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<東京怪談・PCゲームノベル>


「ナナ・アンノウンさんのお手伝い、させてください!」



「お手伝い、お願いしていいかな〜?」
 受け取ったチラシを片手に、すぐさま声をかけたのはナナ・アンノウンだ。
 夕暮れ時の駅前。太陽の光に当たって、ナナの髪や瞳はきらきらと輝いている。
 声をかけられたのはチラシ配布をしている、どう見ても小学生の西洋人の金髪少女・ステラだった。
「お手伝い、ですか?」
 ぱちくりと瞬きをし、ステラはナナを見遣る。
 うん、とナナは頷いた。
 黒いネコ耳のついたフードと、ツギハギ猫リュックを背負っているせいか、どこか猫の着ぐるみのように見えなくもない。
「駄目かな〜?」
 じっとステラを見てくるので、ステラは首を傾げた。
「べつにいいですけど」
「ほんと?」
「嘘なんて言いませんよ。内容にもよりますけど、大抵のお手伝いなら、受けますよ」
 にっこりと笑顔で返され、ナナは嬉しくなって何度も何度も頷いた。



 事情は近くにあったベンチで聞くことになった。
 二人は並んで座る。
「ははぁ。つまり、拾ってくださったご夫婦の結婚記念日になにかをあげたい、ってことなんですね」
「でもね〜。ナナ、どういうのをあげればいいか、わからないんだ〜。探すの手伝ってくれる〜?」
「結婚記念日、ですかぁ……」
 腕組みして考え込むステラに、ナナは期待に満ちた眼差しを向ける。
 こんなに可愛い女の子なんだから、きっと素敵なアイデアを出してくれるはずだ。
「お礼は、ナナの家、カフェだから、そこでナナのオムライス、ご馳走してあげるよ〜」
「おっ、オム……!」
 なぜかごほごほと咳き込むステラにびっくりして、ナナは彼女の小さな背中を摩ってあげた。
 しばらくして呼吸が安定すると、出ていたらしいよだれをステラがぬぐった。目がきらきらと輝いている。
「頑張ります! ええ、オムライスのためにも!」
「? うん、よろしく〜」



 条件はたった一つ。
「二人で使えるものがいいんだ〜」
 と、横を歩くナナとは、待ち合わせをして日曜にショッピングに来ていた。
 ナナも相変わらずの衣服だが、ステラも、細部が違ってはいるが全身が真っ赤である。かなり目立ってしょうがない。
「二人でですかぁ。それは二人一緒にってことですかぁ?」
「うん〜」
「むっ、難しいこと言いますね、アンノウンさんて……」
「そう〜?」
 首を傾げるナナから視線を外し、ステラは腕組みして歩き出した。
「お揃いのものじゃいけないんですか?」
「あ、それでもいいかも〜」
「お揃いですかぁ」
 またもや唸り始めたステラは歩幅が狭いので、歩調を合わせるのが大変だ。
「コップや湯のみは定番すぎて却下ですね。他にも名前が入った食器類とか……タオルとか……。
 花束も却下ですね。お揃いお揃い……」
 呪文のように「お揃い」を繰り返すステラは視線をあちこちに動かし、見かける店を素早く観察している。
「んー………………ん?」
 ぴた、と彼女が立ち止まったのでナナもそれに倣って止まった。彼女の視線の先を追う。
「あれはどうでしょう?」
「え?」
 驚いているナナの手をステラが引っ張った。
「とにかく見るだけでも見てみましょう!」

 強引に連れてこられたのは時計店だった。入店した途端、店員が素早く声をかけてくる。
「いらっしゃいませ〜」
 広くて清潔な店内にナナが目を白黒させた。
 あまり自分には縁のない店だったので、かなり驚いたのである。
「ステラちゃん、どうして時計のお店なの〜?」
「ふふっ。ペアウォッチ、というのがあるのはご存知ですか?」
 にやり、と笑うステラの言葉に盲点だったとナナが「は〜」と驚嘆の声を洩らす。
「それに、時計だったらあっても困りません。同じように時を刻んでいく……これって、ロマンチックですぅ!」
「うん〜。いいね、それ〜」
「やっぱり実用品が一番ですぅ」
 そう言って、ステラは店員のところに一直線に向かう。
「すみませ〜ん! ペアウォッチを探してますぅ」
「…………」
(ステラちゃんて〜……行動力がすごいかも〜)
 彼女はさっさと店員に案内されて、店内を移動している。ナナも慌ててついていった。
「こちらになります。どうぞゆっくりご覧ください」
 そう言って店員が距離をとってまた奥へと引っ込んでしまう。ガラスケースにおさめられているペアウォッチはどれも凝っている。
 時計はそこそこ値段がするものから、安いものまである。持ってきた予算で足りるだろうか?
「アンノウンさん」
「ん〜?」
「拾ってくださったご夫婦の趣味はわたしにはわかりません〜。アンノウンさんが選んでください〜。
 それとも、時計以外がいいなら言ってくださいね」
「あ、ううん。これでいいよ〜」
 一緒に「時」を刻んでいく。
 そのステラの言葉に感動したのだ。そう、これからも生きていくなら、時間は人間には刻まれていくものなのだ。
 自分と一緒に過ごした「時間」を忘れて欲しくない。だから…………時計がいい。気に入った。
「あ、これなんかいいかも〜」
 ガラスケース越しに指差すと、ステラが覗き込んだ。
「うわぁ、シンプルですけど凝った細工がちょこちょこされてますね。これなら男性がつけていても女性がつけていても、問題ないと思いますぅ!」
 絶賛されて、ナナは胸があたたかくなるのを感じた。
 彼女にこのお願いを頼んで良かった。
「むむ〜。でもけっこうお高めですよ。大丈夫ですか?」
「……ん〜、これくらいならギリギリ出せるよ〜」
 財布を鞄から取り出して中を確認する。なんとか足りそうだ。
「じゃあそれにしますか? アンノウンさん」
「うん。これにする〜」
 自分もすごく気に入った。これをいつもあの夫婦につけていて欲しい。つけている姿を想像して表情が緩んだ。
 時計なら、止まっても……壊れない限りは電池を交換して使い続けることができる。
「時計なんてアイデア、ナナは全然思いつかなかったな〜」
 ありがとう〜、と言いかけて横を向くとステラがいない。
 忽然と姿を消しているので驚いて店内を見回すと、店員と何か話していた。
(? なにか相談してる〜……?)
 包装に関してだろうか?
 ステラは戻ってくると、「ご予算は?」とぶしつけに訊いてきた。
「この2つの時計を買っても、まだ余るよ〜。大丈夫〜」
「……そうですか。じゃあこれで決まりですね。時計だけでも充分に気持ちは伝わりますしね」
 ステラは背後を振り返り「すみませぇーん! この時計を買いますぅ〜!」と大声をあげた。



