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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.4 ■ 対話 ■


「とにかく、“適合”に成功したのだから、後は自分で“対話”をして自分の得た力を知り、制する事を憶えてね」百合はそう言うと、困惑している美香へとそう告げた。「“対話”が落ち着く頃にまた来るわ」
 唖然として口を開けたままの美香を残したまま、百合は部屋を去っていった。美香は我に返り、また考え込み始める。
「…私が何かをされたのは事実みたいだし、“適合”という言葉から考えると、私はあの黒い光りの球を身体に入れられた事で何か変化を得た…? 『生み出された力であり、一つの魂』なんて言われても、実感が沸かないよ…」
『なかなか頭が回るわね、宿主』女性の声が頭の中へ響き渡る。
「そう言われるのも嬉しくない訳じゃないけど、理解出来ていない今の状況でそう言われても…。って言うか、アナタの口調、さっきと随分違うじゃない」
『最初は仰々しいぐらいの方が迫力あるかと思って』頭の中に笑いながら喋る声が響き渡る。
「あっそ…。まぁ良いわ。とにかく、まずは一つずつ整理させて」美香は頭を抱えながら目を閉じた。「まずはアナタの名前よ! 当たり前な事から整理するから名前教えて!」
『名前なんて無いわ。私は“力の根源”であって、魔性の魂。それ以上でもそれ以下でもない』嘲笑う様に声はそう告げていた。
「そんな事言っても、呼び名は大事なの!」
『…そう言われても。呼び名が必要って言うなら自分で決めれば――』
「――嫌」声を遮って美香は呟いた。
『…え?』
「名前のセンスないって前に店長にも言われた事あるし、嫌よ。野良猫に名前つけたら笑われたもの」
『…猫の名前? 何て名前にしたの?』
「…三毛猫だったから…、めけんこ」
『…フ』
「あー! 今笑ったでしょ!」
『…まぁ、名前なんてどうでも良いじゃないの』笑いを堪えながら声はそう言っていた。
「…じゃあそれは後回しね…」府に落ちないと言わんばかりの表情をしながら膨れっ面の美香がブツブツと文句を言った。「それで、私が得た力って何なの?」
『私自身の“能力”。自分の身体や頭の回転も含めて、触れているモノや自分自身の“速度”を操る事が出来るわ』
「どういう意味?」
『説明しても実感が沸かないかもね…。そうだ、そこに置いてある枕を上に投げてみて』
「これ…? 投げてみるけど…」そう言って美香が枕を投げると、美香の身体が一瞬熱を帯びた「え…!?」
 美香は目を疑った。美香が投げた枕が宙を漂う様にゆっくりと浮き上がっていく。スローモーションの映像でも見ている様だ。周りを見ようと視線を移そうとしても、ゆっくりとした動きのまま少しずつ視線が動く事に自分で気付き、それを中止する。
『今はアンタの情報処理能力の速度だけを操っているわ。ちなみに能力を解くと…―』
 声がそう言った瞬間、枕は元通り投げた時と同じ速度で落下を開始した。美香は慌てて枕を受け取った。
「すご…い…」
『もう一度、枕を投げて。今度はそのだけ速度を落とす』
 声が促す通り、美香は枕に再び触れ、同じ様に投げるが、枕は腕のスピードとは関係なく、静かに宙へと浮いていく。
「…速度を操れば人よりも早く動いたり、非力な私でも速度を上げて攻撃も出来る…。私には合ってるわ…」美香が再び枕を掴み、そう呟いた。
『生憎、今のアンタじゃこれが精一杯よ。こういった命もない小さな物しか操れない。それに、今のは私が強制的に能力を引き出しただけ。いつ、どう使うのかはアナタが自分で判断し、訓練していくしかないわ』
「訓練次第で操れる物も大きくなったりするの?」
『そう。ただし、能力の使用は精神の強さが最大条件になる。アンタ自身が恐怖や怒りに飲まれて無理に能力を使おうとしてしまったら、能力がどう暴走するかは解らないけど、ね』真剣味を帯びた声が告げたのは、現実だった。無制限に使いたい放題で使える能力ではないらしい。美香はその危険性を感じると、能力への恐怖を感じた。
『ま、いずれにせよアンタは力を欲した。だから私がここに在る。まずはアンタ自身が能力を使える様にならないと、話にならないわね』
「うん、解ってる…」美香は少し考え込んだ後で再び口を開いた。「あと一つ、聞かせて」
『何かしら?』
「この能力、使い続ける事で何かデメリットが生じる事があるって事?」
『…鋭いわね。けど、この“契約”の代償、つまりアナタ自身に降りかかる災難については今は何も言えないわ。私も確信を持っている訳でもないし、正直な所、どう転ぶかは解らない…』
「そう…、はぐらかしている訳ではないみたいね…」
 慣れない力に、“契約”というこのシステムが美香にとっては気がかりだった。魔性の魂たる彼女にとってのメリットがなければ、これが“契約”に当たるとは思えないのだ。美香はしばし考えていた。
『私の力を貸す代わりに、アンタの身体に私が棲む。宿主の身体がなければ、私達みたいな存在はすぐにでも消えてしまうのよ。つまり、身体を代償に、力を得るという事ね。それが私達の“契約”であり、それが成立した事を彼らは“適合”と呼んでいるみたいね』
「…聞きたい事がまた増えたわね…。つまり、あの黒い球体がアナタ自身だったって事?」
『それは違うわ。あの者がお前に取り込ませた球体は、私の様な魔性の魂を呼び寄せる為の言わば器の源といった所。私は器であるアンタの元に偶然召喚されたに過ぎない』
「器…?」
『そう。アンタは私を受け入れる為の器よ』
「…うん、なんとなくは解るけど…」美香はそう言って溜息を吐いて呟いた。「ますます不思議な存在ね、アナタ…」
『そうかしら? 私の様な異種なる存在と対等に話しをするなんて、相当アンタも不思議な存在だと思うけど?』
「あ…ははは…耐性でもついたかな…?」美香の脳裏には、怪奇現象に引きずり込む原因とも呼べる武彦の顔が浮かんだ。



