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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


招かれざる客への歓迎会

 波波木がふらりとやってきたのは先程の事である。
 20年前にあやかし荘に住んでいたと言う彼女は蛇神様で、ふらりとやってきて早々歓迎会を要請してきた。
 あたしだけならともかく、住んでる皆にも都合はあるんだけどな……。
 困った人、いや困った神様だなあ。本当に困った。
 管理人の因幡恵美はしばらく考えた結果、とりあえず皆に話を聞いてみる事にした。

「ねえ、今日新しい住民の波波木さんが来たから歓迎会をしようと思うんだけど、どうしよう?」

 さて、歓迎会。
 無事に終わればお慰みである。

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 ミリーシャ・ゾルレグスキー、愛称ミリーがあやかし荘に帰宅したのは、ちょうど空が金色になった頃であった。

「あっ、ミリーさん!! お帰りなさい!!」
「……ただいま……」

 恵美がエプロンを着てパタパタ掃除をしている。
 確かに彼女がエプロン着て掃除するのはいつもの事なのだが、今日は何か様子がおかしい気がした。
 一つは、何かいい匂いがする。
 恵美だって家事はする。全部が得意な訳ではないが、三食きちんと作っている。が、あまり手の込んだ料理を、それも特に何もない日には作らない。
 もう一つは、夕方にも関わらず、恵美が掃除をしている事である。
 いつもは早朝に起きて掃除してから学校に行ってるのに、何で今から?

「パーティー……?」

 ミリーは思いついた事をポツリと言ってみた。
 恵美はコクコク頷いた。

「そうなんですよ。今日来たんです。名前は波波木さん。えーっと20年前にここに住んでたって言ってたから、おばあちゃんが管理人の代の住民さんじゃないかな?」
「20年前……? 来た人……おばあちゃん……?」
「すっごくキレイな人ですよー。嬉璃曰く蛇神様らしいです」
「神様……? 何で……いきなり戻ってきたの……?」
「何ででしょうねえ? まあ、それはおいおい波波木さんに聞くとして、ミリーさん、お願いします!」
「な…に……?」
「波波木さんの歓迎会手伝って下さい!!」

 恵美が両手をパンと叩いて、ミリーにお辞儀をした。
 ミリーはキョトンとした顔をした。

「神様の歓迎会なんて初めてで、正直どうすればいいか分からないんですよー。一応歌姫さんや綾さんにも色々頼んだりしてみましたけれど……お願いします!!」

 ミリーは「んー……」と上を向いた後、コックリと頷いた。

「分かった……団長に言ってみる……」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 恵美はパァーっと笑顔で笑った後、ミリーの手をブンブンと振った。
 ミリーはされるがまま手を振られていたが、嬉璃の怒鳴り声に恵美はぱっと手を離した。

「何をやっておるのぢゃー!! 芋煮が焦げておるではないかー!!」
「えーっ!? いけない、私もう行かないと! それじゃあミリーさん、よろしくね!!」

 恵美はきびすを返して走っていった。
 そう言えば、いつ歓迎会するか訊くの忘れた。
 ミリーはそれに気がつき、「うーん……」と首を傾げた後、まあいっかと頷いた。
 ミリーはサーカスでアクロバットを披露するのを生業としている。
 一応、どんな技をすれば喜ぶか、聞いてみようかな。
 そう思ってミリーはのんびりとあやかし荘へと入っていった。

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「波波木か?」
「そう……」

 歓迎会の用意であやかし荘の中を走り回っている恵美の代わりに管理人室にいたのは、嬉璃である。
 嬉璃はその日も趣味のTV鑑賞をしている。今はワイドショーで芸能人のゴシップが垂れ流れている所だ。
 20年前の人となると知っている人物は少なく、御年999歳の嬉璃位しか、波波木の事について知っている者がいなかったのである。

「波波木さん……どんなもの見せたら……喜ぶかなって……」
「奴は尻軽女ぢゃ。ナウいものを見せてやれば何でも喜ぶぞ」
「嬉璃……言い方古い……」
「やかましいわ!! で、何じゃ? 他に気になる事でもあるのか?」
「波波木さん……何でいなくなって……どうして戻ってきたのかなって……」
「あ〜」

 思っていた事をそのまま言っただけにも関わらず、何故か嬉璃は心底「馬鹿らしい」と言う顔をしていた。
 ミリーはきょとんとする。

「何……?」
「訊いたらミリー、「訊くんじゃなかった」とがっかりする事になるが、それでもいいか?」
「……? そんなに……変な事?」
「尻軽女が考えそうな事ぢゃ。あの女……」

 そこまで言って嬉璃は頭をひょいと下げた。
 ミリーも釣られて頭を下げる。

 ヒュンッ

 一閃。
 ちゃぶ台に乗っていた湯のみがキレイに真っ二つになり、中のお茶がコポコポと零れた。
 ミリーが顔を上げると、波波木が薙刀を構えて立っていた。心なしか、髪が逆立って見え、眉間の皺が深い。

