コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


俺も娘も17歳?!〜逃げたの!白ウサギ〜


 最近では、神聖都学園の制服がよく似合うようになってきた竹取姉弟。
 月での職務もあるため、髪型こそ現代人離れした感じになっているが、ちゃんと思春期を満喫している。おしゃれにも気を遣うし、お小遣いにも気を遣う。弟のめぐるは職務とバイトに明け暮れる毎日を過ごしながらも、姉のかぐらをいろんな面でサポートしていた。これは、そんなある日の出来事である。

 梅の花も咲こうかという穏やかな日に、珍しくかぐらの絶叫が神聖都学園の寮に響いた。さすがのめぐるも、慌てて姉の口をふさぐ。

 「ね、ね、姉さんっ! 声が大きいって!」
 「執事ウサギのあの息子が『ウサギの穴』を使ってこっちに逃げたなんて、誰が聞いても驚くでしょー!」

 かぐらの口ぶりから、そのウサギはずいぶんとやんちゃであることは容易に推測できる。そんな少年ウサギが、月と地球を秘密裏に結ぶ謎の通路『ウサギの穴』を使ったというのだ。もちろん月の宮殿も大騒ぎ。

 「まずいよねー、あの子は日本語が喋れるから。その辺で道を聞いてるかもしれないわ。」
 「最悪、おうちに帰れなくなる可能性もあるからさ。早く捕まえないといけないんだけど……」

 かぐらとめぐるは頭をひねって考えた。父の執事ウサギといえば、黒のタキシードを着て、上品な懐中時計を持っている。めぐるはそんな父の姿を羨んでいる少年を見たことがあった。月ではウサギが服を着る方が稀なのだが、今回の逃走劇はそのような野望を秘めたものだったのかもしれない。
 その推論は、ふたりに苦い顔をさせた。原因ではないにせよ、遠因は明らかに自分である。職務のためとはいえ、地球で買い求めた服を着たまま宮中を歩き、ウサギから『いいお召し物ですね』と言われれば、深く考えずに『これは地球のものだ』と説明していた。それを伝え聞いた少年ウサギが、夢に胸を膨らませたというのなら……かぐらは反省しつつ、打開策を提示する。

 「話がわかってくれそうなお友達にお願いするしかないかー。勝矢と美菜にはこっちから伝えとくわ。」
 「そっちは任せるね。うーん、神聖都学園のどこかにいると思うんだけどなぁ……」

 めぐるの予想は当たっていた。今、白ウサギの子は広大な敷地の神聖都学園の中にいる。そんな話を伝え聞いたアルバイト先の少女・柴樹 紗枝がさっそく駆けつけてくれた。彼女は動物を扱うことに関しては超一流の腕を持ち、誰よりも愛情深く接する。これ以上ない助っ人を得て、めぐるは胸を撫で下ろした。
 それに加え、めぐるの元に勝矢の娘である美菜が合流。かぐらは勝矢とその友達の施祇 刹利と合流した後で、こちらに向かうことになっている。ひとまず、めぐるは初対面となる紗枝と美菜を紹介した。

 「あ、めぐるくんから聞いてるわ。今度、めぐるくんががんばってるとこ、見に来てね!」
 「う! あー、そ、その話はまた今度……」

 ずいぶん歯切れの悪い返事をするめぐるを、美菜は不思議そうな顔で見つめる。ただ、天性の嗅覚で『これは何かある!』と気づいたようで、このネタを事件の後のお楽しみにした。
 人間の言葉を喋る少年ウサギいえども、結局は白ウサギ。紗枝はふたりの前で即席のマジックショーを行う。今日の服装はラフな格好だが、こんな時でもちゃんとネタを仕込んである。彼女はさっと拳銃……ではなく、ただの水鉄砲を手に持つと、それをふたりに渡した。中身は蛍光液が入っている。

