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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


■Episode.2 択一の選択■

「草間…武彦…?」
「あぁ」紫煙を吐きながら、その奥から睨み付ける様な威圧感は尋常ではない。武彦が言葉を続ける。「お前、“虚無の境界”のモルモットだったと聞いたが、奴らとどういう関係だ?」
「…アンタも、俺を知ってるのか?」負けじと武彦を睨み付ける勇太だったが、武彦のあまりのプレッシャーに、逃げ出したいぐらいの恐怖すら感じていた。
「そう斜に構えるな。俺がもしお前を消そうと思っていたなら、わざわざお前が起きてから話しをしようとしていない」
「ハッ、どうだかね。情報を得てから俺を殺そうとでもしてるかもしれないじゃないか」
「そんな回りくどい事はしないさ」
「信用出来る訳ないだろ?」勇太が牙を剥く様に武彦を睨み、すぐに動ける様にしゃがみ込む。「でも、甘かったね。こんな所、俺なら――」
「――甘いのはお前の方だ、坊主」武彦が一瞬で銃を勇太の額に突き付けた。勇太がそれに気付いたのは、引鉄を引き、カチャっと音が鳴った後だった。「もしお前が言う様に、情報を得るだけが目的なら相応の手段は俺も持っている。それに、超能力を使う一瞬、お前はその力の制御に集中する為に一瞬の隙が生まれる。俺ならその一瞬の間に、お前の眉間にこいつを撃ち込める」
 冷や汗が頬を伝う。勇太は確信した。この男、草間 武彦には一瞬の隙も油断もない。どう足掻こうと、勝てる気配すらない。
「…解ったよ、質問に答える」勇太はその場に座り込んだ。
「なかなか素直だな、坊主」
「工藤 勇太…。坊主なんて名前じゃない…」
「解った」武彦は表情を和らげ、銃を目の前の机の上に置いた。
「…鬼鮫…。アイツも言ってたけど“虚無の境界”なんて俺は知らない。俺はただ、お母さんを幸せにする為にって言われて実験に協力してただけだよ」
「本当に、それだけなのか?」
「俺だって馬鹿じゃない。嘘なんて言わないよ。アンタみたいな普通じゃない奴に嘘ついても、どうせすぐにバレるに決まってる」
「物分りが良くて助かった。下らないやり取りは好きじゃないんでな」武彦はそう言って手元にあるコーヒーを口にした。「単刀直入に言おう。工藤 勇太、お前は今ある組織から目を付けられている」
「組織…?」
「International OccultCriminal Investigator Organization…。通称、“IO2”」
「IO2…。確か、鬼鮫もそんな組織の名前を…」
「そうだ。アイツはIO2直属のジーンキャリアと呼ばれている。ある方法によって驚異的な力を手に入れた。先天的に持っているお前とは対照的な立場だな」
「それが俺にどういった理由で目を付けてるって言うんだ?」
「…勘違いされても困るので言っておくが、IO2はどちらかと言えば正義側についている組織と言える。一般的な視点で言えば、超常の事件などに対する警察組織と思ってくれれば良い」
「それは無理だね。警察組織と言われるIO2なら、何で俺が唐突に襲われたのさ?」
「順を追って説明するから黙って聞け」反抗的な態度の勇太を武彦は一喝する。「鬼鮫はお前を“虚無の境界”の関係者と睨んでいた様だ。“虚無の境界”とは、世界に滅亡をもたらそうとしている危険な集団の事だ」武彦は咥えていた煙草を消し、また新しく火を点けた。「本来であれば、お前を連れて尋問をした上で処遇について決定する所だったが、好戦的な性格でな。そのせいで話しがこじれてしまったが」
「……」黙ったまま勇太は武彦を見ていた。
「どうした?何か質問でもあるのか?」
「…黙って聞けって言ったじゃないか」
「チッ…、まぁ良い。とにかく、お前の処遇については今後俺がIO2から指示を仰ぐ形になる。何らかのテストを行う可能性もあるが、その時は追って連絡をする。今日は帰れ」
「あのさ、質問だけど…」
「何だ?」
「アンタもIO2の人間なのか?」
「俺は探偵(ディテクター)、中立の立場だ。IO2の犬になる気も、虚無の境界を特別憎んでもいねぇよ」
「そっか…」勇太はそう言うと、テレポートでその場を去った。




 ――自室に戻った勇太は、働かない頭で考え込んでいた。相変わらず鬼鮫から受けた傷は痛み、身体は軋む。その上、目が覚めた時に自分に話しをしていた“草間 武彦”と名乗った男。只者じゃない動き、威圧感。超能力を持った勇太でも敵わない人間。勇太は初めて恐怖を感じた。
「…IO2に、虚無の境界…。意味解んねぇ…」
 ベッドに横たわり、考えながらも勇太はその日、眠りに就いた。



