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<東京怪談ノベル(シングル)>


富士塚と謎の竜。

 最近波乗りを始めた玲奈。師匠である上級生の女子をタンデムさせて毎週江の島へ通う。
 この季節の波乗りはたまらない。暑さが吹っ飛ぶ良いスポーツだった。
 そして、玲奈は波乗りを教えてもらう見返りに砂浜で二輪の練習をさせていた。
 ところがある日、
「玲奈、もう来れないのよ。急病で倒れた親の代わりに実家の寺を継ぐ事になったの」
 聞けば彼女は富士山麓の尼僧学校へ編入するという。
「でも日曜は学校休みでしょ? もっと教えてよ」
 と玲奈は食下がるが、
「富士山から江の島まで毎週バイクで通うのはきついし門限もあるのよ。お願い、わかって」
 と先輩に言われれば玲奈も引きさがざるを得ない。
 しぶしぶオカルト関連の情報量では関東一のHPの管理人だけに、その手の情報にとんでもなく詳しい天下無敵の女子中学生、瀬名・雫に相談した。
「何か裏技はない? 貴女? 都市伝説の権威でしょ?」
「うーん。ちょっと待ってね」
 雫はキーボードを叩くとホームページ内部を検索した。
「実は尼僧学校近くの人穴から江の島まで洞窟が続いているという話があるみたい。江戸時代には定説だったというわ」
「定説!」
 玲奈は飛びついた。後家の執念は岩をも貫くというではないか! ……後家? それはともかく、噂を確信した二人は探検に赴いた
 人穴と江の島を結ぶトンネルを使えば密かに抜け出せる。それは事実だった。
 尼僧学校の入学式に潜入した玲奈は、得度の後の沐浴の隙をついて人穴に向かった。
 雫は得度出来ない都合、江の島側から侵入する。
 狼の嗅覚が潮の香を捉えた。確かに道が整備されている。
 玲奈は雫にテレパスで連絡した。
「雫、たしかに道は整備されてる。噂は噂じゃないみたいよ」
 雫は一般人故テレパシーは一方通行だったが、それでもなんとか二人は歩みを進めた。
 数時間後、鬼火を焚いて進む玲奈と雫が合流する。
「玲奈!」
「雫!」
 無事合流できた二人は抱き合って喜び合う。
 噂は本当だった。それから江の島へ向かう二人だったが、何故か都内に出た。
「なに?」
「なんで都内に出るの?」
 ふたりとも訳がわからないといった面持ちである。
 だが周囲を観察して雫が気づいた。
「わかった、ここは富士塚よ。富士塚っていうのは忙しい江戸庶民が手軽に富士を拝める様に作った塚のことよ」
 即ちプチ富士山で各地にある霊地である。
「もしかして瞬間移動で都内日帰りも夢じゃない?」
「そうだね。これは大発見だよ」
 喜ぶ二人の前に竜が出た。
「何者!」
 玲奈が叫ぶ。
 竜は答えた。
 富士山から溶岩を富士塚に転送して、都内各所で噴火するテロを目論んでいたと。
「秘密を知った者は無事に帰さぬ!」
「いや、自分でバラしといて秘密を知られたも何も……」
 玲奈のツッコミに竜も汗をかくが、竜は
「ええい、そんなことはどうでもいい」
 と戦闘を仕掛けてきた。
 迂闊に戦えば洞窟が崩れる。どうするか? 玲奈は悩んだ。
 雫をかばいながらバリアを展開し竜の攻撃を遮る。
 そしてふと玲奈は思いついた。
「そうだ……バリア……バリアだ!」
 竜の攻撃が途絶えた瞬間、玲奈は霊力バリアで竜を簀巻きにした。
 ぎりぎり締付ける。竜が悶絶する。
「そんな手があったとは……」
 悔しがる竜は悶死する。そして竜の死体を富士山に送り返すと富士塚の詳細な調査を開始した。
 富士塚と富士塚をつなぐ法則性があること、尼僧学校と江ノ島を結ぶ富士塚のルートの判明。
 それで今回の二人の冒険は終了した。
 その後江の島で坊主が屏風に、いや上手に波乗りする姿があったとか……
 それは、玲奈と先輩が富士塚を使って週末に波乗りをしている姿だった。
 そして坊主が上手には行かないバイク乗りをする姿もあったとか……
 だが、竜が一匹でテロを行うなど考えるはずもない。その裏には何かがあると考えて、調査に向かう玲奈だった。