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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 時の鐘 -
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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.
 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」
 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。
「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」
 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。
「ん〜〜〜♪」
 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ド、パンッ ――
「んに゛ゃふっ!?」
 何とも豪快に、スライディングの如くスッ転んだ少女。
 地面に滑り込むと同時に、少女が纏う大きな黒いパーカーに着いている猫耳と尻尾も、ヘニャリと垂れた。
 海斗が放った炎。不思議な形をした銃から放たれた真っ赤な炎は、僅かなズレもなく、標的 …… 少女の胸を貫いた。
 転倒(スライディング)による擦り傷のほか、少女に外傷はない。
 標的とはいえ、何も海斗は、少女の命を奪わんと発砲したわけではないのだ。
 海斗が撃ち抜いたのは、少女の心臓そのものではなく、少女の胸元に寄生していた "時兎" という厄介な生物。
 一般の人間には見えないこの生物は、その名のとおりウサギによく似た外見をしており、パッと見はとても愛らしい。
 だが、寄生されて二十四時間以内に排除しなければ、非常に厄介な現象が起きる。
 寄生された人間が持ち得ていた経験や思い出など、一切の記憶を失ってしまうのである。
 つまり、海斗は、この時兎を撃ち抜き排除し、少女の記憶を護ったということになる。
 人間には見えぬ時兎という生物が見え、更にそれを排除する術をも持ち合わせている存在。
 察しのとおり、海斗と梨乃は "ヒト" ではない。
 彼等は、時狭間という異空間を生活拠点とし、時兎の排除を使命として担っている "契約者" という立場にある。
 時兎に寄生されてしまった人間を救うのは、彼等の使命であり、ライフスタイルの一環。面倒だとかそういう概念はない。
「もっと丁寧にできないの …… ?」
「うっさいなー。加減がムズカシーんだよ」
 やれやれと肩を竦めながら、転倒した少女に歩み寄って言った梨乃。
 海斗は、不思議な形の銃、その銃口に灯った赤い炎をフッと吹き消し苦笑を返した。
 確かに、少女に寄生していた時兎は、影も形もなく消滅している。銃撃により消滅したのだ。
 使命こそ果たし、少女の記憶を護ることはできたものの、やりかたが少し乱雑。梨乃は、その点を指摘している。
 まぁ、いつものことだから、半ば呆れながらといった感じではあるのだが。
「擦り剥いちゃってる …… 怪我はさせるなって、いつも言われてるでしょ?」
「だいじょぶだって。そんくらい、ツバつけときゃソッコーで治るって」
「 ………… まったくもう」
 大きな溜息を吐き落とし、治癒の魔法を少女にかけて傷を治す梨乃。
 転倒した少女は、ピクリとも動かないが、死しているわけではない。ただ単に気を失っているだけ。
 あと数分もすれば目を覚まし、何事もなかったかのように起き上がる。躓いて転んでしまったのだ、とそう認識しながら。
「ほれほれ、とっとと帰るぞ!」
「責任感ってものがなさすぎるのよ、あんたは」
「あーもーうっさいなー。役目は果たしたんだし、問題ねーだろ」
 長居は無用。
 時兎の排除が済んだら、すぐにその場を立ち去る。
 契約者という存在もまた、時兎と同じく、人間には視認できない存在ではあるが、いつまでも現場に残ることは許されない。
 契約者というからには、彼等には契約を締結した "主" が存在する。長居無用のルールは、その主が定めているものである。
 契約者、正式には "時の契約者"  彼等はこうして、日々、人知れずヒトの記憶を護っている。
 助けてくれて、護ってくれてありがとう、だなんて感謝された試しは一度もない。
 彼等は、ヒトを救えど、ヒトと関わることができない、見えぬ存在ゆえに。

