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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


ドキッ! スライムだらけの開かずの部屋
●オープニング【0】
 あやかし荘に開かずの部屋がたくさんあるのは、出入りする者たちにとっては周知の事実である。単に開かなくなっているだけの部屋もあれば、それこそ曰く付きの部屋もあったりする。何にせよ、開かずの部屋となってしまった部屋はその中がどのようになっているのか、それを知る手段が失われてしまっている訳で……。
 だからこそ、今回のこの騒動は起こってしまったと言えよう。
 前置きはこのくらいにして、そろそろ本題に入ることにしよう。
 春4月――平穏だったはずのその日、あやかし荘に悲鳴が響き渡った。それも2人分の悲鳴だ。
「何事ぢゃ!?」
 悲鳴を聞き付けた嬉璃が管理人室の扉を開いて廊下へと飛び出してきた。そこへ2人の少女が廊下を駆けてくる――柚葉と管理人の因幡恵美である。しかし、その姿は……。
「ど、どうしたのぢゃ? いったい何をされたのぢゃ!!」
 嬉璃が戸惑いの反応を見せるのも当然であった。何故なら、2人の格好は見るも無惨にぼろぼろになってしまっていたのだから。それこそもう、あちこちから下着が覗いてしまうくらいに。しかしそれは、引きちぎったとか切り刻んだといったものではなく、どうも薬品みたいな物か何かで溶かされたような感じであった。
「あ、あのねっ、ぬるぬるのどろどろがずりゅんずりゅんって!!」
 柚葉さん、擬音だけで話されても全く意味不明です。
「それでは意味が分からぬぢゃろ!! ……何があったのぢゃ、恵美よ」
「たぶんあれって、スライムだと思うんだけど……」
「スライムぢゃと? 詳しく話してみるのぢゃ」
 嬉璃が恵美に詳しい事情を尋ねた。何でも、開かずの部屋の1つを柚葉が面白がって扉をがちゃがちゃといじくってしまっていた所、偶然にも開いたのだという。で、ちょうど通りがかった恵美とともに中へ入ってみると、突然頭上から粘液状の物体がたくさん降ってきて、あれよあれよという間に衣服を溶かされてしまったのだそうだ。
「それでも何とか振り払って、扉を閉めて逃げてきたの」
 そう説明する恵美。振り払うことが出来なかったら、今頃恵美の姿はどうなっていたか想像に難くない。
「変な物が棲みついたものぢゃな……」
 嬉璃が溜息を吐いて思案した。開かずの部屋であった時ならまだしも、それが開いた今となってはこのまま放置しておく訳にもゆかないだろう。やはり退治しなければならないか。
「……誰か呼んで対処を任せるかのぉ。その部屋の広さはどのくらいぢゃった?」
「んー、6畳2間くらい? もうちょっと広かったかな?」
 嬉璃の質問に答える柚葉。まあおおよその広さが分かっただけでもよし。
 かくして、スライム退治に人が集められることとなった――。

●それじゃあ、お友だちを紹介してください【1】
「えーと……」
 可愛い顔立ちをした17歳前後らしき少女が、管理人室をきょろきょろと見回した。
「……僕だけなの?」
 目の前に居る嬉璃にそう尋ねる金髪の美少女――ソール・バレンタイン。2人の他に部屋に居るのは、未だぼろぼろの衣服をまとっている恵美と柚葉だけであったからだ。
「うむ、お主だけぢゃ。どうも皆、手が空いておらぬようでのう……」
 と渋い表情で答える嬉璃。
「ともあれ、お主だけでも来てくれたのはありがたいのぢゃ。さっそく、今分かっている限りのことをこの2人に話させるから、よく聞いておくのぢゃぞ」
 そして嬉璃は、恵美と柚葉に件の開かずの部屋の様子を語らせる。部屋の広さ、中に居た物体の様子などなど。ソールはそれをしばし黙って聞いていた。
(これはまた変なのが出てきたね。スライムって日本じゃゲームか何かで弱いってイメージがあるらしいけど、実は意外と厄介なんだよね……)
 思案するソール。某国民的RPGなどのせいか、スライムには可愛らしいイメージがあるかもしれないが、本当は厄介な生物なのである。その攻撃方法は粘液による対象物の溶解……つまり敵を溶かしてしまうということだ。
 殴られたり撃たれたりするのと違って、この攻撃は防ぐのも難しい。何しろ全身包まれでもすれば、それで一巻の終わりになってしまう可能性も高い訳で。さらに、こちらから攻撃する時も問題がある。スライムとは、言い方を変えれば自律する粘液なのだ。粘液を切ったり叩いたり撃ったりして果たして倒せるのか、という話である。
 そんなややこしい存在が、恵美たちの話によればこのあやかし荘に居るのだ。だがしかし、恵美と柚葉の今の姿を見てみると、ソールが知るスライムと少し違う部分があるような気がしなくもない。
「怪我は……あるの?」
 恵美の身体をじーっと見つめたままソールが尋ねた。
「あ。服はこうなっちゃったけど……怪我はないみたい」
「うん、どこも痛かったり、血が出たりしてないよ」
 恵美と柚葉が口々に答える。幸いにして2人とも身体は無傷らしい。
(溶かす力が弱いのかなあ?)
