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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


トリック写真を撮ってみよう!
●オープニング【0】
「ページがね、余ってる訳なのよ」
 月刊アトラス編集長である碇麗香は開口一番そう言い放った。
「でね、そのままだと真っ白なページのまま、本を出さなきゃいけないのよ。分かる?」
 察しのいい者であれば、ここでピンとくることだろう。つまり、何か企画がボツになったか、原稿が落ちたかしたのであろうと。
「別にね、そこを心霊写真やUFOの写真で埋めても構わないんだけど。それじゃあまりに能がないじゃない?」
 まあ……確かに言わんとする所は分からなくもないが。
「だからね、悪いけどトリック写真撮ってくれる?」
 ……すみません、意味がさっぱり分かりません、編集長。
「つまりね、トリック写真を撮って、その撮り方などを紹介する原稿を書いてほしいのよ。色々と役立つでしょ?」
 今の麗香の言葉の意味は2つあると思われる。1つは、このようにすればそれっぽい写真が撮れるのだと、読者に教えるということ。もう1つは、こういうトリックはこちらはお見通しなのだからと、読者を牽制する効果を狙ってのこと。嘘なら嘘でも別にまあ構わないが、送るのならこれ以上の物を送ってこい……ということなのだろう、たぶん。
「という訳でね、任せたから。あ、締切は3日後ね」
 おいおいおい、時間ないじゃん!!

●眠いと色々あります【1】
「要するに……」
 ミネルバ・キャリントンは、碇麗香が今言った内容を頭の中でまとめてから聞き返した。
「穴埋め記事を書けばいいのね?」
「早く言えばそういうことよ。ただ題材がトリック写真の撮り方ってだけで」
 さらりと言い放つ麗香。と、そのままじーっとミネルバの顔を何故か見つめる。
「……どうしたの?」
「眠そうねえ」
 ミネルバが尋ねると、ぼそりと麗香が言った。
「やっぱり分かるのかしら? ええ、この所忙しくて、あんまり寝てないのよね」
 と言ってから、ミネルバもまた麗香の顔をじっと見る。
「……眠そうね」
「こういう仕事だとどうしてもね。分かるでしょう?」
 苦笑いを浮かべ、麗香がミネルバに言った。
「よく分かるわ」
 くすっと笑いつぶやくミネルバ。編集者である麗香、作家であるミネルバ、取材やら締切やら重なったり迫ったりすると、たちまちに寝る時間は削られてゆく訳で。
「寝てないと……精神状態が普通でなくなってきたりもするわよね」
「なるわよ。普段なら通す気もないような企画を通したくなったりとか」
「……それってまさかこの企画じゃないわよね?」
 冗談混じりにミネルバが尋ねると、麗香は黙って目を逸らした。……図星なのか、麗香さん。
「と、ともかく任せたわよ。場所が必要ならその辺り使ってもいいし、必要な物があるんなら編集部にある物使ってもいいから」
 あからさまに話を逸らそうとしている麗香。ミネルバもあえてそれ以上突っ込むようなことはしなかった。
「なら、少し場所を借りるわね」
 そう言ってミネルバは編集部の一角に陣取り、どのようなトリック写真を撮るか考え始めるのであった。

●トリック写真を考える【2】
「……トリック写真ねえ……」
 編集部の一角で思案しながら、ミネルバはぽつりとつぶやいた。
 一口にトリック写真と言ってもその種類は様々だ。テグスで金属の灰皿を吊るしてUFO写真だなんて言い張るのもあれば、木々の葉の重なり具合が人の顔のように見えるから心霊写真だと言うのも一種のトリック写真といえよう。
 まあこの辺は子供騙しな部類であろう。しかしながら、子供騙しなトリック写真も上手く撮れば社会的に身分もある立派な大人たちをも騙すことが出来る訳で――。
(……そういえば、『コティングリー妖精事件』なんてあったわね)
 『コティングリー妖精事件』を思い出すのはさすがイギリス人である。これは1917年から1920年にかけてイギリスのヨークシャー州に住むある少女たちが撮影した写真にまつわる騒動だ。少女たちが撮影した写真というのは何と妖精たちが映っている物だったのだ。
 当然この写真に対し妖精は実在するんだと主張する者と、トリックだろうと主張する者とが出てくる訳だが、実在を主張する者の中にあのコナン・ドイルが含まれていたから事態は大事となってしまう。当時、一大論争へと発展してしまったのだ。
 結局この写真は、ドイル死後35年ほど経ってから晩年の少女たちがトリックだと告白したことによって、『コティングリー妖精事件』には終止符が打たれることとなった。そのトリックはといえば実に単純で、当時の絵本に描かれていた妖精の絵を模写して切り抜き、帽子止めのピンで固定していたという。
「そうね……これはいいかも」
 『コティングリー妖精事件』の話は、トリック写真についての記事の導入としては悪くなさそうだ。この事件を導入に、続いて今回撮るトリック写真を見せてから、その撮り方を説明するという流れにすればいい具合の記事が書けそうな気がする。
 ただ撮り方といっても、『コティングリー妖精事件』みたく模写した絵を切り抜いて固定なんて書くのはあまりにもあれなので、そこはやはり少々技術を要する物にする必要があるだろう。となると、定番の技術はあれだろうか。
(シャッタースピードをいじったり、光の反射を使ったり……よね)
 シャッタースピードをいじるというのは、シャッターを開きっぱなしにすることだ。例えば15秒間シャッターを開くことに設定したとしよう。この時、最初の5秒間はじっとしていて、5秒経ってすぐに対象が画面の外に出てゆきそのまま10秒間撮影を続けてみる。すると出来上がった写真には、対象が透き通った状態で映っっているのだ。時間を調節すれば、その透き通り加減もまた調節可能となる。
 光の反射は技術もあるが、こちらは撮影時条件もより密接に関わってくる。同じ風に撮れば再現出来るかといえば、決してそうだとは言えないからである。簡単な例を挙げるなら、カメラのフラッシュだろうか。カメラのフラッシュが画面内のガラスや何かに反射し、他の対象がそこにぼんやり映り込む……なんてことも、別に珍しくはない。けれどもこれも、上手く使うとトリック写真を作り出すことが出来る訳だ。
(これでおおよその構成は決まったかしら? でも……これじゃ地味な記事になりそうね)
 再び思案するミネルバ。構成や内容は悪くなさそうなので、何か1つインパクトがあればと思い考えて――。
「……そうだわ。確か去年……」
 不意に何かを思い出したミネルバはすくっと立ち上がると、そのまま編集部を出ていった。

