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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route5・滅するべきは我が師なり / 辻宮・みさお

 辻宮・みさおは、蜂須賀・菜々美に連れられて射撃の練習に訪れた神社の前を通りかかっていた。
 別に何か予感があったわけでも、何かを期待してでもなく、ただ通りかかっただけのその場所。そもそもこの場所には良い思い出がない。
 いや、菜々美との思い出がある以上、嫌な場所ではないのだが、どうにも思い出したくない記憶があるだけに、近寄りがたいのだ。
 その証拠に少しだけ足が速くなる。
「……うぅ、恥ずかしい記憶が蘇えってくる」
 呟きながら頬を掻く。と、その足が止まった。
「今、何か聞こえた?」
 時刻は夕方に差し掛かろうとしている。
 人がいてもおかしくない時間だが、寂れた神社は普段から人足が少ない。そのためか、手入れされきれていないこの場所は、夕刻であるにもかかわらず、僅かに不気味さを放っている。
 そんな場所に足を踏み入れる物好きがいるだろうか。
 そう思って再び歩き出そうとしたみさおの耳に、再び物音が響く。
――ガサガサガサ……ッ。
 今日は風がない。
 にも拘らず、木々の揺れる音が盛大に響いた。
 明らかに不自然だ。
『みさお!』
 思案気に首を傾げたみさおに、鞄から飛び出した相棒のパペット――ジャックが声をかけた。
『この神社から知った気配がプンプンするぜ』
 ジャックが示す神社の境内。
 右手に装着されたジャックの知識はみさおを遥かに凌ぐ。そして力も。
「知った気配……まさかっ!」
 みさおは弾かれたように顔を上げると、境内に足を踏み入れた。

   ***

 切り倒された無数の木。
 舞い落ちた大量の葉が不自然さを演出する中、制服に身を包んだ少女――蜂須賀・菜々美は息を切らせ佇んでいた。
 全身には数えきれないほどの細かい傷。無意識に装填される弾は、既に何度目のものか。
「……ついに現れたというのに」
 苦々しげに呟いて銃を構える。
 その顔に浮かぶのは、確かな苛立ちだ。
 普段は負の感情など覗かせもしない彼女が、苛立った様子で前を見据えている。
 その視線の先にいるのは、中立的な容姿をした人型の化け物。そしてその手には菜々美が持つ銃と同じものが握られている。
「菜々美さん……」
 みさおは物陰に隠れながら、菜々美の姿をじっと見つめていた。
 菜々美が悪鬼と戦って苦戦を強いられるのはこれが二度目だ。しかも今回の状況はその時に良く似ている。
「やっぱり、アレも人工的に作られたのかな?」
 そう口にしながら菜々美を見つめていると、彼女の足が華麗に地面を蹴った。
 舞い上がった体。しなやかな腕が伸ばされ、銃口が相手へと向けられる。そしてそれを放つと同時に、相手も同じように舞い上がり銃を向けた。
――パンッ。
 互いの弾がぶつかり合い弾ける。
 同時にその衝撃で周囲の木々が大きく揺れた。
「あれは……菜々美さんと同じ技」
 次々と繰り出される技のどれもが、菜々美と同じものだ。
 しかも菜々美が放つ直後に同じものが繰り出される。
「まさか、相手の攻撃方法を解析したうえで、人工的に作り出した?」
 普通に考えればそういうことだろう。
 しかし何のためにそんな事をする必要があるのか。そもそも、菜々美を襲う理由が分からない。と、その時、みさおの目にある物が飛び込んできた。
 神社の中にある一番高い樹――ご神木の上に人の姿がある。
 真っ赤な着物に身を包んだヒョロリとした印象の人。遠すぎて顔までは分からないが、明らかに普通ではない。
「あれって……」
――パンッ。
 みさおが呟いた時だ。
 銃弾がぶつかり合う盛大な音が響いた。
 弾かれたように視線を戻せば、敵に蹴りを入れられた菜々美の姿がある。
 蹲って腹部を抑える菜々美は、衝撃に耐えながら銃を構える。しかし目が悪鬼に向いていない。
「菜々美さん、あの人を気にしてる?」
 悪鬼に視線を向けながらも見据えている先が違う。
 先ほどは気付かなかったが、菜々美の意識は悪鬼ではなく、その背後に控える赤い着物の人物に向いているようだ。
『このままだと、あの姉ちゃん、マジでやられちまうぞ!』
「――ッ!」
 ジャックの声にみさおが動いた。
 物陰から飛び出して、ジャックを構える。
 その先にいるのは、菜々美に新たな攻撃を放とうとする悪鬼だ。
「喰らえっ!」
 ジャックの口から勢いよく波動弾が放たれた。
 それは真っ直ぐ悪鬼に向かい直撃しようとする。しかしそれは当たることなく避けられてしまった。
 ニヤリと口角を上げて微笑む悪鬼。その目がみさおを捉えた。
 妖艶に瞳が光り、次の瞬間、悪鬼の口から波動弾に似たものが放たれた。
「!」
 咄嗟に飛び退いてそれを交わすが、次の攻撃が迫る。
『しゃらくせええ!!!』
 ジャックは放たれた波動弾に向かって自らもそれを放った。
――パアアアンンンッ!!
