を竦めて笑い、懐中時計を懐に戻して席を立つ。
未だに違和感は拭えないんだ。だって、そうじゃない？
僕が、時を救うなんて。後悔を説くなんて。
可笑しいったら、ありゃしないよ。
「慧、早く準備―」
「うるさいなぁ。起きてるってば」
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７８８９ / 朝霧・慧 / ２０歳 / 大学生、魔導士（自称）
ＮＰＣ / ヒヨリ / ２６歳 / 時守 -トキモリ-
はじめまして。いらっしゃいませ。
シナリオ参加、ありがとうございます。
不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
参加、ありがとうございました＾＾
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櫻井かのと （Kanoto Sakurai）
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