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<東京怪談ノベル(シングル)>


●大阪夏の陣 涙の屋台王国の変

 ふと人の気配を感じ、真夜中に目が覚めた三島・玲奈。
 枕元に女の霊が立っていた──。

 邪気を放っていない所から敵ではないと判断し、
「どなた様か存じませんが、明日は大事な修学旅行です。お引取り願えませんでしょうか?」
 寝坊を避けたい玲奈は、古代の貴人らしき霊にお願いする。
『‥‥私は邪馬台国の女王、卑弥呼──汝に警告する』
「へ?」
『私の後継者を僭称する者が国を再建する。注意せよ』
「注意せよって‥‥言われても」
『注意せよ──』
 卑弥呼と名乗る霊は、そのまま闇に消えた──。


 ピ、ピピピピピッ──

 アラームを止めようと玲奈が手を伸ばす。
「う〜っ‥‥とてもなんだか夢見が悪かったなぁ‥‥」
 眠い目を擦りながらポチと時計を止める。
 思わず布団の上でボヤッとしていたが、気がつけば結構いい時間である。
 このままでは電車に乗り遅れて遅刻である。
 慌てて旅行鞄を掴み、家を飛び出していく玲奈であった。

 ***

『大地の鍵穴を回す時、滅びた王国に使途が目覚める』
 ありふれた世紀末伝説の類に思えた書き込みが急に注目されたのには訳があった。
 偶然にもこの書き込みの少し前に、大阪府にある、とある巨大前方後円墳の近くに彗星からの落下物が落ちる可能性があり、と政府が発表したからである。

 古墳は上空から見ると鍵穴に似ている。
 落下物を鍵に例えれば、地獄か何かの扉が開くんじゃないかと冗談めいた噂が一気に広まったのであった。
 不思議大好き少女の瀬名・雫は、異変を期待して現地、大阪にやってきていた。

「そろそろ時間ね‥‥」
 空に落下を知らせるサイレンが鳴り響いた。


 ゴ‥‥
  ゴゴ‥‥
   ゴゴゴゴゴゴゴゴ───


 天空を割る巨大な轟音が響き渡る。
 火球が一条の光となって前方後円墳に向かって突き進む。
 その姿は、まさに鍵穴に鍵が差し込まれる姿に他ならなかった。


 ***

 大阪は江戸時代から食い倒れの街と知られた場所である。
 玲奈もまた食の街を楽しむべく大阪名所「屋台王国」やってきていた。
 入り口でくす玉が割られ、花束を渡される玲奈。
「おめでとうございます〜♪」
 入場者のキリ番を踏んだのである。

 初代屋台王国の女王「姫陽子(ヒヨコ)」に選ばれた玲奈は、任期中は「たこ焼き食べ放題」という言葉に吊られ、快く受ける事にした。

 女王の印、冠を載せた玲奈の一番最初のお仕事は、拝命式の後、ミス屋台とマスコットのぬるキャラと並んで記念撮影である。
 その時、玲奈の携帯が鳴った。

『玲奈ちゃん。今、どこ?』
 興奮した様子の雫の声は、周りの騒音で途切れ気味である。
「怪獣映画でも見ているの?
『怪獣じゃなくて巨大ロボット出現だよ』

 前方後円墳が割れ、中から巨大なロボットの大群が出てきたのだという。
『でも、どう見ても土偶なのよね』
 ぼやーっとした間の抜けた顔の土偶達。
 経過年数が長すぎた為に外装が劣化したのかもしれない。と推理を玲奈に伝える雫。
 何かを探すように街を徘徊しているのだが、その巨大さ故に一歩動く度に街が壊れて大騒ぎなのだという。
 見に来ないか? とワクワクした様子で言う雫に「ムリだと思う」と返す玲奈。
「私、屋台王国の女王『姫陽子』を拝命したばかりだもん」
『邪馬台国の卑弥呼、拝命? 何それ?』
「屋台王国の女王、姫陽子!」
 騒音に負けじと大きな声で話す玲奈。

 ──不意に土偶達の動きが止まった。

 静かになったこの隙に教えてくれと雫が言う。
「なんでもね‥‥」
 新しく出来た食い倒れスポット「真・屋台共和国」に客を奪われた屋台王国が、再建の起死回生を掛けて実施するイベントなのだという。
「若い娘さんが寂れかけた屋台王国を再建するイベントです」
 電話口の後ろで屋台王国の関係者だろう地元民の声が聞こえた途端、細い土偶達の目が怪しく赤く光った。

