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<東京怪談・PCゲームノベル>


それは突然に‥‥

 その日は天気も良く、絶好の買い物日和だった。
 空を見上げれば青い空が何処までも続いており、たまには散歩するのも悪くないなと思いながら、最近新しく出来たショッピングセンターに入っていく。
 日曜、しかも新しく出来たという事から中は大勢の人間で賑わっていた。
 若者に人気のブランド、女の子が好みそうな雑貨屋、そして使途不明の怪しげな店、久々に買い物に来たせいかどれもこれもが新鮮だった。
「‥‥‥‥あれ?」
 大勢の人間で賑わっている中、見知った顔を見かけて「あ‥‥」と声をかけようとした――が、先に向こうの方が気づいて「‥‥あれ」と少しばかり驚いた顔で話しかけてきた。
「立ち話もなんだし、カフェでもいかない?」
 そう言われて、二人はカフェに入ることになったのだった。

視点→五月・蝿

「へぇ、新しいショッピングセンターか‥‥珍しい煙草でも置いてないかな?」
 五月・蝿は新しく出来たショッピングセンターがあると聞いてやってきたのだが、流石にオープンセールをしているせいか人、人、人でごった返していた。
 何処から来ればこんなに人が集まるのか、そう思うほどに。
「へぇ、色んな店があるんだなぁ。あの店なんて明らかに何の為にあるか分からねーし」
 五月は物々しい雰囲気を漂わせた『まじないの店』を見ながら苦笑する。
「色々興味引かれるものがありそう♪」
 何処の店から見ようかな、五月がそう考えていた時だった。
「あれー?」
 見知った顔が大量の洋服を抱えていたのだ、その見知った顔とは‥‥先日五月を家に泊めてくれた少女、前園ヒカリだった。
「おー‥‥いって全然気づかないなー‥‥」
 五月が何度か手を振ってヒカリに気づいてもらおうとしているのだが、彼女は目の前の洋服に集中しているらしく全く気づく素振りを見せない。仕方ないので五月はヒカリの背後まで近づいて、後ろから手でヒカリの目を隠しながら「だーれだ」と話しかける。
「きゃあっ!!」
 突然の出来事だったせいかヒカリは驚いて両手に抱えていた洋服を全部落としてしまう。
「もう! 誰よ――ってあんたこの前の‥‥」
 ヒカリが洋服を拾いながら文句を言う為に顔を上げると‥‥そこには先日自分の部屋に泊めた五月の姿があった。
「あは、ごめんごめん。まさかそんなに驚くとは思わなかったからさ」
 悪びれた様子もなく笑いながら五月が謝ると「ちょっと待ってて、これだけ買ってくるからさ」とヒカリは大量の洋服を持ってレジへと向かっていく。
「あんなに大量に買えるなんて‥‥女って凄いねぇ」
 苦笑しながら五月が呟き、それから10分程度待った頃に両手に袋を引っさげてヒカリが満足そうにレジから帰って来た。
「沢山買ったんだな‥‥体力あるなぁ」
「もちろん、女の子はお洒落と恋の為なら戦場にだって行けるんだから」
 ガッツポーズをして、逞しい言葉と共にヒカリが言葉を返してくる。
「そういうあんたこそ何してるの?」
「え? 新しいショッピングセンターが出来たって聞いたから珍しい煙草とかないかなと思ってさ」
 五月の言葉に「ふぅん、煙草吸うんだ? それで見つかったの?」とヒカリが言葉を返してくる。
「いや、探してる途中でキミを見つけたからさ。そうだ、この間、泊めてくれたお礼にカフェでも行かない?」
 少し歩いた所にある女の子が好みそうなカフェを指してヒカリに話しかける。
「あ、賛成♪ ちょうどあたしも休憩したいなって考えてた所だから」
 休憩という言葉を聞く限り、まだまだ買い物をするということなのだろうか、そう思ったけれど五月は口にする事はしなかった。