 先ほどの菜々美と同じだ。
 互いの攻撃がぶつかり合い、風船が割れるかのような音が響く。
 しかし攻撃は終わらない。
 次々と迫る攻撃に、ジャックは負けじとそれを撃ち込んでゆく。
「このままじゃキリが……」
 そう呟いたみさおの目に、菜々美の姿が飛び込んできた。
「そう言えば、菜々美さんの力が反映されていない?」
 みさおが飛び込む前まで、菜々美と同じ技が繰り出されていた。良く見れば、先ほどまで持っていたはずの銃もない。
「もしかして……」
 みさおは意を決すると、ジャックを悪鬼に向けた。
 そして――。
「ジャック、波動弾を連打して。その隙に、菜々美さんの所まで行く」
 そう言ってチラリと菜々美を見た。
 菜々美はと言えば、新たな弾を銃に装填しながら、視線を遥か先に向けている。その視線が捉えるのは、木の上に佇む人物だ。
「また、あの人……」
 みさおはざわつく気持ちを抑えると、波動弾を放つジャックを悪鬼に向けたまま走りだした。
「菜々美さん!」
 一気に菜々美の傍まで駆け寄り、彼女を背に庇う。これで悪鬼の視界から菜々美を守ることはできる。
「隙を作ります。そしたら、木の影まで走ってください!」
 言うと同時に、ジャックの口からありったけの力を込めて波動弾が放たれた。
 舞い上がる砂塵。それが2人の姿を覆い隠す。
「今です!」
 みさおはそう言うと、未だに動こうとしない菜々美の手をとって走り出した。
 砂塵の効果は長くない。急いで木の陰に入り込むと、みさおはホッと息を吐いた。
「これでひとまずは安心――」
「何をする」
 予想通り、不機嫌な声が聞こえた。
「あの化け物は、目が合った瞬間に相手の攻撃を模写するのかなって思ったんです。だから、姿を隠せばひとまず攻撃はできないかと」
「……姿を隠してどう倒せと言うんだ」
 菜々美の言葉はもっともだ。
 その声にみさおの目が落ちる。
 しかし彼も考えなくこの行動をとったわけではない。僅かな迷いの後に視線が上がると、彼の口から提案が放たれた。
「僕と菜々美さんで相手をかく乱するんです」
 キッパリと言いきった言葉に菜々美の目が瞬かれる。
「交互に視界に入れば、どっちの攻撃を模写して良いのか分からなくなるはずです。迷いは隙を作るはず。その間に討てれば」
 確かに、目が合った瞬間に相手の攻撃を模写するのなら、交互に視界に入られた相手としてはどちらの攻撃を模写して良いのか分からなくなる。
 作戦的には良いかもしれないが、難点が無いわけではない。
「もしどちらか片方に狙いをつけて攻撃してきたらどうするつもりだ」
 そう、2人の姿にかく乱されれば問題無い。
 だが片方に狙いを定め襲ってきたら、作戦の意味がなくなる。寧ろ、1人がピンチに陥るだろう。
「大丈夫です」
 菜々美の不安を一掃するようにみさおは言った。
 その自信に満ちた言葉に、菜々美の目が見開かれる。
「そうなったら、どちらかが攻撃をすれば良いんです。菜々美さんに何かあれば僕が守ります」
 真っ直ぐに向けられる視線に菜々美の唇が横一文字に引き結ばれる。
 そして眼鏡の向こうにある瞳が、遥か先、木の上に佇む人物に向かった。
「……わかった。やってみよう」
 視線が戻ることには、菜々美の顔には普段と同様の勝気な笑みが浮かんでいた。
 その笑みを見てみさおは頷くと、悪鬼に向き直る。
 悪鬼はと言えば、突然姿を消した菜々美とみさおを探すようにキョロキョロとしている。この分なら突然出ていっても瞬時に反応はできないだろう。
「行きます!」
「ああ」
 みさおの合図で、2人同時に飛び出した。
 ここからの戦いはあっという間だった。
