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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ・
 ・
 ・

 カンペキすぎる。
 どーよ? この狙い。微塵のズレもない。まさに、これ、パーフェクト。
 あぁ、もう、ダメだ。俺、自分で自分の才能にクラクラくる。やっばい、やっばい、チョーやばい。
 こんなにクールな男がいていーもんかね? ん? あぁ、やっぱり? 全世界の女が、ほうっておかないよな。
 あぁ、参ったなー。これ以上モテると生活に支障が出ちゃうから、さすがに勘弁してほしーんだけど。
 でもまぁ、仕方ないか。俺の持つ、このカリスマ性、かっこよさは、とどまるところを知らないからな。
 おっと、勘違いされちゃ困る。言っておくけど、俺は、世界で一番クールな男。
 手当たりしだい、次から次へと女を食い漁るようなマネはしねーぜ。
 そんなみっともないマネ、死んでもできねー。
 覚えておいてくれ。俺は、世界で一番クールなおとk ――

 ガスッ ――

「あ、痛ぇっ!!」
「何、バカなこと言ってんの。とっとと撃ちなさいよ」

 おもいっきり、梨乃に背中を蹴り飛ばされた海斗。
 イイ感じにテンション上がってたのに、何で邪魔するんだよ! と怒る海斗に梨乃は淡々と言った。

「誰にも相手にされないわ。見えないんだから」
「おまっ、何でっ? 何でそーいうこと言っちゃうの?」
「事実だもの」
「あ〜あ〜 …… ほんっと、お前ってつまんねー女だよな」

 確かに。梨乃の言っていることは正しい。
 時の契約者という存在は、決して認識されない。
 どんなに近くにいようとも、ヒトが、彼等をその目で確認することはできないのだ。
 まぁ、そのくらいは、海斗もわかっている。ただ単に、自分に酔ってみたかっただけ。一人遊びの一種だ。

「ほら、早く」
「わーかってるよ!」

 催促され、ブツブツと文句を言いながらも銃を構えなおす海斗。
 彼等はいま、課せられた使命を果たすべく、東京という町に来ている。
 どこにも、何にも属さない特殊な空間、時狭間。あらゆる世界の時間が巡るその空間で暮らす、時の契約者。
 彼等に課せられている使命は "時兎" という厄介者を討伐すること。
 時兎は、その名のとおり、ウサギによく似た外見をもつ魔法生物の一種。
 適当なヒトに寄生し、二十四時間という時間をかけて、ゆっくりと、寄生したヒトの記憶を食らう。
 寄生から二十四時間以内に討伐できなければ、アウト。寄生されたヒトは、一切の記憶を失ってしまう。
 時兎もまた、ヒトには決して認識されない存在ゆえに、ヒトが自力で引っぺがすことはできない。
 討伐するには、魂銃という特殊な銃を用いて、その弾で射抜く必要がある。
 だがまぁ、弾と言えど、普通のそれとは異なる。
 魂銃から放たれるのは、銃弾を模した魔法。
 非現実的だが、事実として魔法の銃というものは存在しているのだ。

 今回、海斗と梨乃が討伐する時兎は、
 この世界、東京で暮らす、とある女子高生に寄生している。
 寄生された被害者、彼女の名前は、朝霧・ケイ。
 少し変わった性格をしているが、可愛らしい女の子だ。
 いや、可愛いとか可愛くないとか、かっこいいとか、ブサイクだとか、実際は関係ないのだが。
 彼等は、寄生されたヒトがどんな人物であろうとも、救う。例え、それが殺人犯だろうと、彼等の使命は変わらない。

「ん。あれ?」
「どうしたの」
「いや、ちょっと。あれ?」

 銃を構えなおしてすぐ、海斗が顔をしかめた。
 つられるように梨乃も顔をしかめたが、海斗が見やる先を確認することで、その理由を把握する。
 いないのだ。さきほどまで、確かにそこにいた標的が、忽然と姿を消した。
 くだらない遣り取りをしている間に見失ってしまったのだろうか。
 いや、それにしたって、標的から目を離したのは、ほんの数十秒だ。
 入り組んだ街中であれば見失った! と慌てもするだろうが、ここは、標的が生活している部屋。
 九畳ほどの洋室ワンルーム、キッチンつきで、トイレとバスは別(いや、間取りとかはどうでもいいけど)。
 この限られた空間で見失うだなんて、そんなのありえない。

「あ! わかった。トイレだ、トイレ」
「ちょっ、ちょっと海斗!」

 目を離した隙に、標的はトイレに行ったのだと決めつけた海斗。
 何の躊躇いもなく、トイレに直行する海斗を、梨乃は慌てて止めた。
 標的というか、時兎に寄生された被害者は、女の子だ。しかも年頃の女の子。
 確かに、時兎は、その子に寄生しているから、その子を見つけない事には討伐のしようはないけれど、
 だからといって、トイレを覗くのはまずい。というか、常識的に考えて、まずおかしい。その行動がおかしい。
 せめて、彼女がトイレから出てくるまで待つべきだと言いながら海斗を押さえる梨乃。
 見えないんだから、別にいいじゃん。パパッと撃って消して、それで終わりじゃん。
 そんな、すっとんきょうなことを言う海斗に、梨乃は呆れ果てた。

