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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


 廻り出す世界 




――。



 夕刻。空が紅く染まる。
「悪いな、急な呼び出しで」
 草間興信所を訪れた翼に武彦が声をかける。
「キミの呼び出しに急じゃない時があるとは思えないが…。それより話を聞こう」
「ハハハ、違いないな…」困った様に武彦が返事をしている向かいに翼が腰を降ろした。「先日の狼事件と同様に、再び妖魔が召喚された様な形跡がある地点があるらしい。その調査依頼書がこれだ」
「…妙な印が地下の立ち入り禁止区画に描かれている、か。確かに偶発的に連続する様な事件ではないな…」翼が顎に手を当てながら渡された用紙を見つめる。
「あぁ。しかも今回は廃墟じゃない。人的被害が出る前に、どうにかしておきたい」
「…良いだろう、引き受けよう」翼が立ち上がる。「武彦。キミはその裏付けを引き続き調べてくれ。この仕事は僕一人で結構だ」
「いや、俺も同行する。今回の事件もきな臭いからな」
「…好きにすると良い。僕は一足先に向かうよ」
「あぁ。俺も夜には行く」







「…ここか…」
 道行く人々が翼に見惚れている事など、翼にとってはいつもの【当たり前な出来事】である為、取るに足らない。翼は周囲など気にしない様子でビルを見上げる。既に空は暗く、オフィス街は静寂を迎えようとしている。
「まだ人の行き来が激しいな…。武彦が来るまで、時間を潰すとするか…」




――。




 闇が街を覆い尽くす。午前零時。闇魔術が最も効力を発揮する頃合を見計らったかの様に武彦が姿を現した。
「よう、待たせたな」
「いや、闇の魔術の痕跡を辿るには丁度良い時間だ。行こうか」
 人の気配を失くしたビル。厳重なセキュリティが仕掛けられている事が容易に予想出来る建物内に、翼は正面から堂々と入り込んだ。
「…やはり、鍵もかけられていない…。招かれているのか」クスっと小さく笑った翼がビルの中をカツカツと踵を踏み鳴らしながら歩いていく。
「ったく、薄気味悪い歓迎だ…」武彦が翼の後をついて歩く。すると、不意に翼が足を止め、武彦を制止した。
「“人祓い”の結界が成されている…。闇魔術によるモノではないな…」
「なんだと…?」武彦が周囲を見回す。「闇魔術者が普通の結界を張ったって言うのか?」
「それはないだろう。闇魔術者はその能力から闇魔術のみに長けている傾向がある。恐らく、違う何者かがいるんだろう…」
 翼は眼を閉じて周囲の気配を探った。術の余韻から翼が周囲を探ろうとするが、明らかな痕跡や気配は感じない。
「…素人やかじった程度で出来る術じゃない…」翼が周囲を警戒する。
「見つけたのか?」武彦が尋ねる。
「なかなかの手練れだと思うよ。僕でも痕跡を辿れないんだからね」
 翼はそう呟き歩き出した。先に会うのはどちらになるのか。翼は先ずは目的通り、闇魔術の痕跡を追いかける。
 ビルの中は非常灯の灯りが輝いている程度で、窓の外から差し込む街灯と月灯りが妙に眩しく感じる。血のせいか、暗闇は安堵する。闇の血でを引きながら闇を討つ翼は、
そんな自分に思わず皮肉を感じる。そんな折、翼は湧き上がる闇魔術の波動の奔流に気が付いた。
「…ダミーかと思っていたが、どうやら武彦に寄せられた情報は本物だったみたいだね」
「…薄気味悪い感覚が来てるのは、やっぱり地下からか」武彦が呟く。
「御名答。行こうか」
 地下から発せられる闇魔術特有の波動が翼を導く。翼は導かれるままに武彦と共に真っ直ぐそこへ向かって歩いて行った。
「…殺気がぶつかっている…。“人祓い”をした何者かと、闇の魔術者といった所か」
「って事は、味方なのか?」
「容易にそう判断するべきではないと思うよ」翼が言葉を続ける。「敵の敵が必ずしも味方とは限らない。僕らも急がないとね」
 翼の歩く速度が必然的に速くなる。“人祓い”を仕掛けた何者かが闇魔術者を葬ってしまったら話を聞く事すら出来なくなる。地下へと続く扉は分厚いが、斜めに両断されている。圧倒的な切れ味と力の持ち主だという事は一目見れば解る。
「やれやれ…、武彦から頼まれる仕事はいつも厄介だな…」翼はそう呟き、扉の残骸を見つめた。
「こんな分厚い鉄板を一刀両断か…。こりゃ厄介ってのも否定は出来ないな…」
 二人は鉄板を踏み越え、更に奥へと歩みを進めた。衝突する殺気は相変わらずの荒々しさで伝わってくる。壁には真っ赤な血か何かによって闇魔法特有の陣が描かれている。狼のいた廃墟と同じ類と法則。間違いなく先日の一件と同系列の術者による仕業と考えられる。