 元々素早い動きの菜々美がみさおの前に出て、銃を構える。それを真似た悪鬼は、すかさず弾を放とうとするのだが、その前にみさおが出た。
 それを繰り返しながら悪鬼との距離を詰めてゆく。そして悪鬼が完全に混乱に陥った時、たがいの攻撃が火を噴いた。
「喰らえっ!」
「これでラストだ」
 ジャックの放った波動弾。
 そして菜々美の放った術を組み込んだ銃弾。
 その2つが混じりあい悪鬼に直撃する。
――ギャアアアアアアアッ!
 硬直の後に悪鬼の姿が瘴気へと変化した。
 後に残ったのは、以前にもあった紙切れ1枚だ。
 菜々美はそれを手にすると、視線を先ほどから気にしていた木の上へと向けた。
 しかしそこにその人物の姿は無い。
「何処に行ったんだろう。もしかして、今までの戦いも何処かから見ていたのかな。それにこの前の視線も……」
 みさおはそう呟くと菜々美を見た。
 その直後、彼の目が驚きに見開かれる。
 明らかに殺気しか浮かんでいない瞳。眉間に刻まれた皺も、顔に浮かぶ表情も、一度も目にしたことがないほどに険しい表情がそこにあった。
「――まるで悪鬼のようですね」
 笑うように響いた声。
 弾かれたように視線を向けると、いつの間に傍まで来たのか。
 木の上にいた人物が境内にその身を落とし2人の間近にまで迫っていた。
「っ!」
 みさおは咄嗟に菜々美を庇うように立ったが、病弱な雰囲気を醸し出す男の目はみさおにはない。
 その目は穏やかな笑みを浮かべたまま、菜々美を捉えていた。
「ふむ、成る程……今日は持っていないようですね。では、用はありません」
 華麗に向けられた背。このまま立ち去るのだろうか。
 そう思った時、銃声が響いた。
 何の前触れもなく放たれた弾が、赤い着物に触れる直前に弾ける。
 そして、振りかえるように後ろに向いた顔がチラリと菜々美を捉えると、その姿は忽然と消えた。
 狐に抓まれたような気分で佇むみさお。その傍で菜々美が悔しげに地面を蹴った。
 ここまで彼女が感情を露呈するのは珍しい。
「菜々美さん、今のって……」
 聞いていいかは分からない。だが尋ねずにいられなかった。
 その声に殺気がこもったままの瞳が向けられる。
 レンズ越しにでもわかる、痛いほどの殺気にゾクリと背が震えあがる。
 しかし菜々美はそんなみさおを見ても、殺気を隠しもせずに言い放った。
「あれは、あたしが滅すべき相手――窮奇(きゅうき)だ」
 そう口にした菜々美の目は、一層冷たく輝いていてみえた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8101 / 辻宮・みさお / 男 / 17歳 / 魔導系腹話術師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】
【 窮奇 / 男 / 31歳 / 欲鬼僧 】


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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとうございます。
朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ5へご参加頂き有難うございました。
大変お待たせいたしました。
ところどころ台詞を変えてお届けする形となりました。
楽しんで読んで頂けたなら嬉しいです。
この度は大事なPC様を預けて頂き、本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。