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精霊さんを描こう
選択授業の美術の授業で、ゆ〜なと美菜は画材も題材も自由な課題を与えられた。担当教師によれば、自分たちが感じたことを直感的に描くのも勉強だという。それを聞いた美菜は他の生徒と同様、頭を抱えた。そんな彼女の隣にゆ〜なやってくる。彼女は落ち着いた表情で、やわらかな笑みを浮かべながら言った。
「美菜さん、せっかくですから『エレメンタルゲート』のキャラクターを描いてみませんか?」
「あ、そっか! 意外と近いところに題材あったね。なるほど〜。」
美菜は胸の辺りでポンと手を叩くと、さっそくいつも使っているルールブックを取り出す。あらゆる世界を構築する元素を操る立派な精霊を目指すのが、このゲームのキャラクターの使命。ゆ〜なは水の精霊・ウンディーネ、美菜は風の精霊・シルフとして、何度かこの世界を冒険している。
「ゆ〜なのキャラは……えっと、水色が基調の服っていうか、水を纏ってるって感じかな?」
「美菜さんの風って、いつも髪や服を揺らめかせているイメージがします。」
お互いにイメージを出し合い、下書きを進めた。その間も世界観をベースにした話し合いが続く。ゲーム中ではまだまだ未熟な精霊ということもあり、ゆ〜なと美菜は自分の年齢よりも少し幼く描くことに決めた。
その間、ゆ〜なは鉛筆を走らせる。本来の自分よりも髪を長めにし、先端を水滴のようにしてみた。それを見た美菜が「うん、それそれ!」と同じイメージを持っていたことを伝える。彼女もささっと筆を走らせ、躍動感あふれる少女を描く。自らが起こす風でふわっと舞い上がる髪に、いかにもファンタジーに登場しそうな布の服を着せ、普段は着ないであろうミニスカートを履かせた。
「こーんなに短いスカート、あんまり履かないから。キャラに着せちゃった。」
「あ、そういうのを反映させるのも楽しいですね。」
自分にない自分を演じて楽しむのもまた、TRPGの醍醐味。ゆ〜なはマイキャラに質素なワンピースを着せることにする。冒険がしやすくなるよう、そして女の子らしさが出るよう、シフォンワンピースを選択。スカートの裾も髪と同じく、水滴が跳ねる感じにした。同じ色で気持ち長めの布の手袋とブーツも書き足す。
ゆ〜なの全体像が見えてくると、美菜の作業もはかどる。彼女のキャラはあえて素手と素足にし、地面からふわっと浮いている感じにした。風の色をどうするかで悩んだが、ゆ〜なが水で青を選んだので、美菜は空色を基調にする。ふたりは下書きを見ながら、まだ見ぬ自分たちと向き合った。
「ゆ〜なの、イメージぴったりだね! 私はちょっと自分から遠ざけたつもりだけど……」
「美菜さん、こんな服は着ないんですか?」
ゆ〜なが小首を傾げて聞くところを見ると、本人が思っているほどイメージが遠ざかっていたわけではないらしい。美菜は「あれ〜?」と言いながらも、照れ笑いを浮かべた。
その後はキャラクターを表現する色を、絵の具を使って作ってみる。ゆ〜なのキャラはレベルアップした際に『癒しの水』という能力を得た。それを手がかりにして、やわらかい色になるよう混ぜていく。美菜は風のイメージを織り交ぜるため、あえて緑を加えてみた。
「風の匂いって、ちょっと草の匂いも混じってる気がするんだー。」
「ソフトボールとかされますもんね、美菜さんは。」
自分のイメージの根底を見透かされたと思ったのか、美菜はハッとした表情になった。そしてゆ〜なの方を向き、「さっすが!」と声をかける。一度は自分らしからぬイメージで作り上げたキャラクターが、再び自分へと向かってくるというのもまた一興だ。ゆ〜なは下書きした少女の髪を青く塗り、それを美菜に見せる。
「こんな感じでどうでしょう?」
「あ、すっごく似合ってるよ! 完成が楽しみだねー!」
課題の完成まで、まだ時間がかかりそうだが、今は芸術の秋。ふたりのイメージはもっと膨らむだろう。自分に似た自分に出会うのは、もうまもなくである。
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