「この陰険童が!! 何を告げ口しておるのじゃ!?」
「この尻軽女が、恥ずかしがる年でもなかろうが、気色の悪い」
「き・さ・まー……殺す」
「やってみー」

 そのまま嬉璃はちゃぶ台でかろうじて無事だったみかん籠を持ってさっさと逃げ出した。
 それを薙刀持った波波木が追いかける。

「それではミリー、ぱふぉーまんす楽しみにしておるぞー!」
「そこの!! わらわの事を勝手に調べるな!! 八つ裂きにするぞ!?」

 二人はそれぞれ捨て台詞を吐いて追いかけっこに興じる事となった。
 ミリーはきょとんと言う顔のまま、管理人室に一人取り残された。

「シリガル……オンナ……?」

 嬉璃が何度も波波木に向かって言っていた事を口に出してみる。
 どんな意味だろう。
 馴染みのない日本語にミリーは首を傾げるばかりであった。
 そうだ。後で恵美にちゃんと歓迎会の日を訊いて、団長に連絡しよう。その時に団長に意味を訊いてみよう。
 そうのんびりとミリーは思いつつ、管理人室を後にした。

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 歓迎会当日。
 ミリーはロシアの民族衣装に身を包んでいた。

「団長……ありがとう」

 ミリーの隣にはピエロの仮面を被った紳士が葉巻をくゆらせていた。肩にはメガネザルを乗せている。
 ミリーの所属するサーカス団の団長で、団長Mと呼ばれる人物だ。
 ……人かどうかはさておいて。

「何、構いませんよ。相手が神様だろうと何様であろうと、大事なお客様ですよ。しかし変ですねえ……」
「変……?」
「結局彼女は何で20年も行方不明だったのか分からなかったのでしょう?」
「うん……訊いたら物凄く……怒ってた……」
「そうですか」
「ねえ……団長」
「はい?」
「シリガルオンナって……何?」
「はあ……?」

 下品な言葉に団長は唖然としてミリーを見る。
 ミリーはあまり分かってなさそうだ。

「……何となく想像できました」
「団長―! 会場設置終わりましたー!」

 団長が連れてきた団員達が手を振った。
 あやかし荘の庭には、サーカステントが設置されていた。

「まあ、それはともかく、今日のショーを成功させましょう。行きますよ」
「はい……」

 二人はテントの中に入っていった。

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 テントの中は暗い。テントと言っても、サーカスのものよりは大分小さく、強いて言うなら簡易宴会場であった。パフォーマンスするにはあやかし荘の中だと天井や床が不安だったために設置する事になったのだ。
 あやかし荘住民は座敷を敷いて、パフォーマンスが始まるのを待っていた。

「今から何をするのじゃ?」

 きょとんと波波木が座って待っている。

「パフォーマンスですよ。うちに住んでるミリーさん、サーカスの団員さんですから、波波木さんのためにサーカスを呼んでくれたんです」
「ほほう、ぱふぉーまんすとは、今で言う所の曲芸の事か?」
「そうですね」
「あっ、ミリーちゃん舞台に上がったよ!」

 柚葉は尻尾を振りながら指差すと、ミリーが団長と共に舞台に上がった所だ。
 二人はスポットライトを浴びる。

「レディースエンドガールズ、今宵は波波木さん歓迎会に参加して下さり、真にありがとうございます! どうか楽しんで下さいませ! 最後になりましたが、ようこそ、波波木さん。あやかし荘へ」

 団長はそう言った後、ライトが消えた。
 次にライトが着いた先には、いつの間に移動したのか、ミリーが高くリングを何個も投げてジャグリングをしていた。団員達がどんどん追加のリングを投げ、数が増えていく。

「ほう、あれが外つ国の曲芸と言うものか」

 波波木は少し関心してミリーのジャグリングを眺める。
 ジャグリングは終盤を迎えた。
 最後にリングは全て宙を舞い、リングは全てリングを追加していった団員達の腕に収まった。

「オー」

 住民達は拍手をした。
 波波木も拍手する。
 ミリーはペコリと頭を下げた。

「これから……どんどんすごい事……披露します……お楽しみに……」

 ミリーがそう言った後、スポットライトの場所は移った。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6814/ミリーシャ・ゾルレグスキー/女/17/サーカスの団員/元特殊工作員】
【6873/団長・M/男/20/サーカスの団長】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、石田空です。
今回は「招かれざる客への歓迎会」に参加して下さりありがとうございました。
今回はミリーシャさんと団長さんの話で前編・後編とさせていただきました。団長さんの話でオチがついていますので、そちらの方と合わせて読んで下れば幸いです。

よろしければ、また次の依頼でお会いしましょう。