 ナナ・アンノウン。
 海斗の銃撃によりスッ転んだ …… いや、救われた少女の名前。
 転倒して二分後。ナナは、ゆっくりと目を開き、自身の身体に起こった異変を悟る。
 先程まで、胸のあたりがキューッと苦しかったのに。絞られるような鈍い痛みがあったのに、消えている。
 ナナは、のそのそと身体を起こすと、自身の胸元に手をやり、何か、感触のようなものを確かめてから呟く。
「んに? 撃たれた〜?」
『すっとんきょうなこと言ってんじゃねぇ。あいつらだ』
「んにゃ〜?」
『バカ、そっちじゃない。逆だ逆』
 寝起きのような間延びした口調で声を放つナナに鋭いツッこみを入れているのは、シャドウ。
 ナナの右腕に絡みつくようにして存在している黒い影のような生物。シャドウは、ナナの大切なパートナーである。
 シャドウが示す方向を見やれば、そこには、いそいそと、在るべき場所 "時狭間" へ戻ろうとしている海斗と梨乃の姿。
『追うぞ』
「ふぇ〜 …… 眠いのにぃ〜」
 ゴシゴシと目元を擦りながらも、シャドウの言うとおり、二人の後を追うナナ。
 決して俊足とは言えないが、後ろから何かが近付いてきていること、その気配くらいは誰でも感じ取れる。
 海斗と梨乃は、時狭間へ戻るため、懐から黒い鍵を取り出し、時の扉を出現させていたところだった。
 うん? と感じた気配に振り返れば、ポテポテと走りながらこちらに向かってくるナナの姿。
 この時点では、海斗も梨乃も、疑問を抱かなかった。
 もう、目を覚ましたのか。いつもより早いな、とか、その程度のことしか考えていなかった。
 海斗と梨乃、二人が目を丸くして驚くことになるのは、ナナが目前まで迫った、その瞬間である。
「やっと追いついた〜 …… はふ〜 …… はふ〜 …… 」
 肩を揺らし、呼吸を整えながらナナは続ける。
「はふ〜 …… ねぇ、なんで撃ったの〜? ナナ、何か悪いことしたかな?」
 ナナからの問いかけに、言葉を失う海斗と梨乃。思わず辺りを見回してみたりもするが、誰もいない。
 つまり、間違いなく、この少女は自分たちに問いかけている。どうして "撃った" のかと、その理由を問いかけている。
「 …… おい。どゆこと?」
「 …… 私が聞きたいくらいよ」
 理解に苦しむ状況に、苦笑を浮かべてしまう海斗と梨乃。
 どういうことだ。見えているのか? オレたちの姿が、こいつには見えているのか?
 ありえねーだろ、そんなん。だって、人間には見えないんだぞ。オレたち、時狭間の関係者は視認できない存在なんだぞ。
 だからこそ、音もなく使命を果たして去ることができるのに。どうなってんだ。どういうことだ。何なんだこれ。
 今まで体感したことのない状況に、ちんぷんかんぷんになり、やたらと瞬きを繰り返す海斗。
 クール・平静を装ってはいるものの、梨乃もかなり驚いている様子。
 理解できない状況に困惑する二人に対し、ナナは更に尋ねた。
「このへんにいたウサギさんがいなくなったんだけど〜 …… もしかして、おにぃさんたちが消した〜?」
「はっ!?」
 思わず、大きな声を出してしまった海斗。
 そりゃあそうだ。今の発言から、ナナが "時兎" を視認できていたことがわかるのだから。
 契約者のみならず、時兎まで視認できていたとは。いったい、どういうことだ。この子はいったい …… 何者なのだ。
 どういうことなのか、まったくわからない。だが、海斗も梨乃も、その疑問を解消する術を持ち合わせていない。
 なぜならば、定められているから。ヒトと接触してはならない。必要以上に関わってはならない。
 会話なんぞ、もってのほか。そういうルールが、主との間で締結されているから。
 だから、海斗も梨乃も、ナナに対して言葉による返答ができない。
 話しかけられているということは、間違いなく会話が成立する。
 会話が成立してしまった時点で、規約違反。即座に契約を解除されてしまうことだろう。
 とはいえ、どうしたものか。ナナは、いまだ不思議そうな顔で海斗と梨乃を見上げ、返答を待っている。
 ぼんやりしているように見えて、その眼差しには、些か恐怖を覚えさせる迫力のようなものがあり、二人は目を逸らすことができない。
 何事もなかったかのように、逃げてしまおうか。時の扉に飛び込んでしまえば、ナナは後を追ってくることができないだろうから。
 海斗と梨乃が、困惑の末、逃亡という選択肢を選ぼうとした、その矢先のことだった。
 二人の頭の中に、低く、それでいて柔らかく優しい声が流れ込んでくる。