 今までのノロノロした動きが嘘のように車や建物をなぎ倒して大阪市方面へ走って行く。
 タクシーを捕まえ土偶を追いかける雫が、玲奈がキーワードを言ったと楽しげに言う。
「キーワードって言われても‥‥」
 何か特別な事を言っただろうか? と頭を捻る玲奈。

 女王‥王国‥‥再建‥‥

 どこかで聞いた言葉である。

「後継者の僭称って‥‥私?!」
 夢を思い出し思わず頭を抱える玲奈。

 土偶達は、どうやら間の抜けているのは顔だけではなく、頭脳も相当間抜けらしい。
 玲奈が事の次第を雫に話すと、
『文字通り「ま」抜けだね』と言って笑う雫。
 恐らく新女王へ謁見の為に土偶達は屋台王国を目指しているだろう。と更に言った。
「そんなぁ〜」
 そんなやり取りをしている間にビルをなぎ倒し土偶の大群が大阪の町に、屋台王国を目指して乗り込んできた。

 ***

「ちょっと、建物を壊さないでよ!」
 土偶達が屋台王国を崩壊させてしまえばたこ焼きもおジャンである。
「私はヒヨコ、卑弥呼じゃない」
 玲奈の言葉に一瞬、顔を見合わせる土偶達。
 頭を寄せ合って何か相談していたが、リーダーらしい土偶がやってきて、玲奈の冠を指差す。
「これが、紛れもない女王の印だってよ」
 ようやく追いついた雫が言う。

 土偶達が爆進した途中の街は壊滅状態だと言う雫。
「責任取りなさいよ」
 そう雫に叱られる玲奈。
 だが、土偶の大群をどう対処方法が判らない。

 迫る雫と土偶達に──
「うらにわにはにわ、にわにはにわ、にわとりがいる」
 苦し紛れに早口言葉を思わず口走る玲奈。
「はにわ?」
 一同が顔を見合わせる。
「そうよ! 前門の鶏、後門の埴輪というじゃない!」
「言わへんいわへん」
 思わず高速の裏手突込みをする雫。
 第一、埴輪と土偶は別物であると更に突っ込みを入れようとしたが、先に動いたのは王国の住民であった。

「鶏、います!」
 屋台王国の店という店から大量の鶏が集められて一斉に放たれた!
「どっからこんな大量な鶏が‥‥?」
「焼き鳥と卵料理に使う卵を産ませる鶏だって‥‥」
 自由になった鶏は、それまでの憂さを晴らすかのように土偶の体中を掛け巡る。
 好き勝手な所に卵を産んだり、糞をする鶏達──辺り構わず羽根を撒き散らす。
 土偶と鶏と卵と糞──阿鼻叫喚な風景である。

 ズル──

 一体の土偶が脚を滑らし、倒れこんだ。
 その巨体故に、別の土偶一体を巻き込んだ。
 その土偶が、更に別の一体を巻き込む──
 ドミノ倒しのように次々と地面へと倒れこむ土偶達。
 ジタバタと地面で動くが手足が短く起き上がることが出来ない。
「埴輪だったらよかったのにね」

「ウチらの王国に何し腐るんじゃボケ!」
「イてまぇ!」と土偶達に団結し襲い掛かる王国の人々。

「なんかマンモス狩りみたいだよね‥‥?」
 土偶に埴輪、マンモス。
 昔、習った日本の歴史のようだと顔を見合わせる玲奈と雫。

 ──こうして無事、王国の住民らは土偶ロボットを撃退したのであった。



 


 ピ、ピピピピピッ──

 アラームを止めようと玲奈が手を伸ばす。
「う〜っ‥‥とてもなんだか夢見が悪かったなぁ‥‥」
 眠い目を擦りながらポチと時計を止める。
 思わず布団の上でボヤッとしていた玲奈。
 気がつけば結構いい時間である。
 このままでは電車に乗り遅れて遅刻である。
 慌てて旅行鞄を掴み、家を飛び出していく玲奈であった。



 了 



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●PC
 三島・玲奈(7134)16歳、女

●NPC
 瀬名・雫(NPCA003)14歳、女