 そんなことを考えるソール。外側から徐々に溶かしてゆくタイプのスライムなのかもしれないし、はたまた綿とか絹とかそういった素材に強く反応するタイプであるのかもしれない。1つ確かなのは、僅かの時間であるならば怪我をすることはなさそうだということであろう。
(……よし、決めた!)
 ソールは意を決するとすくっと立ち上がった。嬉璃が不思議そうにそんなソールを見上げる。
「む、どうしたのぢゃ?」
「僕の知り合いの魔法少女に頼んでみますよ。僕よりも適任だと思いますから」
「ほう……魔法『少女』にのう。お主が、か」
 ちと含みのある嬉璃の言葉。ソールはこくこく頷いた。
「ええ、魔法少女にです」
「まあ、お主同様に可愛いんぢゃろう」
 さらっと言い放つ嬉璃。
「あ。えっと……えへへ……」
 少し頬を赤らめてはにかむソール。
「そ、それじゃすぐに呼んできますね!」
 と言うと、ソールは部屋の外へ飛び出していった。

●魔法少女見参!【2】
 さて、それから10数分後。廊下をパタパタと駆けてくる音が聞こえてきた。そして管理人室に誰かが勢いよく入ってくる。それは赤系統を基調とした色使いで、かなり露出度の高いいかにも魔法少女なコスチュームに身を包んだ美少女であった。
「みんな! 待たせてごめんなさい! 太陽と月の女神ソルディアナ参上!!」
 そう言ってびしっとポーズを決め、最後にウィンクと投げキッスを放つ美少女。
 ――一瞬、部屋の時間が止まったような気がした。最初に口を開いたのは柚葉だった。
「あー、着替えるのに時か……むぐぅ!! むがもがっ!!!」
 横から嬉璃によって即座に口を塞がれた柚葉。
「……お主が魔法少女のソー……もといソルディアナなのぢゃな?」
 柚葉の口を塞いだまま嬉璃が確認する。まあぶっちゃけた話をすると、目の前のソルディアナと名乗っている美少女がソールであることは一目瞭然なのだが、この場合はあえて別人として接するのがお約束な訳で。
「ええ。私の名前は魔法少女ソルディアナ、ソールさんから連絡を受けて大至急やってきました」
 ぱっくりと開いている胸元に手を当て、きっぱりと言い放つソール……いやいやいや、ソルディアナ。ええ、ええ、別人ですとも、そうですとも。
「遅くなってすみません」
 ソルディアナがぺこんと頭を下げる。いやまあ実際の所、『マジカル・チェーンジ!』と叫びさえすれば一瞬にしてこの姿に変身出来るのだが、あくまで別人なのだから呼ばれて駆け付けるまでの時間がある程度必要でして……。
「時間はどうでもよいのぢゃ。ともあれ、全てはお主に託されたのぢゃ!」
「任せてください! この魔法少女ソルディアナが……太陽と月のパワーを受けて……万事解決です!」
 またしてもポーズを決め、最後に小首を傾げてにこっと微笑むソルディアナ。見事な魔法少女っぷりである。
「それじゃあ……その、開かずの部屋へ案内をお願いしますね」
 かくして、ソルディアナは禁断の扉の向こうへ単身挑むこととなった――。

●どきどき魔法少女タッチ【3】
「危ないですから下がっていてください。それから……万一のための準備、お願いしますね」
「うむ、そっちは任せておくのぢゃ」
「すぐに探して持ってくるよ!」
 ソルディアナの言葉に嬉璃は頷き、柚葉は元気よく答えた。
「気を付けてくださいね……」
「はい! では行ってきますね」
