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<東京怪談・PCゲームノベル>


逆恨み

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「どうします?」
「いつもどおりの対応で構わぬよ」
「わかりました。他の教員にも、そう伝えます」
「……お前さんも、わかりやすいのぅ」
「えっ」
「納得いかぬ。そんな顔をしておるぞ」
 笑いながら、紫色の猫の背を撫でる学校長。
 千華は、苦笑しながら扉に手を掛け、背を向けた状態で呟いた。
「いつか不満が爆発するのでは、と。危惧しています」
「逆恨みというやつじゃな」
「そうですね」
「その時は、その時じゃ。さほどの相手でもあるまい」
「買い被り過ぎではありませんか?」
「ふぉっふぉっ。謙遜するのぅ」
「……ふふ。失礼します」
「あぁ、ご苦労様」
 パタンと閉じる扉。
 少し開けた窓から入り込む風は、まだ冷たい。
 学校長は目を伏せ、口元に淡い笑みを浮かべた。
 逆恨みか。まぁ、いつかは勃発する事象だとは思っているが。
 問題なかろうて。おぬしらならば、難なく乗り越えるじゃろうて。
 買い被り? 過大評価? 何を今更。
 我が子を信ずるのは、親として当然のことじゃろう。

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 ハントを終えて、報告に学校へと戻る最中。
 一緒にハント活動をした雪穂と霊祠は、お喋りしながら学校へ戻る。
 同じクラスである二人が、こうして一緒にハント活動をするのは珍しいことではない。
 仲が良いこともあって、タイミングさえ合えば、二人は一緒にハントへと赴く。
 ちょっとタイプは違えど、二人とも魔術師だ。自然と会話は弾む。
 周りからしてみれば何のこっちゃ……と首を傾げるような難しい話ばかりだけれど。
 時に笑い、時に真面目な顔をしながら揃って学校へと戻って行く二人。
 ふたつの足音と声が響く夜の街。薄暗い路地。
 歩きながら、二人は気付く。もうひとつ……足音が混じっていることに。
 敵……ではなさそうだ。雰囲気が生々しい。人間特有の気配。
 雪穂と霊祠は、何気ない会話を続けながらも、顔を見合わせて頷いた。
 難なく開始される "誘導"
 歩むスピードを少しずつ速め、人気のない方向へと進んでいく。
 潰れ、その後新たな場所へと生まれ変わることなる在り続ける小さな遊園地。
 そこへ移動した二人は待ち伏せる。
 さきほどから自分達を尾行ている人物を。
 ボロボロになったメリーゴーランドの前で並んで立ち構える二人。
 やがて姿を見せる、謎の人物。
 見覚えは……ない。雪穂も霊祠も初対面のようだ。
 知り合いでないとなると……どんな感じだろう。
 たまたま居合わせたから尾行て悪さをしようとしただとか、そんな感じだろうか。
 だとすれば、不憫だ。狙う相手を間違っている。痛恨のミスである。
 せっかく楽しくお喋りしていたのに。邪魔するなんて無粋な人だ。
 雪穂と霊祠は、揃って小生意気な苦笑を浮かべて肩を竦めた。
 二人を尾行ていた男は、見るからに悪そうな雰囲気。
 とはいえ、強そうかどうかと問われれば、まったく……。
 小者臭がプンプンと立ち込めているような。その程度。
「大したことないね〜」
「ですねぇ」
 笑って余裕を見せる二人に苛立ち、男は叫んだ。
 どうして尾行ていたのか、目的は何なのか。
 くだらない理由だ。見た目も中身も小者らしい。
 男の目的は "ウサ晴らし"
 誰でも良いというわけではない。
 ターゲットは、HAL在校生限定。
 何故かというと、彼は恨んでいるから。
 何度受験しても合格することが出来ない。
 その現状にイラついているから。要するに逆恨みだ。
 事前に、HALへ警告状を送っていたらしきことも、男の発言から明らかになった。
 男の正体と目的が明らかになると、雪穂と霊祠は少しだけ沈黙し、すぐに大笑い。
「うるっさいな〜。そんなん僕達に言われても困るよ〜。ね〜? 霊くん」
「そうですよ。困ったさんですねぇ」
「そういうのは、直接ボスに言わなきゃ駄目だよ〜」
「それが出来ないから、こんなことになってるのですよ。雪穂さん」
「あっ、そっか。あはははは〜」
 馬鹿にしたような態度。いや、実際、馬鹿にしてるのだけれど。
 挑発にノッて、男はキレて襲い掛かってくる。わかりやすい性格だ。単純である。
 武器の類は持っていない。彼の武器は、自らの指先から放つ魔法の糸だ。
 針のように飛んでくる糸を避けながら、雪穂は目を輝かせて笑う。
「おお〜。糸使いさんなんだ〜。面白いね〜♪」
 笑いながらも、雪穂はスペルカードを懐から取り出して詠唱。
 唱えた【剣】のスペル効果によって、雪穂の動きは俊敏に、言葉遣いは、やや乱暴なものへと変わる。
 雪穂が、ガツガツと応戦している間、霊祠は何をしているかというと。
(う〜む。適当で良いですよねぇ、きっと)
 考えていた。自分は、どうしようかと。余裕そのものである。
 だが、その余裕が一瞬だけ崩れかけるシーンが。
(あっ)
 一瞬の隙を突かれ、雪穂が拘束されてしまった。
 魔糸でグルグル巻きにされた姿は、ミノ虫のようだ。
 ちょっとノンビリしすぎたかもしれないと、霊祠は慌てて指先で魔方陣を描く。
 だが、心配無用。雪穂は、ニタリと笑って、唯一自由に動く指を鳴らした。
 パチンと音が響けば、彼女の二匹の護獣、白桜と正影が揃って巨大化。
 普段は愛らしい子猫サイズだが、ライオン……いや、猛獣へと姿を変える。
 焦る必要はなかったのかと苦笑する霊祠。と同時に、魔方陣の構築が終わる。
 魔方陣から不気味な紫色の煙と共に出現する二体のワイト。
 ビックサイズな護獣二匹の威嚇に加えて、ワイトの精神攻撃。
 これらを短時間に食らってしまっては、成す術なしだ。
 抵抗する気力を一瞬にして削がれた男は、その場にペタンと座り込んでしまう。
 生身の人間を殺めるだなんて、そんなことは出来ないから、お仕置き程度に。
 まぁ、お仕置きというには度が過ぎているかもしれないけれど。
 戦意を完全に喪失した男の目を確認した二人はクスクス笑う。
 護獣をもとの大きさに戻し、抱き上げながら雪穂は言った。
「また頑張んなよ♪ 諦めたら、そこで終わりなんだし〜♪」
 出現させたワイト二体を元の世界へ戻しながら、霊祠は目を伏せ、
「頑張って下さいねぇ」
 そう言って、男の手に黒い封筒を握らせた。

