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<東京怪談・PCゲームノベル>


Scene1・スペシャルな出会い / 宵守・桜華

 雲1つない清々しい空。
 そんな空模様と同じくらいに、心晴れやかに歩く男がいた。
 気分上々に鼻歌を歌いながら歩くこの男の名は、宵守・桜華。先ほどから手にした封筒の中を覗いては、ニヤニヤと怪しい笑いを浮かべている。
「いやあ、久しぶりに実入りの良い仕事だった」
 足取り軽やかに、封筒の中の紙幣を引っ張り出して眺める。もうこれだけでもご満悦だ。
 だがここはひとつやるべき事があるだろう。
 彼は人差し指をペロリと舐めて、紙幣を一枚ずつ数え始めた。
「ひの、ふの、みの……んふふ、良いねえ、良いねえ。これだけあれば、一人焼き肉だって行けんじゃない?」
 頬が緩みっぱなしでどうしようもない。
 いったいどんな仕事をして稼いだというのか。普通の人が見たならば、完全に引いてしまいそうな状況だ。
「焼き肉……――となると、やっぱあの店でしょ」
 ニンマリ笑って目的の店を目指して角の道を曲った。
 そしてそのまま焼き肉目指して狭い路地を突っ切る予定だったのだが、その足がピタリと止まった。
 前方に何やら不審な影が1つ。その前には女子高生らしき女の子が1人、影と対峙する形で立っている。
「あれは……」
 頭の中で様々な情報が駆け巡る。その中にピッタリくる情報があった。
「悪鬼の一種、黒鬼――こりゃまた奇妙なもんが昼間っからうろついてるなあ」
 人の形をした奇妙な生き物――黒鬼は、餓鬼のように膨らんだ腹と黒く骨ばった体を持つ。身体全体が腐敗したような匂いを放つその姿は、まさしく異形の存在だろう。
「気分は上々、魔が悪いことこのうえナーシ!」
 桜華は大事な封筒をポケットの奥に突っ込むと、常人離れした身体能力を披露した。
 一気に飛躍して、その身を落下させてゆく。その目標は勿論、黒鬼。命中させるは、自らの膝だ。
「炸裂! フライング・ニー!!!」
 重力プラス、桜華の飛躍した際の加速を足して物凄い勢いで突っ込んでゆく。
――グアアアアアッ!!!
 桜華の膝が見事、黒鬼の顔面に直撃した。
「うっしゃあ、ビンゴォ!」
 ビシッと地面に伏した黒鬼を指して叫ぶ。そして少しずれた眼鏡の位置を整えると、笑顔で後ろを振り返った。そこには恐怖で怯える、女子高生がいるはず。
「さあ、悪者はやっつけた。嬢ちゃん、怪我は――うおっ!?」
 目を見開いた桜華の視界に映るのは、自らの額に添えられた銃口だ。
 冷たい感覚に作り上げた笑みが文字通り硬直する。
「……もしや、余計だったか?」
 確認するまでもなく、女子高生の顔に笑みはない。むしろその目に宿すのは冷たい光。その感じは歓迎しているというよりは、非歓迎的、むしろ邪魔者を見るようなものだ。
「まあ、良いじゃないか。化け物はぶっ潰れ、俺の機嫌は上々のまま――」
 カチッと少女の手元が鳴った。
 寄り目で確認すれば、安全装置が解除されている。
「……あー……悪かった」
「謝罪はイイ。それよりも目的を話せ」
 元々なのだろうが、かなりキツク感じる吊り上がった目が桜華を捉える。
 その目を見返しながら桜華は肩を竦めた。
「目的……強いて挙げないでも、嬢ちゃんを助けること、か?」
 もう1つ目的はあるが嘘ではない。
 その返答を聞いて少女の目が細められた。
 思案げに銃を持たない方の手で自らの顎を擦る。その上でチラリと視線を向けてきた。
「……実験体の確保、横取りではなさそうだな」
 呟いて「ふむ」と頷く。
「あのぉ、嬢ちゃん? そろそろこれを――」