 「さっそく冒険の始まりね! まずは学園を囲む園芸の花壇に移動っ!」
 「おーっ! 紗枝ちゃん部隊、発進!」

 すっかりその気になってる美菜だが、文字通りの『冒険』になることをまだ誰も知らなかった。


 その頃、かぐらと合流した勝矢と刹利は、なぜか執事の服を着て移動していた。以前、刹利が早着替えに開眼したきっかけとなった場所で服を購入した際、ついでに勝矢の分まで買っちゃったらしい。やっぱりお年頃の勝矢には恥ずかしさがあるが、遠目だと学生服に見えなくもないので、本気では嫌がっていないようだ。これを俗に『まんざらでもない』というが、かぐらはあえてそれを言わずに心の中でそっと笑っておいた。
 その後は執事に詳しい某女性サークルさんの全面協力で素敵なレクチャーを受け、なんとも似合わないすらっとした歩き方で校内を歩いている。

 「刹利、似合ってるねー!」
 「俺はてっきり白い動物にさせられるのかと思ってびくびくしてたんだけどな、今回はストレートに執事で来たな……裏をかかれた。」
 「そんなぁ〜。『ウサギくんはもっともこもこになりたいのかな? 角もほしいのかな? そうだよね、羊さんはもこもこふかふかだもんね〜』なんて間違いはしないよ〜!」

 刹利が言ったそのままを想像していた勝矢は「完敗だね」と褒めるも、いつもの独創的な部分はしっかり残っていた。執事の研究を体験して望むというのだから、こういうところは見習ってもいいのかもしれない。勝矢もかぐらも、そう思った。

 「執事さんって、男の人用のメイド服なんだよね。ボク、知ってるよ。」
 「お、おお……こっ、ここで胸を張るとは。さっ、さすが刹利、らしさが全開だぜ!」

 正しい知識をちょっとだけ理解してて、自分なりの解釈がたくさん入ってるのが、刹利のかわいいところ。

 「さ、面倒なことを解決するのが、執事のお仕事よ。めぐると合流して、一緒に少年ウサギを探して。」
 「おーっ!」
 「別にお前の執事ってわけじゃないんだぞ、俺たちは!」

 勝矢の正論もかぐらの耳には届かず。お姫様はそのまま先陣を切って歩き出した。この執事の服が思わぬ不幸を呼ぶとは、まだ誰も知らない……


 刹利たちが紗枝ちゃん部隊と合流すると、さっそく花壇の捜索をさせられた。せっかく買ってもらった服が汚れると、珍しく勝矢が嫌がる素振りを見せるが、この場で拒否権を行使できるわけもない。黙って一列になって突入を開始した。
 紗枝はかぐらと一緒にいるめぐるを初めて見るので、調査の最中に自分の知らないことをいろいろ質問した。

 「竹取姉弟で、絶対的な主導権を握ってるのってどっち?」
 「あ、それは姉さんです。歴代の統治者も女性だったんで、その方がいいということで。」
 「そうなんだー。かぐや姫のお話のままなんだね。」

 刹利も納得しながら、その話に耳を傾けているらしい。
 その後も質問が続く。神聖都学園に編入したきっかけは、姉のかぐらがお忍びで地球に行く回数が増えたから。月と地球への移動手段は、少年ウサギがこっそり使ったとされるワープホール『ウサギの穴』だ。美菜が「そこだけ別の話が混じってるような……」と小首を傾げるが、あまり深く考えない性格なので追求まではしない。
 身を屈めたままの質問タイムが続くと思いきや、ここで意外な敵に出会う。独特の高音を奏でつつ、素早く獲物を狙うハンター。春先になると増える連中、その名も蜂!

 「お、おいっ! 俺たち黒いの着てるのって、すっごくまずいんじゃないか?!」
 「何してるんですか、勝矢さん! 蜂が寄ってくるじゃないですかっ!」
 「あ、そうだったねー。黒って、蜂さんが大好きなんだよねー。」

 すっかり人気者の刹利と勝矢を救うべく、紗枝はすかさず新たな水鉄砲を手品で出す。これの中身はただの水で、銃口が霧吹き状になっている。軽快にシュシュッと吹きかけ、紗枝は近くの茂みへ逃げるよう指示する。

 「とりあえず、あそこの茂みに隠れて!」
 「なんでこんなアドベンチャーになってるのよーっ!」

 その場に霧を発生させることで難を逃れたものの、この場に留まるわけにもいかない。とりあえず前に進もうということになった。
 この茂みは思ったよりも深く、また枝も多い。これが男性陣にさらなる被害をもたらした。移動の最中、常に誰かが「うら若き乙女のお尻を触った!」と思ったことを口にする。これを否定しても肯定しても、男性陣にはろくなことがない。ああ言えばこういう面子だから、もう黙るしかない……のだが、黙ると黙るでまた難癖つけられる。ここを突破するまで、あの楽天家の刹利でさえだんまりになったほどだ。

