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<東京怪談・PCゲームノベル>


――LOST・失世界――

『ログイン・キーを入手せよ』
それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。
そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。
クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

―― 松本・太一の場合 ――

「LOST?」
 その日、松本・太一は同僚を一緒に出張に来ていて、LOSTの話が出たのは仕事帰りの居酒屋の中だった。
「オンラインゲームなんだけど、結構ハマるって。お前にやろうかと思ってソフト持ってきてたんだよ」
 同僚から渡されたソフトを見て「仕事しに来てるのに何でゲームソフトを持ってきてるんですか」と苦笑しながら言葉を返す。
「いいから騙されたと思ってやってみなって」
「はぁ‥‥」
 ソフトをバッグの中にしまい、そのまま2人は別れてホテルへと戻っていく。

「ふぅ、今日も疲れましたね‥‥」
 お風呂に入り、冷たい飲み物を飲みながら「そういえば」と渡されたソフトの事を思い出した。
「暇つぶしにしてみようかな」
 松本は小さく呟いた後、自分のノートパソコンを取り出してソフトを起動させる。
「‥‥名前は、マツモト・タイチ、職業は僧侶っと‥‥あれ?」
 主人公のデータを打ち込んだ後、松本は奇妙な事に気づく。
(‥‥私、性別は男ってしませんでしたっけ? 勘違いかな?)
 キャラクターの性別が『女』になっている事に疑問を感じたが、ゲームだし問題ないか、とそのまま先へと進んでいく。
「あとはステータスポイントの配分か‥‥やっぱり僧侶だから賢さとかに配分した方がいいですかね」
 ポイント配分が終わり、松本は決定キーを押す。

『これより先はLOSTの領域です。貴方は後悔しませんか?』

 キャラクター作成をした途端、画面が真っ暗になり、カタカタとキーボードを打つ音が響きながら文字が表示される。
「後悔、しない‥‥と」
 する、しないで表示された選択肢を松本は『しない』にカーソルを合わせてクリックする。

「‥‥忠告はしたのに、後悔しても知らないよ」

「え‥‥?」
 甲高い少女の声が耳元で響き、松本は勢いよく後ろを振り返るが、もちろん誰もいない。
「‥‥気のせい? それにしてはやけにリアルな‥‥」
 疲れているのかもしれない、そう思う事にして松本はゲームの続きをプレイし始めた。視線を逸らしている間に画面が切り替わっていて、中央にぽつんと社のある町が画面に表示されていた。
(使える魔法は回復と弱い攻撃魔法の2つ、ですか)
 ステータス画面でキャラクターの状態などを確認して、松本は道具屋へと足を運び、所持金全てを回復アイテムにつぎ込んだ。
(僧侶は力も防御力も弱い、回復アイテムを揃えていなければ勝てないでしょうね)
 防具や武器を買おうとも思っていたが、大して良い物は置いていなく、それならば回復アイテムを買った方がまだ良いと松本は考えた。
 そして町の中を散策した後、ピコン、という音が響き画面に『♪』のマークが出現した。
「これが出ているという事は、近くに受ける事が出来るクエストがある――でしたっけ」
 呟きながら松本はキャラクターを操り、住人達に話しかけていく。
 すると、少年が立っており「あの中には町の宝があるんだ! 魔物に取られちゃうよ!」と少年が言葉をかけてきて、それと同時に『ログイン・キーを入手せよ』という文字が画面に表示される。
 そしてメニューからクエスト内容を確認すると『桟橋を渡った先にある社からログイン・キーというアイテムを入手すればクエスト成功』と書かれていた。
(とりあえず、向かってみますか。最初から難しいクエストが来る事もないでしょうし)
 松本は心の中で呟き、社の中へと足を踏み入れ、クエストを開始させた。

 社の中には一番弱いであろう魔物、ゴブリンがよく出現していた。
 しかし攻撃力も防御力も他の職業に比べて劣ってしまう僧侶を選んだ松本はゴブリンにすら苦労する羽目になっていた。
(回復アイテムの消費が激しい、やっぱり回復アイテムを多く買っていて正解でしたね)
 ゴブリンを倒し、地道に先へと進みながら松本は心の中で呟いていた。
「‥‥パネル?」
 社内部の迷宮を進んでいくと大きな扉の前に出て、その隣には青いパネルが存在していた。

「コレ デ タイリョク ト マホウリョク ヲ カイフク シテクダサイ」

 機械的な声が響いたかと思うと、マツモトの身体が淡く輝き、今までに消費した体力と魔法力が全て回復していた。
(たいてい、こういう物がある次の部屋はボス――って定番なんですけどね)
 扉を開きながら、松本が心の中で呟き、中へ入ると――大きな玉座に座っている巨大なゴブリンの姿が視界に入ってきて、部屋に入ると同時に下品な笑い声まで聞こえてきた。
「おのれ、これは誰にも渡さんぞ! 全てを統率出来ると言われる『ログイン・キー』をお前なんぞに渡してたまるものか!」
 ボスゴブリンは説明的な言葉を投げかけてきて、持っていた斧を振り下ろし、マツモトとボスゴブリンとの戦闘が開始された。
「くっ‥‥」
 ボスゴブリンの攻撃を受けるだけで半分近くの体力が削られ、マツモトは回復と攻撃を交互に行い、地道な持久戦を繰り返していた。
(この攻撃で倒れてくれなければ、もう回復アイテムも‥‥)
 最後の回復アイテムを使い、とうに魔法力も切れており、マツモトに残された道は『攻撃』しか残っていなかった。
 最後の一撃でクリティカルが発動し、マツモトは無事にボスゴブリンを退治する事が出来た。

「これを持って帰ればクエスト終了」
 マツモトが青い光に包まれ、ぷかぷかと浮いている『ログイン・キー』に手を伸ばした途端――‥‥バチンと弾かれてしまい、その衝撃はゲームをプレイしているだけの松本にも届いていた。
「‥‥? 今のは、偶然?」
 自分の手を見ながら呟いていると「貴方は失う覚悟がありますか?」と少女の声が画面から響いてきていた。
 赤いフリルと黒いフリルがふんだんに使われたドレスを身にまとい、緑色の髪を持つ、どこか不気味な雰囲気を出している少女。
「貴方は失う覚悟がありますか?」
 伏せていた瞳を開きながら、少女がもう一度問いかけてくる。
「覚悟? これ、ゲームの中での話‥‥ですよね?」
 ぞっとする思いを堪えながら松本が呟くと「覚悟があるならば、これを‥‥」と少女が『ログイン・キー』をマツモトに渡してくる。
「‥‥これは貴方を至福に導くと同時に‥‥破滅へと導く物でもあります――あなたに神のご加護があらんことを――――――松本、太一さん」
「えっ!?」
 ゲーム中の少女は画面越しに松本を見ながら不気味すぎるほどきれいな笑みを浮かべた。
(何で私の名前を? キャラクターはマツモト・タイチとしている筈なのに)
 じわり、と湧き上がってくる恐怖にも似た感情を堪え、クエスト完了をした後に松本はすぐにログアウトする。
(不気味にも程がある、あの人はこんな不気味なゲームを面白いって言ってたのでしょうか‥‥?)
 LOSTを勧めてくれた同僚の事を思い出し、松本は首を傾げる。
 そして、数時間後に気が付く事となる。
 自分の荷物の中に淡く輝く『ログイン・キー』の事に‥‥。





―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

初めまして。
今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はLOSTにご発注いただき、ありがとうございました。
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていればうれしいです。

それでは、今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2011/11/13