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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


古代魚の見る夢は…

1.
「これが我が校の卒業生から贈られた『シーラカンス』の剥製だ」

「はぁ…」と曖昧に返事をしたのは神聖都学園教師・響カスミ(ひびき・かすみ)である。
 正直どうでもよかったし、むしろ気持ち悪ささえ感じられるその魚の剥製から一刻も早く離れたい気分だった。
「こんな素晴らしいものを贈って貰えるなんて我が校はよい卒業生を輩出したものだ。はっはっは」
 校長はそういうと誇らしげに胸を張った。

 −それから、事は始まった。

 学園で怪奇現象が頻発するようになった。
 それも魚関係である。
 朝登校すると上靴が水浸しになっていたり、魚の泳ぐ影を廊下で見たり。
 ピチピチと跳ねる魚の音が聞こえたり。

「またなの!? あーーーもう! 今夜夜回りなのに…誰か助けて!!」

 響カスミの心の叫びは誰かに届くのだろうか?


2.
 響カスミの願いは学校の壁をも乗り越えた。
「神聖都学園、いまシーラカンスに呪われてるらしいぜ」
 そんな噂を小耳に挟んだのは三春風太(みはる・ふうた)だった。
「なにそれ? 面白いねぇ」
「うちの学校シーラカンスの剥製が来たんだけどさ、それ以来魚関係の怪奇現象が起こってるんだってさ。…まぁ、俺は見たことないんだけどさ」 
 神聖都学園に通う友人がそんなことを言った。
 部活終了後のお好み焼き屋での話である。
「へぇ、そりゃ一回見てみたいなぁ」
「今日響カスミって先生が夜回りするんだけど、その先生怖がりで有名なんだよね…風太行ってみたら?」
 ニヤリと笑った友人に風太もニヤッと笑った。
「いい情報をありがとう」
「いやいや。南校舎の1−Bの窓一箇所空けといてやるよ」
「…で、何が望みかね?」
「ふっ、察しがいいな。こないだ買ったっていう『東京怪談』ってゲームでいいぜ」
「…そちも悪よのう」
 ふっふっふっとお代官様ごっこで盛り上がりつつ、お好み焼きを完食し風太は一度家に帰って身支度を整えてから神聖都学園へと向かった。

 友人が言った1−Bに近づくと人影が見えた。
 白銀の髪をツインテールにした少女が立っていた。
「…ここの生徒さん?」
「違う。僕様、ここでシーラカンスが動くというので来てみただけ…」
 セーラー服の少女は「入る方法がない」とため息をついた。
 風太はふむっと少し考えて、「一緒に行こうか」と誘ってみた。
「あ、ボク三春風太。怪しいものじゃないからね」
 夜の学校に忍び込もうとしている人間が怪しくないといっても信憑性は低いが、風太はそれを強調したかった。
「僕様、柊眠稀(ひいらぎ・みんき)」
「よろしく、おねーさん」
 風太はにこっと笑うと、窓に手をかけた。
 窓は友人との約束どおり、鍵はかかっていなかった。
「あー…懐中電灯忘れたなぁ。ま、いっか」
「僕様、夜目利くから平気」
 …会話が続かない。
 静かに2人で校舎を徘徊する。
 カスミ先生はどこにいるのだろうか?
 そんなことを考えていると、ふと前方に動く影を見つけた。
 セーラー服を着ているのが見てとれた。
 どうやら生徒のようだ。
 驚かせないように歩いて近づいて声をかけた。
「もしもし? なにしてるの?」

「ひゃあ!」

 驚きの声とともに尻餅をついたセーラー服の少女が振り返った。
 まさかそんなに驚くとは思ってもみなかった。
「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど…」
 風太はぽりぽりと頭をかいた。
「ボク、ここの生徒じゃないんだけど、ちょっと神聖都学園に気になる噂があるんで来てみたんだよね」
 風太はそこで言葉を切って声を低くした。
「知ってるかな? なんかシーラカンスが動くとかって噂が…」
 少女が「あぁ」と言うと立ち上がった。
「今日夜回りをする先生がいるの。あたし、その先生と合流しようと思って…一緒にどうですか? 他校の生徒だけでは怪しまれちゃうし」
「別に怪しまれてもどうということはないけど…その方がいいかもしれない」
 眠稀がそう言うと、風太もなるほどと頷いた。
「あたし、月夢優名です。よろしくお願いしますね」
 そうして、風太は眠稀と優名とともに行動することとなった。


3.
 午後10時半。
 曲がりくねった廊下にポツリと明かりが動く気配を見つけた。
「あれがたぶんカスミ先生だと思うわ」
 ゆらゆらと揺らめく明かりは確かに懐中電灯のものだ。
「じゃ、あそこに行けばいいんだね」
「…遠いね」
 確かに、コの字型のちょうど対角線上にある光は遠く感じる。
「でも、行かないと」
 ふふっと笑って風太たちは歩き出した。

