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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.13 ■ 平穏の終焉 





 美香と翔馬の前に揺らめく影が異形の者へと姿を変える。真っ黒な人の姿に、真っ赤な瞳。
『気を付けるでござる。人型の異形は戦闘能力と知能も高い存在。一筋縄ではいかぬでござる』
「解ってる! 美香、行くぞ!」
「はい!」
『美香、翔馬の戦い方を見ながらサポートに回るなら、下手に突っ込んだりしないでね。私達は攪乱をしながら敵の動きを崩すわよ』
 翔馬が妖魔へと真っ直ぐ突き進む。異形の者は腕を刃の様に鋭利に尖らせ、翔馬と美香それぞれへと伸ばした。美香と翔馬はそれぞれ攻撃を避け、美香が一瞬で間合いを詰める。
「わお、すげっ…」翔馬が思わず感嘆をあげる。一瞬前まで自分の後ろにいた美香が忽然と妖魔の目の前へ姿を現した。
「はっ!」美香の右腕につけられたガントレットがバチバチと唸りをあげながら妖魔の腹部へと食い込む。「…っ!」
「スサノオ!」
『うむ!』
 翔馬が背後から来ると同時に、妖魔が美香へと攻撃を仕掛けに腕を再び振り上げるが、美香は既に翔馬の背後へと移動をしていた。空を切った妖魔の動きに隙が出来たと同時に翔馬が手に持っていた不思議な武器を振り上げ、妖魔を叩き切る。が、妖魔の身体は衝撃を吸収する様にぐにゃりとうなり、ダメージを与える事が出来ていない。
「チッ、なんだこいつ…」翔馬が後ろへ跳び、間合いを計って呟く。
「私の打撃も吸収された様な感触でした…。どうやら打撃は無駄みたいです…」美香が翔馬へ伝えながら妖魔を睨んだ。
「厄介だな…。美香、遠距離からの補助は出来るか?」
「すいません…、遠距離用の武器も用意されていたんですが、私が持っている武器は近接攻撃のみです…。石を使ったりすれば遠距離も攻撃が可能ですが…」
「それじゃあの身体には通用しない、な…」翔馬が考える。「来るぞっ!」
 二人のやり取りにお構いなしと言った妖魔の攻撃が始まる。再び腕を伸ばし、二人の立っていた地面を抉る。
『斬撃も吸収されてしまえば手が出ぬでござるな、翔馬殿』
「あぁ、下手に大振りな攻撃をして吸収された瞬間を狙われたらアウトだ…」次々と襲い掛かる攻撃の中、スサノオと翔馬が作戦を練る。
『…やれやれ、あちらは肉弾戦しか出来ないみたいね』呆れた様にユリカが口を開く。
「ユリカ、何か良い作戦ない?」
『そうね。衝撃を吸収するなら、分散される箇所も同時に叩いてやれば良いわ。同時に強い衝撃を与えれば、拡散する衝撃がぶつかる。あの気持ち悪い妖魔が耐えれなければ打ち破れるわ』
「同時に強い衝撃…」
『アンタが私の能力をうまく使って、前に金髪のチビちゃんにやった多重攻撃。あれをもっと大きな獲物でやりなさい』
「うん、やってみる」
『解ってるわね、武士さん?』
『成程。翔馬殿、ユリカ殿の提案に乗るでござるよ』
「いや、俺聞こえないし…」
 攻撃の雨をうまく掻い潜りながら、一瞬の隙が生まれる瞬間を待つ。その間にスサノオが翔馬へとユリカの作戦を説明した。
「よし、今だ!」翔馬が一瞬攻撃が止むと同時に再び間合いを詰めた。「神霊スサノオ、体現せよ!」翔馬の腕にグッと力が入る。常人では考えられない程に一瞬で腕が膨れ、その腕で妖魔を水平に薙ぎ払う。
『美香、いきなさい!』
「うん!」美香は妖魔が砕いたコンクリートの破片の中でも大きなものを次々と妖魔へ目がけて軽く押し出す。宙に浮き、静かに漂う幾つもの破片が一斉に加速し、妖魔へと次々と飛んでいく。
 翔馬の攻撃とは真逆に集中する美香の攻撃。衝撃は行き場を失くし、中心で膨れ上がる。たゆんだ身体がそれを示した。
「あと一手…! スサノオ!」
『ふん!』スサノオが腕を振り上げ、刀の切っ先を妖魔の膨れ上がった部位へと突き刺す。鈍い音と同時に妖魔の身体を貫いた。
「…スサノオさんが、実体に…?」
『えぇ。どうやら妖魔には触れる事が出来るみたいね…』
 妖魔が霧の様に消え去る。どうやらユリカの思惑は当たりだった様だ。翔馬が体現したスサノオの力を消し、スサノオが刀を鞘へと収めた。
「あの、翔馬さん」
「ん?」翔馬が振り返る。
「私に、具現化の方法を教えてもらえませんか?」
『…美香…?』
「…ユリカってのを具現化するつもりか?」翔馬が尋ねる。
「はい」美香が頷く。「ユリカがスサノオさんみたいに戦えるなら、私だけで戦うよりも戦力になってくれます。それに…」
「…それに?」
「ユリカを少しでも自由にしてあげたいんです」
『な、何言ってるの。私は別に不自由してなんか…―』
「―ユリカ、お願い。これは私の我儘かもしれないけど…。私、貴方と真っ直ぐ向き合ってみたいの」
『美香…』
「確かにユリカはここにいる」美香が自分の胸に手を当てる。「でも、ユリカの姿を見て、目を見て話したい。スサノオさんと翔馬さんみたいに…」
「そういう事か…。良いぜ、協力してやる」
『うむ。“同調”に慣れるまでの手伝いは拙者もするでござるよ』スサノオが口を開く。
『はぁ…』呆れた様にユリカが溜息を吐く。
「ユリカ…、私の我儘聞いてくれる?」
『アンタ、私が嫌だって言っても聞く気なんて最初からないでしょうが』ユリカが続ける。『ま、自由を得られるのに越した事はないからね』
「じゃ、じゃあ…―」
『―ただし、身体が自由になったら今以上に厳しく特訓するからね。覚悟しておきなさいよ』
「えぇ〜…」
「話は丸く収まったみたいだな」翔馬が口を開く。「訓練って言っても、実際の訓練はこんな時に出来る訳じゃないからな。とりあえず今は百合っぺ達と合流するぞ」
「はいっ」





