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<東京怪談ノベル(シングル)>


龍族の陰謀
 瘴気煙る溶岩流を愛でて嬌声を上げる観光客。
 その殆どが女で、迸るマグマの逞しさに惚れている。
「あんなののどこがいいのかしら?」
 その魅力を解せず苦しむ玲奈だが、更に奇抜なのは防寒服にミニスカを履く彼らの服装だ。
「流行の山ガールね」
 鍵屋も眉を潜める。
「山ガール?」
「ああいう服装のことよ。流行ってるのよ。ファッション誌みないの?」
「アタシどうせ獣人化しちゃうと服破けるからファッションにはあまり興味がなくて」
「そういえばそうか……流行に疎いのも考えものね」
「うっさいハゲ」
「はぁ? 誰がはげよ。縊り殺すわよ?」
「ごめんなさい」

 二人は数日前からIO2の命令で連中を監視していた。
 掲示板に富士山に乙女を捧ぐというスレが建ち、住民達は職を辞すなど身辺整理を開始したからだ。
 発作的心中か?
 警察は自殺教唆容疑で内偵を開始したが現時点で異常は無い。
 と、突如、猛烈な蒸気が観光客を覆い、忽然と消失した。
「矢張りAIを使ったわね! この近くよ」
 鍵屋が頷き、玲奈と共に内蔵式発信機の電波を追う
「龍族は何を企んでるの?」
 玲奈が尋ねる。
「多分自己啓発セミナー。龍に惚れる女の洗脳」
「はぁ? なにそれ。ハーレムでも作る気?」
 鍵屋の言葉にさらに頭の中は ? でいっぱいになる玲奈だった。

 秋葉原。
 リアルの女に無縁の独男を露天の行商人が言葉巧みに釣る。
「この『彼女3D』は抱ける虹女を出す機械だよ〜。容姿も年齢もお好みのままだよ〜」
 それに気を惹かれて群がるオタクがちらほら。
「営業妨害だ!」
 と怒る抱き枕屋も通行人に甘える立体メイド像を出されて沈黙した。
「え、えへへ……」
 鼻の下を伸ばすキモオタ
 早速、人垣に札束が舞う。
「ご主人様ぁ。早くイチャイチャしましょうよぅ」
「お兄ちゃん、私のこと、嫌い?」
 メイド像は客に絡み愛の巣を強請る。
「えっへっへ……どうしようかな〜?」
「それなら秘密基地を出す追加機能だ。鉄壁の新居で彼女を護ろう」
 そう言うと秋葉原の路上に団地が出現した。

 そういう訳で玲奈達の眼前には要塞の団地が居並ぶ。
「どーすンのよコレ?」
 玲奈は頭痛を隠そうともしない。
「怪獣の出番よ当然」
「怪獣?」
「そう、怪獣」
 鍵屋が注射器とアンプルを取り出す。
「ちょ……ちょっとあたし痛いの苦手なんだけどな」
「大丈夫。すぐに済むから」
 鍵屋は玲奈の声を無視して注射器から液をぷしゅーっと出す。
「さて、いくわよ」
「ちょっと、やさしくしてね」
「大丈夫。すぐ済みまちゅからねー」
 鍵屋が無視して玲奈に注射する。プスリ。針が刺さる瞬間を玲奈は目を背ける。
 筋肉注射は痛かった。
 たちまち巨大化する玲奈。
 すると龍族の行商人も巨大化した。
 戦車を踏み潰し、口から火焔でビルを焼き払う。
「駄目! 怪我人が出る」
 玲奈の意思に反し破壊衝動は昂る一方。ビルを破壊し橋を破壊しブレイクブレイク。
 龍族との戦闘も始まり被害は広がる一方。
 一方で女性客らは玲奈を龍族と思い喝采する
 「龍族萌え〜」
 龍は勝ち誇る。
「ふはは、龍の偉大さがわかったか」
「龍族萌え〜」
「わかってたまるかってのよ!」
 玲奈はそう言って龍族にアッパーカットを放つ。
 龍族は体が浮いて要塞団地の一部を破壊するように飛び込んだ。
 鍵屋は研究施設に潜入しある兵器を急造した。
 そして、スイッチオン。
「なんだ……」
「なに? 苦しい……」
 玲奈や龍は突然息苦しさを覚え次々倒れる。空気中の酸素を減少させ酸欠を促したのだ。
 酸素消費が激しい巨体は堪えられない。鍵屋は酸素マスクを女性陣に配り脱出する。
 後日、玲奈は半裸丸坊主の人間態で警察に救出され男装癖を疑われた。
「大丈夫ですか?」(いろいろな意味で)
 それに対する玲奈の答えはこうだった。
「鍵屋のばかーっ!」