――。




「ぐっ…!」
 真っ黒な法衣を纏った男が苦しそうな声を上げて目の前を睨み付ける。
「さぁ、とっとと吐け」サングラスをかけた男が刀を男に突き付けて言葉を続けた。「何が目的だ? 最近頻繁に騒動起こしてるのはおまえらだな?」
「…ジーンキャリア、鬼鮫…!」法衣を纏った男が苦々しげに吐き捨てる様に口を開く。「貴様に何も教えるつもりはない…!」
「ほう、俺の事知ってんのか…」鬼鮫が小さく口角を上げて感心した様に笑う。「なら、俺がどういうヤツかも解ってるんだろ?」
「…殺すなら殺せ…!」
「良い度胸だ」鬼鮫が刀を振り上げる。「なら、望み通りに殺してやろう」
 振り下ろされた刀が激しく甲高い金属音を奏でる。
「やれやれ、間に合ったか」翼が神剣で鬼鮫の振り下ろした刀を止めていた。
「…チッ!」鬼鮫が後ろへ跳ぶ。「けったいな恰好しやがって。おまえもそこの魔術者の仲間か」
「僕がこんな下衆と? 笑わせないでくれ」翼が鬼鮫を真っ直ぐ睨み付ける。その隙に魔術者が後ろへと下がっていく。
「なら、おまえから発せられるその“臭い”。それはどう説明するつもりだ」鬼鮫が刀を構え腰を落とす。「明らかに妖魔の“臭い”だ」
「…随分と鼻が利くみたいだが、僕が用があるのはキミじゃなくて、そっちのキミだ」翼が法衣を着た魔術者へと向き直る。
「フ…ハハハハ! 何者かは知らんが、貴様のおかげで時間が稼げたわ!」魔術者が目の前の大きな魔法陣に触れながら高笑いする。「死ね! IO2の犬共!」
 煌々と輝く魔法陣から巨大な蜘蛛が召喚され、這い出る様に姿を現した。
「…チッ、邪魔が増えやがった。まぁ良い、まとめて全員叩き斬ってやる」鬼鮫が刀を振り下ろし、首に手を当てて骨を鳴らした。
「…(あの鬼鮫やらとはどうやら利害関係は一致している。今はこの魔物から処分するのが先かな…。武彦は入り口の手前で待たせているし、混乱に乗じて魔術者も逃げれないだろう)」翼はそう考え、蜘蛛を見つめた。「鬼鮫と言ったな? ここは一度手を組まないか? 僕もキミも、用があるのは魔術師だ。この混乱で逃げられたら苦労が水の泡になる」
「知った事か」鬼鮫が翼の横を通り抜け、蜘蛛へと斬りかかる。「おらぁ!」
 蜘蛛の前足が甲高い金属音を奏で、鬼鮫の刀を受け止めた。
「フハハハ! こいつの皮膚は鋼の様に硬い! 斬撃などで倒せる相手じゃないわ!」
「チッ」鬼鮫が一度後ろへ退く。
 追い討ちをかける様に巨大な蜘蛛が鬼鮫へと飛びかかろうとするが、蜘蛛が上空でピタっと動きを止めた。その場でもがく様に前足を暴れさせるが、何かにぶつかる様に動きを制限される。
「な、一体何が!」魔術師が声をあげる。
「歪曲術。空間を歪めて閉じ込めただけさ」翼が手を翳していた。「鬼鮫、キミの攻撃は通用しないのか?」
「…フン、良いだろう」鬼鮫が力を込め、刀を構えた。「そこで見ていろ」
 鬼鮫の腕が一瞬で膨れ上がる。おおよそ人とは思えない太さまで膨れ上がった腕は服を破り、暗い緑色に変色している。