 *

 腰が抜けた男は、そのまま放置で。
 雪穂と霊祠は、何事もなかったかのように歩き出す。
 護獣の喉を撫でながら、雪穂は言った。
「強いとは思うんだよね〜。あの人」
 雪穂の言葉に、うんうんと頷く霊祠。
「ですよねぇ。調整が上手く出来てないだけのような気がしますですよ」
「気持ちの問題かな〜。ま、あの子には及ばないけどねっ」
「あの子? どなたです?」
「んとね〜。お友達なんだけどね〜」
「ふむふむ?」
 ケラケラと楽しそうに喋りながら立ち去っていく雪穂と霊祠。
 二人の背中をボーッと見つめながら、男は溜息を落とした。
 何となく理解ったような気がする。どうして、自分は合格できないのか。
 ああいうのばかりなんだろう。合格するのは、ああいう奴らなんだろう。
 ……そういえば、この封筒は何だろう。
 霊祠に貰った(というか強引に渡された)封筒を見やる男。
 男は、おそるおそる、封を切ってみた。中には【4】の数字が書かれた小さな紙が一枚。
 男が【4】の数字を確認すると同時に、霊祠は左手で4を作ってから小さく指を弾いた。
 呪いの一種だけれど、恐ろしいものではない。
 非を悟らせ、前向きな気持ちにさせる、背中を押す特別な呪い。
 逆恨みは迷惑だけれど、気持ちは理解らないでもない。
 そう思うからこその、ちょっとした応援。
 指を弾いた霊祠を見やりながら、雪穂は笑った。
「霊くんって優しいよね〜」
「お節介なだけかもしれませんけどねぃ」
 項垂れる男の内心は、わからない。
 更にワザに磨きをかけようと踏ん張るのか。
 それとも、自分には無理だと諦めてしまうのか。
 逆恨みの挙句、男は、自身にどんな決断を下すのか。
 それが理解るのは、次の入学試験だろう。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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