●原稿完成【3】
 そして締切当日。ミネルバは麗香の元に完成した原稿と撮影した写真を持っていった。
「ご苦労様。いい感じの記事に仕上がってたと思うわよ。『コティングリー妖精事件』を最初に持ってきたことで、説得力も増したと思うしね」
 と言って麗香はミネルバを労う。
「ただ……」
「どこか気になる所でも?」
 そうミネルバが聞き返すと、麗香は首を横に振って写真を手に取った。
「この写真なんだけど」
「よく撮れているでしょう?」
 くす……と笑みを浮かべるミネルバ。原稿と一緒に出された写真にはいずれも、露出度高い悪魔の扮装をしたグラマラスな女性が映っていた。半透明だったり、ガラスに映り込んでいたりと、映り方は様々であったが。
「……これ、あなたよね?」
「ええ」
 麗香の指摘を即座に肯定するミネルバ。自身が被写体となって、これらの写真を撮影したのである。ちなみにこの衣装は、去年のハロウィンでミネルバ自身が着た物をクローゼットから引っ張り出してきた物だったりする。
「だから、記事のタイトルも『女悪魔が教える心霊写真の撮り方』としてあるでしょう?」
「それはいいのよ。らしい原稿になって、いい味出してるから。でもね」
 麗香は苦笑しながら1枚の写真を取り上げた。
「微妙に過激なポーズも少なくないわよね?」
 その写真は、誰かが寝ているらしきベッドの上にのしかかろうとしている半透明な女悪魔の姿という物だった。それも、セクシャルにヒップが強調されたバックショットで……。
「あの時、あんまり寝ていなかったから……」
 ミネルバもそう言って苦笑する。いわゆるハイになった状態だったのだろう、それもどちらかといえば悪い意味で。
「これ誰か実際に寝てるの?」
「それは毛布を丸めて膨らみを作ったのよ。らしく見えたならよかったのだけれど」
 麗香の質問に答えるミネルバ。カメラは三脚に固定し、セルフタイマーなども活用してミネルバ1人でこれらの写真を取り上げたという訳だ。
「おまけに、どれもはっきりと顔は映してないし……。まあ、ミステリアスになっていいけど」
 麗香がそう言うように、どの写真にもミネルバの顔はきちんと映っていない。口元から下だけだったりとか、横顔がちらりと見えているだとか、いずれもそんな感じだ。
「……落ち着いて見返すと、凄く恥ずかしくなってくるわね」
 少し照れたような笑みを浮かべ、そんなことを口にするミネルバ。まあ冷静になるとそんなものだ。
「ともあれ、しっかりと掲載させてもらいますからね。あ、原稿料をお楽しみに」
 くすっと微笑む麗香。かくして月刊アトラスの次の号には、ミネルバの書いた記事と写真が無事に掲載されることとなった。届いた献本を読み、ミネルバがまた恥ずかしがるのは後日のことである――。

【トリック写真を撮ってみよう! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7844 / ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)
                / 女 / 27 / 作家/風俗嬢 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全3場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、トリック写真の撮り方にまつわるお話をお届けいたします。デジタルカメラに移ってきて、トリックの方法も技術というより画像処理の方へと変わってきているとかどうとか。
・トリック写真、社会を惑わすのはどうかなとも思うのですが、友だち内で驚かせたいといったような時には楽しいですよね。本文では触れてませんけど、単純に腕や足を画面に映り込まないように隠すだけでも、トリック写真という物は作り上げることが出来ますし。
・ミネルバ・キャリントンさん、8度目のご参加ありがとうございます。『コティングリー妖精事件』は有名ですよねえ。一説にはエリートほど、こういった物を信じ込み騙されやすいなんて話もありますが、はてさて。で、写真は……きっとどこかでネタになっていることでしょう。とあるNPCが見ていたりとかして。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。