 そんな大騒動がありながらも、ようやく校内のとある建物にたどり着いた。騒ぎ疲れた紗枝たちは建物の裏口と知りつつ勝手に入り、遠慮もせずにある部屋で休憩する。
 何気なく椅子に座った紗枝は、あまりにも質素な木の椅子に驚いた。神聖都学園の施設で、こんな古ぼけたものが存在するのか。疑問に思ってあたりを見渡すと、ここは防水加工の施された机がいくつも並ぶ理科の実験室のようだった。周りには何やら怪しげな水槽がいくつも並んでいる。急にジメッとした雰囲気を感じ、紗枝は思わず息を飲む。
 不意に、かぐらと美菜の悲鳴が響く。ついに刹利が刹利らしいことをやってのけた瞬間だった!

 「すごいねー、この蛇さんおっきいよー!」
 「きゃーーー! きゃーーー! きゃーーー! きゃーーー! きゃーーー!!!」

 なんと水槽の中にご在宅だった蛇を持って、満面の笑みを浮かべながら女性陣に見せつけたのだ。さすがの紗枝も絶叫で対応するしかない。

 「ほら、天井にもいっぱいトカゲさんがいるよ〜!」
 「んぎゃーーー! きゃーーー! きゃーーー! んぎゃーーー! んぎゃーーー!!!」

 どうやらここは、生物クラブの繁殖室だったらしい。とんでもないところで休憩したせいで、疲れなくてもいいはずの女性陣まで大いに疲れてしまった。なんとか外に逃げ出した紗枝ちゃん部隊は、何気ない疑問に駆られる。

 「紗枝さ……俺たち、何してんだっけ?」
 「もちろん! 少年ウサギくんを探してるんです!」
 「あれぇ、勝矢くん忘れてたのー? ボク、ちゃんと覚えてるよ。」
 「ああ、刹利はえらいな。俺、ちょっと見失いかけてた。」

 どうやら探検隊に熱中していたのは勝矢だけではなく、めぐるや美菜もそうだったらしい。彼らのハッとした表情は、周囲にたっぷり不安を与えた。そこで紗枝は、満を持して最終兵器を投入する。それは釣竿にニンジンをぶら下げて、カゴの中に誘うという由緒正しき古典的な技法であった。ニンジンは、サーカスの動物たちが好んで食べる栄養価たっぷりのものを使用。釣竿やカゴの罠はケガをしないよう細やかな心遣いが光る。

 「紗枝さん、最初からこれでよかった気が……」
 「うっ! そ、そんなことより、めぐるくんに質問っ! かぐや一族って、月世界の開拓に尽力したといわれる『惑星開発用改造人間』を作ったか連れたかしてた?」
 「どっからそんな話を仕入れてきたのか知らないけど、そんな便利なのがいたら、私たちだって理力なんてものに頼らないわよー。」

 苦し紛れに言ったからか、紗枝の質問は突拍子もないものだった。それでもかぐらはマジメに答える。彼女は蛇足で、月には改造人間はおろか、かぐら一族のように人間っぽい存在は数えるほどしかいないと説明した。ただ従者のウサギたちの間には『人間の姿に化ける秘伝』があり、外交などの際にそれを使って、人間の数を水増しすることがあるという。ウサギたちが化けるお手本がかぐら一族なので、必然的に美男美女が多くなるらしい。
 そんなやり取りをしていると、足元でパリポリと軽快な音が響く。驚くべきことにボーっとしていただけで、少年ウサギがニンジンを食べにやってきたらしい。彼の視線は刹利に釘付けだ。

 「あーっ! この子じゃないの、もしかして?!」
 『お姫様、お大臣。こんな服がほしいのです。』
 「に、日本語を喋ってる! ウソでしょ! パパ、ウサギが日本語!」