 少し小走りに走ると、明かりは段々と近づいてきた。
 どうやら2人いるようだ。
「よかった。追いつきましたね」
「思ったほど距離はなかった」
 …と、突然ひとつの影が床に倒れこんだ。
「カスミ先生!?」
 それを助け起こそうとしたもうひとつの影。
 声からして少年のもののようだ。
「なになに!? どうしたの??」
 パタパタと駆け寄った風太たちに声は言った。
「お前らにビビってカスミ先生が倒れたんだよ」
 うっすらは学ランを着込んだ少年だった。
 そしてスーツを着て倒れている女性はおそらく、響カスミ先生であろう。
「す、すいません…」
 優名が思わずか細い声でそう言った。
「あちゃー。それはごめんなさい」
 風太も申し訳なさそうにそう言った。
「聞いていたよりもさらに臆病なのね…」
 眠稀はそう言うと興味深げにカスミを見つめた。
「月夢さん、そっちの2人…うちの生徒じゃないよね?」
 カスミを抱きかかえつつ、少年が優名に問った。
「あ、あのこちらは柊眠稀さんです。で、こちらは…」
 優名はしどろもどろに紹介をする。
 が、なかなか風太の名前が出てこない。
 風太は自己紹介することにした。
「初めまして、ボク三春風太。ちょっとシーラカンスの噂を聞いたもんだから来ちゃいました♪」
「僕様もその噂聞いた。だから忍び込んだ」
 その2人の言葉を聞いた優名が「あぁ…」とため息をついた。
「…カスミ先生もこんな状態だし、今日は歓迎するよ。俺は不城鋼(ふじょう・はがね)」
 どうやらはも見逃してくれるようで結果オーライのようだった。


4.
「…カスミ先生起きねぇな」
 時計は既に午後11時を指そうとしている。
 しかし、一向にカスミが起きる気配はない。
「まいっねぇ。どうする? 夜回りもしないといけないんだよね?」
 怪奇現象も気になったが、そちらも気になった。
「そちらだけでも、あたしたちでやりましょうか?」
 優名がそう言うと、鋼は少し考えて「いや」と答えた。
「先生をここに置き去りにもできないからな。せめて宿直室まで運ぼう」
 そういった鋼に眠稀が少し間をおいて言った。
「…僕様持てない」
「こういうのは男の仕事でしょ。任せて!」
 風太は鋼を促し、鋼はカスミの頭のほうを持った。
「落とさないように気をつけてくださいね」
 ハラハラした気持ちが伝わってくるかのように優名が2人を見守っている。

 その時、どこからか水の音が聞こえた気がした。

『今水の音が…』
 重なった四つの声に、風太は耳を澄ませた。
 幻聴…とは思えなかった。
 最初は静かだった廊下が、段々と水の音に溢れ出す。
 そして、乾いていたはずの床が瞬く間に水で濡れていく。
「水!? どこから!?」
 だが、それはどこからか流れてくるものではなく、まるで床から湧き出るかのようにじわじわとその水位を上げていく。
 腰の辺りまで水位が来て、鋼が慌ててカスミを肩に担いだので、風太もそれに倣った。
 おそらくこのままではカスミが溺れると思ったのだろう。
 だが、そんな風太たちの思いとはよそに水の勢いはとどまることを知らず、やがて水は風太たちを飲み込んだ。
「…!?」
 水の中では優雅に泳ぐ見たこともないような大きさの魚の群れやエイのようでエイでない魚などが泳いでいた。
「はぁ〜これが例の…」
 と、思わず呟いてしまった風太。
 あれ?と思って大きく息を吸うと、水ではなく空気が肺に入ってきた。
 どうやらこの水は視覚のみの幻というわけだ。
 と、鋼を見ると、必死に息をこらえているのがわかった。
 風太に悪戯心が芽生えた。

 辺りを見回していた鋼が見たもの。
 それは、風太の変顔だった。

「ぶふぅっ!?」
 思いも寄らぬ変顔に鋼が思わず空気を全部吐き出してしまった。
「何考えてるんだ!」
 と思わず怒りを露わにした鋼がはハッとした。
「うん。この水、幻みたいだね。普通に息はできるよ。でも何故か泳げちゃう不思議〜」
 そう言うと風太はふわーっと空中遊泳をするように水の中を泳ぎだした。
(やっぱこの学校楽しいなぁ。ただで怪奇現象楽しめちゃうなんて…)
「これ、やっぱりシーラカンスのせいなんでしょうか?」
 優名が困惑したようにそう呟いた。
「泳いでる魚の中に古代魚が混じってる。シーラカンスの夢なのかも」
 眠稀がそう言った。
 夢…そう。悪意の感じられない夢なのかもしれない。
「カスミ先生も連れてシーラカンスの剥製のところに行ってみよう」
「えー。もうちょっと泳いでたいなぁ、ボク」
「泳いで来ればいいだろ」
 つっけんどんに風太を嗜めて、鋼たちはいまだ目覚めぬカスミを連れて剥製を目指し泳ぎだした。