 翌日、学校から帰宅している最中の勇太の前に武彦が姿を現した。
「お前に対する処遇が決定した。細かい説明をしてやるから付いて来い」



「昨日話した通り、お前の処遇を決定する為の条件をIO2は提示してきた。お前にはある事件の解決に協力してもらう」
 武彦の部屋に案内された勇太は昨日と同じ場所に座り込み、話しを聞いていた。
「事件の解決?」
「そうだ。この所、小さい子供の失踪事件が多発していてな。お前には俺と一緒にその事件の解決を手伝ってもらう事になった。それが、お前を危険人物か否かを判断する材料として、IO2は正式にこの一件を俺に委託してきたって訳だ」
「ふーん…。それ、もし俺が断ったらどうなる訳?」
「そうだな。お前を虚無の境界の関係者と見なし、処分する。それが、危機を未然に防ぐ結果だったと言われるだろう」
「はぁ…、俺に選択の余地はないって事ね…」溜息混じりに勇太はそう言った。「解った、協力するよ」
「それがお前が生きる為の唯一の方法だ」武彦はそう言って幾つもの紙が連なっているファイルを勇太の前に放った。「それが今回の事件の詳細だ。目を通せ」
 勇太は武彦から渡されたファイルに目を通し始めた。
「そこに載っている少女達のほぼ全員が、今回の事件の被害者と思われる人数だそうだ。正直、正気の沙汰とは思えんがな…」
「こんなに…?」勇太は愕然としていた。延べ二十名以上の写真とデータが書き込まれている。「でも、違うかもしれないっていうのもあるんじゃないの?」
「確かに、その可能性はある。が、そこのファイルに名前と写真が載っている子は、どれも似た状況下で消息を経っているんでな。恐らく、同じ手口による物だろう」
「どういう事?」
「そこにいる行方不明の子供達は、いずれも“家族が寝静まった真夜中に忽然と姿を消した”という情報が入っている。しかも、外に出て行った形跡はない。どういう事か解るか?」武彦が煙草を咥えながら勇太を見つめた。勇太は答えを探っているが、どうやら見当も付かない様だ。「つまり、何者かの工作が仕込まれている可能性が高い、という事だろ?」
「そうか…」勇太は少しの間考え込む。「でも、外に出た形跡がないのに、どうやって子供を?窓から侵入したとか?」
「まずはそう考えるのが自然だ。だが、マンションに住む子供も今回の事件の被害者には多い。よって、考えられる可能性は、それを可能にする手口を考え込んだ人間の存在、もしくは…」
「俺と同じ、超能力者…!?」
 今までの勇太であれば、その答えには至らなかっただろう。自分だけが特殊な力を持っている。ほんの数日前まで、勇太はそう考えていた。鬼鮫に出会い、草間 武彦と出会った事で、勇太の価値観は少しずつ変わろうとしていた。
「そういう事だ。俺とお前に課された依頼は、内容こそは違うが目的は同じ所にある。いつまでもひねくれてないで、順応しろよ、坊主」
「だから、俺は――」
「――工藤 勇太、だろう?名前で呼ばれたきゃ、それ相応に俺から認められる様になるんだな」
「…解ったよ。アンタに協力すれば良いんだろ?」
 
 ――勇太が武彦の家から寮へと戻った頃には、既に街は夕闇に包まれていた。武彦に言われ、勇太は今回の事件のあらゆる情報を頭に叩き込む様に言われ、数時間もファイルと睨めっこを続けていた。
「…連続少女失踪事件…。真夜中に何の手がかりも形跡も残さずに姿を消してしまう…か…」ベッドに横たわりながら天井を見つめる勇太はそう呟いていた。
 不意に携帯電話が鳴り出した。着信番号は見慣れない数字の羅列。
「もしもし?」
『坊主か。どうやら番号は合ってるみたいだな』
 受話器越しの声の主は武彦だった。
「なっ…、何でアンタ俺の番号を?」
『調べさせてもらった。今後はお前も用がある時はこの番号にかけてこい』
「しれっと言ってるけど、犯罪じゃないの?」
『言った筈だ。IO2は警察組織みたいなモノだと』呆れた様に溜息混じりに武彦はそう言って言葉を続けた。『早速今夜からこの近くに住む失踪対象年齢の少女が住む家を一件ずつチェックする。さっさと外に出ろ』
「ちょっ、ちょっと待ってよ。急過ぎるって…!」
『お前の都合に合わせてたら解決する事件も解決しない。さっさと出て来い』そう言って武彦は一方的に通話を切った。
 勇太は不機嫌な表情でテレポートをして外へと出た。寮の外の路地に出ると、武彦が相変わらず煙草を咥えて立っていた。
「俺はここを中心に西半分を見る。お前は東半分の家をチェックしろ。おかしな動きがあればすぐに電話をかけてこい。とりあえず、今夜は半径二十キロ圏内を全部チェックするんだ」
「二十キロって…、いくら何でも…!」
「最初だから譲歩してやってんだ。それぐらいこなしてみせろ、坊主」
「…だぁ、もう!解ったよ!」
 勇太はそう言うと、すぐに直近の対象の家の近くへとテレポートを始めた。


 こうして、二人に課された任務の火蓋は切って落とされた。



                              Episode.2 Fin