 広いレジカウンターで座って待つように言われて、二人はちょこんとそれぞれで座っていた。
 店員はケースを外して時計を大事に取り出している。
 こちらに小走りに寄ってくると、時計をかかげてみせた。
「こちらでよろしいですか?」
「はい〜」
「あ、イニシャルを入れてください」
 あっさりとステラが横で言ったので、店員が「かしこまりました〜」と頷く。
 どうやらこの店はそういうサービスもしているようだ。
「いつそんなことできるって気づいたの〜?」
「さっき店員さんに訊いたんですぅ。記念日なんですし、指輪にイニシャル彫れるくらいなんですから、時計にもちょこっとなら可能かと。
 ここ、お店も大きいですし、できるならやってもらったほうがいいじゃないですか」
「……そんなこと、思いつかなかった〜」
「えっと、ではアンノウンさんの贈る相手のイニシャル、ちっちゃくなりますけど、彫ってもらいましょう」

 待ち時間の間に、ステラは「残高は?」と訊いてくる。なぜそんなにナナの財布の中を気にするのかわからなくて、怪訝そうに眉をひそめてみせた。
「どうしてそんなこと訊くの〜?」
「もう1つ、小さいですけど時計を買いません?」
「でも〜……もう買っちゃったよ〜?」
「そうじゃなくて、こっちこっち」
 イスからぴょんとはずみをつけて下りると、ステラが手招きをして歩き出す。
 見ていないショーケースのほうへ近づくと、首からさげるチェーンネックレスタイプの小さな時計が飾ってあった。
 さっき、夫婦に送ったのと同じ模様のものもある。どうやらステラはこれのことを言っていたのだと気づいた。
「でも、もうあげる人はいないよ〜?」
「アンノウンさん自身がつけるんですよ」
「え〜?」
 仰天して少し仰け反るナナは、ケースの中の時計を見遣る。それほど高額ではない。これなら買える。
 だが……夫婦の結婚記念日に自分へのプレゼントを買ってもいいものだろうか?
 悩んで視線をステラに向けると、彼女はにっこり微笑んだ。
「だって家族なんでしょう? だったら、一緒に喜んであげてください〜。アンノウンさんも家族の一員なんですから」
「………………」
 視線を、ケースに戻す。
 家族……。
 結婚記念日だけど……家族だから、「一緒に」お祝いする……。
(こんなに小さかったら……アクセサリーにしか見えないよね〜……)
 なんだか照れ臭くなってきて、「うん〜」と小声で頷いた。ちゃんとステラは聞き取ったようで、にっこりと笑ってくれた。



 素敵なプレゼントが手に入った!
 ナナは大事に大事に、時計の入った小さな紙袋を持つ。
 喜んでくれたらいいな。ううん、きっと喜んでくれるはず。
 カフェなんて経営しているのだから、水仕事をする時は外すだろうけれど、それでも……きっと。
「あのね〜」
 照れながら横を歩くステラを視線だけで見る。
「ありがとう、ステラちゃん〜。ナナには時計なんて思いつかなかったよ〜」
「一人で考えつかないことでも、他の人に相談すれば新しい考えが出て、幅が広がる。そう思ったからわたしにお願いしてきたんでしょう?
 だったら、わたしは無事に役目を果たせたようで良かったです」
「……は〜、そんなもの〜?」
「そんなものですよ。あ、でもちゃんと報酬はいただきますぅ。すっごく頭使いましたからね」
「? 頭を使ったの〜?」
「そりゃそうですよ。センスがあって、こう、見ず知らずの人に喜んでもらうものを選ぶのはかな〜り難しいのです!
 でもちゃんと選べて良かった〜って思ってますぅ」
「ありがとうね〜。あ、ナナのお家、あそこ〜。オムライス、奮発するね」
「山盛りでお願いします。わたし、けっこう食べるんで」
 大真面目な顔でステラが言うものだからナナは小さく笑った。
「ナナのオムライス、とっても美味しいんだよ〜。ほっぺたおちるくらい〜」
「おお! それは楽しみです!」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8381/ナナ・アンノウン(なな・あんのうん)/女/15/黒猫学生・看板娘】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、初めましてアンノウン様。ライターのともやいずみです。
 ステラと一緒にプレゼント選び、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。