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<東京怪談・PCゲームノベル>


タイミング (3.14)

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 何のことはない。そのはずだ。うん、そのはずだ。
 そう思うのに、そう思っていたのに。
 何なんだろう、この難しさ。
 こんなにも難しいものなのか?
 いや、深く考えすぎなのかもしれない。
 気負う必要なんてないじゃないか。そうだ、そうだ。
(……。……くっ)
 言い聞かせてみても、やっぱり難しい。
 どうしてこんなに難しいんだ。テストよりずっと難しい。
 ただ、渡せば良いだけなのに。先月は、ありがとうって言葉を添えて。

 3月14日、ホワイトデー。
 校内の各所で、妙な動きをする男子生徒を確認できる。
 物陰からこっそりと様子を窺ってみたり、右往左往したり。
 間違いなく、気付いているだろう。女の子は敏感だから。
 理解ってあげよう。男の子も大変なのです。今日は特に。

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(やっぱり……何度考えてみても理解らないわね)
 授業中、指先でペンをクルクル回しながら首を傾げた夏穂。
 彼女が考えている、いや、考えさせられている、その理由は今朝に遡る。
 学校へ行こうと準備していたところ、
 居候であり、彼女の友人でもある少女が言ってきたのだ。
 今日は "アレ" を使ってもいいぞ、と。
 寧ろ、アレを使うなら、今日しかねぇ! と。
 アレが何なのか、夏穂はすぐに理解した。
 そりゃあ、そうだ。アレを禁じたのは、この少女なのだから。
 ただ単に使用許可が降りただけで、詳しい説明はしてもらえなかった。
 いったいどういうことなのか。どうして、今日に限って許可されるのか。
 夏穂は、授業中、ずっと考えていた。が、どんなに考えても理解らない。
 あまり深い意味はないのかもしれない。いつもの気まぐれかもしれない。
 そう思った夏穂は、いつしか考えることを止めた。
 授業が終わり、放課後になった頃には、綺麗さっぱり忘れていた。
 許可されたことも、考えていたことも何もかも。

 放課後、夏穂は9割の確立で図書室に赴く。
 滞在時間は日によって様々だけれど、いったん入ると、なかなか出てこない。
 HALの図書室は、魔術書やら絵本やら漫画やら……実に多種多様な本がある。 
 本好きな夏穂にとっては、パラダイスである。
 今日も今日とて、夏穂は図書室の隅っこ。
 壁に凭れるようにして座り、横に大量の本を積んで読書に没頭。
 椅子もテーブルもあるのに、どうして隅っこで座って読むのか。
 本人いわく、隅っこが落ち着くらしい。何だか、狭いところを好む猫のようだ。
 夏穂が、いま読んでいるのは、著者不明の魔術書。
 少々乱暴な語り口だが、遠慮のない内容が気に入ったようだ。
 すさまじい勢いで集中している為、何だか近寄りがたい雰囲気。
 そんな夏穂のもとへ、歩み寄る人物がいた。
 ちょっとぎこちなく、おそるおそる進む。
 誰かと思えば、海斗だ。
 何でまた珍妙な動きをしているのか。
 まるで、忍者だ。へっぴり腰の忍者。
 ふと見やれば、海斗の手には白い箱。
 可愛らしくリボンが巻かれている。
 あぁ、そうだ。今日はホワイトデー。
 先月のお返しに、と夏穂に渡しにきたのだろう。
 だがまぁ、動きを見れば一目瞭然だ。かなり動揺している。
 いつでも、あっけらかんとしている海斗が動揺するなんて珍しい。
 まぁ、それだけ意識しているということなんだろうけれど。
 ぎこちない動きのまま、夏穂の正面に到着した海斗。
 海斗は、その場にしゃがんで夏穂を見やる。
 読書に集中している夏穂の顔は、真剣そのものだ。
 邪魔しちゃマズイだろうか。タイミング悪いだろうか。
 でも、朝からずっと探ってるけど、いまがジャストタイミングだと思う。
 これを逃してしまったら、渡せない。夏穂が帰ってしまったらオシマイだ。
 まさか自宅まで渡しに行くわけにもいかないし。
 いや、別にイイんだろうけれど、そこまでするのは余計に恥ずかしい。
 渡せずじまいだったことがバレようものなら、もっと恥ずかしい。
 ブルンブルンと頭を振って何かを払い、海斗は意を決して声をかけた。
「夏穂」
「…………」
「えー……と。な、夏穂」
「…………」
「お、おーい……」
「……! あっ、ごめんなさい」
 ようやく気付いてくれた。海斗は苦笑しながら頭を掻く。
 読んでいた本を閉じて、首を傾げる夏穂。
「どうしたの?」
 キョトンとした顔に、妙な脱力感。
 今まで、ああだこうだ考えていた自分が可笑しく思えた。
 タイミングが難しいとか何とか言って、躊躇っていた自分が可笑しく思えた。
 それまでの緊張が解け、海斗にいつもの笑顔が戻る。
 ニッコリと微笑みかければ、夏穂もつられるようにニッコリ。
 向かい合って微笑みあう、言葉はない。何だこれ。おかしな光景。
 海斗は笑いながら、夏穂に手渡した。白い箱を。感謝の言葉を添えて。
「これ。先月のお返し。どーもな」
「…………」
 目を丸くしている夏穂。さっぱり理解できていない御様子。
 海斗はケラケラ笑いながら、夏穂の頭をパフパフした。
「何。もしかして、忘れてた?」
 海斗の言葉で、もやもやが晴れる。すっきり。
 あぁ、そうか。今日はホワイトデー。お返しの日。
 だから、あの子は言ったんだ。許可したんだ。そういうことか。
 理解した夏穂は、何だかおかしくて、俯いて口元に手をあてて笑う。
 朝から海斗の動きが忍者みたいで変だった理由も理解った。
 全部が、一本の線で結ばれる。難解な数学の問題が解けたかのような心地良さ。
 夏穂は微笑むことをピタリと止め、そのまま硬直した。
 海斗は首を傾げる。
「ん? どした?」
 顔を上げると同時に、弾ける華。
 禁じられていた "アレ" とは、極上の笑顔。
 その威力は絶大だ。もはや、兵器と呼べる。
 ただでさえ凄まじい威力を誇るのに、それに加えて……。
「ありがとう。海斗」
 可愛い声で、そんなことを言われてしまったらば。
「あ、お、え、お、おぅいぇす……」
 こうなってしまう。意味不明な言葉を吐き、思いっきり目を泳がせる海斗。
 目を見ることが出来ない。自分が今、どんな顔してるのか、ものっそい気になる。
 頭を抱えて丸くなる海斗。そんな海斗にクスクス笑いながら、
 夏穂は、頂戴した白い箱の蓋を、そっと開けてみた。
 中にあったのは、色とりどりの可愛いクッキー。
 夏穂は目を輝かせ、海斗の腕をキュッと掴んだ。
「一緒に食べましょう?」
「あ、え、お、せ、せいいぇす……」
「ふふっ。なぁに、それ」
「いや……。何でもない……」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL:生徒

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 おういぇす(Oh yes) せいいぇす(Say yes)
 ……かなり動揺している模様です(笑)
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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