 ソルディアナは恵美にそう返すと、いよいよ目の前にある開かずの部屋へ入ることにした。扉を必要最低限開き、素早く中へ入り込むソルディアナ。一瞬光が差し込んだ部屋も、扉を閉めた途端に真っ暗になってしまう。
「妙に静かだよね……?」
 部屋はしんと静まり返っていて、下手すれば耳が痛くなりそうな……そんな感じだ。それに、部屋には気配もない。
 ソルディアナは入った所でしばし動かずにいたが、次第に暗闇に目も慣れてきたので少しずつ中へと移動してゆくことにした。不思議なことに、床にはスライムと思しき物体がまるで見当たらない。ただ、多少足元がぬるっ……としている感触はあった。
(……このぬるぬる具合からすると、確かにスライムは居たんだろうけれど……。どこに隠れているんだろう?)
 痕跡はあれども姿はなし。まさか他の部屋にもう移動してしまったのか?
 そんな考えもよぎる中、ふと恵美が語っていた内容をソルディアナは思い出した。頭上から突然降ってきたと、恵美は言っていなかったか……?
 はっとして頭上を見上げるソルディアナ。
「!!」
 するとどうだろう、天井には無数の粘液状の物体が、隙間なく貼り付いているではないか!!
 次の瞬間、粘液状の物体――スライムが大量にソルディアナ目がけて降り注いできた!
「きゃあっ!!」
 不意をつかれ、ソルディアナが思わず悲鳴を上げてしまう。その間にもスライムたちはソルディアナの身体にぴたっと貼り付いてゆく。
「あ……?」
 そしてソルディアナは目を疑った。身に纏っているコスチュームのあちこちが、もう溶け始めているではないか。いやはや何という早さなのだ!!
 このままでは元々露出度の高い衣装がさらに露出が高くなり、やがては一糸纏わぬ姿になってしまうやもしれない。何ともうらやましい……もとい、いやらしい……じゃなくて、けしからんスライムなのだろうか!!
(急がないと!!)
 ソルディアナの右のこぶしが、瞬く間に炎に包まれる。ファイアーフィストの能力を発揮したのだ。
 そして右足にまとわりつくスライムをその手で叩くように払い除けた。スライムは一瞬にして蒸発し消え失せてしまう。
「やっぱり!」
 衣服を溶かしてこようがスライムはスライム、ソルディアナの思った通りスライムは火に弱いようであった。
「そうと決まれば……ええい! はっ! やあっ!!」
 炎に包まれた右手で、ソルディアナは次々にスライムを払い除けてゆく。部屋に火が燃え移らぬよう火力は調節していたが、それでもスライムを退治してゆくには十分であった。
(この調子なら全部退治出来そうかも……!)
 とソルディアナが思い始めたその瞬間である。
「ひゃあっ!?」
 突然びくんと反応し、背筋が伸びてしまうソルディアナ。
「あ……や……やぁっ! そこは……!!」
 ソルディアナが顔を真っ赤にして、ぶるぶると頭を振った。どうやらスライム、ソルディアナの衣服の中に入り込んでしまった模様である。
「は……ぁ……んんっ! やだこれ……!!」
 入り込んだスライムがよほど活発に動いているのか、ソルディアナの動きがぴたっと止まってしまった。その隙に、また他のスライムたちがソルディアナに貼り付き衣服を溶かしていってしまう。
「く……わ……私……! ま……け……負けないっ!! 私は魔法少女……ソルディアナなんだから!!」
 入り込んだスライムの巧みな動きによって危うく意識を持ってゆかれそうになってしまったソルディアナだったが、気力を振り絞って左手を衣服の中に入れてどうにかそのスライムを身体から引き離した!!
