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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


●オープニング:2人の少年と2人の幽霊
 それは都内某所にある廃校。心霊スポットであるという噂がある場所だった。
 夏休みが始まり、浮かれた少年達はたったの2人で心霊スポットへと入り込んだ。
 ……それが、異様な事態を引き起こす事になるとは、全く予測する事もなく。
「あーあ、結局何もなかったなぁ」
 小学校高学年位であろう、まだまだやんちゃざかりの少年が退屈そうに告げる。鼻に貼られた絆創膏が腕白さを醸しだしている。
「まあ、噂ばかりって事だよね。こんなもんだよ」
 彼を宥めるのは同じくらいの年頃であろうもう1人の少年。ついでにカブトムシでも捕ろうと思ったか、虫籠を下げている。
「でも、なんかおかしくないか?」
 そう告げたのは、更にもう1人の少年。かなり暑いはずだが、長袖に長ズボンという出で立ちだ。
「何が?」
 今まで黙っていた麦わら帽子の少年が問いかけると、長袖長ズボンの少年がこう答えた。
「……俺たちは2人でここに来たのに、なんで今、四人いるんだ……?」

●興信所の来訪者
 今日も今日とてじりじりと太陽が照りつける。
 そんな中、愛想のないコンクリートの建物を、小柄で華奢な少女がとてとてっと駆けていった。
「くっさま〜、夏休みの自由課題探しに寄ってみたよ〜っ!」
 元気に興信所の扉をずばんと開けたのは海原・みあお(うなばら・みあお)。
 しかしながら興信所の主はもの凄く不機嫌そうな顔をしていた。彼の目前に座るのは4人の少年達。そして少年達に相対している久世・優詩(くぜ・ゆうし)の姿が。
「君達にちょっと聞きたい事があるのだけれど、良いですか? 君らの自宅の場所や家族の事、そして通っている学校、それらを教えてください」
 耳に柔らかな声で優詩が少年達へと問う姿にみあおはちょっと首を傾げた。そして漸く草間が彼女の姿に気づく。
「ああ、良く来たな、みあお」
 彼女の姿を確認し、漸く草間は渋面から普通くらいの表情へと戻った。
「なんかあったの?」
「ああ、少々面倒な事があってな……」
 草間は目前の少年達を親指でぐいっと指すと出来事の概要を語る。
 そして、その解決の為に優詩が既に少年達から話を聞き取っている所なのだ。
「皆知り合いかな?」
 優詩の穏やかな声に少年達は顔を見合わせた。そして鼻絆創膏の少年が答える。
「それが……よくわかんねーんだ」
「解らない……?」
 優詩が鸚鵡返しに問うと少年は頷いて見せる。
「なんか、みんな知り合いだったような気がするんだよなぁ……」
 彼の答えに優詩は小さくふむと唸り、更なる問いを続ける。
「廃校の噂はどうやって知ったのですか」
「それは――」
 会話する彼らの様子にみあおも首を傾げる。
「んと、まずは“視て”みるけど、幽霊とは限らないし、実際にその廃校に行ってみないと判別できないよね」
「ああ、オレも幽霊だと断定出来るような情報は持っていないからな……」
 みあおの発言に草間が頷く。
「学校の付喪神とか精霊とか、神様とかの可能性もあるからね。生霊とかも」
 途端に少年達の顔色が青く変っていく。草間に「幽霊」と言われた時点でも顔色が大変な事になっていたが、みあおが何気なく出したその他の例も地味に怖かったらしい。
「肝試しも好いと思うよ。自己責任前提だけど」
 さらりとみあおが言った言葉に少年達が凍り付く。
「まぁ、草間を頼った時点で問題ないよ」
「勘弁しろって……」
 笑顔のみあおに対し、草間はぐんにょりとした様子。だが、彼女の一言が少年達を力づけたのも事実だった。
 一方少年達会話を交わし、廃校についての情報を得た優詩は所内のPCを使い検索作業を始める。
 涼しい顔で彼が調べだしたものは、廃校の噂だ。具体的に何が、とは言われていないが、何かしかは出る心霊スポット、という噂らしい。やはり行って自分で見てみない事には、噂程度でしか解らない。
「場所も大体解りましたね」
「じゃあ、いってみよっかー!」
 タタン、とキーを叩き終え、優詩が立ち上がると同時に、みあおも元気に腕を振り上げる。
「決して自由課題の資料集めじゃないからねっ!」
 くるり、と身を返しながら笑う彼女。
 一聴した感じだとツンデレ風っぽく聞えるが、ツンデレモドキであってツンデレではない。
「やってくれるのか! 助かる」
 草間の表情が少し明るくなったが……。
「あと、草間が受けた仕事なんだから、草間に活躍させるよっ! と、言うか面倒くさい部分は草間の担当で」
 きっぱりと言い切るみあおに草間は再びぐんにょり顔。
 かくして一同は件の廃校へ――。

 次第に少年達はみあお、優詩の2人へと心を開いていった。
 みあおは年頃が近い事、そして、優詩は彼の声の効果もあるかもしれないが、穏やかに話を聞く姿勢に興味を持たれたのかも知れない。