「お前に特別任務をくれてやろう」
「へ?」
 銃を退けて欲しい。そう訴える筈が、その言葉は彼女の命令によってかき消された。
「任務って……もしかして、俺?」
 きょろりと視線を動かすが、どう見ても自分しかいない。
 そんなやり取りをする彼らの視界端では、意識を失っていた黒鬼が、頭を横に振りながら起きあがるのが見えた。
 どうやらあの程度の打撃では気を失わせるだけで精一杯だったようだ。それを少女の目が確実に捕らえ、鋭い視線が桜華に流される。
「他に誰がいる」
「いや、いないけどな」
 どうやらこの少女に、他人を敬うという心はないようだ。常に自分が優位であるように語る相手に、思わず苦笑が漏れる。
「で、その特別任務ってのはなんだ?」
「先ほどの身体能力を見る限り、適任であることは事実だ。そこの鬼の確保を手伝え」
 簡単に言い放つ少女に、彼の目がグルグルと喉を鳴らし立ち上がった黒鬼を捉えた。
「手伝えって……」
 濁った眼に血管を浮き上がらせ、涎を駄々流しにしている存在は理性など微塵も感じさせない。先ほどの攻撃でミジンコほどの理性が吹き飛んだのかもしれない。
 黒鬼は未だグラつく頭を左右に振ると、鋭い爪を剥きだしにして突っ込んできた。
「あたしが捕縛のための弾を作る間、奴を惹きつけろ」
 言うが早いか、彼女は桜華の額から銃を放し、安全装置をロックして弾を抜きだした。そして抜き出した弾に向けて印を刻み始める。
「我が侭な嬢ちゃんだ。けど、邪魔をしちまったみたいだし、ここは言う事を聞いて俺が惹きつけてやるか」
 桜華は眼鏡を人差し指で持ち上げると、黒鬼に向き直った。
「嬢ちゃん、じっくりねっとりと狙うといいよ!」
 桜華はそう言うと、普段は抑えている『業』を少しだけ解放した。その気配に少女の動きが止まる。
「この気……ふふ、これは面白い」
 呟いた少女の唇がゆったりと笑みの形を作る。そして術を刻むのを止めると、新たな弾を充填した。
 桜華はそんなことなど露知らず、突っ込んでくる黒鬼を迎え撃っている。
 猪突猛進に突っ込む相手を真面目に相手にする必要はない。桜華は地面を蹴ると、軽々と桜姫の頭上を飛び越えた。
 そんな桜華に黒鬼が雄叫びをあげて、腕を振るいあげる。
「そんなんじゃ、当たらないって」
 ニッと笑って着地直前に回し蹴りを喰らわす。それを受けた相手が地面に身体を擦りながら転がって行った。
「弱い、弱い。これじゃあ、捕まえる前に倒しちゃうんじゃないか」
 コキコキと首を鳴らしながら呟く。
 衣服に乱れはなく、表情も余裕綽々と言ったところだ。その傍では、上体を起こした黒鬼が、緑色の液体を滴らせて立ち上がろうとしている。
 そこから強烈な異臭が放たれるが、それくらいはどうってことない。寧ろ、弱すぎる相手に少女との約束を果たせるか不安になってくる。
 そんな最中、後方でカチャリと金属の音がした。
「充填できたか」
 そう口にして振り返った時だ。
――パンッ。
「うおおおおお!!!」
 顔面スレスレで通り過ぎた銃弾に目を見開く。
 その後ろでは黒鬼が悲鳴を上げているが、正直それどころではない。
「待て待て待てぇ! 今のはどう見ても実弾だろ!!」
 ビシッと黒鬼を示して叫ぶ。
「それがどうした」
 ケロリとして言い放った少女に、桜華の目が見開かれ、唇がわなわなと震えた。
「ど、どうしたって、明らかに危険だろ!」
 拳を握り締めて肩を震わせる。
 後方では、銃弾を受けた事で液体を溢れだす黒鬼が、狼狽する桜華に噛みつこうと牙を伸ばしていた。だが、これが瞬く間に遮られる。
「うるせえ、少ぉし黙ってろ!」
 問答無用で地面に叩き落とされた黒鬼。