 娘が未来からやってきたのも忘れて、勝矢も喋るウサギを見て大いに驚いた。しかも敬語を使うとは、さすがはいいとこのボンボン。

 「キミも執事さんの服がほしいの? いいよ、これ作ってくれる人たちがここにいるんだ〜。頼んであげるよ〜。」
 『お言葉に甘えます。このご恩は必ず返します。』
 「もっとおてんばな子を想像してたんだけど、なんか雰囲気違うわね……」

 ニンジンを食べ終わり、自分の目的を聞き届けてくれると知るや、放浪の旅をあっさりとやめる白ウサギ。この後、めぐるからこってりお説教をされた。しかしこの少年、受け答えこそ丁寧だが、都合の悪いことは右から左へ聞き流してるらしい。ずいぶんと世間慣れした少年……いわばめぐるのような雰囲気をこのウサギから感じた紗枝であった。


 その後は少年ウサギ専用のタキシードを作ってもらい、袖を通してみんなの前でお披露目。竹取姉弟こそ渋い顔をしていたが、紗枝や美菜は「似合ってるねー」と笑った。当の本人は世話を焼いてくれた刹利にずいぶんと懐き、ウサギの穴で帰る時まで何度もお礼を述べる。刹利は「よかったね」と言うと、ついでにこんなお願いをした。

 「ボクが今回のこと、お父さんに説明してあげるよー。」
 「せ、刹利、まさか月に行く気か! ちょっと待て! おい、めぐる! 月って、空気あるのかよ?!」
 「ひ、秘密ですよ。本当に秘密ですからね……ボクたちの住んでる月の神殿付近は、地球から見えない裏側にあるんで、空気は完備されてるんです。」

 つまり刹利が月へ遊びに行っても、あんまり問題ないというわけだ。今回は特別にめぐるが使っているウサギの穴を通って、少しだけ執事ウサギと面会する運びとなった。刹利なら月を目指す研究機関に話すこともないだろうし、日頃からお世話になっているので、そのお礼を兼ねる意味合いもある。この後、少年ウサギとともに月へ行ったが、それは夢のような体験になったはずだ。

 紗枝はめぐるに「またアルバイトに来てね」と声をかけると、あることを思い出してまたまた質問した。

 「あ。ところで、サーカス団の団員服の着心地はどうだった?」
 「あ、う! そ、それは、その……着心地というか、まぁ、仕事着としては動きやすくて、とても……」
 「どうしたの、めぐる? アルバイト先で着る服でしょ。着心地の話じゃない、ちゃんと答えなさいよ。」

 質問の答えになってないという姉のごもっともなツッコミに、秋山父娘も頷きあう。めぐるはやけくそ気味に「ええ、よろしかったですよ!」と言い放つと、かぐらが「へぇー」と興味を持った。

 「かわいい服だったら、私も着てみたいなー。アルバイト、たまにはいいかもね。」
 「きっと労働の厳しさと理不尽さがわかるよ、姉さん……」

 すべてを語らないめぐるを尻目に、瞳をときめかせるかぐら。紗枝はその様子をしかと目に焼き付けた。瓜二つの姉が衝撃の事実を知るのは、そう遠くないらしい。


 かくして、事件は解決した。しかし、この物語は少しだけ続く。
 舞台は、紗枝のサーカス小屋。ここにひょっこり、あの少年ウサギが金ラメの衣装と帽子をかぶってやってきたのだ。それを発見した紗枝はビックリ。

 「あれ? キミ、今度はウチに来たの?」
 『刹利さんにご恩を返すべく、アルバイトというものをしに来ました。お大臣もお世話になっているということなので……』

 口では義理を立てているようでも、実はちゃっかり遊んでる。そんな少年ウサギのしたたかさを見て、思わず笑みを浮かべる紗枝だった。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

6788/柴樹・紗枝  /女性/17歳/猛獣使い・奇術師〔?〕
5307/施祇・刹利  /男性/18歳/過剰付与師

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは、市川智彦です。今回は月の世界にスポットを当てたお話でした。
思わぬところで質問されちゃって、かぐらやめぐるも焦ったのではないでしょうか?(笑)
今回はすごく話が広がって楽しかったです。はちゃめちゃなのもそのままでしたし!

ご参加の皆様、今回もありがとうございます。これからもご近所異界をよろしくです。
また勝矢や美菜たちの巻き起こす珍騒動や、別の依頼でお会いしましょう!