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<東京怪談ノベル(シングル)>


マンハッタン出動だ玲奈

1.
 桜咲けよ、舞えよ、吹雪けよ。
「はーい、いい場所一区画百円! 一区画たったの百円!! やっすいよ〜♪」
 花見客の上前はねよ‥‥もとい、いい場所を安く提供しようと三島玲奈(みしま・れいな)は三島茶屋を展開した。
 花見の激戦区にこの安さとくれば、もう買わないわけにはいかない。
「3区画頼むわ」
「こっちは5区画よ!!」
「はーい、毎度あり〜♪」
 にっこり笑顔で、美少女スマイル0円のオマケ付き。
 玲奈号の維持費を稼ぐなんて簡単なもんね。
 濡れ手に粟状態で玲奈はほくそ笑んだ。
「おぉう、おぉう! 誰の許可得てここでショーバイしてやがんだぁ!?」
「あ、どっかで聞いた台詞…」
 さっと顔を上げた玲奈の目に飛び込んできたのは、玲奈のお客を蹴散らし、暴言を吐く柄シャツの趣味が悪いヤクザさんだった。
「おぉう! ねーちゃんか、この店仕切ってんのは!?」
「…あー…めんどくさいな」
 玲奈はスッと身をかがめると、ヤクザの足を払った。
 まさか、唐突にそんなことをされるとは思ってなかったヤクザ。受身も取れずにスッコロンだ。
「言いがかりつけるなんて、お天道様が許してもこのあたしが許さないんだから!」
 びしっとポーズまで決めた玲奈に、ハハーっと平伏すヤクザ。
「謝るくらいなら十万円ちょうだい」
「え!? それちょっとボッタクリじゃ…」
「ヤクザに言われたないわ! 出すの!? 出さないの!?」
 美少女に凄まれちゃったヤクザは、土下座して次のように述べた。

「十万円は大金なんで、代わりに十万相当の情報をさしあげますから勘弁してください」

 ヤクザ涙目。


2.
「ここかぁ、あのヤクザの言ってたの」
 森に囲まれ静かな社がひっそりと佇むその場所に、玲奈は1人立っていた。
 ヤクザの言い分を信じるのであれば、ここで神様がとんでもないお宝をくれるというのだ。
 …いい子の玲奈にもらえない理由など、どこを探してもない!
 ふっふっふ…と頷きながらドヤ顔で社を開けると…そこには、トグロを巻いた蛇の姿が!
「うひゃっ!? 蛇!?」
『わしゃ、蛇じゃないんダベ〜。蛇神トグロ様なんダベ〜』
 どっかで聞いたような台詞をはいて、トグロ様は続ける。
『3つに割れた我が本尊を探せば金塊をやるんダベ〜』
 き・ん・か・い?
 目の中に『金』の文字を輝かせ、玲奈は即答した。
「やる! 持ってくる!」
 すっくと立ち上がると玲奈は玲奈号を呼び寄せた。
「行くよ、玲奈号! 目指すはトグロ様のご本尊!」
 ピピッと入力! ササッと出力!
 あっという間に行き先を計算した頭のよい玲奈号。自慢の玲奈号。
 神託によれば鼻坂爺の一族が桜の枯木に灰を蒔き倒して無理やり花を咲かせている場所があるという。
 その鼻坂爺の持つ椀がトグロ様のご本尊、蜷局石らしい。
「いっけーーー!! 玲奈号!!」
 しかし、人間、欲を出しすぎてはいけないのだ。いや、玲奈はだいぶ人間じゃないけども。
 神様は見ているのです。
 玲奈号は鼻坂爺の待つ目的地ではなく、茶屋地下工場へ何故か飛んで行ってしまった。
「あたしの玲奈号がフゴーカクorz」
 変わり果てた玲奈号の姿は、キャタピラ付の送電塔に桜をあしらった春らしいトレンドな一品になっていた。
 誰がこんなことを…玲奈はただ、呆然とこれを直すのにいったいいくらかかるのかと泣きたくなった。
 とにかく、今はこれに乗ってでも鼻坂爺の場所へ行かなければ!