 その落ち着いた声は、彼等の主。時狭間を統括する "マスター" という人物のもの。
 マスターは、海斗と梨乃の脳内に直接語りかけ、また、二人に指示を飛ばした。
 その子を、ナナを、そのまま時狭間に連れてきなさい、事情については後でゆっくり説明するから、と。
 人間を時狭間に招き入れるだなんて、聞いたこともない。それこそタブーではないのか。
 海斗と梨乃は、マスターの指示に疑問を抱き、反発した。
 だが、マスターは、連れてこいの一点張り。
 状況の理解を求むならば、おとなしく従え、と二人を叱る。
「なんで …… 」
「 …… 海斗。とりあえず、言うとおりにしましょう」
 契約の締結。それがあるからこそ、存在を許されている契約者。
 存在することを許してくれた、許可してくれた、主に抗う権利なんぞ、彼等にはない。

 *

 時の扉を経由し、赴く時狭間。
 時狭間は、あらゆる世界と繋がり、また、あらゆる世界の時間が巡る空間。
 契約者たちは、時の扉を経由することで、各所へと赴き、時兎に寄生されてしまったヒトを救う。
 時狭間へと赴く最中、梨乃は、マスターに指示されたとおり、ナナに事情を説明した。
 自分たちのこと、時兎のこと、時狭間のこと、銃撃のこと。ナナが抱く疑問その全てを上手く解消した。
 説明上手な梨乃のお陰もあって、ナナは、すんなりと事態を把握する。そうだったんだ〜とニコニコ笑いながら。
 常人では理解できぬこの状況。ファンタジックな状況を、こうもあっさり受け入れてしまうだなんて、不思議な子だ。
 梨乃は、怖くないの? とナナに尋ねてみたりもした。説明こそしたものの、実際に時狭間がどういう場所なのかは未だわからない。
 自分たちをこう言うのも何だが、得体の知れぬ者とよくわからない場所に赴くだなんて、普通は怖いはずだ。
 だが、ナナは、ニコニコと笑みと浮かべ、楽しそうに 「全然怖くないよ〜」 と返す。
 無理をしている様子も、嘘をついている気配もない。
 純粋に、ワクワクしている。ナナの態度に、梨乃はそんなことを思った。
「ねぇねぇ、海斗は何でそんな怖い顔してるの〜? あっ、お腹空いてるのかな? お菓子あるよ。食べる〜?」
 背負っていたツギハギだらけの猫リュックから、飴やらチョコやらガムやら、あらゆるお菓子を取り出して海斗に差し出すナナ。
 だが、海斗は、ふいっと顔を背けて 「いらねー」 と、ぶっきらぼうに返すばかり。
 そんな冷たい海斗の態度に、ナナは少しションボリと寂しそうな表情を浮かべてしまう。
 梨乃は、そんなナナを慰めフォローするかのように、私にも頂戴とお菓子をねだってみせた。
「うん、いいよ〜。梨乃ちゃんは、何が好きかな〜? 飴かな? チョコかな? グミもあるよ〜?」
「 …… すごいたくさん持ってるんだね。えっと …… じゃあ、これ貰おうかな」
「あっ、それね! すっごい美味しいよ〜! オススメだよ〜」
 マスターに指示されたとおり、ナナを連れて時狭間へと向かう海斗と梨乃。
 梨乃は、まるで妹の面倒をみるかのようにナナと上手く接するが、海斗は、終始無言でふてくされていた。
 別に、ナナを時狭間に連れて行くことが嫌だとか、理解できないだとか、そんな理由でふてくされているわけではない。
 マスターの指示なら従うし、後でちゃんと説明してくれるとも言っていたのだから、ふてくされることもない。
 海斗が無言でジッとナナを見やり、不可解な表情を浮かべていた理由は、別にある。
 矛盾だ。
 マスターとの契約締結の際、耳にタコが出来るくらい言い聞かされたルール。
 ヒトと関わってはならぬ、必要以上に接してはならぬ、会話なんぞもってのほか。
 ずっと従い、厳守してきたルールだが、それが今日、許可された。そこで、海斗は矛盾に気付く。
 どうして、あんなルールを強いていたのだろうか。ヒトと関わるなと、何度も何度も言い聞かせたのだろうか。
 そもそも、無理なことだったではないか。ヒトには、契約者の姿が見えない。見えぬ者と接するだなんて不可能だ。
 つまり、マスターは、隠していたんだ。例外があるということを。契約者を視認できるヒトが少なからず存在しているという、その事実を。
( …… なんか、ダマされてたみたいでムカつく)
 その矛盾に気付いてしまったが故に、海斗はふてくされていたのである。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / マスター / ??歳 / クロノ・グランデ(時の神)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。