「だから、そういう問題じゃないのよ」
「あーもう、うるっせーなー!」

 不愉快そうに眉を寄せながら、海斗は振り返った。
 服引っ張るのやめろよ、伸びるだろ! とか何とか文句を言いながら。
 だが、振り返った瞬間、海斗はギョッと目を丸くすることになる。
 なぜなら、そこにいたから。標的であり被害者でもある女の子、ケイが、そこにいたから。
 いつの間に。っていうか、いつから後ろにいたんだ。まったく気配を感じなかった。
 海斗はもちろんのこと、振り返って事実を確認した梨乃も驚きを隠せない。
 いや、だがまぁ、すぐ傍にいるという事実はありがたい。
 ちょっとビックリしたものの、やるべきことに変わりはない。
 海斗は、苦笑しながらも銃を構え、銃口をケイの額に向けた。その距離、僅か五センチ。
 この距離で外すなんて、よっぽどの不器用だ。まず、間違いなくヒットする。
 びっくりさせやがって、このやろー。という思いをこめつつ、引き金を引く海斗。
 だが、爽快な発砲音を響かせる前に、先手を取られてしまう。

「ごきげんようっ。遅かったですね!」
「 ………… あ?」
「 ………… えっ?」
「事故にでも遭ったんじゃないかって、心配してたとこだったんですよ。ご無事で何よりです」

 声を放った。それはもう、いきいきと、元気な口調で。
 あぁ、何だ。ひとりごとか。にしても、そんな大きな声でひとりごとを言うなんて、変な子だなぁ。
 まぁ、事前に得た情報から、少し変わった子であるということは把握していたが、さすがにちょっと引いた。
 ここまでブッ飛んだ子だったとは。海斗と梨乃は、そんなことを考えながら苦笑していた。
 知らぬ間に背後に立っていたことに加え、突然大きな声で喋りだすという、その奇天烈なコンボにより、
 すっかりペースを乱されてしまった。何だか、むしょうに情けない。
 そんな自分が嫌で、海斗は、すぐさま引き金を引いた。
 だがしかし ――

「どうぞ、私を殺して下さいっ」

 ゴォッッ ――

 銃口から放たれた紅蓮の炎が胸元に寄生した時兎を貫くと、ほぼ同時に。
 ケイは、これまたおかしなことを言った。偶然にしては、状況に噛み合いすぎる台詞。
 お望みどおり、胸元を射抜かれたケイは、その衝撃から、バタリと後ろに倒れてしまう。
 かなり豪快に倒れた。ゴツンという良い音がしたが …… 大丈夫だろうか。
 海斗と梨乃は、疑問を覚えつつも、倒れたケイを覗きこみ、時兎の消滅を確認した。
 胸元を射抜かれはしたものの、ケイ自身に傷はない(頭の軽い打撲以外は)。
 海斗たち、時の契約者が魂銃で射抜くのは、あくまでも時兎。
 銃撃による衝撃はあるが、ケイが痛みを感じることはない。
 魂銃は、ヒトには使えない武器。時兎を消滅させるためだけに存在する武器なのだ。

 ・
 ・
 ・

 契約者は、時兎の討伐を終えたら、すぐに時狭間へ戻る。
 そして、彼等の契約主である時の神、マスターに討伐完了の報告を済ませるのだ。
 先に述べたとおり、時狭間は、あらゆる世界の時間が巡っている特殊な空間。
 巡っているのは何も時間だけじゃない。時の扉を使うことで、あらゆる世界に赴くこともできる。
 この世に存在している世界、その全てと繋がっている。時狭間とは、そういう場所。
 時狭間へ戻るには、黒の門というゲートを抜ける必要がある。
 この門は、契約者がそれぞれ所有している黒い鍵を使うことで出現するもの。
 つまり、鍵さえ持っていれば、契約者たちは、どこからでも時狭間へ戻ることができる。
 何だかよくわからないかもしれないが、とりあえず、ひとつだけ。
 何があろうとも "ヒト" が時狭間に踏み入ることは不可能。
 覚えることが多すぎて困る場合、この事実だけを頭に記憶し、
 そのまま、以降の展開を確認して頂きたい。

「だからぁ、私は知ってたんですよ」
「それが、おかしいって言ってんだよ!」
「本当ですよ。知り合いに、すごく仲の良い占い師さんがいるんですけどね」
「そいつが教えたってか? 銃を持った男女二人組が部屋に来るから、もてなせってか?」
「あ、いえ。もてなせとは言ってませんでしたけどね」
「何だよ! どうせなら、もてなせよ!」