「おおぉぉ!」鬼鮫が飛び上がり、蜘蛛の真上に姿を現し、刀を振り下ろす。翼はそのタイミングを見計らい歪曲術を解いた。
 鬼鮫の振り下ろした刀によって蜘蛛の身体が真っ二つに裂かれる。その剣撃によって生み出された衝撃で地面に亀裂が生じる。
「バ…バカな…」魔術者は思わずその場に座り込み、真っ二つに裂かれた蜘蛛を見つめた。
「さぁ、答えてもらおうか。以前の狼と言い、今の蜘蛛と言い、キミ達魔術者は一体何が目的で動いている?」
「答えるつもりがねぇなら死んでもらうだけだがな」鬼鮫が刀を持ったまま歩み寄る。
「…っ!」魔術者が口を開け、顎を歪ませる。
「くそ!」翼が一瞬で魔術者の元へ駆け寄るが一足遅かった様だ。魔術者は自分の首を押さえながらその場に倒れた。
「…チッ、死にやがったか…」鬼鮫が呟く。
 翼は魔術者の口を開いて首を横に振った。
「奥歯に毒を仕込むなんて、なかなか古いやり方をする…」翼は立ち上がって鬼鮫を見つめた。
「さっきの事、礼は言わねぇぞ。金髪野郎」鬼鮫が翼をサングラス越しに睨み付ける。
「構わないよ。あの蜘蛛は僕にとっても邪魔だったからね。どうする? やはり僕とも一戦交えるつもりか?」
「…フン、興醒めだ。今回は見逃してやる」鬼鮫が踵を返す。「さっきから入り口にもいるのはおまえの仲間か?」
「そうだ」
「…まぁ良い。次はないと思え、金髪」
「失礼な男だな…」翼が静かに笑うと、鬼鮫はその場から歩いて去って行った。



――。



「収穫なし、か」
 帰路についていると武彦が不意に口を開いた。
「IO2の鬼鮫。彼とは知り合いなのか?」不意に翼が口を開いた。
「…何故そう思った?」武彦が足を止める。
「キミの放っていた気配が違った上に、顔を出しもしなかっただろう?」翼が構わず歩きながら続けた。
「…気付いていたのか」武彦が再び歩み始める。「ちょっとした知り合いみたいなモンだ」
「言いたくないなら言わなくても良い。IO2が動いているなら、やはり何かが動いているのは間違いないみたいだしね」
「…IO2、か…」武彦が呟く。「大きい事件になりそうだ…」
「まったく、キミといると退屈しなくて済むよ」翼がそう言って小さく笑う。


 二人の前に現われた鬼鮫。そして、IO2。事件は思わぬ方向に転がろうとしている事に、翼も武彦も薄々と感づいていた。



                                  FIN
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依頼参加有難う御座います、白神 怜司です。


鬼鮫登場による三つ巴という形でしたが、
互いの利害関係からの機転で軽く力を合わせる形に
させて頂きました。

鬼鮫の警戒が薄らぐ事もない様ですので、
相変わらず敵視はされているみたいですが…。

気に入って頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司