5.
 シーラカンスの剥製は、ガラスケースに入れられて展示されていた。
 シーラカンスを見るのはテレビ以外では初めてだった。
 しっかりとした鱗にヒレの多さとその巨体が見事だった。
 しかも夜に見るといっそうその巨体は恐ろしげに写る。
「これが噂のシーラカンスか、ふむ」
 興味深げに眠稀がガラスケースを覗き込む。
「どうせならこんな幻じゃなくてプールのほうが泳ぐのには適しているのにね」
 切なげな表情で優名は口にした。
「水に帰したらいいのかなぁ? 水を得た魚ってやつ? あ、いっそ海に連れて行っちゃおうか?」
 へへっと笑った風太は本心からそう思った。
 どうせなら広いほうが泳ぐのにはいい。
 しかし…

『海 ニ カエリタイ…』

 誰の声とも違うその声は、悲しげに言った。
「…今のは…シーラカンスの声?」
 だが、剥製をどれだけ見つめても動く気配はない。
『我 ヲ コノ 小サキ 箱ヨリ 解放 セヨ』
 再び声は告げた。
 それは、どう考えてもシーラカンスのものでしかなかった。
「小さき箱…? …ガラスケース?」
 コンコンッとガラスケースを叩く鋼。
 しかし、そうちょっとやそっとで割れるようなものではない。
 もしかして、このケースが邪魔で水に浸れないのだろうか?
「どうしようか? これ、割っちゃまずいよね?」
 風太はこのケースを退けられないかと鋼を見た。
「…浮力を使ってみたらどうか? 人間が泳げるのだからあるいは…」
 それまで考え込んでいた眠稀はそう言った。
 ガラスケースが台座に固定されていなければ可能かもしれない。
「やろう!」
 鋼がガラスケースの上方へと向かうと、それを思い切り上へと持ち上げようとした。
 しかし、やはり一人では無理がある。
「手伝うよ。こういうときは1人より2人より4人だよ」
 風太も力を貸すことにやぶさかではなかった。
「そうですよ、不城さん。微力ながら手伝います」
「役に立つかな…?」
 それぞれが四面を持ち、一気に上へと引き上げる。
『せーの!』
 ふわりとガラスケースが浮き上がった。
 瞬間、大きな波とともにシーラカンスの影が校舎の中へと飛び出た。
 そして、風太は目を見開いた。

 一瞬にして目の前に広がったのは広大な海。
 そして、その海の中へとシーラカンスは消えていった。
『コノ 恩ハ 返ソウ 陸ニ 上ガッタ 者達ヨ』


6.
「おぅ。『東京怪談』面白いな。もうちょっと借りてていいか?」
「…あ〜全然OKだけど…何持ってのさ、それ」
 翌日行き会った神聖都学園の友人は何故か手に魚が数匹入った袋を持っていた。
「これ? なんかさ、カスミ先生いわくシーラカンスが魚を散らしてったらしいぜ? そのお裾分けってやつだ。いる?」
 魚を目の前に差し出され、風太は思わず袋の中を覗き込んだ。
 昨夜、そういえばシーラカンスが言っていた。
『恩は返そう』の意味はもしかしてコレだったんだろうか?
「お魚貰う貰う♪ 嬉しいなぁ」
「…風太、昨日の夜忍び込んだんじゃねぇの? 何があったのか知ってんだろ?」
「ん〜…まぁ、壮大な夢だよね。海は男のロマンってやつ? あ、知りたかったらクリームパンね」
「全然意味わかんねえよ!」
 ぐりぐりと頭をこぶしで弄られて、風太は思った。

 ちょっとあの海で一緒に泳いでみたかったな…。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2803 / 月夢・優名 / 女性 / 17歳 / 神聖都学園高等部2年生

2239 / 不城・鋼 / 男性 / 17歳 / 元総番(現在普通の高校生)

2164 / 三春・風太 / 男性 / 17歳 / 高校生

8445 / 柊・眠稀 / 女性 / 15歳 / 高校生


■□     ライター通信      □■
 三春風太 様

 こんにちは。三咲都李です。
 この度は『古代魚の見る夢は…』へのご参加ありがとうございました。
 楽しいプレイングでアレンジ適宜とのことで楽しく書かせていただきました。
 どこまで反映できたかわかりませんが、古代魚の夢を楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。