 ギャースカ大きな声で騒いでいるのは海斗。
 冷静に、それでいて少し滑稽に、海斗の相手をしているのは、ケイ。
 そんな二人の遣り取りを、後方から半ば呆れた様子で見やっているのは、梨乃。
 彼等は今、三人揃って時狭間を歩いている。いろいろとおかしな点が確認できるだろう。
 どうしてケイは、時の契約者を、その目で確認できているのか。彼等と会話できているのか。
 時狭間に来る前からずっと、ケイと海斗は、賑やかな遣り取りを繰り返している。
 漫才のような遣り取りが繰り広げられていることもそうだが、
 そもそも、ヒトであるケイが、時狭間に来ているという事実が、何よりもおかしな点だ。
 遡ること、今からおよそ一時間前。
 魂銃で胸元を射抜かれ、豪快に倒れて頭を打ったケイ。
 時兎が消滅したことを確認した海斗と梨乃は、すぐさまその場を立ち去ろうとした。
 だが、懐から鍵を取り出すと同時に、ケイがムクリと起き上がって、また声をかけてきたのだ。
 打ちつけた頭をさすりながら、ケイは笑って、こう言った。
 ウサギさん、消えたみたいですが、これでもう安心なんですか? と。
 ケイが発したその台詞は、同時にふたつの "ありえない" を展開する。
 ひとつは、その台詞が海斗と梨乃に向けられたものであること。つまり、二人の姿が見えているということ。
 もうひとつは、海斗たちだけじゃなく、時兎までも、その目で確認していたという事実。
 更に、これで安心なんですか? と尋ねたことは、時兎が危険な存在であることをも知っていた証になる。
 どうして時兎の危険性まで知っていたのか、その件について、ケイは "知り合いの占い師に教えてもらった" と説明する。
 もしもそれが事実だとしたら、その占い師とやらは何者なんだって話になるが、ひとまず、それは放置。
 どうして見えているのか、会話が成立するのか、目の前にあるその疑問を解消するのが先だ。
 そう判断した海斗と梨乃は、理解に苦しみつつ、どうしたものかと考えた。
 ニコニコと微笑むケイは、明らかに "説明" を待っている。
 姿を認識されている以上、逃げるように立ち去ることはできない。
 というか、はぐらかして逃げようものなら、すぐさま追いかけてきそうだ。
 とはいえ、時の契約者には、関係者以外に情報を漏らしてはいけないという絶対の掟がある。
 その掟がある以上、ケイに、全てを話し説明することはできない。さぁ、困った。さぁ、どうする。
 必死に考えてはみるものの、解決策が見当たらない。どうすればいいか、わからない。
 そんな海斗と梨乃に救いの手を差し伸べたのが、時の神、マスターだ。
 マスターは、テレパシーのようなもので 「ケイを今すぐ時狭間に連れてきなさい」 と海斗と梨乃に命じた。
 時狭間にヒトが出入りするだなんて、そんなこと許されるのか。海斗と梨乃は、そう疑問に思ったが、
 マスターが連れてこいと言うのなら、従うほかない。それに、自分達じゃどうしようもないのも確かな事実。
 そんなわけで、海斗と梨乃は、ケイを連れて時狭間にやってきたのだ。

 マスターのところへ向かう最中、梨乃は、ふと、あることに気付いた。
 確固たる使命と共に、契約者に課せられている絶対の掟。
 関係者以外に情報を漏らしてはいけないという、その掟。
 今さら、こんなことに気がつくなんて、かなり間の抜けた話かもしれないけれど。
 本来、必要性のない掟だったのではないか。だって、ヒトには見えないんだから。
 会話が成立しない以上、情報の漏らしようがない。
 どうして、もっと早く気付かなかったんだろう。
 あの掟の真意は、ここにあったんだ。
 そうだ。そういえば 「絶対に見つからないから安心して使命を全うせよ」 とは一度も言われていない。
 つまり、可能性を考慮した上でマスターは、あの掟を定めたんだ。
 見つかる場合もある。姿を認識できる、そういうヒトに遭遇する可能性もある。
 だから、マスターは、掟を定めたんだ。可能性がゼロじゃないから。
 万が一、そういう状況に遭遇したときのことを考慮した上で。

「おい、梨乃! 何、ボーッとしてんだ、早く来い!」

 いつの間にか立ち止ってしまっていた梨乃を、大声で海斗が呼ぶ。
 梨乃は、ハッと我に返り、ゴメンと言いながら、慌てて二人の後を追った。
 

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 CAST:

 8253 / 朝霧・ケイ / 16歳 / 高校生・自称魔道師
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 ルート分岐結果 → タスラム貫通
 朝霧・ケイさんは、Dルートで進行します。
 以降、ゲームノベル:クロノラビッツの各種シナリオへ御参加の際は、
 ルート分岐Dに進行したPCさん向け のシナリオへどうぞ。

 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.19 稀柳カイリ

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