 その頃、自称正義の味方・マンハッタンの基地。
「なにぃ! トグロ神が動き出しただと!?」
 1人の真っ白な全身タイツの報告に99人の真っ白全身タイツが振り向く。正直怖い。
「出動だ!」
「イエー!」
 自由の女神像に緊急警報が鳴り響き、人々は非難する。
「またかよ!」
「いい加減にしろ!」
 そう。自称・正義の味方達が自由の女神に跨って出動するのだ。
 これじゃ自由の象徴にならないじゃないか。


3.
「枯れ木に花を咲かせましょう〜! …てか、咲け! 咲かんかい、コラァ!」
「あ、いたいた。お爺ちゃん、お椀チョーダイ♪」
 玲奈が可憐な笑顔で手を差し出すと、思わず爺さん顔を赤らめた。
 何たるめんこい娘っ子じゃあ。もしかしてワシに惚れとるんかな?
「お・わ・ん♪」
 再度玲奈に言われて、爺さんはするすると木を降りてきた。
 こったらめんこい娘っ子に言われたら、ワシ、何でもあげちゃうけん。
 そういって秘蔵の椀=蜷局石を玲奈に差し出そうとした。
 その時!!
「待て待て待て待てーーー!!」
「何ヤツ!?」
 どっかーん! と自由の女神が大地に突き刺さり、ぞろぞろと総勢…百人くらい?の正義の味方がいっせいにポーズをとった。
「えーっとなんだっけ? あれ? お前の台詞じゃなかった?? …まぁ、いいや! この世に悪は栄えない!」
「何このグダグダ…ってやーっておしまい!」
 玲奈は玲奈号改め、フゴーカクへと乗り込んだ。
 いつの間にか変なボタンがついている。ボタンってあると押したくなるよね。
「ポチッとな☆」
 ぶわっと桜吹雪が舞い落ち、あたり一面桜色の煙幕に包まれる。
「これじゃどこにいるかわからんじゃないか!」
 正義の味方は混乱しているようだ!
 よし、さらにこっちのボタン押しちゃえ! ポチッとな!
「ギャー! くしゅん! 桜かふ…ん…に混じって…杉…花粉がぁぁああ!!」
「どーだい! 見たかい、フゴーカクの力を!」
 すっかり玲奈さん、悪役がハマってしまってるっぽいですよ?
「くっ! このままでは…今注の見せ場!」
 きらーん! と正義の味方は仲間に合図を送った!
 すると、正義の味方はフゴーカクによじ登り始め、なんとレンチを取り出した!
「ちょ、何す…!?」
 こきゅこきゅこきゅっ! とフゴーカクに不協和音が響き始める。
 あぁ、なんか嫌な予感がヒシヒシとする!

 ちゅっど〜〜ん

「また来注〜!」


4.
『ふむ。ご苦労であった玲奈』
 フゴーカクの爆風で吹き飛ばされる玲奈の意識に、蛇神トグロ様の声が聞こえる。
「あぁ、トグロ様!」
『まぁ、今回のアレは偽物だったんダベ〜。でも、失敗は失敗なんダベ〜』
「そ、そんな…!」
 そのまま、玲奈の意識は遠く遠く体もろとも飛んでいった…。

 気がつくと、玲奈は桜の絨毯の上にいた。
「いらっしゃいませ〜! ただいま桜餅食べ放題実施中です〜!」
 目の前にはアダルトなオネーさんが客引きをする屋台。
 グーッとお腹がなった。渡りに船だ。
「あら、お嬢さん。食べてらっしゃいな〜。サービスでお代はよくってよ?」
 オネーさんはニヤリと笑ったが、玲奈にそんなことは関係なかった。
 今はただ、無性に桜餅が食べたかった。
「いっただきまーす♪」
 道明寺桜餅、長命寺桜餅。両手にそれらを持ちながらかぶりつく。
 どちらもとっても美味しい。まさに桜の贈り物だ。
「…蜷局石のことを忘れ、桜餅に没頭するとは…」
 玲奈をにこやかに見ていたオネーさんの口調が突然、変わった。
 振り向く玲奈の目の前で、美貌のオネーさんが仮面をはぐと…蛇神トグロ様の顔が現れた!
「ひっ!?」

「折檻ぢゃ〜っ!」

 いつからそこにあったのか、トグロ様はすぐ横にあった紐を引っ張ると玲奈の頭の上にボタボタボタッと大量の黒い塊が落ちてきた。
 桜餅の上にも落ちてきたそれは、やぁっと玲奈に挨拶した気がした。
 玲奈はその黒い塊が何かを察し、真っ青な顔になった。
「いや〜ん☆」
 桜の木の上から降ってきたのは大量の毛虫、毛虫、毛虫。
「トグロ様お許しを〜!」

 玲奈が折檻を受けている頃、地面に突き刺さった自由の女神を掘り出しながら、どこかで正義の味方は叫んだ。
「勝利の国旗掲揚っ♪ ハッタン、ハッタン、マンハッターン〜! HAHA」