―――。


 ――IO2東京本部。
 武彦はシンに招かれるままにある部屋へと連れて来られていた。
「よく戻って来てくれた、ディテクター・草間 武彦」
「ご無沙汰しています、上官」
 武彦に挨拶をした男はガッチリとした体格に顔に傷のある男だった。昔武彦がIO2に所属していた頃の直属の上司だった人間で、武彦にとっては唯一信用しているIO2の関係者とも言える。
「なぁに、そんな堅苦しい事は言うな。お前、今は私立探偵をしているそうじゃないか。自由に生きる事を選んだお前の選択は、どうやらうまく事が進んでくれている様だな」
「そんな大成を成した様に言わないでください」
「謙遜するな」笑いながら上官は武彦の肩を叩いた。「何はともあれ、お前が戻って来てくれた事は我々にとっては朗報だ」
「緊急事態だから仕方なく、ですがね。それより、虚無の動きが活発化していると聞きましたが…」
「“新型霊鬼兵隊”の事は聞いたのだろう?」
「はい…。あの研究がまだ行われているとは思いませんでした…」
「私もだ。非道極まりない研究を虚無は完成させたという情報が以前入ってな。我々のスパイとして送り込んでいる者からの情報によると、どうやら一般人を巻き込む形を取り続けている様だ」
「…恐らく、俺の知人もその一人として巻き込まれました」
「何だと?」
「深沢 美香という一般人です。特殊な能力も持たない彼女が巻き込まれるとは思っていませんでしたが、“新型霊鬼兵隊”という言葉を聞いて状況は一変しました」
「ふむ…。一体どの様な霊鬼兵を作り上げようとしているのかは定かではないが、今の所犠牲者は出ていないと聞いている」
「そうですか…」武彦は軽く安堵していた。偶然とは言え、この戦争に巻き込まれるべきではなかった美香を死なせてしまう訳にはいかない。武彦はそう思いながら言葉を続けた。「それで、スパイというのは?」





            ――「柴村 百合という名の能力者だ」





「対話もある程度終わったみたいだし、そろそろ能力を扱う練習に移るわよ」
 百合が美香へと声をかけに部屋へと戻ってきていた。美香は困惑した頭の中を整理する事も出来ず、ただボーっと天井を眺めながらベッドに仰向けに倒れていた。
「迷っていても仕方ないよね…」
 美香は起き上がり、百合の元へと歩み寄った。百合はそのまま美香の手を引いて歩き出した。


                              Episode.4 Fin