 無残にも地面に頭をめり込ませている。それを見ていた少女の目に初めて表情らしいものが浮かんだ。
「想像以上に面白い」
 楽しそうに、細められた瞳が桜華に向かう。そしてそれと同時に、銃口も彼に向いた。
「――嬢ちゃんも他の奴らと同じ口か」
 やれやれと息を吐きながら肩を竦める。
 彼が先ほど僅かだが解放した『業』は、退魔師には祓うべき対象として誤解されることがある。もしかしたらとは思っていたが、やはりこうなったか。
 桜華は面倒そうに頭を掻くと、面倒そうに息を吐いた。
「まあ、仕方ないけどね。慣れてるけどね。でも案外普通な反応――」
――パンッ。
「ぬおおおおおっ!!!!」
 今度は前髪を銃弾が掠めて行った。
 ハラハラと舞い落ちる髪の毛の欠片に、口元が引き攣る。
「じょ、嬢ちゃん。とりあえず話は最後まで――」
「お前、あたしの実験体になれ」
「へ?」
 ニタリと笑った少女の顔に、桜華の口が更に引き攣る。何か良くない予感がして足がジリジリと後退してゆく。
「お前のような者ならば、多少は無理をしても大丈夫だろう。なあに、粉々に切り刻んだりはしない。安心して良いぞ」
 スッと細められた目が本気だ。
 その目に完全に足が下がった。
「あー……ちなみに、その実験体ってのは何だ?」
「九字法の術を極めるための実験――は、表向きだな。まあいろいろだ」
 うふふ、と至極楽しそうに目を細めて笑う姿にゾッとする。何処をどう見ても、何処をどう聞いても怪しい以外の何ものでもない。
 桜華が返答に迷っていると、新たに弾を充填した彼女の銃が彼に向けられた。
「さあ、答えろ。YESかNOか」
 見つめ合う――というよりは腹を探り合って睨み合う、という表現が合うだろうか。
 互いの顔を見据えて、桜華が諦めたように口を開いた。
「……保留ってのは?」
「――上等だ」
 そう口にするのと同時に少女の銃が、そして桜華の蹴りが炸裂した。
――ギャアアアアアア!!!
 今まさに2人に襲いかかろうとしていた黒鬼が、2つの攻撃を同時に受けて断末魔の叫びをあげた。
 その直後、黒鬼は瘴気を発して消滅した。
 その姿を何とはなしに眺めている桜華の元に、少女が近付いて来る。そして一枚の紙切れを差し出した。
「これをやろう」
 差し出された紙切れは名刺だ。
 そこには何かの店名と名前が書かれている。
「――蜂須賀・菜々美? それが嬢ちゃんの名前か」
 問うような呟きに、菜々美は銃を仕舞って頷く。そして笑みの消えた瞳を桜華に向けた。
「大概はそこに居る。実験体になる覚悟ができたら来い」
 黒い気配を発しながら笑う相手に、桜華は名刺を手にしたまま硬直した。
 既に上々な気分は何処へやら。彼の胸中には上機嫌とは程遠い、僅かな不安が生まれたのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 4663 / 宵守・桜華 / 男 / 25歳 / フリーター・蝕師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆こい」シナリオへの参加ありがとうございました。
だいぶPC様を脚色してしまった気がするのですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
今回のお話がPL様のお気に召していただけることを祈りつつ、感謝の気持ちをお伝えします。
このたびは本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。

※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。