「俺、このミラクルアイスパフェ」
「げっ、そんな大きいモン食べるつもり? あたしはイチゴのミルフィーユとアイスレモンティー♪」
 それぞれウェイトレスに注文を終え「そういえばさー」と五月が気になっていた質問をヒカリに投げる事にした。
「んー?」
「この前、家族が心配してないとか言ってたけど‥‥どういう意味?」
 家族についての質問に今まで明るかったヒカリの表情がどんどん曇っていくのが分かる。
「まぁ、別に隠すことでもないし言っちゃってもいいかなぁ。あたしのお母さんが女優なんだけど、昔からお母さんの仕事見てて‥‥女優になりたいなって思ってたんだ」
 母親が女優、しかも名前を聞けば色々なドラマに出ている有名女優だったことに五月は少し驚いたが、それを表情に出さずにヒカリの言葉の続きを待つ。
「あなたには才能がないわ、諦めなさい――初めて自分の夢をお母さんに話した時に言われた言葉‥‥多分、理由はそれだけじゃないんだけどね‥‥」
「え?」
 ヒカリの意味深な言葉に五月が聞き返そうとしたけれど、ヒカリは答える様子はなく五月はウェイトレスが運んできた『ミラクルアイスパフェ』を食べる事にしたのだった。
「大体、あたしが家出したのは15の時、それから連絡なんてマトモに来ないし、来たと思ったらマネージャーに鍵を持たせたからって今住んでるマンションの鍵を渡されたりね」
 きっとあたしはいらないんだよ、何処か怒りさえも感じられる口調でヒカリが呟いていく。
「そんな事はないんじゃね? おかーさんなりにキミを心配してるんじゃないかな」
 五月の言葉に「あたしはお母さんにとって汚点でしかないんだよ」と乱暴にミルフィーユをフォークで刺しながら言葉を返してきた。
「今のお父さんとは血が繋がってないんだけど、あたしの本当のお父さんはロクデナシだから」
 暗い話はこれでおしまい、ヒカリは呟くとアイスレモンティーを飲み、ミルフィーユを食べ始めたのだった。
「でも何であたしってばこんな事話しちゃってんのかな、なんかあんた‥‥じゃなくてヨウ君って落ち着くんだよね」
 ヒカリは苦笑しながら呟く。
「そ? 俺で落ち着くんならいくらでも落ち着いちゃっていいよ、割り増し料金3割減だけどねっ」
「増すのか減るのかどっちかに統一しなさいよ」
 相変わらずの意味不明な言葉に「あんたって本当にワケわかんないよね」とヒカリも頬杖をつきながら笑って呟く。
「そうだ、これから暇? 暇なら買い物付き合ってよ、どうせヨウ君も買いたいものあっるんでしょ」
「え、別に俺は急がないし「いいからっ、か弱い乙女に重たい荷物持たせる気?」――自分で買ったくせに」
 買い物に付き合って、というよりは荷物持ちが欲しいだけのような気がするが、五月は何故かヒカリを放っておく事が出来なかった。
 先ほど家族の事を話している姿は頼りなく今にも泣き出しそうな表情だったから。
「別にいいよ、買い物に付き合うなり荷物持ちなり何なり付き合ってあげるよ」
「帰りに晩御飯の材料買って帰ろう♪ 今日泊まるでしょ?」
 そう言いながら「何作ろうかなー♪」とヒカリは考え込む。いつのまにか今日も泊まることになってしまっているが「ま、いっか」と諦めたように呟き、服売り場へと向かうヒカリを追いかけたのだった。


END

――出演者――

7578/五月・蝿/21歳/男性/(自称)自由人・フリーター

―――――――

五月・蝿様>
こんにちは、今回執筆させていただきました水貴透子です。
前回に続き、今回もご発注ありがとうございました。
内容の方はいかがだったでしょうか?
お気に召すものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ。

2009/9/28