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<東京怪談・PCゲームノベル>


逆恨み

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「どうします?」
「いつもどおりの対応で構わぬよ」
「わかりました。他の教員にも、そう伝えます」
「……お前さんも、わかりやすいのぅ」
「えっ」
「納得いかぬ。そんな顔をしておるぞ」
 笑いながら、紫色の猫の背を撫でる学校長。
 千華は、苦笑しながら扉に手を掛け、背を向けた状態で呟いた。
「いつか不満が爆発するのでは、と。危惧しています」
「逆恨みというやつじゃな」
「そうですね」
「その時は、その時じゃ。さほどの相手でもあるまい」
「買い被り過ぎではありませんか?」
「ふぉっふぉっ。謙遜するのぅ」
「……ふふ。失礼します」
「あぁ、ご苦労様」
 パタンと閉じる扉。
 少し開けた窓から入り込む風は、まだ冷たい。
 学校長は目を伏せ、口元に淡い笑みを浮かべた。
 逆恨みか。まぁ、いつかは勃発する事象だとは思っているが。
 問題なかろうて。おぬしらならば、難なく乗り越えるじゃろうて。
 買い被り? 過大評価? 何を今更。
 我が子を信ずるのは、親として当然のことじゃろう。

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 ハントを終えて、報告に学校へと戻る最中のこと。
 二人は、十字路でバッタリ遭遇した。違うクラスだけれど、お互いに名前は知っている。
 夏穂と千早は、目が合うと同時にペコリと頭を下げて言葉を交わす。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
 以降、言葉の遣り取りはない。気まずいわけではない。自然な沈黙。
 ぎこちなく居心地が悪くなるような沈黙ではなかった。
 だからこそ、二人とも口を開かなかったのだろう。
 ハント帰りであることが一致すれば、戻り先も一致する。
 二人は、微妙な距離を保ったまま、揃って学校へと戻って行く。
 今夜も月が綺麗だ。だいぶ暖かくなった。もうすぐ春だ。
 口にはしなかったけれど、二人は似たようなことを考えていた。
 ふたつの足音が響く夜の街。薄暗い路地。
 歩きながら、二人は気付く。もうひとつ……足音が混じっていることに。
 敵……ではなさそうだ。雰囲気が生々しい。人間特有の気配。
 夏穂と千早は、ふっと互いを見やる。交わる視線、同時に頷く二人。
 二人は言葉を交わすことなく協力しあって "誘導" を開始する。
 歩むスピードを速め、人気のない方向へと進んでいく。
 都内にポツンとある小さな公園。そこへ移動した二人は待ち伏せる。
 さきほどから自分達を尾行ている人物を。
 すべりだいの前で並んで立ち構える二人。
 やがて姿を見せる、謎の人物。
 見覚えは……ない。いったい、どちらさま?
 夏穂と千早は、互いの顔を見やって確認する。
「知り合い、ですか?」
「いいえ。あなたは?」
「僕もです」
 知り合いでないとなると……どんな感じだろう。
 たまたま居合わせたから尾行て悪さをしようとしただとか、そんな感じだろうか。
 だとすれば、不憫だ。狙う相手を間違っている。痛恨のミスである。
 ハントを終えたばかりで疲れているのに。やれやれ。
 夏穂と千早は肩を竦めて苦笑を浮かべた。
 二人を尾行ていた男は、見るからに悪そうな雰囲気。
 とはいえ、強そうかどうかと問われれば、まったく……。
 小者臭がプンプンと立ち込めているような。その程度。
 余裕の表情を見せる二人に苛立ち、男は叫んだ。
 どうして尾行ていたのか、目的は何なのか。
 くだらない理由だ。見た目も中身も小者らしい。
 男の目的は "ウサ晴らし"
 誰でも良いというわけではない。
 ターゲットは、HAL在校生限定。
 何故かというと、彼は恨んでいるから。
 何度受験しても合格することが出来ない。
 その現状にイラついているから。要するに逆恨みだ。
 事前に、HALへ警告状を送っていたらしきことも、男の発言から明らかになった。
 男の正体と目的が明らかになると、夏穂と千早は、更に大きな溜息。
 その反応に、男がキレて襲い掛かってくる。
 武器の類は持っていない。彼の武器は、自らの指先から放つ魔法の糸だ。
 針のように飛んでくる糸を避けながら、夏穂と千早は、同時に小さな声で呟いた。
「愚かで滑稽ね……」
「不憫ですね」
 言葉を放つと同時に、夏穂は氷柱を出現させて飛んでくる魔糸をパキンと折った。
 千早は、そっと触れて、魔糸そのものを打ち消してしまう。
 夏穂も千早も、まるっきり焦っていない。
 寧ろ、余裕しゃくしゃくだ。
 男がどんなに魔糸を飛ばそうと、掠りもしない。
 それが余計に男をイラつかせ、無鉄砲な攻撃へと駆り立てる。
 魔力の調整もロクに出来ていない。ただ闇雲に放っているだけ。
 そんなんじゃあ、二人に掠りもしなくて当然だ。
 糸遊びに付き合うのも飽きた。
 そもそも、ハントで疲れているんだ。
 早く報告を済ませて、家に帰って寝たい。
 夏穂と千早は顔を見合わせて頷き "トドメ" を仕掛ける。
 いつもは子犬サイズの護獣、蒼馬。
 夏穂が目配せを飛ばせば、内に秘める魔力が解き放たれて巨大化。
 愛くるしい姿から、狛犬のような姿に変わった護獣は、
 主の意思に沿い、不憫な男へ飛び掛る。
 それに合わせて、追い打ちをかけるかのように千早も続く。
 不憫な男の心の中を少しだけ覗き見て、男にとって恐怖の象徴である存在を出現させる。
 千早の手元から出現したのは……とても綺麗な女性だった。
 どうして、こんなに綺麗なお姉さんが恐怖の象徴なのか。
 そのあたりは不明だけれど、効果抜群なのは確か。
 抵抗する気力を一瞬にして削がれた男は、その場にペタンと座り込んでしまう。
 トドメといっても、実際にトドメを刺すわけじゃない。
 生身の人間を殺めるだなんて、そんなことは出来ない。
 ここで言うトドメは、お仕置きのようなもの。
 護獣をもとの大きさに戻し、抱き上げながら夏穂は言った。
「八つ当たりほど醜いものはないわ。恥を知りなさい」
 出現させた綺麗な女性の幻影を消し、千早は目を伏せて言う。
「二度目はないですよ」

 *

 腰が抜けた男は、そのまま放置で。
 夏穂と千早は、何事もなかったかのように歩き出す。
 護獣の背中を撫でながら、夏穂は呟くように言った。
「あの子には劣るけど、光るものはあるのよね……」
 夏穂の発言は、あくまでも独り言だったのだけれど。
 同じような感想を抱いていたが故に、千早の呟きが噛み合う。
「勿体ないですよね」
「気持ちの問題ね。未熟なのは心だわ」
「そうですね。僕も、そう思います」
 距離は保ったまま、並んで歩く夏穂と千早。
 二人の背中をボーッと見つめながら、男は溜息を落とした。
 何となく理解ったような気がする。どうして、自分は合格できないのか。
 ああいうのばかりなんだろう。合格するのは、ああいう奴らなんだろう。
 項垂れる男の内心は、わからない。
 悟った上で、更にワザに磨きをかけようと踏ん張るのか。
 それとも、自分には無理なんだと諦めてしまうのか。
 逆恨みの挙句、男は、自身にどんな決断を下すのか。
 それが理解るのは、次の入学試験だろう。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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