●……そして再度の問いかけを
 廃校到着直後、優詩は再び少年達と対峙していた。
 草間とみあおが先行し、様子を見てくるという事で、彼が少年達の面倒を見ることになったのだ。
 2人が戻ってくるまでは彼らから話を聞くことで違和感や矛盾を洗い出す事にする。
「絆創膏の怪我はどうして?」
「オレ? オレのコレはこないだ転んで鼻すりむいちゃってさ」
 鼻絆創膏の少年が、コレけっこー痛かったんだぜ、と笑う。
「君は毎年虫捕りしてる? どこでよく捕ってた?」
「僕は、いっつも森でとってるよ」
「森?」
「うん。よくカブトムシが捕れる大きな森があるんだ」
 少年は語る。森で起った物語を。どんな虫がいて、どれを捕獲したか。どれを標本にし、どれを逃したか。だが、僅かに優詩は幽かな違和感を覚える。
「……その森は……」
 その森は、この廃墟のすぐ近く。しかし、彼が先ほどPCで調べた限りでは、周囲の森は、少年が言うほど広くは無い。森と言うほどの広さを持ち合わせていないのだ。それに、ここに来るまで、セミの鳴き声すら近場には聞えなかった。
 優詩は思い切って切り出す。
「……君がその森で虫捕りをしていたのは、どれくらい前の話かな?」
「えっ……?」
 少年が黙り込む。
「その森は、もう虫捕りなんて出来るような場所じゃないんだ。さっき、私はこのあたりの地図を調べて見た。だけれど……もう森は名前だけで実際には森とは呼べない場所になっているんだ。さっきから虫も全然見かけない……君は、本当に生きた人間なのかい?」
 優詩が真摯な表情を向ける。青みがかった黒の瞳に見据えられた少年はしどろもどろに何か言い訳らしきものを並べているが、まともな受け答えにならない。
 ――そしていつも通りなみあおと、対照的に重い表情をした草間が戻ってきた。

●夏休みの終わりに
「そっちは何か収穫はあったか?」
 草間に問われ優詩は沈鬱な表情で答える。
「……恐らく彼でしょうね」
「そうか……」
 次第を聞いて小さくため息を吐きつつ草間が煙草に手を伸ばす。
「そちらは?」
「こっちはねー、あの子を見つけたよー」
 みあおが死体を見つけた次第を説明。途端に長袖長ズボンの少年の顔色が悪くなっていく。
「そ、そんな。俺は……」
「ホントだよ。ほら」
 先ほど取られたデジカメの写真をみあおが見せる。服装はボロけてはいるものの、目前の少年と同じものだ。
「あのね。ずっと生きてるフリしてても、大変なだけだよ? ゆっくり眠った方がいいんじゃないかな」
 みあおが長袖少年と虫籠少年へと声をかける。
「そんな。俺が死んでるなんて……そんな……!」
「僕だって……それに森がなくなってるなんて……」
 死を自覚していないものに自覚させるのは困難がつきまとう。どうしても受け入れられない、という事だってある――主には心残りによって。
 ふと、優詩が周囲を見渡す。以前は森であったというこの場所。
 市街地からは少し離れてはいるものの、森であった面影はあまり残っていない。
 開発により子供達が自由に遊べる場所は減ってしまったのだろう。
 逆を言えば、それが好奇心を満たせなくなった「生きている」少年達をこの場に来させる理由となってしまった。
 生きている2人にしても、そうではない2人にしても、遊びたいという思いは一緒なのだ。
「……なあ、どうしたら良いと思う?」
 力づくって手もあるかもしれんが……と草間が小さな声で優詩に問いかける。
「遊びたい盛りで亡くなったわけですからきっと同じ年頃の子たちを見て一緒に遊びたくなったのかも知れませんね……」
 みあおが「霊的なものが入り交じっている」と言っていたのも、もしかしたら思いが重なった結果かも知れない。
「じゃあ、一緒に気が済むまで遊んであげれば良いかなぁ?」
「ええ。心残りが無くなることで在るべき処へと戻るのではないでしょうか」
 みあおの問いかけに優詩が頷く。
「よーし、じゃあ、みあおが一肌脱いでみんなと遊んであげるんだよ!」
 腰に手をあてむふーと息を吐き……思い出したように草間に向けてビシっと指を突きつける。
「あ、一肌っていっても服を脱ぐわけじゃないからね! くさま! 勘違いしないでよね!!」
「何で俺が」
 真顔で答える草間を後目に、みあおは少年達と一緒に駆け出した。
「怪我しないように気をつけるんだぞ!」
 草間が声を張り上げたが彼らに届いたかどうかは解らない。しかし、みあおが一緒なら大丈夫だろう。
「……これで彼らの永遠の夏休みも終わりますかね」
「多分な」
 優詩の問いに草間が小さく頷きつつ紫煙を燻らす。
 今夏も、もうじき終わる。
 優詩は願う。せめて彼ら――4人の少年達――の夏休みが楽しい思い出として心に残るように、と。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415 / 海原・みあお / 女性 / 13歳 / 小学生】
【8440 / 久世・優詩 / 男性 / 27歳 / バリスタ】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして。ライターの小倉澄知と申します。
 この度は依頼にご参加くださいましてありがとうございます。
 どう決着をつけるかなぁと少々悩んだのですが、このような結果となりました。
 恐らく彼らは全力で遊んだ後、納得して在るべき場所へと戻った事でしょう。
 ご参加ありがとうございました!
 それでは、もしまたご縁がございましたらその際はどうか宜しくお願いいたします。