――。






 ――IO2、別働隊拠点。
「成程。裏切り者の彼女はディテクターを連れていますか…」シンが部下からの報告を受けて小さく微笑む。「ディテクター…、あの方が再び味方になってくれると思っていましたが、誤算でしたね」
「ヤツは組織やしがらみに捕らわれる程、小さな器ではないからな」サングラスをかけた男が壁にもたれかかりながら腕を組んで口を開いた。
「…鬼鮫。随分彼を高く評価していますね。それもまた意外ですね」
「フン、ヤツとは何度か共に仕事をした事がある。それだけだ」
「何処へ行くのです?」
「俺は俺のやり方で動く。貴様はここで大人しく状況を見守っていろ」鬼鮫がそう言って歩き出す。
「…やれやれ、勝手な事をされては困るのですがね…」シンが頭を掻きながら呟く。「さて、私もIO2としての本来の仕事をしましょうか。この街が戦乱に巻き込まれる事で、どれだけの“生贄”が生まれるのか…」
「シン様。今回の虚無の境界との作戦、私共はどう動けば宜しいので…?」IO2の隊員の一人がシンへと尋ねた。
「そうですね。出会った妖魔と虚無の境界は、潰してしまいましょう」
「…は?」部下が思わず尋ねる。
「虚無の境界と我々の上層部は勿論、今回の“革命”においては協力関係にあります。ですが、だからと言って私は虚無の境界に賛同している訳ではありません。可能であれば、これを機に虚無の境界も潰してしまえれば、一石二鳥ではありませんか」
「しかし、それは上層部を裏切る形になってしまうのでは…―」
「―私の指示が聞こえなかった、と?」微笑むシンの表情は冷徹そのものだった。シンの視線が真っ直ぐ部下へと突き刺さる。
「い、いえ。かしこまりました…」IO2の諜報員が姿を消す。
「…フフフ、IO2上層部の老いぼれ達の慌てる姿が目に浮かぶ…」







――。





 その頃、武彦と百合は敵に遭遇する事もなく着々と目的地へと進んでいた。
「おかしい。IO2が俺達に気付いていないって事はない筈だが…」武彦が口を開く。「虚無の境界も今の所は大きな動きをしていないみたいだな。妖魔がうろついている程度、か」
「その理由、あの男なら知っているんじゃない?」百合が足を止めて武彦へと告げる。
「…はぁ、会いたくないヤツに会っちまったな…」武彦が溜息を洩らしながら頭を抱える。「久しぶりだな、鬼鮫」
「チッ、戦場に戻って来たってのに、相変わらず腑抜けたツラしやがる…」鬼鮫が武彦を睨んだ後、百合へと視線を移した。「柴村 百合とか言ったか。その銃に触れた瞬間、叩き斬るぞ」
「…あら、目ざといのね…」百合が手を戻す。「鬼鮫。戦闘狂のジーンキャリアであるアナタが、任務に従っているの?」
「愚問だな。俺は戦いがあれば何処にでも行く。ましてや、その相手が大物ならば尚更な…」武彦へと再び視線を移した鬼鮫が静かに呟く。独特な真っ白な刀の鞘へと手をかけ、殺気を漂わせる。「俺を説き伏せるつもりなら、辞めておくんだな」
「…鬼鮫、お前と戦うのだけは勘弁して欲しいがな」武彦が百合の前に歩み出る。「邪魔をするって言うなら、お前でも容赦はしないぞ」
 百合は言葉を失った。武彦が眼鏡を外し、鬼鮫を睨んだ瞬間に生まれた異様なまでの殺気。鬼鮫の放つそれとは違う。鬼鮫の荒々しい殺気とは違う、吸い込まれる様に深さすら感じる。実戦の中で経験を積んできた百合でも、武彦の放つ殺気は思わず足が竦む程だ。
「…どうやら、腕が鈍った訳じゃないみたいだな」鬼鮫が殺気を押さえる。「貴様との戦いはいずれ訪れる別の機会まで取っておこう。邪魔者がいる様だしな」
「邪魔者…?」百合が思わず周囲を見回す。「…っ! ファング…!」
「強烈な殺気を放つ者がいると思えば、IO2のジーンキャリア…」ファングが歩み寄りながら呟く。「貴様と戦えると思うと、血が騒ぐわ…」
「…フン、虚無の幹部か…。愉しませてもらえそうだ…」
「どういう事…?」百合が構える二人を見つめて呟く。「虚無とIO2は協定関係じゃ…」
「戦闘狂同士、協定なんてものに捕らわれるつもりはないみたいだな」武彦が呆れた様に呟く。「百合、今の内にここを離れるぞ」
「え、えぇ…」






                               Episode.13 Fin





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いつも有難う御座います、白神 怜司です。

ようやく戦闘らしい戦闘が始まり、二手に別れた4人。
これからどうなっていくのか、
私自身、楽しませて頂いております。

また、以前要望に書かれていた美香さんと翔馬のやり取りを
漸く流れに持って来れました。

遅くなってしまって申し訳ありません(汗)

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司