「はぁぁっ!!」
 ソルディアナは左のこぶしにもまた炎を纏わせると、両手を使ってスライムを排除していった。
「これで……おしまい!!」
 ソルディアナの放った左のストレートが最後に残ったスライム目がけて見事に決まり、衣服をぼろぼろにされながらも何とかスライムを退治することが出来たのであった――。

●綺麗に洗い流しましょう【4】
「むう……激闘だったようぢゃなあ」
 嬉璃は部屋から出てきたソルディアナの姿をしげしげと眺めていた。ただでさえ露出度の高いコスチュームはスライムのせいでさらに過激になっており、その全身は何かにまみれたようにぬるぬるしてねばねばしてどろどろといった有り様であったからだ。それはもう、退治の一部始終を撮影しておけばその筋の方々にいいお値段で売れるのではないかと思えるほどの有り様だ。
「それでも、全て退治しました……」
 ソルディアナはそう言って安堵の溜息を吐く。
「これ使わなくて済んだね!」
 柚葉が抱えていた消火器を見せる。万一のために用意してもらったのだが、ソルディアナは部屋を焦がすこともなくスライム退治を済ますことが出来た。
「早くお風呂にどうぞ。それだと気持ち悪いでしょ?」
 心配して恵美がソルディアナに言った。
「ありがとうございます……」
 こくっと頷くソルディアナ。正直、いつまでもこの状態は気持ち悪いので、早く洗い落としてさっぱりしてしまいたいと思っていたのだ。
「うむ、それがいいぢゃろう。まあ今の時間なら誰も居らぬぢゃろうし、男湯ぢゃろうが女湯ぢゃろうが好きな方に入ってくればよいのぢゃ」
 嬉璃もそう言ってソルディアナに風呂を勧める。その2人の言葉に甘え、ソルディアナはさっそく風呂へと向かっていった。
「上がったら甘い物でも食べるとよいのぢゃ。用意しておくから持ってゆくがよい」
 嬉璃はソルディアナの背中に向かって、そう声をかけた。
 さて、それから数分後のことだ。
「た……ただいまです……」
「どうしたのぢゃ三下、その姿は?」
 スーツのあちこちが破れ、泥だらけでぼろぼろになった姿で三下忠雄があやかし荘へ帰ってきたのである。
「は、はあ。実は帰る途中で、大きな犬にのしかかられまして……」
「お主らしいのう」
「……3匹に一気に」
「今日ばかりは少しばかりお主に同情してやろう……」
 さすがに大きな犬3匹に一度にのしかかられたのでは、さすがの嬉璃であっても三下に同情せざるを得なかった。
「とにかく、とっととお風呂に入って汚れを落とすがよいのぢゃ」
「はい……そうします……」
 深い溜息を吐き廊下を歩いてゆく三下。嬉璃はその背中を見ながら、はたと気付いた。
「……そういえばすでに彼奴が入っておったのう……」
 そうなのだ、ソルディアナがすでに風呂に入っている訳で。そこに三下も入ることになるのだが……。
「まあ、別に問題はないぢゃろう」
 しれっと言い放ち、嬉璃は管理人室へ戻っていった。
 さあこの後どうなったのかは、推して知るべしである……。

【ドキッ! スライムだらけの開かずの部屋 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7833 / ソール・バレンタイン(そーる・ばれんたいん)
          / 男 / 24 / ニューハーフ/魔法少女? 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全4場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。ここに、ある意味マニアックなお話をお届けいたします。この手のお話は、コミックなんかでやるとより楽しくなると高原は思うのですが……さてさて、文章でどこまで表現出来たことやら。
・分類するなら、この手のお話はお色気コメディになるのでしょうかね。まあたまにこういうお話をやりたくなるのが高原です。これから夏本番ですから、また近いうちにやりたいものですね。
・ちなみにですね、霊体だとこのスライムによる攻撃は無効だったり……。一応、複数の解決方法は用意していたのでした、はい。
・ソール・バレンタインさん、初めましてですね。スライムの弱点を突いたのは非常によかったと思います。本文にもありますように、スライムはスライムですからね。で、アイテムが1つ増えているかもしれませんが、これが本文中で嬉璃が言っている物です。それから、OMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。